魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第2話

「はい、オレンジジュース」

「あ、ありがとうございます」

 

買ってきたジュースをなのはが受け取ると、ユンフは空をぼんやりと見上げた。

ベンチに二人分の影ができる。

 

「どうして、私が悩んでいるってわかったんですか?」

「え?なのは、悩んでたの?」

 

質問に質問で返され、なのはは目を丸くした。

ユンフも同じような顔をしていて思わず笑いが零れる。

 

「質問を変えますね。どうしてあんなこと言ってくれたんですか?」

「う~ん…なんとなく?友達と似ていたから」

「友達?」

「うん」

 

なのはも同じ気がしたんだ、とユンフはジュースを一気に飲み干した。

ゴミかごに弧を描いて、空き缶が入る。

 

「その子には言ってあげたんですか?」

「……言葉って、なかなか難しいよねー」

 

馬鹿なことを聞いたと、なのはは苦笑するユンフを見て思った。

初対面の自分に言ってくれたのだから、その友達に言っていないはずがない。

 

「それでも、話してくれるのを信じることしか僕にはできないから」

 

なのははハッとする。

ユンフの言葉の裏に、仲のいい少女たちの顔が浮かんだ。

 

「だから大丈夫」

 

根拠なんかないのに自信に溢れた笑顔が、とても眩しい。

不思議と、なのはの心を仄かに暖めてくれる。

心地よい沈黙が、間に流れていく。

ふと足をブラブラさせていたユンフが視線を横にずらし――慌て始めた。

 

「もうこんな時間!?怒られる…」

「すみません。用事があったのに引き止めてしまって」

「ううん。なのはと友達になれたし、寧ろ得」

 

友達…と呟いたのは、一人会議しているユンフの耳に入らなかったらしい。

 

「それじゃ、またね!」

 

そういい残して、ユンフは風の如く去っていった。

なのはに確かな、勇気を灯して。

 

 

◆◆◆

 

 

夜、マンション。

消毒液を取りにいっていたアルフが戻ると、ソファーの傍らに座っている主人の後姿があった。

彼女の姿は、昼間ユンフとおかずを争っていた獣ではなく、オレンジ髪を長く背中に垂らした女性だった。

 

「あたしはまだ、認めちゃいないよ」

 

我が物顔でアルフの特等席だったそこを独り占めして眠っているユンフを見下ろす。

珍しく外出したらしく、帰ってくると早々に熟睡していた。

 

「こんな素性のわからないヤツ、いつまでも置いといちゃ危険だよ、フェイト」

「……」

「あたしたちはジュエルシードを集めなきゃいけない。コイツは邪魔なんだよ」

「……わかってる」

 

視線を外して、月を眺める横顔にアルフは何も言えずに、隣に腰をつける。

魔導師との戦闘で負ったフェイトの傷を手当てしようと救急箱を置くと、テーブルの傍らに目つきの悪いウサギがメンチを切っていた。

お土産と言ってユンフがフェイトに押し付けたものだ。

 

(まったく、センスの欠片もありゃしないね…)

 

気味の悪いカエルを渡されたとき、魔法で吹っ飛ばしてやろうかとも思ったが、正体を知られるわけにもいかず、噛み付くに止めた。

せめてもの抵抗も空しく、首輪にぶら下げられたソレが動くたびに揺れて忌々しい。

 

「ぅ…むにゃむにゃ……」

 

幸せそうに夢へと旅立っているユンフが蹴飛ばした毛布を拾い、フェイトが掛けなおす。

フェイトが頑なになる理由は、アルフも重々承知していた。

暴走したジュエルシードを抑制するときに使った派手な魔法に、彼を巻き込んでしまったという罪悪感があるのだ。

だが、アルフは釈然としなかった。

まるで降ってきたように現れて、自分のことを一切話さないユンフ。

全身血だらけの姿を見てそう思い込んでしまっただけで、怪我の理由は別にあるのではないか。

答えの出ない問題に、アルフは唸った。

 

「なんにせよ、さっさとしなけりゃ。管理局のこともあるんだからさ」

「………うん」

 

正直、少なからず感謝はしている。

ユンフが来てから、フェイトが食事をしてくれるようになった。よく笑うようになった。

だけど、こんな寂しそうなフェイトを見るんだったら……。

そう思うのも事実だった。

 

「心配しないで、アルフ」

「フェイト…」

 

月と同じ色の髪が揺れる。

 

「ちゃんと、わかってるから」

 

(それはどういう意味でなんだい…)

 

胸のウチで問い返し、アルフはフェイトに包帯を巻く作業に集中した。

彼女を守るために、自分にできる決意を秘めて。

 

 

◆◆◆

 

 

「ふぁ~あ」

 

欠伸を隠そうともせず、一人きりの部屋でユンフの瞼が徐々に重くなってくる。

一言で表せば、退屈だった。

久しぶりに運動したためか傷口がまた開いてしまい、今日一日はお留守番を言いつけられている。

 

「フェイトもアルフもお泊りだしー。アグーバ、おもしろい話ない?」

 

暇を持て余して咄嗟に振ったユンフに、呆れるでもなくアグーバの雰囲気は固かった。

僅かな緊張を感じ取り、双方の瞳が沈黙している三日月に向く。

 

〈……坊〉

「ん?」

〈局と連絡を取るべきだ〉

「取るって言っても、通信方法って念波くらいしかできないよ?」

〈映像はこちらで繋ぐ〉

 

どこか焦りを含んだ口調に、ユンフは顎に手をあてた。

海鳴市に行った日の翌朝から様子がおかしいような気はしていた。

 

「一応聞くけど、今じゃなきゃダメなの?」

〈……〉

「……わかった」

 

アグーバが語らない以上、無理に聞いても答えてはくれないだろう。

ユンフは居住まいを正し、目を閉じた。

 

「魔力は足りる?」

〈どうとでもなる〉

 

今まで何度かコンタクトを計ったが、魔力不足と体調不良に阻まれて失敗に終わっていたのだ。

不完全な状態でどれだけ保てるか不安は残るが、アグーバが可能というのならそうなのだろう。

大人びた幼馴染の顔を思い描き、ユンフはそっと口元を緩めた。

 

【相変わらず、エイミィの尻にしかれてそうだよね、クロノって】

【うわっ、なんだこの得体の知れない通信は!?】

【〈…繋がっているぞ〉】

 

口をあんぐりと開けたクロノと、わかっていたらしいエイミィに、ユンフはへらりと笑いかけた。

 

 

◆◆

 

 

【つまりキミは、命からがら逃げ延びた――と?】

 

一通りの経緯を、クロノはいとも簡潔に纏め上げた。

おお~!と拍手していたユンフは補足する。

 

【それで今は、どこの世界とも知れないところで療養中】

【魔力を消耗していて帰ってこられないんだな?】

【その通り!】

 

ユンフは胸を張る。

心配して損をしたと、クロノはそっぽを向く。

 

【まったく今頃になって…。艦長も随分と気をもんでいたぞ】

【ユンフくんらしいっていえば、それで終わっちゃうけどね】

【それで、いつ迎えに来てくれるの?】

 

米神に手を当てるクロノもエイミィもどこか疲れているようだ。

 

【こちらも今、問題を抱えている。行くのはそれが片付いてからだ】

【薄情者~】

【お前がこんな忙しいときに連絡をするからだ!!いつもいつも……】

【あ、ちょっと待って】

 

クロノの愚痴が零れ始めたとき、開錠する音が響いた。

一方的に念波を中断し、ユンフは玄関へと続くドアを引く。

そこにはちょっとビックリした少女と不機嫌なペットがいるはずだった。

 

「……フェイト…?」

 

だが、瞳に映ったのは蹲っている金髪の少女。

 

「フェイト!!」

 

ざらりとした感触に触れた腕を見ると、包帯がほどけかけている。

顕になった黒ずんだ傷跡。

奥歯を噛み締めてユンフは、意識を失っているフェイトを抱え上げた。

 

 

◆◆◆

 

 

フェイトが目を醒ましたのは、自分のベッドの上だった。

アルフはいない。

彼女は逃げ出したと母から聞かされた。

そんなことはないと思いつつも、姿の見えないアルフに不安が胸に渦巻く。

嫌な想像を振り払うように身体を起こしたフェイトの肩からタオルが落ちる。

 

「……あ」

 

熱を持っていた箇所を冷やす役割をしていたそれは、生ぬるい。

ボロボロだった包帯に替わって新しいものが、決してきれいとは言えない巻かれ方をしていた。

 

「――だからぁ、今はいいってば…――」

 

閉め切っていないドアから、彼の声がかすかに聞こえてくる。

 

(誰と話しているんだろう…?)

 

足を踏み出したフェイトの耳に、知った名前が飛び込んできた。

 

「状況が変わったの!まだ管理局には戻れないんだって!」

 

凍りついたように、ドアノブにかけられた手が動かない。

ユンフが何故その単語を知っているのかも、そこに戻るという意味も、ごちゃごちゃになってフェイトの脳内を乱した。

 

「あーもう!迎えに来られないっていったのクロノの方でしょ?」

 

管理局、クロノ……ピースが増えていく。

線で結んだ先にあるのは、ユンフ・アルフィードが管理局の人間だということ。

つまり――

 

(ユンフも……魔導師……)

「……じゅえるしーど?僕の位置から反応があるはずまいじゃん。検索ミスじゃないの――」

 

そこからのフェイトの反応は、早かった。

デバイスを握り、魔力を纏う。

 

「……バルディッシュ」

〈坊!〉

「ぇ?――うわっ!?」

 

気付いていない彼の足を払い、床に叩きつける。

悶絶しているその喉にフェイト光の刃を突きつけた。

 

「元気そうで何よりだよ、フェイト」

「…ジュエルシード、持っているの?」

 

ぐっ、と手に力を込める。

笑っていた顔が一瞬歪むが、ユンフは何も言わない。

 

「……管理局の魔導師だったんだ」

「今は無期限休養のけが人なんだけどなぁ。だからこの物騒なものを退けてくれると助かる」

「ジュエルシードを出して」

「じゅえるしーど、ね……それってコレのこと?」

 

ユンフがポケットから取り出したのは、青い宝石。

ナンバーはⅩⅦと浮き出たひし形は間違いなくフェイトが探しているものの一つだった。

渡して、と口にする前に、ユンフはそれを握りしめて彼のデバイスらしいイヤリングに近づけた。

 

「一つ、取引しようよ」

「……」

「何もそんなに大したことじゃない。コレを渡すから、僕をフェイトと一緒に連れて行ってくれないかな?」

 

突拍子もない申し出に、罠の文字がチラついた。

ユンフが話しをしていたのは恐らく、介入してきたあのクロノ・ハラオウンという少年だろう。

二人で組んで、フェイトを捕らえるつもりなのか。

 

「誤解しないでね、これはあくまで僕の独断。疑うならそれでもいいけど、これは手に入らないよ」

「……どう、して?」

「フェイトは命の恩人だ。僕はキミを信じる。僕のモットーは一度決めたらなら貫き通せ、だからね」

 

震える手を抑えようとするフェイトに、ユンフは続けた。

 

「言ったよね?……ユンフ・アルフィードはいつでも力になるからって」

 

へたり込んだフェイトの手にジュエルシードが転がる。同時に、頭に温かい手が乗せられた。

別れを寂しいと思ってしまったときから、敵うはずがなかった。

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