※誤字報告であがっていたので。
作中にある「感状」は間違いではありません。「戦功のあった者(武士や兵士)に対して、主家や上官が与える賞状」の事です。馴染みのない言葉(自分も知らなかった)なので、ここで説明しました。
バニル討伐から1週間が過ぎ、今日、俺達はギルドへと呼び出された。もちろん、ベルディアやデストロイヤーの時とは違い、心にも余裕がある。今回は誰もやらかしてないし。……やらかしてないよな?
おっといかん。いつもの癖で、ついつい疑心暗鬼になってしまった。
気持ちを切り替えようと、俺は辺りを見渡して。
「……お前、意味のないことには、本当に物凄い才能を発揮するよな」
アクアがテーブルの上に水で描いた絵を見て言った。
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの?」
「お前が芸人の神様を名乗る分には信じる人もいるんじゃないか?」
俺がそう返すと、アクアは一瞬怒りの表情を見せるが、すぐに別の表情に変わっていく。その表情は。
「なあ、変なこと考えてないか? なんでそんな憐れんだ目で俺を見てるんだ? お前にそんな目で見られると、無性にイラッとくるんだが?」
そんな俺の言葉にも、アクアはただ生温かい眼差しを向けるだけ。マジ、ムカつくんだけど。
そんな俺の腕に、テーブルの上のちょむすけがすり寄ってきた。
「なんかこいつ、妙に俺に懐くな。アクアには懐かないのに。やっぱ本能で、清い心の人間を見抜くのかな」
そう言って喉を撫でていると。
「どちらかと言えば、怠惰なところで波長が合っているだけでは…」
そんな言葉を漏らすめぐみの声。一瞬怒りを感じたが、無意識に口をついただけのようだし、怠け癖があるところは否めないので我慢した。決して怒らせたくなかったからではない。
「ちょっとカズマ、今のは聞き捨てならないわね。それじゃあまるで、神聖な存在である私の心が清くないって聞こえるんですけど」
「清くないって言ってるんですけど」
俺とアクアの取っ組み合いが始まった。
「あ、あの…」
「ゆんゆん。いつものことです。いい加減慣れてください」
……めぐみんは、慣れすぎだと思う。
それはともかく、俺とアクアの取っ組み合いながらの言い争いは更にヒートアップする。
「いつまでもガタガタとしつけーぞ! 迷惑かけられる度合いで言えば、お前、めぐみん、ダクネスの順だ!」
「わあああ!カズマがヒドいこと言ったあ!」
「待ってください! 私はこの中で一番迷惑をかけていないつもりなのですが!?」
めぐみんが全く無自覚なことを言ってきた。
「アホか! 迷惑かけないのは、めぐみ、ゆんゆん、尚美の順だ!」
「……和真さん。なんでその三人だと、私が一番下なんですか?」
尚美もまた、無自覚なことを言ってくる。
「お前の場合、エロ話で周りに迷惑かけすぎだ。そういうのは、下世話な話が好きな仲間内でやってくれ」
尚美の奴、ダクネスが戻ってきた頃から急に、ことあるごとにエロ話を言うようになってきた。主な被害者はめぐみやめぐみん、ゆんゆんで、ギルドではたまにリーンも被害に遭ってるみたいだ。まあ、めぐみんは話を合わせることも多いみたいだが、たまにマジで引くくらい激しいことも言うらしい。
いや、もちろん俺だってエロい話は大好きだが、それで盛り上がるのはせいぜい、その手の話が好きなダストやキースといるときだ。……そりゃ、調子に乗ったり、売り言葉に買い言葉でセクハラ発言もするが、積極的に周りに言いふらすようなことはしない。誰が何と言おうと、しないったらしない。
「……なら仕方ないか」
どうやら尚美は、その辺を改める気は無いようだ。まあ、何となく理由もわかってるんだが。
ひとつはめぐみに、耐性をつけさせる為だと思う。さすがにエロシチュエーションの度にテンパられても困るからだろう。この辺りは、めぐみも気付いてるんじゃなかろうか。
あともうひとつ。多分、めぐみがダクネスの事で思い悩むことを、極力減らすためではないか。ダクネスが望んだこととはいえ、めぐみんに攻撃を促したことを引きずってるのは、俺から見てもわかる。めぐみんもそうだが、めぐみも相当仲間思いだからな。
もっとも。これらを考慮しても、尚美のエロ思考はおそらく素なので、多分一生直らないと思う。尚美には今度、サキュバスのお姉さん達を紹介してあげよう。きっといい話相手となるに違いない。
俺はそんなことを考えながら、原因のひとつと思われるダクネスへと視線を移す。そのダクネスはというと。
「よう、ララティーナ! お前さん、そんな可愛い名前してたんだな!」
「ララティーナちゃん。今度、名前に合った可愛い服見に行こう! あたしが見繕ってあげるからさ!」
「しかしララティーナねえ。どっかのお嬢様みたいな上品な名前でいいじゃないか」
俺が広めた本名で弄られまくっていた。やがてダクネスは俺を恨めしく睨んでくる。
「何だよ、ララティーナ。そんな怖い顔をして。可愛い名前に似合わないぞ?」
俺がからかうと、睨んだまま耳まで真っ赤にさせる。普通にこういう反応してれば可愛いのに、普段があれだからなあ。世の中、ままならないものだ。
……ダクネスは、めぐみんの爆裂魔法を食らって瀕死の重傷を負った。クルセイダーのスキルで防御力が上昇していた鎧でさえも、耐えられずに砕け散ってしまうほどの威力だったのだ。
その様子を見て一番ショックを受けたのは、爆裂魔法を放っためぐみんではなく、めぐみんを諭していためぐみの方だった。いや、むしろめぐみがあれだけショックを受けていたからこそ、めぐみんも少しは落ち着けたのかも知れない。
その後、アクアの回復魔法と介護のおかげでダクネスも元気になり、尚美のエロ話のお陰でめぐみも必要以上に落ち込まずにすんだ、というわけだ。
……と。
「どうやら始まるみたいだ。それじゃあ行ってくるよ、ララティーナ」
俺がもう一度からかってから踵を返すと、ダクネスが投げたのだろう、木のコップが俺の頭に当たった。
「冒険者、サトウカズマ殿。貴殿に嫌疑をかけたことを深く謝罪し、改めて、感謝状と共に表彰させていただきます」
セナが頭を下げたあと、俺は感謝状を授与された。
「そしてダスティネス・フォード・ララティーナ卿。ダスティネス家の名に恥じぬ、貴公の素晴らしき献身及び活躍に対し、王室から感状、並びに先の戦いで失った鎧に代わり、第一級技工士による全身鎧を贈ります」
顔を真っ赤にして震えるダクネスの前に、控えていた騎士達がやって来て、新品の鎧を置いて下がっていった。
「おめでとう、ララティーナ!」
「ララティーナ、よくやった!」
「さすがララティーナ!」
「ララティーナ、可愛いよララティーナ!」
みんなから褒められたダクネスはしかし、顔を真っ赤にして手で覆い隠し。
「こ、こんな辱めは、私が望む凄いことではない…!」
どうやら約束の、「ダクネスが泣いて嫌がる凄いこと」は上手くいったようだ。アクアやめぐみが言っていた事に配慮して、結局はこの案に落ち着いた。決して俺がヘタレたわけではない。
「ねえダクネス。私はララティーナって名前、とっても可愛いと思うの。ララティーナって名前を面白半分で広めたカズマには、私が叱っといてあげるわ。だからもっと、ララティーナって名前に自信を持って!」
「あ、あの、アクアさん。それ、追い打ちになってますよ? ちょっとめぐみん! 笑いをこらえながらダクネスさんを揺するのは止めてあげて!?」
ゆんゆんがアクアとめぐみんを制止する様子を見ながら、久々に幸福感を覚える。……別にサディズム的なことではなく、平和な光景に見えて和んだからだ。
「では続いて、サトウ殿への報奨金授与に移ります!」
おっと、授与式はまだ終わってなかった。
「冒険者サトウカズマ。機動要塞デストロイヤー討伐における多大な貢献に続き、魔王軍の幹部にして大悪魔のバニル討伐は、あなたとその仲間の活躍がなければ成し得ませんでした。それらを鑑みた結果、魔王軍のスパイという疑惑は間違いであったと認められ、嫌疑を晴らすことが出来ました。おめでとうございます。
そして、あなた方に課せられた借金及び、領主殿の屋敷の修繕費を報奨金から差し引き、残された差額分、金四千万エリスを進呈し、ここに称えます」
そう言って差し出された袋を受け取り。そのずっしりとくる重さを感じながら、俺は実感した。ようやく俺は自由になったんだ、と。
宴会ムードのギルドを抜け出した俺とダクネスは、ウィズの店の前に立つ。
働くほどに貧乏になるポンコツ店主。バニルが言っていたのは、間違いなくウィズの事だ。何しろバニルと同じ、魔王軍のなんちゃって幹部なのだから。
そしてバニルはこうも言っていた。古き友人、と。
なら、どんなに辛いことだろうと、ウィズにはバニルの事を伝えなければならない。
「カズマ。今回の事は、私から伝えよう。ほんの一時だったが、体を共有した仲だ。エリス様に遣えるクルセイダーがこんな事を言ってはならないのだろうが…、嫌いな奴ではなかったよ」
ダクネスが遠い目をして言った。変態クルセイダーとして思うところがあるんだろう。
俺は店の扉を開け…。
「いらっしゃいませ!」
ウィズの声が聞こえ。
「へいらっしゃい! 店の前で何やら恥ずかしいセリフを吐いて、遠い目をしていた娘よ。汝にひとつ、言いたいことがある。嫌いな奴ではなかったとのことだが、我々悪魔には性別が無い故、そんな恥ずかしい告白を受けてもどうにもならぬのだ。……おっと、これは大変な羞恥の悪感情、大変美味である」
何故かいる、見通す悪魔。……あれ?
「カズマさん、聞きましたよ。バニルさんを倒して、スパイ容疑が晴れたとか。おめでとうございます」
「いや待て。なんでコイツがここにいるんだ?と言うか、爆裂魔法を食らってなんでピンピンしてるんだよ? 無傷ってどういう事だ?」
ウィズのセリフに突っ込む俺。いや、もう、何が何だかわからない。
「我輩とて、あんなものを食らえば無傷なわけなかろう。この仮面をよく見るがいい」
そう言って額部分を指さした。よくよく見れば、そこにはⅡの文字。
「爆裂魔法で残機がひとり減ったのでな。二代目バニルである」
「なめんな!」
残機制ってあれか? 世界的に有名な配管工の兄弟か?
「まあまあ。バニルさんは、前々から魔王軍を辞めたがっていたんですよ。一度滅んで蘇った今のバニルさんは、契約が破棄されて魔王軍とは関係なくなったので、とても無害なはずですよ?」
ウィズがそんな説明をしているが、見通されて揶揄われるだけでも、充分に有害な気がするのだが。
「遠い彼方の地よりやって来た男よ。汝に見通す悪魔が宣言しよう。遠くない未来、そこでうずくまってメソメソする娘と汝に、抗い難い試練が訪れる。その試練は強大で、汝は自らの無力を実感するであろう。それまでに、我らの商売に貢献するが吉と出た。
……良い話があるのだが、一口乗らぬか?」
……う、胡散臭い。
「……ふむ。俄には信用できんか。まあ、悪魔との契約故、当然ではあるな。ならばひとつ、アドバイスをしよう。それが正しければ、我輩の話に乗るのも、吝かではなくなるはず。
今からギルドに戻れば、汝にとって衝撃の事実が判明するであろう。それはやがて、汝に大きな決断を迫る程の重大な事実である。
……さあ。嘘か真か、確認に行くがよい」
バニルに言われ、俺は店を追い出されたのだった。
当初予定ではエピローグを二つに分けるつもりだったのですが、どうも納まりが悪いので、エピローグは普通にこちらだけで、もう片方は若干視点を変更して[よりみち]枠にすることにしました。