魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第11話

アースラ戦線復帰の報せに司令部を艦に戻したリンディたちだったが、その顔に憂いを残していた。

ブリーティングルームには、ユンフとフェイト以外のメンバーが揃っている。

 

「それで、なのは。フェイトのリンカーコアが奪われたあと、蒼い魔力を見たんだね?」

「は、はい。砂嵐の隙間からだけど、間違いありません」

「あたしは気づかなかったよ。仮面の騎士のものなんじゃないかい?」

「いや、彼の魔力光は僕が覚えている。似てはいるが別ものだ」

 

パッと、そのときの映像が出され、アルフとユーノはじっと食い入るように見る。

余波の影響で画像の劣化が目立つデータでは、違うとも同じとも判別しきれない。

 

「だとしたら…新たな魔導師、ってこと?」

「微妙な線だな。それだと辻褄の合わないことが多すぎる」

「本当はその場にいた二人に聞ければ一番なんだけどね……」

 

室内に沈黙が降りた。

 

 

 

 

 

「あら」

 

医務室の扉を開けたリンディは、先客に僅かに目を見張る。

 

「あなたも安静のはずじゃなかった?ユンフくん」

「……」

 

白いベッドで眠っているフェイトの傍らで、彼は静かに彼女の顔を見つめていた。

 

「あんまり、自分を責めてはダメよ?」

 

気休めにしかならない言葉に、リンディはいたたまれなくなった。

今の彼にとって優しさが無意味なのも知っている。

それでも、もう一人の息子としてユンフを見ているリンディは、言わずにいられなかった。

 

「……ケンカしたままなんだ」

 

何を指しているのか、わからなかったリンディだが、数日前の出来事を思い出す。

自分の命を卑下するフェイトに怒ったユンフ。

二人はそれきり会話をしていなかった。

出かけていくユンフの背中を悲しそうに見るフェイトを、リンディは何度も目にしていた。

また、元気のない彼女に気づかれないように気遣うユンフも。

 

「このまま、話すこともできなくなってしまったら――って、リンディが来るまでの間、ずっと考えてた」

「そんなことはないわ。魔力が消耗しているだけで、命に別状はないのよ」

「わかってる。仮定の話。だけど、あのとき、一歩間違えればそうなっていたんだ……」

「ユンフくん……」

「なんてね。『もしも』なんて絶対に来ない過去を考えても仕方ないよね」

 

その小さい肩に手をかけようとしたリンディから逃れるように、ユンフは立ち上がる。

今まで座っていたパイプ椅子を彼女に譲り渡す。

 

「そろそろ戻るよ。僕も一応、けが人だし」

「フェイトさんが起きるまで付いていてあげないの?」

「それは彼女の母になろうとしているリンディの役目でしょ。それに…僕には資格ないから」

 

からからと笑うユンフの顔は影になってリンディから窺えない。

 

「僕はいつだって何にもできない。フェイトのときも、なのはのときも――――」

 

聞き取れなかった語尾をリンディが聞き返すより早く、扉が閉まった。

タイミングを逃したリンディは彼のいた椅子に腰掛け、フェイトの手を握る。

ユンフの過去をリンディは詳しく知らない。取ってつけたような過去なら、乗船許可を出すときに何度か目にしたが、本当のところはわからない。彼の人柄は、彼自身を誰にも見せない。悲しいことに、リンディでは伸ばした手を取ってはもらえなかった。

 

「ん…」

 

もう一人の家族の心配をしているうちに、力が入ってしまったのか、フェイトが身じろぐ。

起こしてしまったことに、胸の内で謝罪をし、張り付いていた金色の前髪をそっと掻きあげる。

 

「フェイトさん、具合はどう?」

「リンディ、提督…」

 

おぼろげな瞳がリンディに向く。

起き上がろうとした背中をリンディは支えた。ゆるゆると視線がある場所に動く。

 

「ありがとう、ございます……ずっと手を握ってくれていて…」

「え…?」

「……そのお陰で…眠っている間も、一人じゃないって思えたんです」

 

嬉しそうなフェイトにリンディは一瞬、迷う。

 

(ごめんなさい、フェイトさん。それは私じゃないの)

 

二度目の謝罪も、声になることはなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

病室へと戻ったユンフは、前回に比べて軽傷で済んだアグーバに内緒話をするように顔を寄せる。

 

「本当なの、アグーバ。僕の魔力が上がってるって」

〈正確には回復力が、だ。事実、使い果たしたはずの魔力は既に半分ほど回復している〉

 

絶対安静を言い渡されているユンフが、ひょいひょいと出歩けたのはそのためである。

驚異的な治癒は魔力だけでなく、身体にも影響を及ぼしてくれたらしい。

仮面の騎士に折られた肋骨は、既にくっつきかけていた。

 

(〈これもあの蒼い魔力の効果、か〉)

 

ユンフは覚えていないようだが、アグーバはしっかりと記憶している。

蓋を切り落としたかのように、彼の奥から噴出した膨大な力。

いつもアグーバが感じているものとは全く異なった魔力は、未だに答えが出ない。

ユンフが幼いときからお守りをしているが、初めてのことだった。

 

「ふぁ~あ…ねむ…」

〈ほぼ治ったとはいえ、疲れはとれていないのだろう。少し休め〉

「うん…そうする」

 

目を擦りつつ、そのままベッドに横になる。

あっという間に寝息をたてる主人の横顔は、あどけない。

 

(〈守らねばなるまい〉)

 

例え、どんなことが起ころうとも。

それは少年と出会ったときから変わらない誓い。

 

 

◆◆◆

 

 

翌日、生活面では問題ないとの診断に、フェイトは通い始めたばかりの学校にいた。

だが、勉学に励む少年少女の机の上は、教科書ではなく、色とりどりのおかずが占めていた。

――お昼の時間だった。

例外なく、いつものように輪になっていたなのはだったが、その視線はフェイトへと注がれている。

 

「――のは。……なのはっ!!」」

「ふぇ?どしたの、アリサちゃん」

「どしたの?じゃないっ!何回呼んだと思ってるのよ!」

「ご、ごめんなさい」

 

怒り心頭のアリサに、平謝りのなのは。

宥め役のすずかが苦笑しつつ、割って入る。

 

「あのね、はやてちゃんが入院したってメールが来たの…」

「はやてちゃんって、すずかちゃんが図書館で友達になった子だよね」

「うん。それで、みんなでお見舞に行こうかって話をしていて」

「アンタがぼんやりしているときにね」

「うぅ……」

 

アリサの皮肉交じりの説明になのはは身体を縮めた。

非があるのはなのはの方なので、言い訳はできない。

 

「…ったく。で、あんた達、放課後空いてるの?」

 

管理局の仕事は出動待ちだ。

ヴォルケンリッターが現れたら、向かわねばならないが。

 

「うん、大丈夫だよ」

「私も」

 

次いでフェイトも答える。

体調が戻ってないのか、弁当箱の中身はあまり減っていない。

 

「できれば、もう一人連れて行きたい人がいるんだけど…」

「フェイトに頼めばいいじゃない。一緒に住んでるんでしょ、ユンフ――」

「アリサちゃんだめぇーー!」

「もがっ!?」

 

アリサの口を押さえ、慌ててフェイトと引き離す。

なのはの突然の行動に、フェイトはキョトンとしている。

 

「だめなの、アリサちゃん。今のフェイトちゃんにユンフくんのことは禁句なの」

「もがもがっ!」

「あ、ごめん」

 

真っ赤になったアリサの顔に気づき、なのはは手を離した。

 

「なにがあったの?」

 

すずかも加わり、三人は頭をつきあわせ、こそこそと話しを進める。

 

「フェイトちゃんとユンフくん、ケンカ中で一週間も口を利いてないの」

「だからフェイトちゃん、ずっと元気なかったんだね」

 

フォークでウィンナーをつついているフェイトをすずかは心配そうに眺めた。

 

「原因は?」

「フェイトちゃんがユンフくんを怒らせちゃったんだ」

「フェイトは悪かったって思ってるんでしょ?謝ってないの?」

「ユンフくん、学校通ってないし、毎日出かけてて…フェイトちゃんもなかなか言い出せないみたい」

 

砂漠世界での戦闘後、ユンフはますます外出が多くなった。

なのはがハラオウン家に行ったときに、クロノがそうぼやいていた。

母親のことで一生懸命だったフェイトにとって、初めての友達がなのはとユンフなら、これは初めての喧嘩。

どう仲直りしていいのか、わからず戸惑っているのだとなのはは思う。

 

しばらく黙っていたアリサが、スタスタとフェイトの前までいくと仁王立ちした。

 

「いいの?」

「……アリサ?」

「ユンフとこのままでいいのかって聞いてるのよ」

「アリサちゃん!」

 

直球の物言いに、フェイトが小さく息を呑んだ。

抗議に見向きもしないアリサを止めようしたなのはは、やんわりと腕を掴まれる。

 

「すずかちゃん…」

 

ゆっくりと首を振るすずか。

うっすらとした笑みが浮かんでいた。

 

「ごめん、の一言で済む話でしょ?」

「でも……ユンフ、大変そうだし…」

「言い訳は自分のためでしかないの。こういうのは時間が経つほど、言い出せなくなるんだから」

 

そこで、ようやくなのははアリサの言葉の裏に隠れた思い出に気づいた。

フェイトを叱咤するアリサの姿を、にこにこと見守っているすずかはわかっていたのだ。

アリサがなのはたちの始まりと重ねていることを。

 

「フェイトが謝って、それでもアイツが許さないなら、そんときは私がぶっ飛ばしてやるわよ」

「……うん。ありがと、アリサ」

 

すずかと微笑みあい、なのはは誇らしかった。アリサは、なのはたちの自慢の友達だ。

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