カエル退治の翌日。私の予想通りめぐみんが勝利し、奪っ…獲得したマナタイト結晶。それを換金するため、私達はウィズ魔道具店へと向かっていた。
「……なあめぐみ、そろそろ機嫌を直してくれないか?」
「……何の事ですか、エロマさん?」
アクア様は「ロリマ」と呼ぶが、こちらもダメージを負うので、私は呼ばない。
「エロ…、いや、それは甘んじて受けるとして。お前、昨日から全く俺の事、見ようとしないじゃないか」
「……知りませんよ」
つっけんどんな言い方になってしまったが、実際問題、今はそれほど怒ってはいない。いや、少しはあるが、おそらく和真さんが思ってるほどではない。私のこの態度は、全く別の理由から来ているものなのだから。
「心配することはありませんよ、カズマ。メグミのこれは、ただ恥ずかしがって…」
「め、めぐみん!!」
「恥ずかしい?」
聞き返す和真さんと思わず目が合って、慌てて逸らす。顔が火照ってるのが、自分でもよくわかる。
「……メグミ、私から言っても構いませんか?」
私はこくりと頷く。本当は自分の口から言うべきだが、昨日のアレの恥ずかしさと、私自身の事を語る恥ずかしさで、心の整理がつかないので仕方がない。
「メグミはいわゆる、むっつりスケベです」
「ちょ!?」
「……というのはその一面で」
否定はしないんかい。いや、自分自身、否定できないが。
「エッチなシチュエーションが苦手なようです。なので昨日の場面がチラついて、カズマの顔をまともに見られないのでしょう」
「だが、めぐみんにはいつも通りじゃないか?」
「おそらくですが、私は同性だからでしょう」
「ほう?」
和真さんがこちらを見るのがわかる。
「つまりめぐみは、俺を異性として意識していると?」
「あ、あくまで、昨日のアレが原因の、一時的なものですからっ!」
小学校のプールの授業の時、バカな男子が素っ裸で見せびらかして、しばらくそいつをまともに見られなかったときと同じである。そういえば、その時はいつもと逆で、ロゼが私を庇ってくれてたっけ。
「ふーん。……ちなみにめぐみは、向こうじゃ何年生だったんだ?」
「や、薮から棒に、何ですか。……私の気質と同じ、中二ですが?」
「てことは、めぐみんと同じか。……うーむ」
急に考え込む和真さん。一体どうしたというのだろうか。
「カズマの恋愛対象は、二つ年下までらしいのですよ」
「おまっ、バラすなよっ!」
「メグミだけ一方的にでは不公平かと思いまして」
めぐみんのこういう思考は、やはり私の同位存在なんだなと思わされる。
と、それはさておき。
「つまり和真さんは、急に私達を意識し始めた、と?」
「でしょうね。昨日も、来月には14歳だと告げてから急にそわそわしだしたので」
なるほど。……おや、待てよ?
「ちなみに、めぐみんの誕生日はいつなのですか?」
「私ですか? 12月4日ですよ」
なんと!?
「まさか、そこまで同じとは…。私の誕生日も12月4日です。……お前の次のセリフは『なんと!?』と言う!」
「なんと!? ……ハッ!?」
予想したとおり、めぐみんは私の心の中の声と同じセリフを言い、私に言い当てられて驚いた。
「何バカやってんだ? と言うか、何でめぐみんがJOJOネタに乗っかってるのか突っ込みたいが、それは置いといて。そんな事やってる間に、ウィズの店に着いたぞ」
おっと、いつの間に。ふむ、ここがウィズさんのお店ですか。
和真さんが扉を開け、中に入る。
「ちわーっす。これ、買い取ってほし…いん…」
「「「あ」」」
そこには、見知った少女がひとり。
「実はこの…」
「わっ、我が名はゆんゆん! 何という偶然! 何という運命の悪戯! こんな場所で鉢合わせするなんて! やはり終生のライバル」
何だろう。この取って付けた様な言い回しは。
「皆さんがよくうちの店に来ると聞いて、朝から待ってらしたんですよ」
「なな何を言ってるんですか、店主さん!」
ああ、そういう事か。
「ゆんゆんさんは前にも、ここのアイテムを買っていってくださったんですよ」
「つまり、顔見知りというわけですか」
「そういう事ですね」
めぐみんのセリフに答えるウィズさん。
「なるほど。そんな回りくどいことしないで、うち尋ねてくりゃ良かったのに」
「そんな、いきなり人様の家に窺うなんて」
例によってゆんゆんは、コミュ障な発言をしている。
「全く、煮え切らない子ですね。これだからぼっちは…」
「めぐみん。本当のことでも、もう少しオブラートに包んで…」
「めぐみんどころか、ツッコミ役のめぐみも酷い発言だな?」
おっといかん。つい本音が漏れたようだ。
「いえ、構いませんよ」
「いや、お前が言うなよ!」
「ゆんゆんは自分の名前を恥ずかしがる変わり者で、学園では大体ひとりでご飯を食べてました。その前をこれ見よがしにうろちょろするだけで、それはもう嬉しそうに挑戦してきて…」
ゆ、ゆんゆん…。
「そ、そこまで酷くは…。それに、友達だってちゃんといたもの」
「今、聞き捨てならないことが…。ゆんゆんに友達? メグミ以外にですか?」
いや、ゆんゆんにだって友達く…らい……。そういえば、私と友となったあの時の言動、かなり重かったような。
「いるわよ、メグミ以外の友達だって! ふにふらさんとかどどんこさんとかが、『私達友達よね?』とか言って、私の奢りでご飯食べに行ったり…」
「おい止めろ! それ以上は聞きたくないっ!」
「……どうやらその、ふにふらとどどんこというのには、O・HA・NA・SHIが必要なようですね?」
『!?』
私のこの発言に、この場にいたみんなが恐怖に顔を青ざめさせる。
「……ま、まあ、それは置いておくとして。爆裂魔法しか使えない私としては、魔法勝負は避けたいのですが」
「昨日も言ったけど、他の魔法も覚えなさいよね。スキルポイントだって溜まったはずでしょう?」
まあ、私もそう思うが、めぐみんには何を言っても無駄だろう。
「ええ、溜まりましたよ? もれなく全て、爆裂魔法威力上昇や高速詠唱に注ぎ込もうかと…」
……おや?
「どうしてそう、爆裂魔法にこだわるのよ!」
確かにその通りだが、めぐみんの爆裂魔法の威力が上昇してるのって…。それにめぐみんの今の表現は…。後で確認してみるか。
こんな感じの二人の言い争いと私の思案の中、アクア様が声をかけてきた。
「ねえねえ、これなんていいんじゃない? 仲良くなる水晶」
そう言って指差したのは、魔力の光を湛えた水晶玉。しかし、仲良くなる…ねえ。これだけ聞くと素晴らしいアイテムの様だが、言葉のセンスが怪しさを感じさせる。オマケに見つけたのがアクア様だ。嫌な予感がするのだが?
「ああ、これは熟練した魔法使いじゃないと、上手く使えないんですよ」
「上手く使えたら、仲良しになれるんですか?」
「ええ、まあ。……あ、それなら試してみますか?」
……なんだろう。これはまた、何かのフラグにしか聞こえないのだが。
「別に、仲良くなる必要など微塵もないのですが…」
「なに? めぐみん、怖じ気づいたの?」
「あ?」
「つまりこれは、より上手く扱えた方が格上の魔法使いだという証明! 勝負よ、めぐみん!」
うん。やはりこれはフラグだろう。きっと碌な事にならない。まあ、あくまで私の勘なので、止めるわけにもいかないのだが。
「そこまで言うのなら見せてあげますよ。真なる魔法使いの力を!」
「今日こそ決着を着けるわよ!」
そう言って二人が、水晶玉へと魔力を注いでいく。するとやがて周囲が暗くなり、辺りを複数の、長方形のモニターの様な光で埋め尽くされていく。
……しかしこの光景、どこかで見たことあるような?
「こんなにも投映されたのは初めてです。二人とも、凄い魔力です!」
ウィズさんが驚いている。これは、そんなに凄いことなのか。
そして、その光の中には…。
── どこかの調理場。可愛らしい制服姿のめぐみんが、廃棄前のパンの耳をせっせと袋に詰めている様子が映し出され。
──[ ハッピーバースデー・ゆんゆん]と書かれたケーキの前で、「おめでとう!」と言っているゆんゆん。その長テーブルには、他に誰もおらず。
── 畑から野菜を盗み、おそらく妹と思われる子から「姉ちゃんすごい!」と言われるめぐみん。
──チェスをするゆんゆんは、駒を打つと席を移動し、相手側の駒を打つ…を繰り返し。
── めぐみんが川でザリガニを捕り、鍋で茹で妹に「姉ちゃんすごい!」と言われ。
── 犬や植物には逃げられ、思わず悪魔を召喚して友達になろうとするゆんゆん。
「友達に奢るためにアルバイトするのか?」
「ちょっと…、あれ、セミ食べてる…」
和真さんとアクア様も、滅茶苦茶ドン引きしている。
ああ、思い出した。これは、父が所有する【∀ガンダム】のDVDで見た、黒歴史の語源になったあのシーンとそっくりなのだ。
「な、なんですか、これはっ!?」
「店主さん! 仲良くなる水晶って言いましたよねっ!!」
めぐみんとゆんゆんが、半狂乱になって尋ねる。いや、気持ちはわかる。私にだって、人には言えない黒歴史はあるのだから。
「これは、お互いの恥ずかしい過去を曝し合うことで、より友情や愛情が深まり合うという、大変徳の高いもの、なん…で……す………」
いや、それで友情や愛情が深まるとしたら、そもそも徳が高い人達だと思う。
「ねえ、めぐみん! これで私達、仲良くなれるのっ!?」
いや、多分無理。というか、お互い素直じゃないだけで、既に充分仲がいいように思える。もちろん素直じゃないので、お互い…というか、主にめぐみんが認めないだろうけど。
「う~~~おりゃああああっ!!」
あ。
めぐみんが水晶玉を床へと叩きつけ、パリーンと音を立てて砕け散る。途端に辺りの景色は、元の[ウィズ魔道具店]の店内に変わった。
……一体、誰が弁償するのだろう。
「これはカズマさんにツケておきますね」
「待て。壊したのはめぐみんだろ」
「その水晶を使いたいと言ったのはゆんゆんです。なのでゆんゆんが払います」
と、三段スライド方式で、ゆんゆんが弁償することに決まった。まあ、めぐみんの言い
「勝負が…せっかくの勝負が…」
……ゆんゆんの耳には入ってない様だが。
「まったく、いつまでめそめそしてるんですか」
「だって、これじゃあどっちが勝ったか、わかんないじゃない」
お金支払わされる段階で、めぐみんの勝ちのような気もする。ゆんゆんは納得しないと思うけど。
「ねえ、引き分けでいい?」
「別に構いませんよ。もう、勝負事にこだわるほど、子供じゃありませんから」
おや? 随分と聞き分けがいいような? またなんか、仕掛ける気なのだろうか。
「そういえば昔、発育勝負をしたことがあったわね。子供じゃないって言うのなら、またあの勝負をしてもいいわよ!」
ぐっ!? それは絶対、
「子供じゃないって言うのは、別の意味ですよ。だって私は、ここにいるカズマと一緒にお風呂に入るような仲なのですから」
なっ!?
昨日の、あの場面を思い出して、私の顔が物凄く熱くなる!
「おまっ! この口か! この口がまた、俺の悪評を広めるのかっ!」
和真さんは、めぐみんの口を左右に引っ張り怒鳴りつけた。
「きょ!」
え?
「今日の所は、私の負けにしておいたげるからあああ!」
そう捨て台詞を吐いて、ゆんゆんはお店を飛び出していった。
「今日も勝ちッ!!」
「『今日も勝ちッ!!』ではありませえええんッッッ!!」
スコーン!
「あ痛っ!」
ロッドでのツッコミが、めぐみんの頭に綺麗に決まるのだった。
しばらくして、ようやくみんなが落ち着いた。そして和真さんが話を切り出す。
「ええと、ウィズ。実はこのアイテムを買い取ってほしいんだが…」
「はい? ……あら、これは結構な純度のマナタイト結晶ですね」
ある意味、ゆんゆんがいなくてよかった。巻き上げられた物があっさりと売られたと知ったら、彼女の場合、結構ショックを受けそうだ。
「上級魔法でも、充分に肩代わり出来るほどの純度ですよ?」
「生憎と、我がパーティーには不要の物です。我が爆裂魔法を肩代わり出来るほどの高純度ではありませんし、アクアやメグミの魔力量ならよほどのことがなければ、このマナタイトに頼る必要などありませんから」
ほう。きちんと状況把握は出来ているようですね。実際魔力量だけならば、私はめぐみんよりも遥かに高いのだから。
「言われてみれば、確かにそうですね。わかりました。では、少々鑑定しますね?」
そう言うとウィズさんは、マナタイト結晶の状態を事細かに調べ上げてゆくのだった。
私は泣きながら、街中を走っていた。
まさか、まさかめぐみんに、先を越されるなんてぇっ!
そんな想いを抱いて、唯々闇雲に走り回って…。
ドン!
思わぬ衝撃に弾き返されて、私は尻餅をついた。
「痛っ!」
その声は、私のものではない。どうやら、人とぶつかってしまったようだ。
「あ、あの、ごめんなさい! 私の不注意で…」
「いえ、私も辺りを見回してて、前を向いてなかったから…」
そう言いあって、お互いの視線が合い。
……え?
私は彼女の、その顔に、その瞳に、釘付けになった。その人は、とても私に似ていた。そして瞳の美しさに、私は見惚れていた。なんて綺麗で変わった瞳なんだろう。
「……あの?」
「ああっ、ごめんなさい!」
とても失礼なことをしていたと気がつき、慌てて私は謝った。
「いえ、いいですよ。顔がそっくりで、ビックリしたんですよね」
それはそうだけど、それ以上にその瞳に魅入られていた…なんて、恥ずかしくって言えやしない。
「……あ」
「ええと…」
お互い、何を言えばいいのかわからずに、沈黙が訪れる。うう、私のコミュ障が物凄く憎い。……ええい、こうなったら自己紹介よ!
「わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長となる者!」
………………って、なんで紅魔族流の名乗り上げしちゃったの!? せっかく、普通の自己紹介をするチャンスだったのに!
「……ゆんゆんさんか。ちょっと変わった名前だけど、可愛らしいですね」
え?
「あ、あの、私の名乗りを聞いても、引いたりしないんですか?」
「あ、うん。私の親友も結構そういうノリだったから、慣れちゃったんです」
ええ? 紅魔族以外にもこういう人がいるの? ……あれ? でも、私の身近にもいたような…?
「あ、ごめんなさい。私も自己紹介をしないと。私は豊崎尚美。ついさっき、この街に来たばかりなんです」
「トヨサキ…ナオミさん…」
これが、私とナオミとの邂逅だった。
とういわけで、ついに尚美が登場です。
もうわかってると思いますが、この流れのために、アニメ版のストーリーを使用しました。そして以降も、所々アニメ版ストーリーが使われることとなります。ご了承ください。