魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第12話

「…今日はたくさんお客さんが来る日やなぁ」

「さすがはやて。人気者だねぇ」

 

ユンフにしては珍しく、礼儀を踏まえた来室だった。

はやては、咄嗟に笑みを貼り付ける。すっかり暗くなってしまった空なら、少しくらい顔色が悪いのを誤魔化せる。

 

「外に出られへんようになってもうた。探検はしばらくお休みや」

「気にしないで。車椅子レースはどこでもできるから」

「やるんかぃ!?」

 

投げつけた枕がユンフにクリーンヒットする。鼻を擦りながら、意外に重量のあるそれをユンフは差し出した。

普通通りの彼の態度に、知らずにはやてはほっと息をつく。

 

「僕は八神一家といつになったら会えるのだろうか…」

「さっきまでシャマルがおったんやけどなぁ。なんや慌てて出て行ってしもうてな」

「シャマルって料理見習い中の人でしょ?ちょっとおとぼけ入った」

「サングラスにコートっちゅう、妙な格好しとったで」

 

スパイごっこでもしていたのだろうか。あれではスパイというより不審者だというのに。

綺麗な金髪を隠さないものだから目立って仕方がないと思うのだが、そこは親心。生暖かい目でスルーしてあげた。

ほくそ笑んでいると視線を感じ、はやては顔を上げた。

 

「どないしたん?」

 

くりくりとした蒼い瞳が、温かい眼差しを向けている。

 

「…寂しい?」

 

ドキッと心臓が跳ねた。

根拠も何もない、当てずっぽうに過ぎない指摘にはやては焦った。

 

「そないなこと、あらへんよ?」

「はやての意地っ張り。…ほんと、よく似ている」

 

動揺を悟られないように膝を強く掴む。

相当な力を入れているはずなのに、痛みは全く感じなかった。

代わりに胸がズキズキと突き刺されている気分だ。

 

「わ、私は、辛ないで」

 

肺の空気を全部使って、出した声は震えていた。

 

「苦しくないはずない、怖くないはずがない」

 

一言ずつ、刻むようにユンフが言う。

 

「辛くないはずないじゃないか。だってキミは、家族を愛しているんだもん」

「ぁ……」

 

死ぬのが怖くないと言うことは、家族と別れることが辛くないということ。

わかっている別れと向き合い、笑顔でいられる人もいる。

だが、はやてが乗り越えるにはまだ若すぎる。ようやく手に入れた幸せを、簡単に手放せない。

隠し、きれなかった。

 

「なんでや……なんで、そないなこと言うん?せっかく、笑えとったのにっ!」

 

けれど、それは心からじゃない。贋物。

 

「私が何したって言うんや!やっと、やっと家族ができて、これからまた頑張ろ思うて…」

 

ぽつんと一人、病院にいる。

 

「どうして、みんなはここにおらんの?いてくれへんの?」

 

泣いて、叫んで。

触れた温かさに縋りついた。

 

「一緒にいたい…、一人はもうイヤや……」

 

ユンフは静かに受け止める。

彼女の最初で最後の弱音を。

 

 

 

 

 

泣き疲れて眠ったはやてを検診で来た看護士に任せ、ユンフは夜の道を歩いていた。

その足はハラオウン家のあるマンションではなく、人っ子一人いない公園で止まった。

 

「話があるなら出ておいでよ。これでも邪魔の入らない場所を選んだつもりなんだ」

 

外灯に向かって喋るユンフの後方に、影が二つ飛び出す。

 

「流石だな」

「生憎と、敏感にならざるを得ない戦闘スタイルでね」

 

シグナムとヴィータが無表情で立っている。

残り二つの気配は様子を探っているのか、出てこない。結界を張っているのは彼らだろう。

 

「…てめぇ、はやてに何しやがった?」

「……食い気だらけのちょっと口の悪い妹さんは喧嘩っ早い」

「んだとぉ!!」

「ヴィータ!」

 

居切りたつヴィータを抑えた、シグナム。

ユンフの視線がそちらへ向く。

 

「真面目でお堅いけど仁義を通す、しっかり者のシグナムはボイン」

「っ!?」

「天然でおっとりとしたムードメーカー料理はデスメーカー、シャマル。寡黙でみんなを支える我が家のペット、ザフィーラ」

 

対面していると影を見せない戦士たち。

素顔を知ってしまうと、硬い表情も微笑ましく見えるから不思議だ。

 

「聞いてるよ、キミたちのことは。ぜひとも会ってみたかったんだ」

「そうかい。それじゃ、話は早ぇ」

 

ヴィータにハンマーを突きつけられる。

 

「お前の魔力、頂くぜ」

 

 

 

 

 

こんなものか、とシグナムは落胆した。

息を切らし、傷だらけになりながらヴィータのグラーフアイゼンから繰り出されるテートリヒ・シュラークを避けている少年。

はやてに会いに来たとシャマルから報告を受け、総出で迎え撃つ決断をしたのだが。

砂漠世界で見せた蒼い魔力を求めて、決死覚悟で臨んだものの、シグナムは彼の実力を計りかねていた。

 

「別人、か…?」

 

翠の発光が夜の公園に満ちるが、ヴィータがそれを打ち破る。

地表擦れ擦れの宙返りで衝撃を緩和させる少年の体技は磨かれたものだが、それだけではヴィータには勝てない。

 

「つぁっ!?」

 

追い撃ちをもろに喰らい、崩れ落ちるユンフ。

狙いを欠いた風の一刃をヴィータは易々と避けて、着地する。

 

「……キミたちは、はやての泣き顔を見たことがある?」

「ぁあ?んなこと、答える義理ねぇよ」

「…………」

 

足掻く体力もないだろうと、グラーフアイゼンを肩に担ぐ。

 

「どんなに平気そうにしてたって…前向きに笑っている人だって、失うことに全く痛みを感じない人なんていない」

 

肩で息をするユンフはデバイスを構えず、ヴィータとシグナムを見据える。

 

「増してや、一人で悩み抱えて、それでも笑える人なんて、いやしないんだ!!」

 

蒼い瞳に焔が灯る。

 

「どうして、それをアンタたちが気づいてあげない!!」

「お前に何がわかるってんだよ!」

 

ヴィータと共に点火したグラーフアイゼンが火を吹く。

無抵抗のユンフが、地面を転がっていく。

 

「はやてを救うにはこれしかないんだ!こうするしかないんだよ!!」

「それを一言でもはやてに相談したの?一言でもはやての本音を聞いたのか!?」

「…うるせぇうるせぇうるせぇ!!」

 

ラケーテンハンマーをヴィータが我を忘れて連射する。

 

「やめろ、ヴィータ!…もう、意識がない」

 

原形をとどめないほど、隆起したコンクリート。

公園が廃墟と化した頃、シグナムの制止が漸くヴィータに届いた。

辛うじて胸が上下しているのを確認し、シグナムは闇の書を取り出す。

 

「……蒐集」

 

だが、やはりというべきか。

闇の書のページは、20にも満たなかった。

 

「どういうことだよ、シグナム!こいつが、あのバケモノ並みの魔導師って話だろ!?」

 

民間人の頭一つ分しかない蒐集量に、ヴィータは当然の如く、不満を唱える。

 

「…そうだ。…別人、もしくはからくりがあったと考えるべきか」

「ちっ!時間を無駄にしちまったぜ!」

「だが、これで管理局に主の存在がばれた。…急がねばならんな」

 

殺すことは、はやての意志に完全に背くこととなる。

これほど痛めつけられれば、もうはやてに近寄っては来ないだろう。

主の友人を傷つけ、遠ざける結果となってしまった罪悪感はしばらく消えそうにない。

 

 

◆◆◆

 

 

「…まだ起きていたのか」

「……うん」

 

呆れるような溜息が背後から聞こえても、フェイトは変わらず動かない。

 

「明日は学校なのだろう。ユンフのことは任せて、休んだらどうだ?」

「……うん」

 

魔力の反応を察知したフェイトたちが、現場に到着したときは全て終わったあとだった。

発見時、瀕死の状態だったユンフは集中医療室に運ばれ、今は通常の医療ベッドに移動されている。

深夜になるというのに、フェイトはユンフの傍を頑なに離れなかった。

 

「まったく、キミ達は似たもの同士だな」

「……え?」

「ユンフもよく、怪我をした隊員に一晩中へばりついている。そうしては、焼き付けるように横顔をじっと見てる」

「…そう、なんだ」

 

彼は何を見ているのだろう。

怪我人の寝顔に、何を決意したのだろう。

 

「……ほどほどにしておくんだぞ」

「ありがとう。クロノ」

 

同じように見つめれば、彼の気持ちを理解できるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

金縛りかとユンフは思った。

動かせばヴィータにやられた傷口から悲鳴が上がるのだろうが、幸か不幸か、身体は言うことを聞かない。

助けでも呼んでみようかと思ったところで、ようやく、腹の辺りが温かいことに気づいた。

 

「……すぅ、すぅ……」

 

フェイトがユンフの腹を枕にして眠っていた。

重くはないが、朝を迎える頃にはくしゃみが目覚ましになりそうだ。

 

「フェイト、フェイト」

「んぅ……?」

「風邪ひくよー?疲れがとれないぞー?」

 

もぞもぞして、フェイトの赤い瞳が半分ほど覗く。

虚ろな視線がユンフを捉える。

 

「おはよー。僕のお腹は寝心地良かったかな?」

「ユンフ!?」

 

べりっと音がするぐらい素早く、迅速に、フェイトは起き上がった。

寝ぐせをを直したり、きょろきょろと視線を彷徨わせては俯いたり。見ている側としては、とっても楽しい挙動不審である。

だが、ユンフと目が合うと途端に、柳眉が下がった。

 

「……」

「……」

 

そういえば、フェイトと話すのは久しぶりだった。喋る切欠を探しているフェイトより、先にユンフは切り出す。

 

「ごめんね」

「どうして…ユンフが謝るの?」

「うん…色々と」

 

――守れなくて。

その一言を咽の奥にしまいこんで、ユンフは苦笑に変えた。

 

「謝らなくちゃいけないのは、私の方だよ。……ごめんなさい、あんなこと言って」

「……今度あんなこと言ったら、なのはのスターライトブレイカーの刑ね」

「ええ!?そ、それは…かなり嫌かも」

 

真顔で拒否するフェイト。彼女のトラウマのようだ。

 

「ぷっ」

「あははは…っ、いてて」、

 

顔を見合わせ、笑いだすユンフとフェイト。

なのはが聞いたら怒り出しそうな話だが、二人を元通りにしてくれた。

 

「身体は大丈夫?」

「なのはもフェイトも同じ経験してるんだから、僕だけが弱音吐けないでしょ」

 

顔を顰めつつ、ユンフは腹を擦る。

 

「ところで、フェイト。明日学校なのにこんな遅くまでいて平気なの?」

「明日は終業式だけで午前中で終わるんだ。それで、そのあとアリサたちがクリスマスパーティやらないかって」

「へぇ…楽しそうだね」

「そ、それでね…ユンフも一緒にどうかな…?」

「……僕?」

 

キョトンと目を丸くしユンフは、首を傾けた。

 

「行っていいの?」

「うん。すずかがね、ユンフは来るだけでサプライズプレゼントになるからって言ってた」

「…どういう意味?」

「…私もわからない」

 

二人の頭上に疑問符が浮かぶ。

同時に、緩やかにすずかが微笑む幻聴も聞こえた。

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