魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第20話

「とんでもないことがわかったよ」

「前置きはいい。資料を渡せ」

 

クロノの物言いにユーノは口を尖らせながらも、無限図書館での調査結果を送信する。

途端にクロノのディスプレイにいくつものウインドウが現れる。

どれもこれも、”誑惑の石“についてのものだ。

 

「第一級遺失物指定、通称ロストロギア。何十年も前から管理局は目をつけていたみたい」

「ところが、十年前から消失」

「某研究所での爆発事故以来ぱたりとね。特定の適合者以外使用できないから、局も放っておいたんだ」

 

最後の適合者の欄を見て、クロノは目を伏せた。

ユーティシア・アルフィード。

優秀なフリーの魔導師だったようだが、その横には行方不明の印が押してある。研究所の爆発に巻き込まれたとされていた。

またそれを引き起こした人物はライゼック・アルフィード、旧姓ライゼック・スーカル。

 

「済まない、助かった」

「…ううん。それで、ユンフはどう?」

「……医務室で眠っている。しばらくは動けないだろう」

「それじゃあ…」

 

ユーノの言いたいことはわかっている。

不本意だが、クロノは上司としても幼馴染としても、辛い決断をしなくてはいけないのだ。

 

「くそっ……こんな再会のために、あいつは八年も夢見てたわけじゃないんだ」

 

エイミィからライゼックたちの拠点地が判明したと伝えられたのはそれから一時間後のことだった。

 

 

 

 

「先ほど第8無人世界で、巨大な魔力反応を感知した。ライゼックがロストロギアを使用したと見て間違いない」

「それによる次元振動の処理で増援は望めないわ。ここにいる皆さんを突入部隊として編成します」

 

そう言って、リンディはなのは、フェイト、アルフ…そしてクロノを見る。

 

「尚、第97管理外世界で機械兵が確認されている。君たちにはそちらをお願いしたい」

「了解した」

 

ヴォルケンリッターの将シグナムは、重々しく頷いた。

どの世界でも機械兵の処理で大変な騒ぎだ。

入院中のはやての護衛につくザフィーラ以外のシグナムたち、討伐組みが地球を含めた近隣の世界の警備にあたる。

 

「任務はライゼック・スーカルの逮捕及び第一級遺失物ロストロギアの確保だ。彼の目的は判明していない。くれぐれも注意をすること」

「ロストロギアって、ユーティさんのことですよね」

「ユーティを取り戻すのはいいけどよ、その後どうなっちまうんだ?」

「……管理局の倉庫で厳重に保管されることになる」

「そんなっ!それじゃユンフくんとユーティさんは離れ離れになっちゃう!」

 

なのはの叫びに、クロノはぎりっと唇を噛み締めた。

ヴィータもシャマルも、その場にいる全員が認めないと目で訴える。

 

「…アルフィードのことは、どうするのだ?」

 

シグナムの一言にフェイトはスカートを握りしめ、言葉を待つ。

これまで真っ直ぐに発言していたクロノに、そのときばかりは躊躇いが見えた。

 

「…ユンフの魔力が低いことは、皆知っていると思う。だが、それは“誑惑の石”が相反させていたためだ」

「ならば、以前見たアルフィードの魔力は…」

「本来の力だ。…“誑惑の石”をその身体に封印され、ライゼックたちから隠れるためにそうしたのだろう」

「でも、アイツの魔力光は翠だろ?」

 

首を捻るヴィータの前にクロノは、手元にあった書類を滑らせた。

 

「検査の結果、ユンフの魔力光は蒼、だ。面会謝絶のため、本人確認は取れていない」

「ということは、今回の作戦にユンフくんは……」

「不参加になる。あいつの魔力は戦力になりえるが、怪我を負った身体で今すぐ使えるわけがない。それに――」

 

クロノが閉口する。

事情を知っているのか、エイミィの表情も暗い。

 

「なのはちゃんのレイジングハートやフェイトちゃんのバルディッシュがインテリジェントデバイスっていうのは知っているよね?」

「うん」

「人工知能があって高い能力を秘めているけど、扱いが難しいってユーノくんに聞きました」

「そのインテリジェントの試作品がアグーバなの。言うなれば、レイジングハートやバルディッシュのお父さんみたいなものかな」

「レイジングハートと…」

「バルディッシュの…」

 

それぞれ手の中にある、紅く丸い宝石と、三角の黄色い宝石を見る。

 

「戦闘目的で作られたものでないから、機能までそっくり同じってわけじゃないけどね」

「フレームの素材も古い。度重なる戦闘によって傷も目立ってきている…今回は厳しいだろう」

 

納得のいかない面々も、口を開くことはしない。唯一、異を唱える権利のある人物はこの場にはいない。

 

「…会議は以上だ。出発時刻まで各々、体を休めてくれ」

 

重苦しい空気を締めくくるように、クロノは解散と声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

一時解散になって、ぞろぞろとシグナムたちがブリーフィング室を後にしていくのをフェイトは見送る。

なのはは実家に一度戻ると言っていた。一人になってユンフとユーティのことを考えるのかもしれない。

彼女は絶対に諦めない子だから。

 

「フェイト…」

「…母さん…?」

 

艦長としてでなく、母の笑みを浮かべたリンディがフェイトの肩を抱く。

 

「あなたまで悲しそうな顔しないの。今は、私たちがいるわ」

「……うん」

 

ユンフの境遇が半年前の自分のようで、少しばかり昔を思い出していた。

自分と同じ想いを誰かにさせたくなくて、執務官を目指し始めたのは最近のこと。

そのことを伝えるとユンフは屈託ない笑顔で、「絶対フェイトならなれる」と応援してくれた。

 

「ユンフくんが気になる?」

 

こくり、と頷きを返す。

 

「それじゃあ、会ってきちゃいなさい」

「え……でも、面会謝絶だって…」

「あら、この艦の最高責任者はだれ?」

 

あの子に任せるわけにはいかないしね、と振り返った彼女の後方では、椅子に座ったままのクロノ。

口では否定しているけれど、親友のような兄弟のようなユンフとの関係。

一番、ユーティやライゼックのことを弁護してあげたいのはクロノなのかもしれない。

 

「いってらっしゃい」

 

笑いかけるリンディにフェイトは小さく頭を下げた。

 

 

 

 

病室へと移動する途中、大きな物音を聞きつけ足を止める。

作戦前で使われていない転送装置が設置されているコントロールルームの前で足を止め、フェイトは目を見開いた。

病室で安静にしているはずの人物がそこにいた。

 

「ユンフッ!?」

 

壁に肩を押し付け、痛みに屈折する身体。

慌てて駆け寄ったフェイトは崩れ落ちる彼を抱きとめた。

巻かれた包帯越しに熱を感じ、下を見ると血が滲んでいる。

 

「傷が開いてる…ユンフ、病室に戻ろう?」

「どいて。僕は、行く…」

「ダメだよ…そんな身体じゃ」

「離せ!どうなったっていい、こんな身体――!!」

 

ユンフの声を刻みのいい音が途切れさせた。

手を上げたまま、フェイトの頬を涙が伝う。

 

「そんなこと、言わないで…」

 

ユンフの瞳が気まずそうに逸らされる。引き結ばれていた唇が長い沈黙を経て、微かに動く。

 

「フェイトは言ったよね?母さんを一緒に探してくれるって、力になってくれるって」

「……うん」

「だったら!そこをどいてよ!通してよ!」

「…ううん、力になるって約束したから、私はユンフを止めなくちゃいけないんだ」

 

振り払おうとするユンフの手を握りしめる。気持ちが彼に届くように、しっかりと。

 

「……どうしたらいいか、わからないんだよ」

 

頭を垂れ、蹲った彼はそれまでの勢いを失い、震える声が漏れた。

 

「ずっと会いたかった母さんが、敵対してきた魔導師で…僕を狙って、ユーティを奪ったのが父さん?」

 

手を通して、ユンフの不安が伝わってくる。

 

「僕は、こんなことを知るために待ってたんじゃない!こんな…こんな…っ」

 

それでも戦いにいこうとするユンフが悲しくて、その心が痛いほどわかる。

 

「…明日10時」

 

彼を止めることは、できないと思った。

 

「ユンフが会いに行きたいのなら、一緒に行こう?だから1人で無茶、しないで」

 

ユンフにこれ以上、傷ついてほしくなかった。

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