なお、今回は前回より更に長めです。
更に翌日。私は重い足取りでギルドに向かっていた。
カエルショックは未だに抜けてないが、なるべくお金は稼いでおきたい。稼いでおきたいけど、アレはトラウマになりそうで…。
そんな事が頭の中でぐるぐると巡り、現在葛藤の真っ只中なのである。
そんな感じで大通りを歩いていると、見知ったとんがり帽子が視界に入った。
「めぐみんではないですか。そんなに急いで、どうしたのですか?」
「……またですか」
「また?」
「いえ、こちらのことです」
少し苛立っているめぐみん。本当にどうしたのだろうか。
「実は
「え…」
何を考えてるんだろう、彼女は。上位悪魔となると、上級職でも倒すのは…あ。爆裂魔法か! あれは複合魔法で、神や悪魔でも倒せるという話だ。
「ですが私と共にいた冒険者のパーティーは大ケガを負い、更には我が使い魔を差し出すように言ってきたのです」
使い魔? ……ああ。コウモリの様な羽の生えた、あの黒猫のことか。しかし何故悪魔が、あんな愛らしい黒猫を欲しがるのだろう?
「しかし見す見す使い魔をくれてやる訳にもいかず、魔道具を買い集め、退治する準備を進めていたのですが…」
「……が?」
「大ケガを負ったパーティーは、私の知り合いのプリーストによって闘えるまでに回復し、あろうことかゆんゆんが私を眠らせ、彼らと共に討伐に出てしまったんですよ!」
さあっと自分の血の気が引くのがわかった。私は多分、その現場を見ている。
怪我したパーティーのひとりが、私をめぐみんと間違えていた。
後からやって来たアクシズ教のプリーストのお姉さん、セシリーさんは、やはり私をめぐみんだと思ってた。
そしてセシリーさんの治療呪文は、彼らの怪我を治していった。
……あれ? もしかして私が止めてたら、ゆんゆんの暴走は無かった? いやしかし、そんな事知るはずもないし、そもそも治療を止める訳にもいかない。うん、私は悪くない。ないったらない。
「……? メグミ、どうかしましたか?」
「いえ、少し考え事をしていただけです」
極力冷静に答える私。
「……まあ、いいです。これから私は、ゆんゆんを追いかけなくてはなりませんから」
そう言ってめぐみんは踵を返し、小走りに立ち去っていった。
私は、どうする?
はっきり言って、めぐみんもゆんゆんも、知り合ったばかりだ。そこまで肩入れする必要はない。あの三人の冒険者など、名前すら知らない。
でも。だけど。
ここで何もしなければ、私はきっと後悔をするだろう。
私は…。
やらないで後悔するより、やって後悔をしたい!
そう決意した私は、めぐみんの後を追うように駆け出した。
平原へ出るとそこには、いつもいるはずのジャイアントトードはおらず、代わりに戦闘を繰り広げる悪魔と冒険者の姿があった。
めぐみんの姿は…見えないけれど、必ず近くにいるはず。
私がその場へ近づく中、眩い閃光が放たれる。これはおそらく、『フラッシュ』の光。ゆんゆんが使ったのだろう。
だが効果がなかったのか、悪魔は二人の冒険者を殴り行動不能にした。
「ん? 何だ貴様は」
「……え、メグミさん!?」
「あんた、昨日の…!?」
ようやく私に気づいた悪魔とゆんゆん、そして冒険者のひとりが驚く中、私は息を切らせつつ小さく呪文を唱え。
「『
光球を投げつける。
「ああん? これのどこが『ファイアーボ…』」
そう言いながら、悪魔は手で光球をはたき。
どぅぐおおん!
「な!?」
光球が炸裂して火炎が巻き上がる。そこに空かさず。
「『ファイアーボール』!」
今度は正真正銘、中級魔法の『ファイアーボール』を叩きつける。
「っちい! いってえな!」
だが悪魔には、ほとんどダメージは無かったようだ。やはり噂どおり、魔法耐性が高いらしい。
「おい、お前もこいつらの仲間か?」
「……仲間、というか知り合いです。とはいえ、見捨てておけずに助太刀に来ました」
私の返答に、呆れの気配を漂わせる悪魔。
「変わった奴だな。仲間でもないのに助けに来るなんて。
なんて言ったっけか、人間の言葉で…、そうだ。お前は酔狂って奴だな」
酔狂。確かにそうかも知れない。しかし、我が選択に一片の悔い無し!
「だが、駆け出し冒険者が俺様に敵うと思ってるのか?」
「別に。私は足止めさえ出来れば、それでいいのですから」
私の言葉に、悪魔はゲラゲラと笑い。
「お前ら程度に、俺様を足止めな…」
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
私が放った
「なに!?」
「「ええっ!?」」
悪魔とゆんゆん、冒険者のお兄さんが驚きの声を上げる。
「油断しましたね。私は初期ポイントが大変多く、上級魔法も修得できたのですよ」
まあ、覚えたのはここへ駆けつけるまでの道すがらだが。
「実際、戦闘経験の少ない私としては、あなたが話しかけてきてくれたのは渡りに舟だったのです。こうして不意を突けたのですから」
なお、初めに『カースド・クリスタルプリズン』を使わなかったのは、進路の近くにいたゆんゆん達を巻き込む可能性があったからだ。
「は! 確かにそいつは、俺様の油断だったな。だが、そんな話してていいのか? ちょっと手間はかかるが、こんな氷、少し時間をかければ抜け出せるんだぜ?」
「そうです、メグミさん! 早くとどめを…」
急かすゆんゆんに私は言う。
「無理です。今の魔法で、上級魔法を使うだけの魔力は無くなりました」
「……え?」
「更に言えば、中級魔法も二、三発が限界でしょう」
私の発言に、ゆんゆんは涙目になりながら、私に掴みかかる。
「ちょっとおおお! どうするのよおおおお!!」
「ハハハ、こりゃあ傑作だ! 氷漬けにしても、倒す手立てがないなんてな!」
悪魔は笑うが、それは問題ではない。
「そもそも、私が倒す必要などありません。さっき言ったではないですか。足止めさえ出来ればいい、と。
こういう場面では、必ず現れるモノなのですよ。最強の味方という者が!」
「ああん?」
「え?」
「何だって?」
三者三様に疑問の声をあげる。そして。
「メグミ、よくわかっているじゃあないですか!」
そう言って突如姿を現したのは。
「めぐみん!?」
「口だけ魔導師!」
そう、めぐみんだ。
「真打ち登場です」
めぐみんはそう、言ってのけた。
「昨夜、日課の爆裂魔法を唱え忘れてたので起き出そうとしたところ、何者かにスリープの魔法で眠らされ…」
「おっ、起きてたの!? ひょっとしてあの時、起きてたの!?」
何故だかゆんゆんが激しく動揺している。
「そして、勿体なくも溢れてしまった、昨日の分の魔力も合わせ、何処かに良い標的がないかと探していたら…」
めぐみんの瞳が紅く輝く。悪魔も慌てて宥め賺してくる。
「ねえ、めぐみん! 一体いつから起きてたの!?」
「いつからと言われたら、部屋の鍵をアンロックで解錠し、『めぐみん、寝てるよね?』と聞いてきたところですね」
「いやあああああっ!!」
ゆんゆんが叫ぶ。
「さて、人が起きているにも拘わらず恥ずかしい独白をするような面白い同胞を、よくもいたぶってくれましたね」
「やああああ! やめて! もうやめて!」
「誰も聞いてない状況だと、『今のめぐみんは、格好良いし、凄いと思うよ』とか言っちゃう恥ずかしい子ですが…」
「やああああ! いやあああああ!!」
めぐみんに襲いかかろうとするゆんゆんを、私は後ろから羽交い締めにする。
「『あなたは、私の一番大事な友達だから』 ……こんな事を呟かれては、私も黙っているわけにはいきません!!」
「殺して! もういっそ殺してよぉ!」
私に羽交い締めにされ、身動きがとれないゆんゆんが喚き散らす。……さて、頃合いだろうか。
「ゆんゆん弄りは見ていて楽しいですが、そろそろではないですか?」
「メグミさんまでぇっ!? ……って、そろそろ?」
私のセリフで、ゆんゆんも冷静さを取り戻したようだ。
「おい、口だけ魔導師の様子が…」
「気がつきましたか。めぐみんは大技発動のために、今まで魔力を練りに練っていたのですよ」
その説明に、めぐみんはふっ、と笑い。
「その通り。私の魔法は本来、溜めが必要な大技です。ですがメグミのお陰で、おあつらえ向きな状況ですよ」
「溜めが必要って、それ以上にか?」
悪魔は諦めつつも、楽しげな声で言った。
「今から放つのは、我が奥義。あなたの同僚の、アーネスを倒した必殺魔法です」
「……お前がアイツをやったのか。なるほどなあ…」
納得したとばかりに感心する悪魔。
「な、何だよ、これ。長年冒険者をやってるが、こんなの見たことがねえぞ?」
それはそうだろう。何しろアークウィザードでポイントが潤沢である私も、最初からは覚えられない魔法なのだから。
「本当に、口だけ魔導師じゃなかったのか…!?」
これには私も、めぐみんも苦笑いするしかない。爆裂魔法しか使えない故に、使うところを見なければ、ただ大口を叩いてるようにしか見えないのは仕方がないことだ。
「いきますよ。我が必殺の爆裂魔法!!」
悪魔が、深くため息を吐く。
「全くよぉ。本調子ならなんとか耐えられたかも知れないんだぜ? 昨日、アホみたいに堅いクルセイダーと盗賊の、おかしな二人組に襲われなきゃ」
クルセイダーと、盗賊? まさか、クリスさんじゃないと思うけど…。
「そんでよ。傷を負わされた腹いせに、街に襲撃かけようとしたらよ。城壁の工事をしてた女に、極悪な破魔魔法ぶちかまされてよう…」
その時何故か、壁を塗っていた水色の髪の女性を思い出していた。
「残機が一人、減っちまうなあ。ウォルバク様との契約も強制解除で、晴れてフリーか。……いつか本当にあのがきんちょに呼び出されて、使役されちまいそうだ」
そうぼやきつつも満更でもなさそうなのは、私の気のせいだろうか。
「『エクスプロージョン』!」
めぐみんの爆裂魔法が炸裂し、爆焔に飲み込まれた悪魔は。
「まったく、何なんだよこの街は! 変わった連中ばかりで、どいつもこいつもろくでもねえな! もちろん、こんな魔法を使うお前もよ! クソッタレが ── !」
爆焔に飲まれて消え行く悪魔が残したその罵声は、何故かめぐみんを称えているように思えたのだった。
後半、めぐみんが登場してからのやり取りは、大体原作と同じになってしまいました。
次回、第0章終了です。