この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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今回は長めです。


この最弱職に裁判を!

裁判所。その中は、日本の弁護士ものや判事もののドラマで見るのと、大体同じ造りとなっている。ホールの奥正面に裁判官、向かって左側には原告と検察官。確か本来、向かって右側が弁護人だったと思うが、こちらでは被告人の後ろに配置されている。いや、まあ、ドラマなんて何となくしか見ていないから、記憶違いかも知れないが。

ともかく。その弁護側には、アクア様、めぐみん、ダクネスさんがいる。本当は私も弁護に回りたいのだが、釈放されたとはいえ容疑者とされていたので、弁護を許されなかったのである。今は傍聴席から、事の成り行きを見守るしかない。

もっとも、私のアテは見事空振りに終わったため、たとえ弁護人として参加できたとしても、出来ることは彼女達と何ら変わらないだろう。こんな事なら、疑惑に感じたあの頃から頼んでおけばよかったと、今更ながらに思ったりする。……やれやれ、後悔先に立たずですね。

 

 

 

 

 

傍聴席からではよく聞き取れないが、和真さんとアクア様達が何やら会話している。というか、主にアクア様と。アクア様の顔は見えないが、和真さんが呆れた顔をしてるので、おそらくまた、トンチンカンな事を言って困らせているのだろう。ううむ、やっぱり弁護人席に行きたかった。主にツッコミ要員として。

そんな下らないことを考えていると、ドラマでもよく聞く木槌の音が鳴り響いた。

 

「静粛に! これより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を執り行う。告発人はアクセル領主、アレクセイ・バーネス・アルダープ」

 

原告席に座っていた、良く肥えた毛深いおっさ…中年男性が立ち上がる。あれがこの街の領主ですか。……人を見かけで判断するのは良くないが、第一印象は極めて悪い。もちろん、借金云々を差っ引いて、である。

そんな領主の顔色が突然変わる。距離があるので正確なことはわからないが、視線は弁護人席に向いているように思う。

……そうか。おそらく、ダクネスさんに驚いているのだ。ダクネスさんの正体は貴族で、本当の名前はダスティネス・フォード・ララティーナ。家柄の格の違いはわからないが、同じ貴族なら顔見知りでもおかしくはないだろう。

みんなも領主の視線が気になったのだろう、もしょもしょと何か話している。ううむ。いくら周りが静かになったとはいえ、もう少し大きい声で話してくれないと、さすがに何を話してるのかはわからない。もう少し前の席に座ればよかった。

 

「静粛に! 裁判中は私語を慎むように。では、検察官は前へ。なお、魔道具によって嘘はすぐにわかるので、その事を肝に銘じて発言をする様に」

 

裁判長の前には先日見知った、あの嘘を見破る魔道具…面倒くさいので嘘発見器としよう、それが置かれていた。

 

「それでは起訴状を読ませてもらいます。被告人サトウカズマは機動要塞デストロイヤー襲来時、他の冒険者と共にこれを討伐。その際、爆発寸前であったコロナタイトをテレポートで転送するように指示。被害者アルダープ殿の屋敷へと転送されて爆発。屋敷は消失し、アルダープ殿は現在、宿での生活を余儀なくされています」

 

……これだけ聞くと、確かにただの被害者ですね。

 

「モンスターを含めた危険物のランダム・テレポートは、法律により固く禁じられています。被告人の指示は、この法律に抵触し、また、領主という地位の者の命を脅かした事実は、国家を揺るがしかねない事案であります。よって自分は、被告人に国家転覆罪の適用を求めます!」

「異議ありっ!!」

 

突如、アクア様が声をあげる。しかし今は…。

 

「弁護人の陳述時間はまだです。発言がある場合は…」

 

ですよねー。ドラマでも裁判官から言い渡されてから、弁護人が弁護するものだし、異議申し立ては質疑応答時のものだ。

 

「異議ありって言いたかっただけなので、もういいです」

 

…………ほう?

 

「弁護人は弁護の時にだけ口を開くように!」

 

裁判長が注意を促した。一方、アクア様は隣のめぐみんから何かを言われて振り返り、私と視線がばっちりと合う。途端にアクア様が恐怖に顔を引きつらせた。

どうやらめぐみん、いつの間にか私の位置を把握していたようだ。しかも、私が怒るタイミングまで見透かしている。

 

「……ええと、自分からは以上です」

 

この様な馬鹿なやり取りのため、セナさんはなんとも締まりのないまま発言を終えた。

 

「続いて、被告人及び弁護人による発言を許可する。では、陳述を!」

 

 

 

 

 

発言を許可された和真さんは、それはもう熱く、今までの武勇を語っていた。それは誇張されたものであったが、嘘偽りは一切無い。見栄を張ってはいるが、真実を隠すようなものではないし、今の和真さんが感じる罪悪感なども無いのだろう。嘘発見器は鳴る素振りもない。

 

「も、もういいでしょう」

 

裁判長がゲンナリとした表情を見せる。これにはご愁傷様としか言えない。

 

「では、検察官。証拠の提出を」

 

促されたセナさんが騎士に合図を送り、その後一枚の紙を読み上げる。

 

「それでは、これより証拠の提出を行い、被告人の罪を証明いたします。さあ、証人をここへ!」

 

その言葉と共に、騎士によって連れて来られた証人達。なんだか見知った顔ばかりである。そしてその中のひとりは、まさに昨夜会ったばかりの人物だ。

 

「あはは…、なんか、呼び出されちゃった」

 

その人物、クリスさんは、右頬を掻きながら和真さんに言った。

クリスさん。彼女には領主、アルダープについて調べてもらった。前回の報奨金と借金の時に感じた疑惑、それが今回の事で再燃したのだ。

しかしさすがに1日程度では、彼に対する悪い噂と疑惑くらいしか掴めなかったそうだ。しかも、セナさんから裁判での証言を頼まれてしまったと、今し方見せた様に頬を掻きながら謝っていた。せめてフォローは入れるから、とは言っていたが、果たしてどうなることか…。

 

 

 

 

 

「……そしてクリスさんは、公衆の面前でスティールを使われ、下着を取られたと。以上、相違ありませんね?」

「そ、そうだけど、あれは事故って言うか…」

「事実であると確認が取れただけで充分です。ありがとうございました」

 

クリスさん、撃沈。ううむ、中々に手強い。

そして二番手は、御剣とそのパーティーメンバーの女性二人である。彼は色々問題があるものの、基本は善人である。和真さんに負けたことも割り切ってるようだし、悪い事は言わないと思うのだが、問題は後の二人。実際どんな人物か、私はよく知らないので、穏便に済むように祈るだけである。

 

「ミツルギさん。あなたは被告人に、魔剣を奪われて売り払われたそうですね。そして、そちらの二人は公衆の面前で、下着を剥ぐぞと脅されたとか」

「確かにその通りですが、あれは元々僕から挑んだ…」

 

やはり和真さんの擁護をしようとする御剣。しかし。

 

「そう、脅されたんです! 『俺は真の男女平等主義者だから、女の子相手でもドロップキックを食らわせられる』とか!」

「『女相手なら、公衆の面前でスティールが炸裂するぞ』とか!」

 

か、和真さん。どうしてこう、私でも擁護できない様なことを…。

しかしこの証言、どうやら直接の証拠ではなく、和真さんの人間性から反社会的行動を起こしてもおかしくない、と印象づけるためのもののようだ。その証拠に、最後の証人は。

 

「この男は、次に控える裁判の被告人です。裁判長もよくご存知かと思いますが、しょっちゅう問題を起こし裁判沙汰となっているチンピラです」

 

散々な言われようだが、私もそう思っているクズ男(ダストさん)であった。

 

「ダストさん。あなたはサトウカズマと仲が良いと聞きました」

「ああ、間違いねーよ。カズマとはダチ、親友だ」

 

……和真さん、親友は選んだ方がいいですよ?

 

「サトウカズマさん。あなたはこのチンピラと親友なのですね?」

「知り合いです」

「おおい!!」

 

ダストさん(クズ)が叫ぶが、嘘発見器は鳴らない。和真さん。あなたに対して酷いことを考えてました。すみません。

証人が全員退場した後、セナさんは軽く咳払いをしてから裁判長へと向き直る。

 

「最後のチンピラは証人として不十分でしたが、以上の証言から、被告人の人間性は理解していただけたと思います」

 

やはり、そういう事だったか。

 

「……そして被告人は、被害者に対して恨みを持ってました。これらを鑑みて、被告人は事故を装い、ランダム・テレポートではなく通常のテレポートを使い、被害者の屋敷にコロナタイトを送りつけたのではないかと……」

 

いや、ちょっと待て。かなり強引な理論展開だが、確かに全くあり得ないというわけではない。

だが、それならそれで、何故私の所へ話が来ない? コロナタイトを転送させたのが私であることは、既に判明している事実だ。なら、私の冒険者カードの提示を促すことくらいは、して当然だろう。

セナさんが有能なのかはわからないが、少なくとも無能からは程遠い様に思う。そんな人が、そういった不備を起こすことには違和感を感じるのだが。

 

「そんなの証拠になりませんよ! カズマの性格が曲がってるのは認めますが」

「おいこら」

「言い掛かりをつけるのなら、もっとマシな根拠を持ってきてください! そもそもこじつけ感が半端ないですし、何かおかしいですよ!」

 

途中突っ込まれたりもしたが、どうやらめぐみんも違和感を感じたようだ。

 

「根拠? いいでしょう。

サトウカズマ一行は魔王軍幹部ベルディアを倒す際、大量の水を召喚して街に多大な損害を与え…」

 

ここからでもわかるほど、アクア様の肩が跳ね上がる。

 

「共同墓地に結界を張って悪霊を追い出し、街に悪霊騒ぎを引き起こし…」

 

そして、顔を背けて耳を塞いだ。

 

「連日街の近くで爆裂魔法を放ち、近辺の地形や生態系を変え…」

 

今度はめぐみんが顔を逸らして耳を塞ぐ。

 

「おい待てよ! 今挙げたのは、俺に直接関係ない事ばかりじゃねーか!」

「そして被告人はアンデッドにしか使えないスキル、ドレインタッチを使っていたという目撃情報があります!」

 

やっぱり、気づかれてたか!

 

「何より、大きな根拠として。取り調べの時、あなたに魔王軍の幹部と交流が無いかを尋ねました。その際、あなたが交流は無いと答えた時に、魔道具が嘘を感知したのです。これこそが最大の証拠となるのではないでしょうか!」

 

……反論は出来る。だがそれは、ウィズさんを魔王軍の幹部だと告発するという事。そんな真似は、私には出来ない。きっと和真さんの頭の中にも、その選択肢は無いだろう。

 

「もういいだろう。そいつは間違いなく、魔王軍の関係者だ。このワシの屋敷に爆発物を送りつけたのだぞ。さっさと死刑にしろ!」

 

領主アルダープのこの発言を聞き、一筋の光明が見えた。そしてそれは、和真さんも同様だったようだ。

 

「違う! 俺は魔王軍の関係者なんかじゃないし、テロリストでもない! わざとコロナタイトを送りつけたりだってしてない! お前ら、魔道具をしっかり見とけよ! 言うぞっ! 俺は、魔王軍の手先でも何でもないっ!!」

 

彼の言葉に、嘘発見器は一切反応しなかった。

 

「そ、そんな…」

「どうやら魔道具の反応を理由とする主張は、根拠が薄いと判断せざるを得ませんね。よって被告人、サトウカズマへの嫌疑は不十分とし、無罪を…」

 

やった。そう思ったとき。

 

「もう一度言う。そいつは魔王軍の関係者であり手先だ。さあ、その男を死刑にしろ!」

「いえ、今回の事例では死者も怪我人もなく、さすがに死刑は。

……いえ、そうですね。確かに死刑が妥当…か、と?」

 

セナさんが反論をしていたが、その意見を突如覆してしまう。当のセナさんも、自分が言ったことに驚いているようだ。

何かがおかしい。和真さんやめぐみんも、当然反論している。そして。

 

「今何か、邪な力を感じたわ! どうやらこの中に、悪しき力を使って事実を捻じ曲げた人がいるようね!」

 

アクア様が言ったこのセリフに、嘘発見器は鳴らない。だがそれを確認するよりも前に、私は領主の表情を伺っていた。その表情は、周りのみんなが嘘発見器が鳴らないことで、ようやく顔色が変わるのよりも遥かに早く、青ざめさせていた。

……やはり、この男は怪しい。だが今は、それを追求する気は無い。いつものパターンだと、このあとにアクア様自身が何かやらかしかねない。なので、ここは一旦場を荒らす!

 

「『爆煙舞(バースト・ロンド)』!!」

 

ちゅごうん!

 

私が放った複数の光球が、和真さんと裁判席、原告席の間にある開けた場所に着弾し、爆煙を上げる。ただし殺傷力はほぼ無く、直撃しても軽い火傷を負う程度の、こけおどしの魔法だ。そして当然再現魔法だが、それは今は関係ないか。

私は飛翔呪文(トベルーラ)で和真さんの前に、裁判長のいる方を向いて降り立った。

 

「き、君! 法廷内での魔法の使用は…!」

「すみませんでした。ただ、緊急を要したもので」

 

アクア様がおかしなことをする前に行動したかったので、嘘は言っていない。当然、嘘発見器も鳴らない。

 

「あ、あなたはタカハシメグミさん! 容疑が晴れたとはいえ、あなたには弁護をする権利は…!」

「その事ですが、検察側が勾留中のあのクズ…もといダストさんを証人に求めたのに、なぜ私は弁護の権利を与えられないのですか?」

「それ、は…?」

 

どうやらセナさんも、この様な矛盾をおかした、自身の違和感に気づいたようだ。

 

「それと私は、魔王軍云々は別としても、爆発物を送りつけた疑惑を否定する、決定的な証拠を提示しにきたのです!」

 

私の発言に、周りがざわめき出す。

 

「その証拠は、私のこの冒険者カードです!」

 

そう言って取り出した冒険者カードを、セナさんに手渡した。

 

「そのカードの、テレポートの欄に表示された登録先はただひとつ。今は存在しない、デストロイヤーの甲板の上です。他の登録先が埋まっていない今の状態では、登録先の上書きは出来ません。つまり、領主様のお屋敷を登録していない私には、たとえ和真さんがそう指示をしようとも、故意にコロナタイトを送りつけることは出来ないという事です!」

「た、確かに…」

 

この物的証拠を前に、セナさんも認めざるを得ない。彼女からカードを手渡された裁判長も、その内容を見て頷いた。

 

「ええい、その様な証拠など…!」

「また、何かの力が働くのですかねぇ」

 

少し特命係の刑事っぽく言う私。

 

「……! そんな事…!?」

 

領主は否定しようとして、口篭もる。どうやら当たりのようだ。アクア様が言う悪しき力の行使は、領主が関わっていると見て間違いない。だから、否定して嘘発見器が鳴るのを恐れ、途中で口を閉ざしたのだろう。

 

「……メグミ、よくやってくれた」

「あ、ダクネスさん」

 

いつの間にか私の近くまでやって来ていたダクネスさんが、私の頭に手を置いて声をかけてきたのだ。

 

「これで交渉が楽になる」

「交渉?」

 

聞き返す私には目もくれず、更に数歩進み出て、胸元からペンダントを取り出した。

 

「裁判長、これを…」

「その紋章は…!」

 

それが何なのかは、裁判長の反応を見てわかった。あのペンダントが模った紋章は、ダクネスさんの身元を明かすもの、ダスティネス家の家紋なのだろう。

ダクネスさんは領主へと向き直る。

 

「この裁判、私に預からせてはくれないだろうか。無かったことにしてくれとは言わない。時間を貰えれば、この男が魔王軍の手のものではないと、必ずや証明してみせよう」

 

なるほど。権力を使っての交渉か。私はあまり好きではないが、それこそ「時と場合によらぁ」である。そもそもダクネスさん自身が、こういった使い方をあまり好まない人物に思う。そんな彼女が、仲間のためを思って行使したのだ。文句を言う謂われはないだろう。

 

「し、しかし、いくらあなたの頼みでも…」

「アルダープ、何もただでとは言わない。常識の範囲内でなら、何でもひとつ言う事を聞こう。訴えを取り下げろというわけではない。ただ、待ってほしい」

「な、何でも…」

「常識の範囲内でならな」

 

領主の呟きに、大事なことはしっかりと言う。……ああ、そうか。私が、疑惑のひとつを否定する証拠を提示したからこそ、こちらもある程度強気に出られるという訳か。そうで無ければ、「常識の範囲内」等と釘を刺せなかったに違いない。

 

「いいでしょう。他ならぬあなたの頼みだ。その条件を飲みましょう」

 

どうやら領主は、我欲に負けたようだ。

 

 

 

 

 

「ダクネスお前、あのアルダープっておっさんと知り合いだったのか?」

 

釈放された帰り道、和真さんが尋ねる。

 

「ああ。私がまだ子供の頃から、私に対して異様に執着している。妻を亡くしてからは、事ある毎に婚姻を迫られたものだ。父が年の差を理由に、毎回断ってはいるが」

 

うわぁ、想像以上ですね。

 

「でもまあ、常識の範囲内って釘を刺せて良かったな。さもなきゃ、どんな凄い要求をされてたことか」

 

全くもって、そのとお…り? ダクネスさん?

 

「……し、しまった! 千載一遇のチャンスを逃してしまったっ!!」

「お前、今、千載一遇のチャンスって…」

「言ってない」

 

どうやらダクネスさんは、ドMモードに入ってしまったようである。……やれやれ、さっきはあれほど格好良かったというのに。




まあ、常識の範囲内と釘を刺したところで、お見合いはする羽目になるんですけどね。常識の範囲内なので。

爆煙舞(バースト・ロンド)は、雪精退治の時にめぐみの頭の中にちらりと思い浮かんだので、その後に本当に構築したって設定です。

テレポートの登録先が埋まっていないと上書きが出来ない、というのは独自設定です。
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