この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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明けましておめでとうございます。


この最弱職に修羅場を!

気持ちを切り替えた私は、クエストの達成を第一に考えて、みんなと共に目的の場所へと向かって移動を開始した。目指すは郊外の畑、そこに出没する一撃熊の討伐である。

 

「……めぐみ、紅めぐ、大丈夫?」

「二人とも、なんだか落ち着きがないわよ?」

 

何故か、ロゼとゆんゆんがその様なことを聞いてくる。

 

「めぐみんならまだしも、私は充分に落ち着いてますよ」

「メグミではないのですから、我が落ち着いてないというのは勘違いですよ」

 

……ほう?

 

「いざという時にすぐにテンパるめぐみんには、言われたくないのですが」

「性的な状況に遭遇するたびに動揺するメグミには、言われたくありません」

 

私はめぐみんと、顔を近づけガンを飛ばし合う。と。

 

げしっ!

 

「「あ痛っ!」」

 

私とめぐみんの頭に、ロゼが放った手刀が同時に決まった。

 

「二人して何してるの!」

「「う…すみません」」

 

私達は素直に謝った。やれやれ。どうやら言われたとおり、全く落ち着きがない状態であったらしい。ううむ、クールな大魔道士への道は、まだまだ遠いようだ。

 

「……ねえ、二人とも。一体何があったの?」

 

そう尋ねるゆんゆん。それに答えたのは、めぐみんだ。

 

「カズマが本当にダクネスを助けようと思っているのか、疑わしく思っているのですよ」

「え? でもカズマさんだって、仲間のためなら色々と手を尽くしてくれるんじゃない?」

「屋敷を出るときだって、結構頼もしい感じだったし」

 

ふっ。ゆんゆんもロゼも、まだまだ和真さんの事を理解していないようだ。

 

「あの男は、ドMのダクネスさんと一発屋のめぐみんを、自主的にパーティーから抜けるように促すような奴ですよ?」

「ああ。魔王討伐を目指していると言った、あの時ですね」

 

やはりめぐみんも、あの時の和真さんの思惑には気づいていたか。もっとも、あの時のめぐみんの返しも、彼女の偽らざる気持ちだろうが。

 

「……めぐみ。紅めぐ。今からでもパーティーから脱けた方が良くない?」

「私もそう思う」

 

……まあ。その方がいいよーな気が、しないでもない。しかし。

 

「……和真さんのパーティーは、居心地がいいんですよ」

「ええ。それに私の場合、抜けても拾ってくれるパーティーがありません」

 

あー…。めぐみんには、かなり切実な理由もありましたね。

 

「めぐみん。だから他の魔法も覚えろって言ってるでしょ!」

「断固拒否します」

 

ゆんゆんの心配もわかるが、この程度で主義を曲げるくらいなら、とっくの昔に他の魔法も覚えているだろう。

まあ、それはともかく。私にも他に、抜けられない理由がある。

 

「それに、あのお屋敷にはアンナがいますからね」

「「アンナ?」」

 

ロゼとゆんゆんの声が被る。まあ、疑問は当然の事である。

 

「あのお屋敷に棲む、地縛霊の少女ですよ。姿が見えて会話が出来るのは、私とアクア様だけです。なので出来るだけ、あのお屋敷を出たくはないのですよ」

「あ、時々めぐみが独り言を呟いてると思ってたけど、アレってその子と会話してたんだ」

 

ロゼからそんな風に見られてたのか。まあ、アンナのことを説明してなかった自分が悪いのだけれど。

 

「……若干話が逸れましたが、私もめぐみんも、こうしたそれぞれの思惑があるため、パーティーを脱けることはあり得ません」

「なんでしたら、ゆんゆんとナオミには脱けてもらっても結構ですよ?」

 

めぐみんはそんな挑発めいたことを言う。すると途端に、ロゼもゆんゆんも、捨てられた子犬のようにオロオロとし始めた。

 

「わ、私は! めぐみをサポートする義務があるわけで!」

 

いや。そんな義務などない。

 

「わわ、私はめぐみんの終生のライバル! ライバルを見捨てるなど、あってはならない事よ!」

 

ぼっち属性のゆんゆんも、必死に取りなそうとしている。実に涙ぐましい。

 

「……ゆんゆんは予想通りの反応でしたが、ナオミまでこれほど慌てるとは思ってもみませんでした」

「ロゼは私への依存度が高いから」

「ああ。なるほど」

 

理解したのか、めぐみんは軽くうなずいた。……はっきり言えば、私もロゼに依存してる所は多々ある。しかし私は、それを割り切れる程度には距離を取れるのだ。

……そう考えると腹立たしくはあるが、ロゼと御剣が付き合うことも悪くはないのかも知れない。まあ、まだ御剣と再会してはいないし、彼の行動次第ではあるのだが。

 

「めぐみ!」

「めぐみん!」

 

おっと。どうやら二人は、揶揄われたことに気がついたようだ。

 

「やれやれ。二人がイジワルなことを言うので、揶揄っただけですよ」

「そうですよ。二人もどうこう言いつつ、あのお屋敷暮らしは気に入っているのでしょう?」

「「う…、うん」」

 

うむ。二人とも、素直でよろしい。

 

「なら、この話はお終いです。私もめぐみんも、自らの意思で和真さんとパーティーを組んだのですから」

「もしパーティーを脱けるとしたら、完全に見限ったか、別々の道を歩むかのどちらかですよ」

 

やはりこの辺りの思考は、私とめぐみんはよく似ているらしい。異世界の同位存在というアクア様の予想は、当たっていたようだ。

 

「うん。わかった」

 

ゆんゆんは神妙に頷き。

 

「それに和真さん、根はいい人そうだしね」

 

さすが達人クラスのロゼ、人を見る目がある。御剣だって難点除けば、極めて善人ですし。まあ、難点の方に問題があるのだが。

 

「え? でもそれだったら、どうしてダクネスさんを切り捨てようだなんて…?」

「ゆんゆん。あなたは先程、ダクネスさんの何を見ていたのですか?」

 

私が聞き返すと、ゆんゆんは少しだけ考え込み。

 

「……あ。被虐性愛者」

「ええ。もっとドストレートに、ドMと言っていいですね。しかも和真さんがぼやいていたように、攻撃の当たらないクルセイダーです」

 

本当に、どれほど両手剣スキルを取ってほしいと思ったことか。

 

「ゆんゆん。あなたがリーダーだったとして、その様なクルセイダーは要りますか?」

「……ううん。ダクネスさんには悪いけど、私の手には余ると思う」

 

どうやらゆんゆんにも理解して貰えたようだ。

 

「でも、それならどうしてめぐみや紅めぐは、ダクネスさんを切り捨てようとしている和真さんが心配なわけ?」

 

ロゼのこの意見はもっともだ。ポンコツクルセイダーを追い出そうとしているのを、止めたがっているという事だから。だが、それに答える前にひと言。

 

「別に、切り捨てようとしているのは確定事項ではありませんよ」

 

限りなく可能性が高いだけであって、本気で助けようとしている可能性だってあるのだから。

 

「まあ、それはともかく。確かにダクネスさんは、尖った性格で尖った性能の持ち主ですが、頼りにもなる仲間ですから」

「そうですね。それにあれくらい尖っていた方が、紅魔族的にはむしろ安心しますよ」

「それ、めぐみん的にはだと思う」

 

めぐみんの意見に、ゆんゆんがツッコミを入れる。うむ。確かにそのとおりだ。爆裂魔法のみの一発屋という尖った性能のめぐみんには、ダクネスさんとの波長が合うのだろう。

 

「……そうか。信頼している人なんだね」

「そういう事です」

 

理解したロゼが、やれやれといった表情で頷いている。呆れてはいるが、肯定的に受け取ってくれたのだろう。

 

「まあ、結局は、和真さんを信じるしかないんじゃないの?」

「そうですね」

 

ロゼの意見に、今度は私が苦笑いを浮かべながら頷くのだった。

 

 

 

 

 

目的地へと着いた私達。木陰に隠れて覗き見る先には、大人の男性よりも遥かに大きな熊の姿。あれが一撃熊。DQの熊系モンスターって、きっとこんな感じなんだろう。

まあ、この手の考察はこれくらいにしないと、またロゼからの手刀を喰らうことになるので止めておこう。

 

「ロゼ、いけますか?」

「距離は大丈夫だけど、弱点は? 矢の能力が高いから貫通力はあるけど、頭を狙うと頭蓋を滑って失敗する可能性もあるから」

 

ロゼ。あなたはプロのハンターか暗殺者ですか? ……ま、まあ、いいです。

 

「それなら左右の肺を狙ってください。心臓を撃つより、確実に早く息の根を止められます」

「……めぐみ、どうしてそんな事詳しいの? 実は暗殺者?」

 

ロゼに、私が抱いた想いと同じ言葉を浴びせられた。ううむ、解せん。

 

「……まあ、いいわ。

『トレース・オン』!」

 

ロゼは弓を出現させると、二本の矢を番えて構え。

 

「南無八幡大菩薩…」

 

念仏を唱えてから矢を放つ。鏑矢のびゅう…という音に一撃熊はビクリと動きを止め、そこに狙い違わず矢が突き立つ。見事に左右の肺の辺りだ。

一撃熊は一瞬暴れようとするが、すぐにもがきだし、やがて倒れて動かなくなった。

 

「……冒険者カードに記録されてる。どうやら倒せたみたいだね」

 

おお、さすがはロゼ。どうやら弓でも達人クラスの様だ。

私達は倒れた熊に近づいた。

 

「ロゼ。さすがに解体は…」

「無理だよ。そう言うめぐみも…」

「無理です。残念ですが」

「? どういう事?」

 

ロゼとの会話を聞いたゆんゆんが尋ねる。するとめぐみんが。

 

「当然、食べるということでしょう」

「ええっ! 食べちゃうの!?」

 

はて。何を驚くことがあるのだろう。

 

「ゆんゆん。ジャイアントトードだって食べるじゃないですか」

「そ、そうだけど!」

 

まあ、ゆんゆんは紅魔族の長の娘。箱入りとは言わないまでも、やはりお行儀良く育てられた部分はあるのだろう。処理済み食材となったものと、倒した獲物を解体するのとでは、感覚的なギャップが大きすぎたという事か。

……って、こちらに来た頃の私もまさか、今の私がこんなワイルドな考え方してるとは思わなかったけど。

 

「前にめぐみの叔父さんに食べさせてもらった熊鍋、美味しかったよね」

「ああ、あのちょい悪の叔父ですね。あれは狩猟免許を持った叔父が仕留めた熊ですが、下処理あっての事ですよ。なんか無理矢理仕込まれたので、やり方は知ってますが」

 

本当に。あの叔父の碌でもない知識が、こんな所で役に立とうとは思ってもみなかった。

 

「まあ、今回は致し方ありません。もし市場に出回っていたら、今度試してみますよ。料理は自信がないので、他の方に任せますが」

 

私の普通レベルの腕では、せっかく下処理した肉を活かす事が出来ないだろう。

 

「なんだか話を聞いていると、食べてみたくなりますね」

「そ、そうだね」

 

めぐみんとゆんゆんも、興味がわいてきたようだ。

 

「それはまたいつか、という事で。さて。それでは続いて、めぐみんの爆裂…」

「ああ、それですが、順番を後回しにして、ダクネスの所に行きませんか? その、やはり気になります」

 

なっ!?

 

「めぐみんが爆裂魔法より優先した!?」

「それはどういう意味ですか、ゆんゆん!」

「「「いや、そのままの意味だから」」」

 

怒るめぐみんに、突っ込む私達。彼女だって、自身の爆裂魔法に対する異常な執着には、気づいているだろうに。事実めぐみんは、ぐうと唸ると少しの間押し黙ってしまった。

 

「……私だって時には、爆裂魔法より別のことを優先する場合がありますよ。まあ、止める、という選択肢はありませんが」

 

それもそうか。最後はめぐみんらしいが。

 

「わかりました。それではアクセルに戻りましょう。私だって気になってしょうがなかったですし、ね」

 

さすがにフェアじゃないと思い、自分の想いを口にしてからウインクをする。

 

「えっと、それじゃあ急いで…」

「いえ。ここは、私が新たに開発した再現魔法の実験を兼ねさせてもらいます」

「「……え?」」

 

ロゼとゆんゆんが、不安そうに呟いた。めぐみんも少しだけ不安の色を浮かべているが、今までの実績のお陰か、二人ほどではない。

 

「メグミの事ですから、ある程度の安全性を見込んでのことですよね?」

「ええ、もちろんです。既存の術の応用ですから失敗しても、思っていたほどの効力が無いか、発動自体しないといったところですね」

 

めぐみんの質問に答えることで、二人も安堵の色を浮かべる。どうやらめぐみん、自身の不安を払拭すると供に、二人の不安を拭い去る目的で話を振ったようだ。さすがは紅魔族随一の天才である。

 

「では、いいですか? みんな、私か私を掴んでいる者の体を掴んでいてください。……行きますよ? 『瞬間移動呪文(ルーラ)』ッ!!」

 

呪文を唱えると、《飛翔呪文(トベルーラ)》とは比較にならない超スピードで上空に飛び上がるのだった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

俺達は今、ダスティネス家の応接室にいる。なんだか色々あってダクネスとの勝負の末、今はここでバルターと共に、ダクネスの親父さんからダクネスの事を色々と聞かされていた。ちなみにダクネスは、俺のドレインタッチの影響で眠って…というか気を失って、ソファに寝かしつけられている。それはともかく、親父さんの話だが。

 

曰く、ダクネスは身内を含めて人付き合いが苦手だ。

曰く、毎日エリス様にお祈りをして、盗賊の…クリスと友達になった。

曰く、自由に育てたせいでああいう性癖になった。

 

等々。まあ、最後のは元からの性癖だと思うが。挙げ句の果てには親父さんから。

 

「娘をよろしく頼むよ。コレが馬鹿なことを仕出かさないように、見張っていてくれ」

 

などど、どちらの意味にも取れそうなお願いまでされてしまった。

そんな中、ようやくダクネスが目を覚ました。

 

「……ここは…応接室? ……ああ、そうか…」

 

むくりと上半身を起こしたダクネスは、先程までのことを思いだした様だ。

 

「……む? これはひょっとして事後なのか? 賭に負けた私は、気を失ってる間に…」

「まだ何もしてねえよ! 誤解を招く言い方してんじゃねえ!」

 

俺が突っ込むと、ダクネスは辺りを見渡してからフヒッと嗤う。なんだ、物凄くイヤな予感がするのだが。

 

「お父様、バルター様、どうか今回のお見合いは無かったことにしてください。今まで隠してましたが…、私のお腹の中には、カズマの子が…」

「おいコラ、ちょっと待て、このアマ! 童貞のこの俺に子供だぁっ!?」

 

自分で童貞言うのも虚しいが、身に覚えのない濡れ衣を着せられる方が、余程迷惑だっ!!

 

バンッ!!

 

……え? 俺は勢いよく開かれた扉を見て、そして固まった。

 

「……和真さん。いつの間にその様なことになっていたんですか?」

「これは、とことん話し合う必要がありますね?」

 

ニッコリと笑いながら言う、二人の中二病少女。こ、怖えっ! めぐみんなんて、今まで見たことが無いくらいに瞳が(かがや)いてるしっ!

そんな二人の後ろに立つ尚美は、やれやれといった表情でため息を吐いている。いや、気づいてるなら、二人を止めてくれっ!!

 

 

 

 

 

結局、およそ1時間をかけてようやく、ダクネスの親父さんとアクアを含めたみんなの誤解を解くことが出来たのだった。




めぐみはちょい悪な叔父と言ってますが、酒を飲ませたり、熊の撃ち方、熊肉の下処理方法を仕込むなど、子供にんなコト教えんな!的なこと教えるような人です。
ただし、めぐみは辛口に言っているだけで別段嫌っているわけではありません。あくまで「困った人だ」的な表現です。

因みにちょい悪な叔父は父の弟、『白衣神咒』を教えた伯父は母の兄になります。
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