この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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クルセイダー……ダクネスではありません。


この聖騎士(クルセイダー)に師事を!

「テイラーさん。私に剣術を教えてください!」

 

私の突然の申し入れに、テイラーさんが目を丸くしている。

ここは冒険者ギルドの酒場。例によっていざこざを起こして勾留中のダストさん…と、今回は一緒にやらかしたキースさんの為に休業を余儀なくされたテイラーさんに、私はお願いをしたのだった。

 

「いや、教えてやってもいいが、メグミのパーティーにもクルセイダーはいただろう? 確かダクネスとか言ったか…」

「ダクネスさんは駄目です。剣の腕がからっきしなのに両手剣スキルを取らず、そのくせ防御系スキルに極振りしてますから」

 

私が理由を述べると、テイラーさん及び同席しているリーンさんが、「なるほど」とか言って頷いた。どうやら、話に聞いた先日の、ダストさんの苦労を理解したようである。

 

「でもメグミ、魔法使いにしては結構剣を使えたよね? 聞いた話だと、この間の魔王軍幹部にも一太刀浴びせたらしいじゃない」

 

ああ、そういえばあの時はこのパーティー、クエストを受けててアクセルにはいなかったのだったか。

 

「あの時は、ベルディアの鎧に軽く傷を付けた程度です。しっかり反撃も食らってしまいましたし。

そもそも、私の習った剣は[道]を説くもので、実戦的な剣の[(すべ)]ではありません。なので改めて剣技を習いたいと思った次第です」

「ああ、どうりでワンドやロッドで打ち込むときに、一旦中段の構えをとっていたわけだ。それが基本の型で、それに則っていたって事だな?」

 

驚いた。普段の私の動きをしっかりと観察していただけでなく、ちょっとした説明から私の行動の意味まで読み取っていたのだから。

 

「やはり、それだけ見る目があるテイラーさんに、私は教えてもらいたいです!」

「いや、見る目があるというより、前から疑問に思ってただけなんだが…」

「私は、テイラーさんから教わりたいのです」

 

テイラーさんのセリフが謙遜か事実かはわからないが、それでも私の知り合いの中では一番、剣に精通しているように思える。……御剣響夜はおそらく、魔剣(のうりょく)任せのごり押しタイプだと思われるので、最初から除外である。決して個人的感情からではないと言っておこう。

 

「まあ、別に構わないが。だが、何でわざわざ習いたいんだ? 牽制や身を護る程度なら、今までの剣技を磨くだけでも通用はするんだろう?」

 

う、やはり聞かれたか。だが、説明しないわけにもいかないだろう。身内の恥だが仕方がない。

 

「理由は幾つかありますが、その最たるものはパーティーメンバーにあります。

アクア様は優秀なアークプリーストですが、知力のパラメーターが低く、運に関しては最低値。戦闘中にも色々とやらかします。

めぐみんは確かに優れたアークウィザードですが、如何せん使えるのは爆裂魔法のみ。しかも日に一度しか使えず、普段は過剰戦力でしかありません。

ダクネスさんは先ほど言った理由に、ドMが加算されますね。自分から攻撃に当たりに行こうとするので、扱いにはとにかく一苦労です。

そしてリーダーの和真さんは頭の回転は速いのですが、器用貧乏の冒険者という特性上、どうしても攻撃力に欠けています。それに指示役なので、前線に出て戦うのは得策ではありません。精々が遊撃といったところでしょうか」

「確かに。この間のゴブリン退治では凄く助かったけど、どちらかといえば奇策による攻撃補助、って感じだったよね」

 

リーンさんが頷きながら答える。

 

「つまりうちのパーティーには、まともな前衛がいません。ならば、せめて剣の心得のある私が、和真さんと同じく遊撃を担おうと思ったのです。それに私には、[魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)]という切れ味を増す魔法があるので、剣技も上達させた方が有効活用できるのですよ」

 

事実ベルディア相手の時も、もう少し私に剣の腕があれば、あの鎧をあと少し深く傷つけられたかも知れないのだ。そうであれば、あの様な災害を起こさずとも、アクア様の浄化魔法で決着が着いていた可能性がある。

……たらればを言っても始まらないが、今後のことを思えば一考の余地はあるだろう。

 

「なるほど、よくわかった。だが俺も、それほど強いわけじゃないからな。教えられる事もたかが知れてるが、それでもいいか?」

「もちろんです。ありがとうございます、テイラーさん」

 

私は深々とお辞儀をするのだった。

 

 

 

 

 

テイラーさんと共に、いつもの特訓場所へと移動する。暇を持て余していたのか、リーンさんも付いてきた。

 

「それじゃあまずは、メグミの実力を知りたいから模擬戦といこう。純粋に剣の腕を知りたいから、魔法などの使用は一切禁止だ」

「わかりました」

 

簡単な受け答えを済ませ、私達は武器屋で買った[ひのきのぼう]…もとい、[木の棒]を構える。

私もテイラーさんも、両手持ちで中段に。いわゆる正眼の構えだが、私は右足を前に出した剣道の構えに対し、テイラーさんは右足をやや前に出しているが、おおよそ足を横に開いたベタ足状態だ。

ううむ、さすがに身長差がありますね。仕方がない、剣先を少し上げて晴眼に切り替える。身長差のある相手には、こちらの方が対処しやすいのだ。が、やはり若干落ち着かない。ほんの僅かに剣先を上げただけでも、えも言われぬ不安を感じてしまう。

 

「どうした、かかってこないのか?」

 

テイラーさんに言われて逸る気持ちを、何とか抑え込む。武道の鉄則、「心・技・体」だ。

 

「なら、こっちからいくぞ!」

 

言ってテイラーさんが踏み込んできた…って速い!? テイラーさんが振り下ろしてきた木の棒を擦り上げ、逆に私が面を打つが、それは素早く横に移動し躱されてしまう。

 

「ほう、面白い技だな。躱すのと攻撃が一連の動作になっていやがる」

「面擦り上げ面、って言います」

 

晴眼に構え直して答える。

 

「ふむ。なら、これならどうだ!?」

 

そう言って繰り出された横薙ぎの一閃は、私の首許を狙っている。剣道ではあり得ない攻撃に戸惑いはあるものの、私は一歩下がりやり過ごした後、今度は踏み込み胴を狙う。けれどそれもまた、横へと避けられた。

 

「なるほどな。……だが」

 

テイラーさんへと向き直った次の瞬間、彼の姿が一瞬消える。気づいたときには身を低くして私の足元へ()を振るっていた。マズいと思ったときには既に足を払われ、私は盛大に尻餅をつく。そして私の目の前に切っ先を突きつけて。

 

「勝負あり、だな」

「……ですね」

 

こうしてあっさりと決着が着いた。私としてはもう少し持ち堪えられると思っていたので、少なからず悔しくはあるが、だからこそ教えを請う意味もある。

 

「さて、手合わせをしての感想だが、良くも悪くも素直な太刀筋だな」

「素直、ですか?」

「ああ。初めて見る動作だが、俺でも対処できるくらい読みやすい。それに、……おい、リーン」

 

テイラーさんが手招きをして、リーンさんを呼びつける。

 

「お前から見て、めぐみの戦い方はどうだった?」

「えー、何であたしに聞くかなぁ。うーんと、そうだねえ…。なんていうか、窮屈そうだったかな?」

「窮屈そう?」

 

予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。

 

「うん。型にはまっている…って言うのかな? きっちりと納まってる感じ。それって基礎が出来てるって事だと思うけど、メグミの奔放さが感じられないな」

「奔放? どちらかといえば、慎重だと周りから言われるのですが」

 

ロゼやレックスさんからも言われてるし。条件付きですが。

 

「でも創作魔法…再現魔法だっけ? それをお披露目してはっちゃけてるのも、メグミだよね?」

 

う…、それを言われると反論できぬ。

 

「剣術は門外漢だけど、そういう自由なのがメグミに向いてる気がするのよ」

 

自由…。自由とは何ぞや、などという哲学的なことは抜きにしても、今まで()()でやって来たのだ。今更自由と言われても、どうしたらいいのかわかりもしない。

 

「……やっぱりそういう事か。メグミはどうやら、考え過ぎるところがあるみたいだな」

「え?」

「リーンに言われて、随分と思い詰めた顔をしてたぞ?」

 

……そうなのだろうか。私は疑問に思いリーンさんを見ると、彼女は深く頷いた。

 

「思考の幅を広げるのはいいが、突き詰め過ぎると視野が狭くなる。思い込みにも繋がりやすい。更に真面目な性格はその傾向が強くなりがちだ。

リーンの発言からすれば、メグミも年相応の奔放さがあるようだが、真面目な性格がそれを隠している。いや、隠すために真面目にしていたのが、性格として形作られたのか」

 

ドキリとする。私は真っ当な社会生活を行うため、普段は中二病な性格を隠している。前にも述べたとおり、中二病な性格が悪い事とは思っていないし、徐々に明かしていくスタンスではある。だが、それまでの間は至って真面目…かどうかはわからないが、ごく普通の中学生の姿しか見せていない。

考えてみれば、最初の頃は意識して演じていた気もする。けれどいつの頃からか、それが普通になっていた。

自分自身が忘れていたことを、この二人には見透かされてしまったのだ。

 

「心当たりがあるみたいだな。

ともかくだ。憶測でしかないが、そんな性格が本来の奔放さを押し込めて、型通りでしかない、攻撃の幅のない動きになっているんだと思う」

 

……そういえば指導してくれた先生にも、行動の幅がないと言われていた気がする。そして、このままだと試合には勝てなくなるとも。

そうか、その頃から私の欠点は指摘されていたのか。

 

「……あの、それでは私はどうしたらよいのでしょうか?」

「そうだな…。せっかく地道に学んだ剣だ。今は下手に弄らない方がいいと思う。それを踏まえて聞くが、メグミが習った剣には他の型もあるのか?」

「他の型ですか?」

 

他の型というと、上・中・下段のそれぞれの構えなどだろうか。私は素直にテイラーさんに聞いてみた。

 

「ああ、その認識でいい。わざわざ聞いてきたって事は、あると思っていいんだな?」

「はい」

 

私は深く頷いた。

 

「なら、これからはそれらの型も練習しろ」

「え、ちょっとテイラー、それじゃあ余計に型にはまっちゃうんじゃないの!?」

「いや、メグミの場合はひとつの型に縛られて、身動きがとれない状態なんだと思う。もちろん突き詰めて昇華していくのもいいが、どうやらメグミの性格には向いていないようだ。事実、剣先を少し上げただけで落ち着かないみたいだったからな」

 

う、バレていたのか。

 

「だからまずは、他の型を身体に覚え込ませて、そこからの脱却を図る」

 

……そういえば昇段試験で型の練習をしていたときだけ、先生から動きが良くなったとか言われてたような。実は私は、結構単純なのでは?

 

「でもそれじゃあ器用貧乏っていうか、圧倒的な強さとは程遠くなるんじゃない?」

「そこはメグミの役割から考えれば問題無いだろう。剣を扱うクラスではないメグミは前衛ではなく、あくまで遊撃を望んでいるんだ。チャンスがあれば倒せる。それくらいで構わないはずだ。それにあらゆる型を使い熟せれば、様々な攻撃に対処できるようになるからな。一概に器用貧乏になるとも限らんぞ」

 

テイラーさん、そこまで考えてくれていたのか。

 

「というわけで、後のことは、それが身に付いてから考えるとしようか」

「はい!」

「ああ、それと普段のツッコミや自衛の時は、普段通りの型を使え。練習中の型を使って変な癖がつくといけないからな」

「わかりました!」

 

ああ、テイラーさんに頼んだのは正解だった。

 

「これからもご鞭撻お願いします、テイラー先生!」

「え、先生?」

「はい。本来なら師匠と言いたい所ですが、架空の人物とはいえ、私にとっての師匠はマトリフ師匠だけなので」

 

ポップ兄さんの「先生はアバン先生だけ」と同じで、ここだけは譲れないのだ。

 

「……先生なんて柄じゃないんだがなぁ」

「あくまで私にとっての先生です。そこまで深く捉えないでください」

「いいじゃない。テイラーせんせ?」

「おいリーン、揶揄うなよ」

 

照れているテイラー先生が、何だか可愛いと思ってしまった。

 

 

 

 

 

それなりの収穫を得て私達がギルドに戻ると、和真さん達がテーブルを囲んでいた。和真さんは私に気がつき、手を振って声をかけてきた。

 

「お、めぐみ。ようやく来たか」

「和真さん、どうかしたんですか?」

 

私が訊ねると、彼はドヤ顔をしながらこう言った。

 

「喜べめぐみ。俺達、屋敷で暮らせることになったぞ」

 

………………はい?




というわけで今回、カズマとアクアがウィズのお店に行ってる、その裏の話でした。

補足
中段の[せいがん]と呼ばれる構えは
・正眼
・青眼
・晴眼
・星眼
(せい)
の五つだそうです。それぞれの説明は省いて、正眼は「剣先を相手の喉元に向ける」構え、晴眼は「剣先を相手の右目と左目の間に向ける」構えとのこと。剣道では正眼が比較的よく使われる構えらしいです。
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