魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第1話

時空管理局・巡航L級8番艦。

次元空間航行艦船アースラで執務官を務めているクロノ・ハラオウンは管制室にいた。

彼の補佐役であり、兼管制官でもあるエイミィ・リミエッタが、口を結んでいる幼馴染みを振り向く。

 

「あれれー?クロノくんってば、ご機嫌斜めだねー?」

「……別に」

 

冷静沈着で知られる14歳の少年をここまで感情的にさせるのはアースラ内では数えるほどだ。

そのうちの一人であるエイミィは苦笑する。

 

(素直じゃないなぁー)

 

睨みつけるクロノの視線に根負けしたのか、真っ黒だったスクリーンにノイズが走る。

 

『――ねぇねぇ、もうこれ繋がってるのー?』

 

画面の端でイエローグレイの髪がひょこひょこと動いている。

慌てた隊員の声が聞こえると、青空だった視界が人懐っこい笑顔のアップになった。

 

『もしもーし、こちら視察組のユンフ・アルフィード。応答どうぞ』

「やっほー、ユンフくん。首尾はどう?」

『特に変わった様子はないねー。…本当にここなの、エイミィ』

 

ユンフと呼ばれた幼い顔立ちの少年が首を捻る。

魔力暴走を察知したアースラは現場へと探査チームを送っていた。

その内の一人で責任者でもある魔導師がこのユンフ・アルフィードだ。

ちょっと待ってね、とエイミィはキーボードを打ち出し、帯びグラフの並ぶウインドウと地図を見比べる。

 

「うん、間違いないよ。残留魔力の反応ない?」

『…うーん、なんか生気がないような感じ……』

「おかしいな、こちらは時空移動を感知していない。Aクラスの魔力がそう易々と消えるはずはないのだが」

『おろ?』

 

ユンフの目がエイミィから後ろに立っていたクロノへと移る。

 

『クロノ、いつの間に』

「言うと思ったよ、まったく。最初からいたさ」

「ユンフくんから報告が来ないから、心配で待ってたんだよねー」

「エイミィ!!」

 

クロノはにやにや笑うエイミィに抗議し、咳払いをする。

改めて、情報を見つめ直した。

 

「それで、キミはどう見る?」

『打ち切りにしたいところだけど、もう少し調べてみようかな。アグーバも警戒してるし』

 

ユンフの右耳、三日月のイヤリングが碧の光で応えた。

相棒を信用していると同時に、ユンフ自身もどこか納得がいっていないようだ。

今の段階では判断できない、と意見が一致したとき、獣のような悲鳴が上がった。

 

「何事だ!?」

『て、敵襲です!視察部隊、ほぼ壊滅!!』

 

画面にインしてきた隊員は、息を詰まらせながら報告するとその場に蹲った。

残ったのは報告した魔導師を含む負傷者数人とユンフだけだという。

 

「ダメ、魔力磁場が安定しない。転移は無理だよ!」

「くっ、生存者を連れてすぐに移動を!」

『わかってる!アグーバ!!』

『Yes、sonny』

 

すぐに飛行魔法を行使し、ユンフが片足を引き摺る隊員を支える。

一気に騒然となったその場に、巨体が現れる。蛇の頭を三つ持った獣が、獲物を品定めするかのようにトカゲの尾を左右に振る。

 

「!!」

「なっ、なにこれ……」

 

姿よりも、エイミィの目に留まった魔導ランクSの文字。

遅れて気付いたクロノの顔が歪む。

 

「ユンフ、退却をッ――!!」

 

しかし、モニター内のユンフたちは蛇と蛙のように対峙していた。

 

『僕が引きつけるからキミたちはできるだけ遠くに離れて!』

『ですが、アルフィード二等空士!』

「ユンフくん、ユンフくん!?」

 

隊員を振り切り、魔物に飛び込んでいくユンフ。

 

「聞こえてない!?まさか、そこまで干渉されて――!?」

 

エイミィの頭に生まれた懸念が現実となる。

映像が、途絶えた。室内を静寂が包む。

 

「ど、どうしようクロノくん……」

「エイミィ」

 

動揺する彼女をクロノが呼ぶ。

14歳でも彼は執務官、冷静な判断をしなければならない。

 

「できるだけ早く転移ポートを繋げてくれ。少しでもリンクしたら、知らせてほしい」

「クロノくんは?」

「艦長に報告して、すぐに救出部隊を編成する」

 

最悪の事態にならないことを祈り、クロノは踵を返した。

4月の初めのことだった――。

 

 

◆◆◆

 

――二ヵ月後。

 

カリカリに焼かれたベーコンが三枚。

ピンと、張り詰めた感覚にユンフはその手を止めた。

 

「どう、したの?」

 

金髪を黒のリボンで二つに結わっている少女もつられて、フォークを戻す。

向かいに座っている彼女のお皿には申し訳程度にポテトサラダが取り分けられていた。

 

「いやなんか、アルフが僕のおかずを狙っていたから」

「がうッ!」

 

テーブルの下から、オレンジ色の毛並みを持つ大型犬がユンフの足を蹴飛ばす。

それをくすくすと笑って、少女――フェイト・テスタロッサは食事を再開させた。

 

「笑い事じゃないよ、フェイト!この間なんか、僕のコロッケ全部食べたんだから!」

「…それはアルフの餌をあげ忘れたからだよ」

「ちゃんと謝ったのに…」

 

ブツブツ言いながら、ユンフはトーストに齧りついた。

 

ユンフがフェイトの家にやってきてから、一週間がたっていた。

倒れていたユンフを見つけ、手当てしてくれたのがフェイトで、そのままずるずると面倒をみてくれている。

 

「それじゃ、アルフ」

「ワゥ」

「…今日も行くの?」

「……うん」

 

遅めの朝食が終わると、フェイトとアルフはすぐに出かけていく。

いつも笑顔で見送るユンフだったが、今日ばかりはフェイトの答えに眉を寄せた。

先日、フェイトは手にひどい火傷をして帰ってきたのだ。

彼女らがどこで何をしているのか知らないだけに、ユンフの心配は大きい。

 

「あんまり、無理しないようにね。痛くなったら呼んで。すぐに行くから」

 

何ができるというわけでもないのだが。

 

「……ありがとう」

 

アルフとフェイトが玄関の向こうに消えていく。

扉が音を立てて閉まった。

 

「……アグーバ」

 

手を振っていたユンフの表情が引き締まる。

 

「昨日の、気付てるよね?」

〈あぁ〉

 

罅の入ったイヤリングが弱々しく応える。

 

「次元震となると、管理局が黙っていないだろうけど…」

 

昨夜、近くで膨大な魔力が衝突したようなのだ。

この地球という世界に来てから幾度か魔力反応があったが、身体が動かなかったこともあり傍観していた。

しかし、今回は比較にならない危険性がある。

 

「一応は仕事しないとね。それに気になることもあるし」

〈彼女のことか?〉

「まぁね。魔法が関わっている以上、この世界じゃ解決できない」

 

ふらふらで帰ってきたフェイト。

なんでもないと言っていたけれど、かすかに残る魔力に、巻き込まれたことは明白だった。

 

「ここはやっぱり調べにいくべきでしょ」

〈まだ回復してないのにか?〉

「魔力もスッカラカンな僕じゃ不安?」

〈おおいに〉

「そこはかとなくフォローしてよ」

 

アグーバの無言の抗議をユンフは笑い飛ばす。

魔力の回復も体調も、ましてやデバイスまで全快でない。

それを無謀と呼ばずしてなんと呼ぶ。

 

〈…わかったよ、坊〉

 

溜息が交じったように、苦々しくアグーバは白旗をあげた。

一度決めたことを覆さないのは昔からの付き合いで知っている。

 

「そうこなくっちゃ!」

 

ユンフは指を鳴らし、立ち上がり、

 

「…で、現場ってどこなの?」

〈…………〉

 

前途は多難のようだ。

 

 

◆◆◆

 

 

残留魔力を目印にアグーバのナビゲーションでユンフは海鳴市に来ていた。

 

「うわっ、なにあれ!すごっ!!」

 

店頭に並ぶ鞄やらオモチャやら、風船を配っているマスコットを視界に入れた途端、こうである。

場所をわきまえずに、話しかけてくるユンフにアグーバは幾度と冷や汗を流したことか。

この瞬間にも、ショーウィンドウにへばりつくユンフの後ろを、微笑みながらカップルが通りすぎていくところだ。

 

【〈坊、目的を覚えているか?〉】

「ねぇねぇ、フェイトとアルフへのお土産にどうかな、これ」

 

最早、馬の耳に念仏。

念波で語りかけるも、クマとカエルのキーホルダーに夢中のユンフは質問で返してきた。

 

「う~ん、やっぱりこっちかなぁ…どう思う?」

 

不審者扱いされる前に止めなくてはと、アグーバが最大ボリューム念波で諌めようとした瞬間。

 

「はぇ?」

 

ツインテールの少女が、振り向いた。

ピンクのリボンが印象的の少女は目をまんまるにして、ユンフを凝視している。

一人で喋り続けているユンフに、ちらちらと目が動き、自分に話しかけているのか確認しているようだった。

 

「……ん?」

 

その視線にやっと気づいたユンフに、少女は慌てた様子で後ずさる。

 

「えっ、と…こちらの方が、このお店のおススメですよ?」

「そうなの?じゃあ、こっちにしよっと!!」

 

視線を左右に泳がせながら、ユンフの手元のウサギを指差す少女。

アドバイス通りの品物を持って会計を済ますと、少女はまだ店の前にいた。

帰るタイミングを逃したようで、ぼんやりと立ち止まっている彼女にユンフは買ったばかりの袋を見せる。

 

「ありがとう!助かったよ」

「いえいえ!なんか、話しかけられただけですし…」

 

誤魔化すように語尾を濁す少女に、アグーバは同情した。

ユンフの近くを通りかかったのが運のつきだ。

 

「僕はユンフ・アルフィード。隣りの市から来たんだ」

「あ、高町なのはです。引越しとかですか?」

「ううん、観光。近いって聞いて、昨日の地震の発信源を見にきたんだよ」

 

さっ、となのはの顔色が曇った。

努めて表情を崩さないようにしているようだが、その手はスカートを握りしめている。

何か知っている、とアグーバが知らせるよりも早く、俯いた頭に手が乗せられた。

ポン、ポンと労わるように軽く叩く。

 

「……ユンフ、さん……?」

「大丈夫」

 

なのはの頭を撫で、ユンフは笑顔を向ける。

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

少女の瞳から落ちた滴は、見ないフリをした。

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