爆発の危険性に気づいた冒険者達が、顔を引きつらせている。それにここで爆発すれば、ほぼ確実に街に被害が出る。かなりマズい状況だ。最悪、先程ダクネスさんに言った、人命優先で避難するしか無いのかも知れない。
「み、店が…。お店が無くなっちゃう…」
ウィズさんが呟くように言う。
「俺は…やるぞ!」
誰かが言った。
「……俺も! レベルが30を超えてるのにこの街に居続ける理由を思い出したよ」
「今まで安くお世話になってた分、ここで恩返ししなきゃな!」
そっちのお店のことですか。全く、これだから男ってのは…。
『機動要塞デストロイヤーに乗り込むヤツは、手を挙げろーっ!』
和真さんが声を拡張させて訊ねると、ほぼ全ての男性冒険者が手を挙げた。私は呆れながら、それを訊ねた和真さんに冷ややかな視線を送る。彼は頑なに、こちらと視線を合わせないようにしているようだったが。
ともかくも、アーチャー職の人達が放ったフックが付いた矢によって、デストロイヤーの甲板までロープが張られた。冒険者達はそれを伝い、デストロイヤーに乗り込んでゆく。
もちろん私達も、といきたいところだが、めぐみんは起き上がれず、ダクネスさんも重い鎧を纏っているので待機することになる。というわけで実際に登るのは、私と和真さん、アクア様の三人で、ウィズさんは本人の意思に任せることにした。……アクア様は最後までごねていたが。
そして登る方法だが。
「『
私は飛翔呪文で、デストロイヤーの甲板の上までやってくる。術を解き、冒険者カードを少し弄り。
「『
合流呪文でみんなの許に戻る。そして。
「『テレポート』!」
私達と一緒に来ることになったウィズさん含めて、ちょうど定員の4人。登録したデストロイヤーの甲板の上にテレポートした。
「……なんだか、魔力の無駄遣いではないですか?」
ウィズさんがそんな事を言ってくる。
「確かに無駄遣いかも知れませんが、今のところたいした活躍はしてませんし、これくらいは役に立っておこうと思っただけですよ」
まあ、
と、無い物ねだりをしてもしょうがない。それに魔力にはまだ余裕がある。口に出してフラグを立てる様な愚行は犯さないが、特に問題は無いはずだ。
さて。甲板の上では既に、冒険者達がゴーレムと戦闘を始めている。というわけで、私もお手伝いしようと思う。
「『コントロール・オブ・ウェザー』からの、……『
通常発動の
「……DQだと勇者専用呪文のはずなんだがなぁ」
「和真さん、それは言わないお約束です」
和真さんの呟きに突っ込む私。我ながら身勝手な理由だ。
「おい! デカいのがそっち行ったぞ!」
冒険者の声にそちらを見れば、他のモノよりも一回り大きいゴーレムがこちらに向かってきた。
「フッ。めぐみにばかり良いところを取られるわけにはいかないからな。食らえっ!」
「あっ!? カズマ、ちょっと待…」
右手を突き出す和真さんと、慌てて制止しようとするアクア様。しかしそれは一歩及ばず。
「『スティール』ッ!」
和真さんはスキルを発動させた。その手にはゴーレムの頭が現れ、次の瞬間和真さんの手は、その重量によって落下した頭の下敷きとなる。
「
「『
すぐさま【スレイヤーズ】の再現魔法をかけ、ゴーレムの頭を浮かびあがらせると、すぐ横に移動して甲板の上に下ろす。
「和真さんは時々馬鹿ですよね?」
「くっ…、屈辱だ!」
和真さんは言うが、それならそう言われない様に行動するべきである。
デストロイヤー内部に突入した私達は、ゴーレムを倒しながら突き進み、とある部屋へとやって来る。
「お前らか。見ろよ、これを」
私達に気づいたテイラーさんに促され、視線を移したその場所には、椅子に腰かけた状態の白骨死体があった。
アクア様は近づき、その死体をマジマジと見て。
「既に成仏してるわね。アンデッド化どころか、未練の欠片もないわよ」
「いや、未練くらいあるだろ!?」
突っ込む和真さん。確かに、普通はそう思うだろう。だけど。
「アクア様ほどの能力はありませんが、私が見ても成仏してるのだけはわかりますよ」
「マジか?」
信じられないのはわかるが、こんな事で嘘を言ってもしょうがない。
ふと、アクア様が机の上に置かれた一冊の手記を手にする。
「……どうやら、この人の日記みたいね」
そう言ってから日記を読み上げる。
「 ── ○月△日。国のお偉いさんが無茶なことを言い出した。こんな予算で機動兵器をつくれという。無茶だと言ったが聞く耳も持たない。馬鹿になったフリをしてパンツ1枚で走り回ってみたが、女研究者に早くそれも脱げと言われた。この国はもう、駄目かも知れない」
ううむ。機動要塞デストロイヤーの開発者ではあるが、この人物はある意味、被害者だったようだ。
「 ── ●月□日。どうしよう。設計図の期限、今日だよ。まだ白紙なんだけど。でも報酬の前金、ヤケ酒飲んで全部使っちゃったし。
そんな悩める俺の前に、大嫌いな蜘蛛が現れた。俺は手近な物でソイツを潰した。潰してしまった。図面用の紙の上で。このご時世、こんな上質な紙は大変高価だ。ハッキリ言って弁償なんか出来ない。ま、いいや。このまま提出してやる」
……おや? なんだか雲行きがおかしいような?
「 ── ●月▽日。あの設計図、予想外に好評だ。それ、蜘蛛叩き潰した汁なんですけど。よく触れますね、なんて言えるはずもない。って言うか、どんどん計画が進んでいってる。俺、蜘蛛を潰しただけなんですけど。でも、そんな俺が所長です。ヒャッホイ!!」
何だろう。無性に腹が立つのですが。
「 ── ◎月◐日。俺、何にもしてないのに、どんどん出来上がっていく。俺、要らなかったんじゃね? もういいや、勝手にしてくれ。
なんか、動力源について聞かれた。そんなの知るか。俺、無理って言ったじゃん。伝説級の超レア鉱石、コロナタイトでも持って来いって言ってやった。持って来れるもんなら持って来やがれ!」
随分と投げやりになってるようだ。しかもフラグまで立てている。
「 ── ◎月■日。持って来ちゃったよ、コロナタイト。なんか動力炉に設置し始めた。どうしよう。これで動かなかったらどうなるんだ、俺。え、死刑? マジで? お願いします、動いてください。いや、マジで!」
どうやらフラグは回収されたらしい。自業自得だ。
「 ── ◎月▲日。明日が起動実験と言われたが、俺、何もしてねえし。やったのは蜘蛛を叩き潰しただけ。この椅子にふんぞり返っていられるのも今日までか。そう考えたら無性に腹が立ってきた。よし、飲もう。最後の晩餐だ。今日は誰も残ってないし、どれだけ飲んでも問題無いだろう」
この男、ついに開き直ったようだ。気持ちはわからないでもないが、同情する気は無い。
「 ── ◎月◇日。目が覚めたら、なんかひどい揺れだった。何だこれ。俺、どれだけ飲んだっけ。あれ、昨日の記憶が無い。覚えてるのは、コロナタイトに向かって説教したことくらいか。いや待て。その後、お前に根性焼きしてやるとか言って、コロナタイトに煙草の火を…」
こいつ、馬鹿ですか?
「 ── ◎月▼日。終わった。只今現在暴走中。どうしよう。間違いなく俺がやったと思われてる。
畜生! 国王もお偉いさんも、俺のパンツ脱がして鼻で笑った女研究者も、みんなクソッ食らえだ! こんな国、滅んじゃえばいいのに。もういい。酒飲んで寝よう。幸い酒と食糧には困らない。寝て起きてから考えよう」
文句を言うだけ言って、ついに現実逃避を始めた。
「 ── ◎月◎日。国滅んだ。やっべえ。国、滅んじゃったよ。人はみんな逃げたみたいだけど、でも俺、国滅ぼしちゃった。ヤバい、なんかスカッとした。
よし、決めた。この機動兵器からは降りずに、ここで余生を過ごそう。だって降りられないしな。止められないしな。これ作った奴、絶対馬鹿だろ。
……おっと、これ作った責任者、俺でした」
ぱたりと日記を閉じ。
「……お、終わり」
恐る恐る言うアクア様。
『なめるな!!』
アクア様とウィズさん以外の声が綺麗にハモるのだった。
「これがコロナタイトか。ってか、どうやって取り出すんだよ」
和真さんが愚痴る。
ここはデストロイヤーの中枢部。私と和真さん、アクア様、ウィズさんの四人が代表してここへとやって来た。体よく押しつけられた感もあるが、気にしてはいけない。
部屋の中央には真っ赤な光を放つ鉱石、コロナタイトが格子の中に納まっていた。おそらくは、敵に持ち出されるのを防ぐための措置だろう。
さて、一体どうやって持ち出したら良いのやら。
「いや、待て。格子なんて関係ない。この距離なら…」
そう言って和真さんは右手を突き出す。……って、まさか!?
「『スティール』ッ!」
そのまさかであった。
「ああああちゃあああっ!!」
和真さんが叫ぶ。そりゃそうだ。コロナタイトは真っ赤に発熱しているのだから。
「『フリーズ』! 『フリーズ』!」
「「『ヒール』! 『ヒール』!」」
ウィズさんがコロナタイトにフリーズをかけ、私とアクア様は和真さんの手にヒールをかける。
「和真さんは時々、物凄く馬鹿ですよね。学習能力が無いのですか?」
「……くっ。二の句が継げない!」
本当に、地頭が良いのに勿体ない。
おっと、今はそんな事に構っている場合ではなかった。ウィズさんの足元に転がるコロナタイトは一旦冷却されたものの、既にまた赤く輝いている。
「マズいですね。時間がないですよ」
ウィズさんが焦りながら言う。というか、私だって焦ってる。
「おい、アクア。お前、これを封印とかって出来ないか?」
「ああ、そうです! その手がありました! アクア様なら…!」
女神様ならきっと…!
「確かによく聞くパターンだけど。でもそれって、ゲームやアニメの話でしょ!?」
いや、そうだけど。神様って一体…。
「それよりウィズはどうなの? あんた、一応リッチーでしょ?」
……女神のアクア様よりは、しっかりリッチーしてると思う。
「ええと、出来るとは思いますが…、それには魔力が足りません。あの、カズマさん、お願いが」
「な、何でしょう?」
突然の事に、どもりながら聞き返す和真さん。ウィズさんは彼の唇に触れながら言う。
「吸わせてもらえませんか?」
「喜んで」
……吸わせて? 吸わせて、ってまさか!?
「ちょ、ななな何考えっ! いい今は、そん、そんな場合いいじゃッ!?」
「……おう。めぐみがテンパってるとこ、初めて見たわ」
あ、あれ? おかしい。さすがにキスシーン程度で、これほど取り乱したりしないと思っていたのだが?
「あ、あの、何か勘違いされてるようですけど、私はドレインタッチで足りない魔力を補おうとしただけですよ?」
「「…………はい?」」
私と和真さんのマヌケな返事が綺麗に被った。
「コロナタイトをテレポートで飛ばそうと思ったんですけど、先程の爆裂魔法で魔力が足りなくなっていたもので…」
……ああ、そういう事だったか。しかし、それならばそう言ってもらえれば。
「……やれやれです。それならウィズさんがやらなくても、私がテレポートで飛ばせばいいだけじゃないですか」
「あ…」
そこに考えが至らなかったことが恥ずかしいのか、ウィズさんは顔を赤くして俯いてしまった。
「ちょっとちょっと、のんびり話してる場合じゃなわよ! コロナタイトの光が青白くなってきてるんですけど!?」
おっと、それは不味い。かなり高温になってきている証拠ではないか。
「というわけで、私がテレポートで送るとして、登録先は先程の一箇所だけです。というかウィズさんでも、この状況で丁度良い転送先を登録していたとは思えません。つまり、何か考えがあったという事ですよね?」
そう問いかけるとウィズさんは、恐る恐るという感じで頷いた。
「あの、転送先を指定しない、ランダムテレポートというものがありまして。ただ、本当にどこに転送されるかわからなくて…」
なるほど。どこかのラノベにもランダムワープの危険性を説いてるシーンがあったので、ウィズさんが危惧していることは理解できる。
「大丈夫だ! 世の中ってのは広いんだ。人のいる場所に転送されるより、無人の場所に送られる確率の方が遥かに高いはずだ。大丈夫、全責任は俺が取る。こう見えて俺は運がいいらしいぞ!」
そういえば、あのラノベの主人公も非常に運が良かったっけ。……うん。フラグっぽい言動は気になるが、和真さんのその言葉に、私も腹を括る。
「『テレポート』ッ!!」
私の魔法によって、コロナタイトは何処かに消えていった。
デストロイヤーから脱出した私達は、地上のめぐみん、ダクネスさんの前に戻ってきた。和真さんは木陰に横たわるめぐみんを背負い。
「ダクネス、無事にデストロイヤーの心臓部を止めてきたぞ」
未だに険しい顔でデストロイヤーを見つめ続けるダクネスさんを安心させるためだろう、そう告げた。……のだが、これってフラグ発言なのでは? その考えを肯定するように、ダクネスさんが言う。
「いいや、まだだ。私の強敵を感じ取る嗅覚が、香ばしい危険な香りを嗅ぎ取っている」
そのセリフに反応するかのように、デストロイヤーがゴゴゴという音を響かせて振動を始めた。
「どうなってんだ!? コロナタイトは取り除いたはずだろ!?」
「おおお落ち着いて! こういう時はあれよ! 赤と白のコードのどっちかを切るってヤツ!」
「アクア様こそ落ち着いてください。それは爆弾解除です」
「めぐみは落ち着きすぎだろ?」
「いえ、これでも騒ぎたい気持ちを抑えているのですよ」
こんな時こそ、魔法使いはクールでなくては。
「ま、マズいですよ。これまで内部に溜まっていた熱が外に漏れ出そうとしているんです。デストロイヤーの前面に、爆裂魔法の余波で出来た亀裂があるでしょう? あそこから熱が漏れ出してます。このままでは、あそこから街へめがけて…」
「勘弁してよ…」
何処ぞの不死人のようなセリフが口を吐く。どうしてこう、次から次へと…。
いや、愚痴を言ってる場合ではない。私は和真さんに背負われためぐみんに視線を移して言った。
「めぐみん。もう一度活躍する気はありますか?」
「メグミ?」
言葉の意図が掴めなかったのか、驚いた顔で聞き返した。
「確か和真さんは、ウィズさんからドレインタッチを教わっているのでしたね? でしたら、アクア様の魔力を和真さん経由でめぐみんに受け渡し、爆裂魔法で吹き飛ばせばいい、というわけです」
「なるほど!」
二度目の爆裂魔法が放てると知り、目を輝かせるめぐみん。
「いや待て。それならウィズの方が良くないか? ウィズの爆裂魔法の方が威力が高かったし」
確かに現段階では、ウィズさんに軍配は上がるだろう。しかし、そうはいかない理由がある。
「アクア様の神聖な魔力を注いだら、下手したらウィズさん、消えてしまいますよ」
「え、マジ?」
そう言ってウィズさんを見る和真さん。ウィズさんは青い顔して頷いている。
「フッ。どうやら私以外、適任者はいないようですね」
めぐみんはカッコつけて言うが、和真さんに背負われている段階で間抜けな絵面ある。
「ねえ、吸い過ぎないでね?」
「ああ、わかってる。宴会芸の神様の前振りなんだろ?」
「
緊急事なのに、どうしてこういうノリになるのだろう。
「カズマさん。ドレインタッチは皮膚の薄い部分の方が効果が高いです。あと、心臓に近い位置の方が効率が良いですよ」
ウィズさんがアドバイスを送る。しかし、心臓に近いって…。
「いつでも準備はいいですよ! 一日に二回も爆裂魔法が撃てるなんて、今日わひゃああああ!」
めぐみんが奇声を上げる。
「いきなり何をするんですか!? 手を背中に入れられて、心臓が止まるかと思いましたよ! 何ですか、セクハラですか!?」
「バカ、そうじゃない! 心臓に近くて皮膚の薄い場所って言ったら、背中が丁度いいだろ! あ、こら、アクア! 抵抗すんな! こっちには街を救うっていう大義名分があるんだぞ! 前に突っ込まないだけありがたいと思えっ!」
……ほう。
「大義名分に、前に突っ込まないだけ、ですか」
「「「はっ!?」」」
私の言葉に、和真さんだけではなく、アクア様やめぐみんまでビクリとする。
「それらの言葉がすんなりと出るということは、合法的にセクハラ出来ると思っていたという事ですね?」
「すんませんでしたぁっ!」
和真さんは即座に土下座をした。まったく、時間がないというのに…。
その後、魔力の受け渡しは首筋に手を当てる、という形で収まった。
「ヤバい、これはヤバいですよ! これなら過去最大の爆裂魔法が撃てそうです!」
「ねえ、めぐみん。まだかしら? もう結構吸われてると思うんですけど」
「もうちょい、もうちょいいけます。……あ、ヤバいかも…」
「ヤバいってなんだよ!」
「……さすがに、破裂とかしませんよね?」
めぐみんの発言に、さすがに私も怖くなる。
そんな危惧など気づきもせず、オシャレ眼帯をむしり取り、スタッフを構えて詠唱を始める。
「他のことならともかく、こと、爆裂魔法に関しては、私は誰にも負けたくはないのです! いきます! 我が究極の破壊魔法…」
真っ赤な瞳を
「『エクスプロージョン』ッッ!!!」
その
因みにめぐみがモノローグで言ってるラノベは、吉岡平の【宇宙一の無責任男】シリーズ(アニメ【無責任艦長タイラー】の原作)、不死人は高田裕三の漫画【3×3EYE’S】の主人公です。
次回第2章エピローグです。