…………出番無いけど。
「それにしても、本当にそっくり…」
紅魔族のふたりと同席した私を見て、ゆんゆんが呟く様に言う。まあ、私自身、噂の人物がここまでそっくりだとは思ってもいなかったが。
「そうですね。私とメグミの違いといえば、瞳の色と、髪の長さくらいでしょうか」
そう。めぐみんの言うとおり、私と彼女との違いは瞳の色の他に、この髪の毛の長さ。前髪ぱっつんは同じだが、私は腰まであるストレート。一方めぐみんは、肩に届くかどうか、という長さだ。
「それに、メグミさんの衣装も変わってる」
「これは、故郷の学校で着ていた制服です。今朝から魔法について学習していたので、この服を着て気合いを入れてたのですよ」
そう。転生時に私が着ていた、ブレザーの制服。勉強の時もこの服を着れば、気が引き締まる…気がする。まあ、自己暗示と言うか、プラシーボ効果の一種だ。
「ところで話は変わりますが、先程の『非常に興味深い』とはどういう意味でしょうか。何だか怪しくてカッコよかったのですが」
『おうおう、可愛い女ふたりも連れて…』
「めぐみん、カッコいいは余計だと思うんだけど」
「何を言っているのですか。あんな思わせぶりなセリフ、紅魔族なら心揺さぶられるのが当然でしょう?」
なる程、アクア様の説明とふたりの会話から察するに、紅魔族というのは一族全てが中二病なのだろう。そしてゆんゆんは、その中では感性が世間一般寄り、つまり紅魔族の中ではマイノリティだったというわけだ。
まあ、実際は大した理由ではないのだが。
『参ったな。僕は新人じゃ…』
「私が興味を惹かれたのは、めぐみんが爆裂魔法しか使わない…、いえ、使えないアークウィザードという事にですよ」
「「え?」」
私の発言にふたりとも、疑問の表情を浮かべている。……さっきから周りがうるさい気がする。まあ、無視しますが。
『ああ? 名の知れた冒険者だあ…』
「私が魔法を修得するときにある人物から、爆裂魔法は世間一般的にネタ魔法扱いされてると、理由を含めて教えてもらいました」
『あんたの場合、悪名でしょ…』
これを聞いてゆんゆんは真剣に頷き、めぐみんは今にも文句を言いそうな表情に変わる。……リーンさんの声が聞こえた気がするけど、今はめぐみんに割り込ませないために無視して、私は間髪を入れずに説明を続けた。
「そんな魔法を、頭の良いめぐみんが修得している。しかも、他の魔法を一切覚えずに。
その理由を推察すれば、きっとこの魔法に執着することになる何かが、過去にあったんだと思いました」
『魔剣だか何だか知らねえが…』
その瞬間、めぐみんはハッとした表情になる。どうやら推察は正しかったようだ。
「その表情が何よりの証拠ですね。でも今は聞きません。知り合ったばかりの者が立ち入る話ではありませんから」
『しょうがないな。それじゃ、外に…』
説明を終えると、めぐみんが恨めしそうにこちらを睨んできた。はて、何か気に障るようなことでもしただろうか。
「く、悔しいです。何に興味を惹いたのか探ろうと思っていたら、あっさりと答えて…。まさかこんなに簡単に口を割るなんて思ってませんでしたよ!」
ええっ!? 聞かれたから答えただけなのに!?
「そうだよね。あんなに思わせぶりだったもんね」
ゆんゆんまで!? 私、そんなに思わせぶりに言ってたのだろうか? ひょっとして、無意識に中二魂発揮していた?
私は、自分の中二病が悪い事とは思ってないが、さすがに無自覚発動はまずい。きちんと、状況に応じて自重するくらいのことはしてるのだ。中二病に厳しい現代日本で、コミュニケーションをスムーズにするために身につけた、私の知恵である。
「……ええと、ちなみに私は、どの様な感じで言ってたのでしょうか?」
『畜生! 何なんだ、あのチート野郎は…』
「そうですね。『フフフ…、非常に興味深い』……と、こんな感じでしょうか」
「めぐみん、上手! ……って、こう言うセリフ得意だもんね」
そんな事はどうでもいい。私、めちゃくちゃ怪しげではないですか!? しかも「フフフ…」なんて笑ってたの、全然気づいてなかった。
マズい。私は、周りと打ち解けてから徐々に明かしていくスタンスである。いきなり明かして距離をとられると、それを改善するには時間がかかる。それに親しい人には知っていて欲しいという欲求もある。その両方が相まってなのだが、もし普段から中二病を発動していたら…。
……ハッ!? そういえばさっき、思いきり名乗りをあげてしまったではないですか!!
私は立ち上がり、店内を見渡す。すると冒険者達やウェイターさんが、すっと視線を外した。まままままずい! このままでは私の輝かしい転生者ライフがっ!!
「あれ? メグミじゃない」
そう声をかけてくれたのは、怪我した
「リーンさんっ!」
「え、メグミ?」
私は思わずリーンさんに縋りつく。
「リーンさんは私を見捨てないでくださいね!?」
涙目で訴える私に、リーンさんは困ったという表情を浮かべる。
「ええと、よくわかんないけど、せっかく出来たかわいい後輩を見捨てるわけないじゃない」
「リーンさんっ!」
リーンさんを抱きしめる私。迷惑をかけてるのはわかってるが、今の私は不安でどうしようもなかったのだ。
「……ええと、ゆんゆん。私達は帰るとしますか」
「そ、そうだね」
ふたりは気を利かせたつもりか、そそくさとギルドを後にしていった。
「落ち着いた?」
「……はい。リーンさん、どうも済みませんでした」
席に着いた私は、項垂れながら謝った。うう、取り乱した私が恥ずかしい。
どうやら私は、異世界転生をして浮かれていただけでなく、内心ではかなり不安だった様だ。事実、向こうで友バレした時でも、こんなに取り乱したりはしなかった。
「別にいいよ。……ねえ、よかったら相談に乗るよ? もちろん話せる内容だったら、だけど」
う、どうしよう。リーンさんは優しいけど、こんな話をしたらさすがに引くと思う。
「メグミ?」
私の視線が気になったのだろう、リーンさんが尋ねる。
「……話したら、多分引くと思いますよ」
「そう言うって事は、話してくれる気になったって事だよね?」
……まったく、お人好しな人だ。
「……私は、紅魔族と同じ気質なんです」
「え、どういうこと?」
「要するに、ポーズを決めながら名乗りを上げたり、思わせぶりな言動をとったり、という事です」
「あー、そういう……」
ああっ、やっぱり引いてる!?
「……んー、それって、恥ずかしいとかないの?」
「ありませんよ。さっきも言ったとおり、紅魔族と同じ気質ですから」
私がキッパリと答えると、リーンさんが少し考え込み、聞き返す。
「恥ずかしくないのに、あんなに取り乱してたの?」
「この気質が世間一般的でないのは知ってます。そして私は、孤立したいとも思ってません」
さすがにそこは、マトリフ師匠の様になりたくはない。私がマトリフを師として仰いでいるのは、あくまで大魔道士としてで、その
「つまり普段は、他の人達と変わんないんだよね? それだったら、あたしが嫌う理由はないよ」
そう言いきってから。
「ううん。メグミがそういう性格でも、あたしが嫌いになる理由にはならないよ!」
そう、言い直してくれた。これは、素直に嬉しい。
「……ありがとう、ございます」
私は涙が零れそうになるのをグッと堪え、お礼を言う。
「ふふっ、どういたしまして」
リーンさんはにっこり微笑みそう返した。
「……えっと、そろそろいいですか?」
「「え?」」
突然声をかけられそちらを見ると、赤毛のウェイターさんが私が頼んだ料理を持って待っていた。
………………。
「す、済みませんでしたっ!」
私はテーブルに手を着き、頭を下げて謝ったのだった。
というわけで、苦悩するめぐみの回でした。外野のクズとイケメンナルシストの騒ぎは、めぐみとの会話で完全無視されました。
ちなみにめぐみは、書籍版のめぐみんにWebみんのロングヘアを合わせた感じです。