魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第18話

「おーい、はやて。見舞いに来たぜー!」

「遅かったね、ヴィータ」

「ああ、シグナムが起こしてくれなくてさ――」

 

病室に入って改めて、ヴィータは返事をした人物を見やる。

ベッドにいるはやて、付き添いのシグナム。見舞いに来ると聞いていたなのはにフェイト、アリサやすずか。

そして、見舞いの品であるリンゴを一人頬張っているユンフ。

 

「って、なんでお前がいるんだ!?」

「なんでって、見舞いに来たから」

「だったら昨日会ったときに言えよ!」

「随分前に言ったよ、はやてに」

「はやて!?」

 

事情を知るはやては想像通りの反応に思わずほくそ笑んだ。

ここまで上手くいくとは、秘密にしておいた甲斐があるというものだ。笑いを隠しきれずに、はやてはベッドに詰め寄るヴィータの湯気が出んばかりの頭を撫でる。

 

「まぁまぁ、いつまでも立っとらんで座り、ヴィータ」

 

まだぶつくさ言いながらも、素直に備え付けのパイプ椅子に腰をつける。

だが、すぐさまユンフを不機嫌な目で睨む。

 

「ヴィータ知らなかったの?」

「せや。リハビリを頑張る私の前で、ユンフくんに会ったことを自慢するからちょっとしたイジワルや」

「なっ、自慢なんかしてないぞ!?」

 

真っ赤になりながらも否定するヴィータを横目に、へぇーと相槌を打ちながら聞いているユンフ。

入り込む隙のない三人の会話を他の者が眺め、その一人であるフェイトも微笑ましく見つめていた。

 

(ユンフもはやても、楽しそうでよかった…)

 

そこまで思って、ふと胸に手を当てる。

 

(……?)

 

チクと棘が刺さったような痛みがしたのだが、気のせいだろうか。

 

「フェイトちゃん、どうしたの?」

「う、ううん。なんでもない」

 

なのはに心配をかけまいと慌てて手を離す。

 

「まったく、そんな顔して何でもないはないんじゃない?」

「え、私、どんな顔、かな?」

「今のフェイトちゃん、寂しそうだよ」

「…なんでだろ?」

 

アリサとすずかの言葉になのはは頷くが、フェイトにはさっぱりだった。

 

「揃いも揃って手がかかるわね…」

 

優しく微笑むすずかと、にゃははと苦笑いするなのはもアリサの発言の指している意味を理解しているのだろう。

アリサがはやてに目配せをする。もしかして、はやても共犯?と思ったときには既に、遅れをとっていた。

 

「はぁ、なんやたくさん喋ったら咽渇いたなぁ…。ユンフくん、ジュース買ってきてくれへん?」

「主、それなら私が」

「ええんや。シグナムは先生に呼ばれとるやろ?」

 

はやての迫力に、…そうでしたねと騎士は身を引く。

 

「おっけー、リクエストある人は言って」

「持ちきれんと思うから、ヴィータも一緒に頼むわ」

「ああ、わかった」

 

人数分の注文を復唱して、ヴィータとユンフは売店に向かう。

 

「ほな、フェイトちゃんのお話を聞きましょか?」

「…え?えぇ?」

 

うろたえるフェイトを前に、はやてはリハビリの時間変更を具申したアリサに親指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

たくさんの缶を抱えたユンフは、自動販売機の取り出し口に手を伸ばす。

助っ人で来たはずのヴィータは自分の分のジュースを受け取るなり、先に戻って行ってしまった。

細心の注意と全身の集中を指先に溜め、最後の缶を掴む。

 

「…だぁっ!?」

 

指をかけた途端、バランスを崩し、ラベル様々な缶ジュースが転がり落ちた。

 

「あちゃー…」

 

気を取り直して床を転がっていく缶を拾い集める。数が足りない。

見回してみると、廊下にぽつんと立っている少年の足元に、最後の一つがあった。

ユンフと似たような背格好、年も同じくらいだろうか。

ただ、頭や腕に巻かれた包帯と虚ろな視線だけが、少年の浮世離れした雰囲気を醸し出していた。

 

「あのー、できれば拾ってもらえると助かるんだけど…」

「……」

 

無言で宙を見上げ、開いた口が小さく動く。

 

「――……――」

「え――?」

 

カサカサの唇からつむぎ出される言葉にユンフは身を屈める。

 

「あら、こんなところにいたの。ダメじゃない、何も言わずにいなくなっちゃ」

 

遮るようにして足音を響かせ、駆け寄ってきた女性看護師が少年の肩に手を置く。

 

「見かけない子ね。はい、どうぞ」

「ありがとう」

「坊や、この子の知り合い?」

「いや、会ったばっかり」

 

代わりに缶を渡し、看護師はユンフの耳に顔を寄せた。

 

「先週、倒れているところを発見されたんだけどねー。自分が誰かも、何があったかも全然覚えてないのよ」

「記憶喪失?」

「精神的ショックを受けたらしくて、ずっとこの調子でね」

 

看護師によると、巷を騒がせている「神隠し」の犠牲者だという。

夜、一人で出歩いている子供が突如姿を消し、次の日に放心状態で見つかるといった事件だ。

同じ年頃のユンフが少年に話しかけていたのを見かけ、少年の友人かと勘違いしたらしい。

 

「今の話、内緒よ?」

「うん。…早く良くなるといいね」

 

背中を促されつつ、廊下を歩いていく少年の後姿をじっと見つめる。

 

「……」

 

二人の背中が見えなくなってから、ユンフが来た道を戻ると不機嫌そうなヴィータが待ち構えていた。

 

「…遅ぇ」

「ごめんごめん。でもヴィータ、先に戻ったんじゃなかったっけ」

「お前があまりに遅いから迎えに来てやったんだよ」

「それはどうも。心配してくれてありがとう」

「なっ!?そ、そんなんじゃねぇからな!?」

 

照れてそっぽを向くヴィータと並んで、はやての病室に戻っていく。

余談として、唯一炭酸を頼んだアリサに怒られたことを記しておく。

 

 

◆◆◆

 

 

リハビリの時間となったはやてと別れ、帰路についたフェイトたち。

アリサとすずか、なのはの話を聞きながら、フェイトは数歩遅れて歩いているユンフが気になっていた。

病室でも時折考え込んでいるようで、話しかければ答えるものの、自分から会話に参加することはなかった。

途端、僅かに胸に走った痛みにフェイトは唸った。

 

――フェイトちゃん、もしや胸がチクッとするときあらへん?――

 

はやての言葉に吃驚したのはフェイトだけで、みんなは平然としていた。

その痛みは合図だと彼女は言った。そうなったときは、自分に正直に行動した方がいいとも。

だが、今は彼女の言う痛みとは違い、きゅっと締め付けられるような苦しさに近かった。

こんなときはどうすればいいんだろう。

 

「フェイト、気分悪いの?」

 

いつの間にか、足が止まってしまっていたフェイトに声がかけられる。

 

「う、ううん。平気」

 

そう?と眉尻を下げたユンフに、またきゅっとなる。

でもその音が聞こえるのは自分だけのようで、ユンフは気づいた様子なく歩いている。

その横顔に、どくん、と心臓が今までの痛みを跳ね返すように鼓動した。

 

(な、なにこれ…)

 

内心混乱していたフェイトが交差点に差し掛かったとき、脇道から飛び出してきた人影と衝突した。

 

「ご、ごめんなさい」

「――た、助けて!!」

 

咄嗟に頭を下げたフェイトは、その人物に切羽詰った声で懇願された。

手足を擦りむき、目を見開いている男の子は立てないのか、縋りつくようにフェイトの服を掴む。

 

「…!」

 

先日、経験した感覚にフェイトは振り返る。

 

「…同じ術者だね」

「何よ、真っ暗になっちゃったわよ!?」

 

前にいたアリサたちが駆け寄ってこようとしたとき、黒い霧が少年に纏わりつくように現れた。

ユンフがアグーバで斬りつけたものの、霧散してしまう。

そのまま大通りへ逃げたかと思うと、聞き覚えのある金属音が響く。

黒い機械兵が2体、そしてその後に漆黒が外灯の下に進み出た。

 

「魔導、師……?」

 

真っ黒いローブを羽織った、体格からして女と見られる魔導師が守られるようにして機械兵の間にいる。

すっと彼女の腕が上がると、両脇に控えていた機械兵が一目散に少年を支えているフェイトへと突進してきた。

 

「プロテクション!」

「ロストレスワールド!」

 

桃色のシールドと、蒼い凪がそれを抑える。

 

「なのは、ユンフ!」

 

アリサやすずか、フェイトと少年を護るようにして杖を構えるなのはと、彼女の更に前方で槍のように伸びた腕をユンフが受け止めていた。

先日の機械兵とは比べ物にならないポテンシャルがあるようだ。

 

「ユンフくん、後ろ!」

「っ!?」

 

なのはの声に、瞬時に上空へ飛び上がる。

シールドを破れないと踏んで、ユンフに標的を変えたのだ。

知的レベルもそこそこ高い。

だが、これではっきりした。機械兵は魔法を使えない。

 

「私を忘れてもらっては困るわ」

 

戦法を考えていたユンフへ横から、冷気が襲い掛かる。

地面を氷柱が何本も立ち、思いもしない攻撃に彼は一瞬反応が遅れた。

 

「っ!」

 

遠くからわかるくらいにユンフに焦りが浮かぶ。

魔導師が参戦することで機械兵が一体、なのはの防御結界の周りを窺うようにして徘徊していた。

魔法を解くわけにはいかない。

 

「なのははこのまま三人を守って…私がユンフの援護に」

 

バルディッシュを手に取ったフェイトの腕はしかし引き戻される。

襲われた少年が、恐怖からか彼女の服を話さない。

話しかけても反応はなく、硬く握られたそれを強く突き放すわけにもいかない。

 

(ユンフ…)

 

断続的に蒼く光る空をフェイトは、見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

右足に鋭い痛みが走るが構わず、氷の刃を蹴り上げる。

方向転換した一瞬後に、それが叩き割られるが構っていられない。

今まで対峙したどの相手よりも強いとユンフの直感が言っていた。

 

「…っ」

 

その証拠に魔導師は笑みを絶やさない。

 

「ふふふ。上手く避けたわね。でも次はどうかしら?」

「なんという、魔力の無駄使いを…っ」

 

四方八方を氷が埋め尽くす。

氷のリングに取り残されたのはユンフと機械兵。

唯一の逃げ場である上空には、余裕綽々で魔導師が見下ろしていた。

 

「そろそろギブアップをおススメするわ」

「そうしたいのは山々だけどね。結果が変わらないなら抗った方がマシでしょ」

「残念ね」

 

集まり始める魔力に意識を向ける暇なく、金属の塊が突進してくる。

さすがに避けきれないなぁ…とのんびりと思ったところに、焔が走り抜けた。

 

「…間に合ったか」

「でけぇ魔力だと思ったら、案の定かよ…」

「シグナム、ヴィータ…?」

「おう、ユンフ!無事かよ」

 

形成逆転。

だが、危機的状況でも魔導師の笑みは引っ込まない。

 

「あら。これはちょっと面倒かしら」

「随分、余裕だな」

「ええ。あの子を諦めると上がうるさいのよ」

「この状況で逃げられると思ってんのか?」

 

クラークアイゼンを向けるヴィータに、彼女は不敵に微笑んだ。

同時にヴィータとシグナムが動き出す。

だが、優雅に一歩身を引いた魔導師のローブを掠めるに留まる。

追撃をするヴィータの風圧で、頭まで被っていたローブが浮き上がり――仮面をつけた顔が露になる。

 

「ったく、逃げ足の速ぇヤツ」

 

残されたのは氷で荒れた地表と、ヴィータが倒した機械兵の残骸。

なのはたちの方も、シグナムが丸焼きにしたという。

 

「…仮面、か」

 

ベージュグレイの髪が、ユンフの目に嫌に焼きついた。

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