魔法少女リリカルなのは Conviction 作:のんべんだらり
それから数日後。
クロノとリンディが本局へ戻ったため、現場の指揮を任されたエイミィは唸っていた。
「……こりゃ、なのはちゃんのスターライトブレーカー以上に物騒だわ」
「私がどうかしましたか?」
「な、なのはちゃん!?いやね、アースラに搭載される新装備はずいぶん強力だなぁって思ってねっ!」
「アルカンシェル、だったよね…」
なのはと共に買い物の整理をしてくれていたフェイトもアルフを抱えて、現れる。
「街一個どころか、国が滅ぶ威力だよ。艦船一隻なんて余裕余裕」
「それが…今度アースラに装備されるんですか?」
「そうなんだよねー。これでまた、ユンフくんが拗ねちゃうよ」
「……」
意気消沈するフェイト。
途端にエイミィにお咎めが集まった。
【エイミィさん!!】
【エイミィ!!】
【ご、ごめん】
最近、ユンフはほとんど司令部にいない。
午前中はソファーでくつろいでいるらしいが、フェイトは学校があるため時間が会わず。
元々、進んで話しかけるタイプでない性格が起因して、声をかけようか迷い続けてもう三日になる。
目に見えて落ち込んだフェイトに、三人は冷や汗を浮かべた。
「そ、それにしてもエイミィが指揮代行なんて大丈夫なのかい?」
子犬型に変身しているアルフが、話を転換させる。
「む、失礼だなぁ。私はこう見えても執務官補佐。心配しなさんな」
どーんと胸を叩くエイミィ。
だが、なのはとアルフはフェイトのことがあるため不安そうに見る。
「それに、そうそう緊急事態は起こらないって――」
と言った端から、エマージェンシーコール。
あまりのタイミングの良さに、一瞬動きを止める三人と一匹。
「あ、またあの子たち!」
「…!」
「近隣世界で戦闘中だね。こちらに被害はないようだけど…」
ちらりと、フェイトを見る。
モニターではシグナムと青い狼が蔦のある魔獣と刃を交えていた。
「…私が行く」
「あたしも。アイツには借りがあるからね」
「了解。すぐに転移の準備をするね」
「あの、私は…」
キーボードを打ち始めたエイミィの背中から、おずおずとなのはの声がかけられる。
「なのはちゃんはバックアップをお願い。もしものときのために司令部で待機」
「わかりました」
「エイミィ、準備できたよ」
「それじゃ、いくよ」
キーを押すと同時に、浮き上がる魔法陣。
「二人とも気をつけて」
「うん」
マントを羽織ったフェイトと、人型となったアルフが姿を消し、モニターに映る。
不安そうになのはは手を握る。
「捕まえたっ!」
別のモニターに帽子を被った女の子がサイズアップされる。
「…あの子…」
闇の書を持っていることから、こちらが本命のようだ。
「なのはちゃん、行ける?」
「はい!」
瞬時にバリアジャケットを纏うなのはを、ヴィータのいる座標へと転送する。
一対一だからと言って、油断はできない。
守護者は四人。
もう一人がどこかに隠れているかもしれないし、仮面の男の存在もある。
ヴォルケンリッターの仲間とは言えないが、警戒すべき相手だ。
「んもう。こんな一大事にどこ行っちゃってるのさ、ユンフくんは」
フェイトとなのはの戦闘が拮抗しているのを横目に、エイミィは海鳴市内の映像に目を凝らす。
焦りがエイミィの額を流れ落ちた。
◆◆◆
「なんだってー!?」
叫んでしまってから奇異の視線に気づき、ユンフは慌てて口を押さえた。
振り向いたはやてとすずかに、ごまかし笑いを浮かべ、手を振る。
今日も今日とて、はやてと捜索という名の散歩の途中、学校帰りのすずかに会い、図書館に来ていた。
「図書館では静か」にという張り紙が目に痛い。
【だから、なのはちゃんたちが交戦中なの!ユンフくんもすぐに向かって!】
【…わかった。アグーバに座標を送って。こっちから直接転移するよ】
エイミィと念波を終え、ユンフはふぅと息を吐き出す。
「はやて、すずか。ごめん!急な用事ができちゃった。今日は帰るね!」
言い終わるや否やユンフが駆け出し、届いたばかりのイヤリングに触れる。
出口からすぐの曲がり角を右折すると、ユンフの視界に砂漠が広がっていた。
遠くの方で砂煙が上がっている。
「まずは状況を把握しなくちゃ。一番近いのは?」
〈…残念なことに、例の男だ〉
腕を組み、ユンフと対峙する仮面の男。
〈ご指名のようだな〉
「まったく…僕も気に入られたもんだ」
遠くで魔力の衝突が連続している。あちらでも一対一の攻防のようだ。
だが、ユンフは分が一番悪い自信があった。
「お前に介入されると面倒なのでな」
「たかだかAランクの魔導師に言う台詞じゃないよ。…本音を隠す必要ないって」
意志の篭った蒼い瞳に、微かに仮面が動く。
「語るまでもない。その目に焼きつけろ」
急激に加速する男の体が、一瞬にしてユンフの死角に回り込む。
腕を潰す勢いで肩を目掛けてくる拳を、ユンフは辛うじて交わす。
無理に捻った腰が痛みを訴えるがそれどころではい。
石つぶてのような射撃砲撃が正確に米神へ飛んでくる。
後方に半歩、ユンフは体を引き――。
「っ!?」
そのまま首を右に捻った。
密度のある弾丸同士がユンフの鼻先でぶつかり、破裂する。
「……ほぅ」
爆発地点のはるか上空に肩で息をするユンフを認め、仮面の男から感嘆が漏れた。
「あれをかわすか」
優位を崩さない仮面の男に対し、当たったら大怪我で済まない緊張がユンフから冷静さを奪う。
心臓の鼓動が破裂しそうなほど、速い。
〈坊!!〉
「…はぁっ…はぁっ…っ」
〈しっかりしろ、坊!!〉
「だ、だいじょぶっ……たぶん」
いつもの調子に、仄かな安堵がアグーバを満たす。
だが、それもほんの気休めでしかない。
ユンフの魔力は根こそぎ持っていかれてしまった。飛べているのが不思議なほどだ。
次を反射的に身体が避けようとするが、赤子の手を捻るが如く頭を掴まれる。
「ぐっ!」
「余興だ。存分に楽しめ」
そして、そのまま戦闘真っ最中の地表へと放り投げられた。
◆◆◆
互いに己らのデバイスを力の限り、交えるシグナムとフェイト。
二人の実力は僅差でシグナムが上だった。
得意の速さで勝負したいフェイトを上手くかわし、近距離に持ちこまれる。
「ならっ!」
「ぬ!?」
シグナムの目で追いきれないスピードで中距離から一気に踏み込んだフェイトは、バルディッシュを振りかぶる。
「そこかっ!」
「っ!」
惜しくも金色の鎌は、炎の剣に阻まれた。
フルドライブを使用するしかないと決心したフェイトとシグナムの間に上空から飛来物体が落ちる。
見知った姿に、フェイトが思わず目を瞠ったそのとき――
「え…?…ぁ…っ…ぁぁ…」
フェイトの胸から腕が生え出た。
◆◆◆
「けほっ、けほっ」
舞い上がった砂を吸い込んでしまったユンフは、目に涙を溜めつつ、起き上がる。
ここが砂漠だったのが幸いし、落ちた衝撃がずいぶん緩和された。
咳も治まり、視界も鮮明になってくる。
黒いマントと金髪が目に入り、ほっと息を吐く。
しかし、そちらに移動しようとしたユンフをアグーバが制した。
〈待て、坊!様子がおかしい〉
「う…ぁ…っ…ぁぁ…」
足を一歩進める度に、フェイトの異状な姿が明らかになっていく。
胸を貫通している腕。驚愕で見開いた真っ赤な瞳。
「――フェイト!!」
駆け寄ろうとしたユンフがバランスを崩し地に倒れる。
いつの間にか、その足をバインドがからめとっていた。
「なんだよ、これ…外れろ、このっ!」
〈今の我々では解除できん。足を痛めるだけだ!〉
「そんなの構っていられるか!このままじゃフェイトが……っ!!」
地表に降り立った仮面の男がシグナムに生贄を差し出す。
「さぁ、奪え」
「くっ!貴様のやり方、解せん。しかし…」
手を翳すシグナム。
「やめろ!」
「……許せ」
小さく呟き――
「うわぁああああああっ!!」
少女の絶叫が、空しく響いた。
◆◆◆
だらりと四肢を垂らすフェイト。
その身体を左腕で支え、シグナムはバインドで縛られたユンフを見遣る。
後味の悪さに顔を歪ませていた彼女は、少女の体を横たえ、ふと気づいた。
「な、なんだ……この、魔力は…」
彼女の周りを包囲するように、じりじりと広がっていく魔力。
「…ちっ」
シグナムだけではなく、仮面の男も纏わりついてくるそれらを振り払っていた。
触れた者を凍らせんとするかのような絶対零度の魔力は、一箇所から漏洩している。
俯いている少年が身体を起こし、自由にならない手足そのままで、そこにいた。
風で前髪が舞い上がり、その眼が顕わになる。
「……っ!」
瞬間、赤と蒼のオッドアイから向けられた殺気に二の腕が粟立った。
「くっ!?」
予備動作なしの一撃をレヴァンテインが青い大剣を押し返す。
細い腕のどこにそんな力があるのかというほど、重い太刀筋だ。手足を束縛していたバインドはない。
だが、シグナムは防いだ安堵よりも、彼のスピードを捉えきれなかったことに焦燥を抱く。
反応できたのは経験の差としか言いようがない。
苦しい戦地を駆けて、鍛えられた勘にただただ感謝した。
「……消えろ」
その言葉に呼応するかのように、蒼いマグマが彼自身を覆うようにしてうねった。
「シグナム…っ!」
「来るなヴィータ!巻き込まれるぞ!!」
桁が違いすぎる。
猛る魔力は更に密度を練り上げていく。だが――
「…っ!」
突如、ユンフが膝を折った。
扱える魔力のキャパシティを超えたのだ。
しかし身を崩しても、依然として鋭い眼光がシグナムたちに突き刺さる。
「……ふん」
好機とばかりに仮面の男は離脱し、シグナムもヴィータたちの傍まで引く。
「なんだよ、あの反則的な魔力は」
「わからん。降って湧いたようだった…」
その異常な現象は烈火の将を混乱させていた。
撤退の意を表しているシグナムたちを警戒するように、腕を抑え、放出を維持し続けるユンフは敵ながら感服する。
「残りのページ、アイツだけで足りるんじゃねぇか?」
「やめておけ、ヴィータ。…高い買い物だ」
対価として、シグナムたちの命を支払わなければならなくなる。
「帰るぞ」
「…ああ」
シグナムたちの気配が消えると同時に、糸の切れた人形の如くユンフも倒れ込む。
その場には砂塵が微かに舞っただけだった。