この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

43 / 57
運命の刻


この幼馴染みとの再会を!

マナタイト結晶の精算には、思った以上の時間がかかった。その理由は、めぐみんが交渉を始めたためである。

和真さんはめぐみんを止めようとしたが、彼女は「大丈夫です。私に任せてください」と聞く耳を持たない。いや、多分和真さんは、貧乏店主さんが可哀想なので止めたのだと思うのだが。

アクア様はもとより、止めるつもりが無いようだった。おそらく、リッチーが困っている様を見ているのが楽しいのだろう。余り褒められたことではないのだが、アクア様が仕掛けているわけでは無いので、今日の所は見逃すことにした。

で。私はこういった交渉自体は、悪いことでは無いと思っている。と言うか、この手の業界では普通のことだろう。だが、和真さんから聞いた話や世間の噂からすると、ウィズさんには商才が無いらしい。なのでそこを踏まえてめぐみんに、暴利をむさぼらない程度に留めるよう釘を刺して、行く末を見守っているのである。

 

 

 

 

 

「……では、この金額でどうでしょうか」

「……いいでしょう。商談成立ですね」

 

どうやら、話はまとまった様である。私はめぐみんに近づき、結果を尋ねる。

 

「それで、売値はどうなったのですか?」

「当初、ウィズが提示した額の、およそ1割増しです。本当はもっとも釣り上げられましたが、ウィズが相手だとこれが限界でしょう」

 

どうやら私の言いつけは守ってくれたようだ。

 

「……因みに、やろうと思ったらどこまで釣り上げられましたか?」

 

ちょっとした好奇心で聞いてみる。

 

「そうですね。ウィズの興味を引きつけるような言葉で巧みに誘導すれば、10割増しにする自信があります」

「それって言い値の倍じゃないですか!」

「ええ。……本当に、何故商売人をしているのかと疑問に思いますよ」

 

ウィズさん、あなたって人は…。

私が哀悼の思いでいると、当のウィズさんがお金(エリス)を持って現れた。

 

「ではこちらが引き換えの現金となります。ご確認ください」

「……はい。間違いありませんね」

 

めぐみんが確認をして袋に詰め、和真さんに手渡した。因みに細かい貨幣が多かったが、おそらくお店中のお金をかき集めたのだろう。リッチーだから死ぬ…死ぬ?ことはないだろうが、これでまともに食事は取れるのだろうか。心配になってくる。

 

「ねえねえ、用事が済んだのなら、さっさと行きましょう。神聖な私の体が、アンデッド臭くなってしまうわ」

「ああっ、アクア様、スミマセン! スミマセン! 私がリッチーなばかりに…!」

 

……そういえば和真さんから、ウィズさんにはアクア様の正体がバレてるって言われていた。もちろん、めぐみんやダクネスさんには言っていないことである。私が転生者で、アクア様の正体を知っているから教えてくれたことだ。

 

「まったく、くつろいでお茶飲んでた奴が何言ってんだか」

 

うむ。それには激しく同意である。

 

「まあ、長居してもウィズに迷惑がかかるし…」

「リッチーなんかに何気を使…いえ、何でもないです」

 

私が背に差したロッドに手を触れると、アクア様は大人しく引き下がった。

 

「どうやらアクアも異論が無いようですし、私達はこれで…」

 

めぐみんがそこまで言いかけた、その時。カランとドアベルが鳴る。

 

「あ、いらっしゃ…あら、ゆんゆんさん。何かお忘れですか?」

 

そう。お店の入り口には、さっき飛び出していったはずのゆんゆんが立っていた。

 

「よかった。みんなまだいた」

「何ですか、ゆんゆん。まだ私に用があるのですか?」

 

めぐみんは本当に、もう少しゆんゆんに優しくしてあげるべきだと思う。ツンデレめぐみんには難しいのかも知れないが。

 

「ううん。用事があるのはメグミの方」

「!?」

 

あ、めぐみんがショックを受けてる。……え? 私?

 

「ゆんゆん、私に何の用ですか?」

「あ、えっと、メグミに会いたいって人がいて、連れて来たの」

「私に会いたい人?」

 

はて、誰だろう。クリスさんやリーンさんなら、お店の名前を聞けばひとりで来られるだろうし。

 

「さあ、入って。知り合いの店だから、緊張する必要はないですよ」

 

ゆんゆんに促されて入ってき…たの……は………。

 

「え、ゆんゆんさんにそっくりです!?」

 

そう。ゆんゆんにそっくりだ。胸はもう少し、年相応だが。

 

「左右の瞳の色が…。え、これって」

 

確か、私が説明したのだったか。虹彩異色症、ヘテロクロミア。通称オッド・アイ。

 

「あの子が着てる服って、学校の制服じゃないか?」

 

ええ。学校の夏服です。今の季節だと非常に寒そうですが。

 

「ちょっと。あの子の矢筒に入ってる矢、神器じゃないの」

 

ああ、まさにこの子らしい特典だ。

 

「……めぐみん!」

 

その子が、()()()()を呼ぶ。私も、その子の愛称を呼んだ。

 

「ロゼ…」

 

と。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

ロゼ。めぐみは確かにそう呼んだ。その名には憶えがある。それは、ミツルギが俺に難癖をつけてきたときに、めぐみが口にした、親友の愛称だ。つまりあの子は。

 

「めぐみん、会いたかった…」

 

めぐみに抱きつき、頬を濡らしながらに言う。一方のめぐみは、非常に辛そうな表情で口を開いた。

 

「あなたは…何故、ここにいるのですか…」

「……私を案内してくれた…ノエルさんに聞いたら、めぐみんがこっちに来てるって言ってたから」

「そうではなくて! ここにいるという事は、あなたは…!!」

 

さすがに、めぐみんやゆんゆん、ウィズがいる中、最後までは口にしない。だが、そうなのだ。めぐみの幼馴染みということは、彼女は異世界転生者。つまり、向こうの世界で命を落としてしまったという事だ。

 

「……そういう、事だね。でも、わざとじゃないよ?」

 

わざとじゃない、という事は、自殺ではないって事か。それにしてもめぐみ同様、頭の回転の早い子だな。さっきから転生に関することは、上手く誤魔化しながら発言している。

 

「……まったく、あなたという人は」

 

言ってめぐみは、泣きそうな表情で笑顔を作り。

 

「それに私も。とても悲しいことなのに、嬉しくも感じてしまうなんて…」

 

……ああもう、めんどくせえ!

俺はめぐみの頭に手を乗せる。

 

「……え?」

「お前は考え過ぎなんだよ! せっかく親友に会えたんだろ? だったら今は、素直に再会を喜べばいいじゃねえか! それ以外のことは後回しだ!」

 

俺が叱咤した途端、めぐみの目から涙があふれ出し、思わずたじろいてしまう。

 

「ぐぅ…、ロゼ…。私も、私も会いたかったっ!!」

 

めぐみはロゼの胸に顔を埋め、大泣きをする。これで、良かったんだよな?

 

 

 

 

 

「……皆さん、ご迷惑をおかけしました」

 

ようやく落ち着いためぐみが、深々とお辞儀をして謝った。

 

「別に謝る必要などありませんよ。メグミ達は遠い地から来たのでしょう? 運良く会えたのですから、再会できたのは喜ぶべき事です」

「そ、そうよ。私達、お友達なんだから!」

 

めぐみんとゆんゆんが元気づけるように言う。

 

「お友達? ……ねえ、めぐみん」

「ああ、そうですね。お互い自己紹介が必要ですね。では、ロゼからいきますか?」

 

言われて一瞬怯んだものの、すぐにロゼの表情が引き締まる。

 

「そ、それじゃあ。私は豊崎尚美。めぐみん…めぐみの幼馴染みで、彼女からはロゼって呼ばれてます」

「ねえ、どうしてロゼなの?」

 

アクアが俺も感じていた疑問を投げかける。

 

「それは、名前の由来からです。両親がバラの花が好きで、漢字の薔薇の別の読みがショウビ。ショウビに別の漢字を当てて読み方を変えたのが尚美って訳です」

「そして私が、バラを英語読みにしてローズ。ローズにはバラ色という意味もあるので、それをフランス語にしてロゼ、となったのです」

 

なんだか、風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな謂われだな。因みに、さっきから何かを言いたそうに、めぐみんが口をむにむにさせている。多分、漢字とか英語とかフランス語といったワードが気になるんだろう。それでも聞かないのは、以前は無視されたから今回も同様だろうと思ったに違いない。

 

「では次は…」

 

そう言って、俺をチラリと見る。目が合った俺は軽く頷いた。……そういえばめぐみが、普通に俺と視線を合わせてるな。多分、ロゼ改め尚美との再会で、気持ちがリセットされたんだろう。尚美様々だな。

 

「それじゃあ俺からだ。俺は佐藤和真。一応、このパーティーのリーダーだ。名前からもわかると思うけど、君と同じ国の出身だよ」

 

俺の自己紹介に、尚美は目を丸くする。

 

「次は私ね! 私はアクア。美しきアークプリーストは世を忍ぶ仮の姿で、その正体は水の女神アクアその人よ!」

「と思っている残念な人です」

「だから、どうして信じてくれないのよおおお!」

 

それは、普段の行いである。

 

「……ねえ、めぐみん。もしかして、アクアさんって…?」

「はい。私をこちらに送ってくれた方です。その後、和真さんに特典として指定されて、ここにいるそうです」

「そうなんだ。ノエルさんがこっちに来てるって言ってたけど、そういう事だったんだね」

 

相変わらず、上手く隠しながら確認作業をしている二人。お前ら、本当に中二かよと突っ込みたい。

 

「何か話し込んでますが、我が名乗りを聞き震え上がるがいい!

我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして、爆裂魔法を操る者!」

 

毎度の通り、めぐみんが高らかに名乗りを上げる。

 

「え? めぐみん? そっくりだとは思ったけど、名前まで…」

「あちらはあれが本名です」

 

そうなんだよな。っていうか、驚くとこそこかよ。めぐみんの名乗りじゃないんだな。

 

「後はダクネスさんという方がパーティーにいますが、今は訳あってここにはいません」

「何かあったの?」

「……それは、聞かないでください」

「う、うん」

 

めぐみの悲愴的な表情に、尚美はただ頷いた。

 

「……あれ? ゆんゆんさんは?」

「フッ! ゆんゆんは我がライバルを自称する、ただの追っかけ! 我がパーティーとは縁も所縁もないのです!」

「自称じゃないし、追っかけでもないから! 正真正銘のライバルだからっ!」

「……といった仲です」

「なるほど、友達なんだ」

 

尚美がぶっちゃけたことを言う。実際俺も、そうじゃないかと思ってる。

 

「と、友達…」

「ではありません。ええ、ありませんとも」

 

なるほど。確かにめぐみが言うとおり、めぐみんはツンデレだな。だけどツンが強すぎるぞ? もっとデレるべきだろ、めぐみん。

 

「ええと、それで奥にいるのが、このお店の店主さんで…」

「[ウィズ魔道具店]の店主をしている、ウィズといいます」

 

ウィズが微笑みながら挨拶をする。ゆんゆんとは先に済ませてあったみたいだし、これで全員か。

 

「それで、ゆんゆんさんと友達っていうのは…」

「ああ、それは彼女が修行の旅に出るとき、私を魔法使いとしての新たな目標と言ってきたので、その条件を飲む代わりに、こちらでの最初の友となったのです」

 

めぐみの説明にゆんゆんが、真剣な顔で頷いている。なんか、かなり必死だな。

 

「なので、親友であるあなたにも、ゆんゆんの友となってほしいのですが…」

「そうなんだ。……うん、そうだね」

 

頷いてからゆんゆんへと向いて。

 

「私も、あなたの友達になりたいの。いいかな、()()()()?」

「え…あっ! はいっ! 不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」

「……だからゆんゆん、重いですよ?」

 

ゆんゆんの重い発言に、めぐみはツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

「ところで尚美は、冒険者の登録は済ませたのか?」

 

状況が少し落ち着いたところで、俺は尋ねた。こちらに来たからには、とにかく何か職に就かなくてはならない。それが転生特典を持つ転生者なら、冒険者になるのが手っ取り早い。

 

「いえ、まだです」

「それじゃあさっさと済ませちまおう。という訳で、またな、ウィズ」

「はい。またのお越しをお待ちしてます」

 

ウィズに挨拶をして、俺達は店を出た。なんか流れで、ゆんゆんもついて来てるけど、まあいいだろう。

 

「何でゆんゆんもついてくるのですか」

 

お前は、もう少しゆんゆんに優しくしてやれ。

 

「お、お友達と一緒にいて、何が悪いのよ」

「ぐっ!?」

 

おお、ゆんゆんが言い返した。今回は見事に一本取った形だな。

 

「ねえねえメグミ。ナオミにあの事、教えた方がいいんじゃないかしら」

「あの事?」

 

なんだ? アクアの奴、また妙なこと言う気じゃないだろうな。

 

「魔剣の人の事よ」

「あっ!」

 

……そうか。確かにそれは、伝えるべきだよな。アクアにしては、ナイスじゃないか。

 

「? なんの話?」

 

聞き返す尚美に、めぐみは一瞬言葉に詰まる。が、意を決して口を開いた。

 

「ロゼ、落ち着いて聞いてくださいね。……こちらには、御剣響夜も来ています」

「……え? 」

 

尚美の表情が変わる。その表情は複雑だ。ハッキリ言って、俺にはどう表現したらいいのかわからない。だだ、読み取れた感情もある。ひとつはおそらく、戸惑いだろう。そしてもうひとつ、こちらはわかりやすい。喜びだ。口角が少しだけ上がってる。非常に腹立たしいが、この少女はミツルギに対して未練があるんだろう。本当に腹立たしいが。

尚美と向き合うめぐみを見ると、どうやら機嫌を損ねてるらしい。おそらく、俺と同じものを読み取ったみたいだな。まあ、フラれた相手に未だに思いを寄せてるんだ。幼馴染みで親友という立場なら、機嫌が悪くなるのも当然だろう。

はぁ、と尚美がひとつ溜め息を吐く。

 

「教えてくれて、ありがとう。知らないまま出会ってたら、きっと取り乱したと思うから。……どうしたの、めぐみん?」

「……ロゼには関係ないことです」

「え? めぐみん? 何拗ねてるの?」

「拗ねてなんかいませんよ。ええ、拗ねてませんとも」

 

お、めぐみがめぐみん化した。そうか。めぐみが拗ねると、ツンデレめぐみんみたいになるのか。

 

「……あの、その愛称を呼ばれると、私の名前と非常に紛らわしいのですが」

 

めぐみんが、めぐみの愛称に異議を申し立てる。めぐみとめぐみんでも紛らわしいから、当たり前の申し立てだが。

 

「じゃあ、あなたは(あか)めぐね」

「……なんですと?」

「私にとって、めぐみんはめぐみだけだもの。だから偽物のあなたは、紅魔族のめぐみんで紅めぐ」

 

うわ。この子、結構辛口だな!?

 

「な…! よりにもよって、私を偽物扱いですと!? 顔だけでなく、毒舌な所もゆんゆんそっくりですね!

紅魔族は、売られたケンカは買う種族! そのケンカ、買おうじゃないか!」

 

ゆんゆんも結構毒舌なんだ。って、感心してる場合じゃない。

 

「待て待て、こんな所でケンカはよせよ。なあ、紅めぐ?」

「なあ!?」

「そうですね。私がめぐみ、もしくはめぐみんと呼ばれて、そちらが紅めぐ。紛らわしくなくていいじゃないですか」

「メグミ!?」

 

お、めぐみも乗ってきたな?

 

「紅めぐって愛称、可愛いと思うよ?」

「ゆんゆん!」

「そうね。この際めぐみんは、紅めぐでいいと思うの」

「アクアまで! 我が名はめぐみん! 決して紅めぐなどではありません! もしその名で呼ぶのなら、せめてナオミ限定にしてくださいっ!!」

 

フッ。どうやら策に嵌まったようだ。

 

「言質が取れたから、私はこれから紅めぐって呼ぶからね?」

「あ」

 

俺達の連携…アクアは本気で言ってた気がするが、そのお陰で尚美のめぐみんの呼び方は、紅めぐに決定した。

そしてそんな事を話している間に、俺達は冒険者ギルドへと到着するのだった。




おまけ

前回の続き。

ゆんゆん「トヨサキ…ナオミ…」

尚美「ゆんゆんさん?」

ゆんゆん「あ、いえ、ナオミさんの名前が、知り合いと似た雰囲気だったから…」

尚美「私の名前と似た…? ねえ、ゆんゆんさん。その人の名前はなんて言うんですか?」

ゆんゆん「え、あの、タカハシメグミ…」

尚美「!! めぐ…みん…!」

ゆんゆん「え?(……あ、そういえばメグミが自己紹介の時、愛称はめぐみんだって…。それじゃあこの人は!)
ナオミさん、行きましょう!」

尚美「……え?」

ゆんゆん「今ならまだ、私の知り合いのお店にいるかもしれません!」

立ち上がったゆんゆんが手を差し出す。

尚美「……! はい!」

返事をした尚美。ゆんゆんの手に自分の手を添え立ち上がる。
ゆんゆん、尚美の手を引き、ウィズのお店へと向かう。



……といった事がありましたが、バレバレとはいえ正体を隠していた都合上、今回のあとがきにて補完させていただきました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。