あれから更に一週間。最初の三日は醜態をさらした気恥ずかしさから、宿に隠って勉強をしていた。しかし内容も全て頭に入り、ノートはリーンさんに返してしまったし、何時までも実入りのない状態でいる訳にもいかなかった。
四日目から再びジャイアントトードの討伐に出たが、クリスさんが「そろそろひとりでやってみなよ」と言って、もしもの時以外は様子を見てるというポジションにシフトしている。その甲斐あってか、ひとりでも問題なく倒せるようになったし、まだ少し抵抗感があるものの、生き物を殺す時の嫌な気分も大分マシになった。
そして今日。
「『
私が投げた光球がジャイアントトードに触れた瞬間、炎が球状に燃えあがる。その炎に焼かれたカエルは絶命し、バタリと倒れた。これで今日のクエスト分は達成したことになる。
「お疲れ。メグミも大分戦闘に慣れたみたいだね。油断さえしなければ、カエル退治くらいならひとりでも大丈夫なんじゃないかな」
おお、有難いお褒めの言葉。でも、私が目指すのは大魔道士。これはほんの足掛かりに過ぎない。
「それにしても、メグミの『ファイアーボール』って変わってるよね。普通は、球状の火炎を撃ち出す魔法なのに」
「これは、独自に魔法を修得するための練習に、『ファイアーボール』をアレンジしてみた結果です」
そう。魔法を一から組み立てる前に、ルナさんが言っていた前提が合っているか確かめるためにアレンジしてみたのだ。
……本当は、DQシリーズの魔法にアレンジしてみたかったが、『メラ』系は『ファイアーボール』、『デイン』系は『ライトニング』、『ヒャド』系に関しては『フリーズ』に魔力を多く注げば再現できるし、『イオ』系はおそらく『爆裂魔法』が相当するのだろう。しかも噂通りなら、上位互換といえる。
一方『バギ』系は『ブレード・オブ・ウインド』に似ているが、「圧縮空気を刃にして飛ばす」から「真空の刃を飛ばす」へのアレンジに手間がかかりそうだし、『ギラ』系は類似魔法が無いので、一から組み上げなければいけない。
そこで私は視点を変えて、[スレイヤーズ]の『
もちろん通常の『ファイアーボール』も使えるので、状況に応じての使い分けも可能である。結果的に大魔道士へと近づいた気がする。
「……メグミは本気で、ウィザードとプリースト、両方の魔法を覚える気なんだね?」
「もちろんです。私が尊敬する大魔道士は、その両方が使えますから」
もちろんマトリフ師匠は空想上の人物だが、この世界でなら、きっとそれも夢ではないはずだ。
「へえ。でもメグミならホントにやりそうだよね」
「やりそうではありません! 絶対にやってみせます!」
その為の転生特典なんだから!
……あ、いや、魔王討伐の為の特典だった。
「アハハ、頑張ってね」
笑ってから言うクリスさんはだけど、揶揄ってる様には見えなかった。
「さて、と。それじゃああたし、この後用事があるから」
「またですか? 最近現地解散ばかりですし、クエストの報酬も貰ってないじゃないですか」
そう。この四日、クリスさんは討伐が終わるとアクセルに戻ることもなく、何処かへ姿を眩ませる。一体何処で、何をしているのやら。
「んー、ちょっと調べ物がね? 急ぎじゃないけど、のんびりしてていいって訳じゃないから」
「そういう事ですか。……あ、それじゃあお金はどうしましょうか?」
「全部メグミの儲けでいいよ。この四日はみんな、メグミが討伐したんだしね。その代わり、今度奢ってよ?」
ううむ、少し気が引けるけど、言ってることは間違ってない。奢りというのも、付添料の事を言ってるのだろう。
「わかりました。ですが、さすがに気が引けますので、何か手伝って欲しい事があったときは声をかけてください。出来る範囲でならお手伝いしますよ」
「あー、何だか逆に気を遣わせちゃったみたいだね。でもこのまま続けても、堂々巡りになっちゃいそうだし。……それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」
人差し指で頬を掻き、申し訳なさそうに言うクリスさん。彼女も人がいいようだ。クリスさんにリーンさん。私は巡り合わせがいいんだろう。
私は国教と聞いたエリス教の御神体、幸運の女神エリス様に感謝をした。
「クシュン!」
「おや? クリスさん、風邪ですか?」
「ああ、いや、誰かが噂してたんじゃないかな?」
クリスさんも思案顔で答える。まあ、風邪じゃなくてもクシャミくらいはしますか。
「えっと、それじゃあまた」
「はい。今日もありがとうございました」
そう言って私達は別れるのだった。
アクセルの街の門を
『ハァ、ハァ、……もう一丁!』
『おう、初日に比べりゃ大分マシになったな!』
『さすがに一週間もやれば慣れてきますって』
土木工事をしている、二つ三つ上のお兄さんに目が行く。なんて事はない、こんな仕事するにはちょっとひ弱な感じがするけど、何処にでもいそうなお兄さん。ただ気になるのは、彼が履いてるズボンと、腰に巻いた上着。あれってジャージに見えるけど、気のせいだろうか?
そしてもうひとり。水色の髪の女性が、それは見事に壁を塗っていく。後ろ姿しか見えないが、何だかアクア様に似ているような…。いえ、それこそ気のせいでしょう。女神様がこんな所で、土木工事してるなど有り得ないのだから。
ギルドへ戻った私は受け付けで、カエル討伐の報酬を受け取る。しかし、それにしても。
「あの、ルナさん。最近ギルドが騒がしくありませんか?」
「メグミさん、ご存じないのですか?」
……? 何のことだろう。
私の表情を見て理解したのだろう、ルナさんが説明してくれた。
「実は森で、悪魔が目撃されたんです。しかもめぐみんさんの報告によると上位悪魔だということで、しばらく森への立ち入りは禁止。皆さん、平原などのモンスター退治をしていたのですが…」
「……私みたいな本当の初心者ならともかく、もう少し自信のついた冒険者には物足りないでしょうね。獲物としても、収入としても」
「はい…」
つまりみんな、痺れを切らしてるというわけだ。それにしても、まさかめぐみんが情報源とは。
「それで明日、討伐隊を結成することになったのですが、メグミさんも参加されますか?」
上位悪魔の討伐…。仮に討伐に参加した場合、活躍すれば名を上げることも出来るかも知れない。しかし今の私では、実力が伴ってないだろう。火力だけなら上級魔法を覚えれば済むが、戦闘経験の不足という穴は、一朝一夕で埋められるものではない。
「残念ですが今の私では、みんなの足手まといにしかなりません。なので今回は、辞退させてもらいます」
「そうですか。メグミさんの才能ならばと思ったのですが…」
「それは買いかぶりです。確かに能力は高いですし、大魔道士を目指す身ですが、ようやく一人でジャイアントトードの依頼をこなせるようになったばかりですから」
ついさっき、クリスさんから太鼓判を押して貰ったところだ。
「……初級冒険者としては、充分凄いと思いますけど」
……そういうもんなんだろうか?
「ただ、そうですね。メグミさんは普通よりもレベルの上がりが悪いみたいです」
「そうなんですか?」
クリスさんが一緒だったとはいえ、彼女は盗賊だし、しかも実質は半ばソロプレイみたいなものなので、他の人のレベルの上がり具合なんてわからない。
「ジャイアントトードを40匹近く倒してレベル3ですから、上級職の魔法使いだとしても遅いと思いますよ?
たまに標準よりも成長速度の遅い方がいますが、どうやらメグミさんがそうみたいですね」
ううむ、そんな事になってたのか。
私は無言でカウンターを離れ、掲示板から依頼書を引っ剥がし、カウンターへ戻り、依頼書を叩きつけるように置く。
「ムカついたので、もう一度討伐へ行って来ます!」
「あ、はい…」
返事をしたルナさんの
『
『
『ファイアーボール』は球状の火炎を飛ばし、触れた瞬間炸裂する魔法。まんまドラクエの『メラ』系魔法です(マリオの『ファイアボール』から目を逸らしつつ)。