魔法少女リリカルなのは Conviction 作:のんべんだらり
ユーティシアを残し、最上階を目指す一行がたどり着いたのは大きなミラーハウスだった。
真っ暗の室内を二メートルは越す鏡が重なり合い、経路を塞いでいた。
「…鏡の迷路?」
鏡に映った自分にフェイトは手を伸ばした。その後ろから鈍い音が二回。
「にゃっ!?」
「いだっ!?」
額を抱えて蹲るなのはとユンフに、アルフは笑いながら言う。
「人間は暗闇に目がなかなか慣れないからねぇ」
「…うぅ、アリサちゃんのチョップより痛い」
「大丈夫?なのは」
「にゃはは…あんまり大丈夫じゃないかも」
涙目のなのははフェイトの手を握る。暗がりでも視えるアルフが羨ましい。
「いつまで座り込んでいるんだ、ユンフ。置いていくぞ?」
「うー…地味に痛い」
忌々しそうに自分と睨みあっているユンフの腕を掴み、クロノが引き摺っていく。
額が見事に赤くなっていた。
先頭を夜目の利くアルフに任せ、フェイトとなのは、しんがりをクロノとユンフの順で迷路を進んでいく。
「あちゃー…また行き止まりだよ」
「いっそのこと、魔法でぶっ飛ばしちゃえばいいんじゃないかな」
「な、なのは?」
笑顔で黒い発言をかますなのはに、フェイトは冷や汗を浮かべた。
根に持っているのか、前髪から赤い額が覗く。
「そうもいかないだろう。この鏡、微かだが魔力がある。仕掛けがあると見て間違いない」
「やれやれ。ここで足踏みさせて、時間を稼ごうってわけかい」
せこいねぇ…と、体を反転させてアルフは溜息を吐く。
順々に来た道を戻っていくフェイトたちに続こうとしたクロノは、まじまじと鏡を見ているユンフに気づいた。
「なんかこれ、変じゃない?」
「…何度見てもキミのマヌケ顔は変わらない」
「仏頂面のクロノに言われたくないよ…って、そうじゃなくて!!」
ユンフはしゃがみ、鏡の下枠を人差し指でなぞる。
(風…?)
その途端、身長の二倍はある鏡が倒れこんできた。
否、ぐるりとユンフを巻き込み、回転した。
「このバカっ!」
暗い穴に転がり落ちたユンフの後を追い、ミラーが1回転する前にクロノも体を滑り込ませる。
「ユンフくんッ!?クロノくん!!」
「ダメだ。ウンともスンとも言わないよ」
体当たりをするアルフを下がらせ、フェイトがユンフと同じく、鏡の枠を調べたが変化はなかった。
「追いかけなくちゃ」
「どうやってだい。この鏡、ちっとも動きゃしない」
「…先に、進もう」
そう言って、フェイトは暗闇に聳える鏡たちを見上げた。
◆◆◆
「……クロノ、重い。早くどいて」
「……」
「クロノ?」
怪訝に思いつつ、無言の彼の真っ直ぐな視線を追う。
「……ライゼック・スーカル」
鎧…ユーティを纏った、ライゼックが立っていた。
本来彼には魔力の素質はない。
だが、ユーティを手に入れた今の彼には関係がないようだ。
「…ふん。入り込んだネズミとは、お前たちのことか」
「ライゼック・スーカル。あなたを第一級ロストロギア不法使用及び、民間人への傷害の疑いで逮捕します。ご同行を」
「逮捕?この私を?…くっ」
突然、笑い出したライゼックに、警戒を怠らずに、クロノとユンフはデバイスに手をかける。
「…貴様らドブネズミの分際で、今の私に勝てるとでも?女を殺したからっていい気になるな」
「なん、だって…?」
ユンフの眉が、大きく跳ねた。
「ユーティシアは死んだ。貴様が殺したんだろう?母を」
「母さんは死んでない!いい加減なことを言うなッ!!」
「……昔話をしてやろう」
――遠い遠い世界で暮らすある母子がいた。
その母子の家系はある“力”を持っており、周りから敬遠されていた。
ある日、その母子が襲撃され、懸命に逃げ、母は子を逃がした。
少しでも時間を稼ぐために自身は奮闘するが所詮は女。敵うはずもない。
だが、瀕死だった女は生き延びた。幻術によって、二度目の生を許された――
「幻術を構成するには媒体が必要だった。その媒体を失えば骸に戻る。…あの女の場合、それは」
ライゼックの口端がつりあがる。
「――仮面だ」
「黙れぇぇええっ!!」
「待て!ユンフ!!」
感情的な攻撃ほど読みやすいものはない。
飛び出していくユンフに、クロノはデュランダルを起動させる。もはや、体で止めるしか彼に届かない。
一方、最上階。
「これが、変換装置…」
ガラスケースの中に浮かんでいる七色の球をフェイトたちは囲んでいた。
「ライゼックさんは…いないみたい」
「だったらさっさとぶっ壊して、ユンフたちを探そうよ」
「でも、このケース…AMFが働いている。魔法で攻撃してもキャンセルされる」
かといって、少女たちの腕力では壊せそうにない強度がケースにはある。
う~ん、と頭を悩ませるフェイトたちの足元が突然揺れる。
どうやら、下の階で爆発が起こったらしい。
「ユンフくんたち、かな?」
「だと思う」
立て続けに三回。
ライゼックと遭遇したのかもしれない。
「ったく、面倒だねッ。この部屋なら簡単に魔法で壊せるっていうのに」
「それだ!」
「へ?なんだい?」
一人わかっていないアルフを残し、なのはとフェイトは頷きあう。
「この部屋ごと、壊す」
「本気かい?…わかりやすくていいけどさ」
「高町なのは、いっきまーす」
レイジングハートを、真上に向け、呪文を呟く。
「……スターライト」
「ちょ、ちょっとなのは。それは――」
止めようとしたフェイトの隣りでアルフは既に諦めムード。
集束した魔力が、より密度を増していく。
「ブレイカー!!」
フェイトの制止も空しく、ピンクの砲撃が火を吹いた。
◆◆◆
杖で崩れそうになる身体を支えながら、クロノは前を見据えていた。
絶えず薄気味悪い笑みを浮かべているライゼックは彼を見下した。
「どうした?私を捕まえるんじゃなかったか?」
「…はぁ、はぁ…」
動悸が激しい。
あばらが1、2本、折れているかもしれない。
「愚かなガキ一人庇わねばならないとは。仲間とは鬱陶しいものだ」
「…あなたにっ、…はぁ……なにが、わかる…っ」
壁に打ち付けられ、しな垂れたユンフに向けられる軽蔑にクロノは痛む脇腹に構わず声を張り上げた。
「あなた、にッ…あなただけには、あいつをバカにする資格があるものかっ!!」
その言葉を後押しするかの如く、爆発音が響いた。
天井に皹が入り、耐え切れなくなった強度が裂ける。
「なのは…やりすぎ」
「にゃはは…力加減間違ったかも…」
「ったく、アタシらまで潰されるところだったじゃないか!」
落ちる瓦礫と一緒に、金色と白の魔導師が降りる。
その姿を確認し、クロノは振動で堪え切れなかった身体を地面に伏せる。
「クロノ…?」
「大丈夫!?クロノくん!」
「まさか、今のに巻き添えになっちゃったとか?」
アルフの言葉に、なのはが申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「そうだと言いたいところだが…残念ながら違う」
晴れていく視界に黒い影が映る。
「…左手に、気をつけろ…」
小さな忠告を残し、クロノは意識を手放した。
「次から次へと、よくも湧き出てくる」
鬱陶しげに顔を歪め、ライゼックの目が向く。
クロノとユンフをアルフに任せ、なのはとフェイトは真っ向から彼の視線を受け止めた。
「…機械兵を操っていた装置は破壊しました」
「今すぐ投降してください」
「管理局というのは全く無能の集まりだな。機械兵が止められない。変換装置はここにあるのだからな」
そう言って長い腕が示したのは、彼の胸。
心臓にあたる部分だった。
「そんな、私たちが見たのは…」
「時空移動装置のダミーだ。まんまと騙されてくれたわけだ」
ユーティシアが嘘をつくとは思えない。
最初からライゼックが誰にも言わずにいたと考えるのが筋。
つまり彼は、妻でさえ信用していなかった。
「あなたは寂しい人ですね」
「…ほう?」
「家族を利用してまで力を欲するなんて…世界に信じあう人が誰もいない、それはとても寂しい」
「フェイトちゃん…」
なのはの視線を横顔に受けつつ、フェイトははっきりと口にする。
「ライゼック・スーカル。あなたは、絶対に許さない」
「受けて立とうではないか。貴様のその思いに」
ぐっと腰を落とすライゼックにフェイトが隣りの少女を見る。
「なのは!」
「うん、いこう!フェイトちゃん!」
金色と桃色が交錯する。
初めに、ライゼックとぶつかった色は金。だが――
「どうした?剣が迷っているぞ?」
「くっ、バルディッシュ!」
〈…Haken Saber…〉
ハーケンフォームから飛び出した三日月の刃が一直線にライゼックに向かう。
ほんの少し上体を横にずらし、彼はなんなく避けた。
「私が、あいつの父だからかね?」
「っ!」
「フェイトちゃん!」
一瞬、反応が遅れてフェイトがその場を飛び退く。
桃色の魔法段が霰のように降り注ぐ――。
「…ラウンドシールド」
その一言で、強引に軌道を曲げられた。
最後の一弾が地面を抉る前にフェイトは更に追撃する。
ガキンっ、と金属の衝突する音が鳴り響いた。
「貴様はどうして、愚者のために頑張る。惚れているのか?」
「…なっ!?」
「ストームバイストーン」
「しまっ」
シールドを張ろうとフェイトの腹に、死角からライゼックの左手が当てられる。
――左手に、気をつけろ――
クロノの忠告がリフレインした刹那、石つぶてのような硬いものが零距離から発射され、彼女は見事に吹っ飛んだ。
そして、矛先はなのはに向き、
「サッドインテント」
光速が、なのはの右肩を貫き、ディバインバスターをキャンセルさせる。
「きゃっ!!」
そのまま重心を失い、なのはは地表に向かって落下した。
「もうすぐ、もうすぐだ。ようやく、私は思いを遂げられる!!」
(思い…?)
くらくらする頭を押さえ、フェイトはそのフレーズが妙に気になった。
◆◆◆
昔たった一度だけ、訊ねたことがあった。
「ねぇ、おかあさん。どうしておとうさんはいつもいないの?」
五年しか一緒にいられなかった母と、生まれたときからいなかった父。
自分の知らないことを聞いたら必ず答えてくれた母は、微笑んだだけだった。
結局、そのあと離れ離れになってしまって聞く機会さえなかったけれど。
今の今でも、ずっと胸の奥にあった。
魔導師になってからも、ふとした瞬間にその疑問が顔を出すときがあった。
その度に決まってある光景が蘇る。
「また重くなったな…まったく、子どもの成長は早い」
「ふふふ、寝る子はよく育つものよ」
寝かされた自分を見下ろす、男女。
とても穏やかな視線にくすぐったくなって。
幸せで。
いつも、そこで目が覚める。
◆◆◆
傷つきながらそれでもライゼックに向かっていく二人を、ユンフは霞む視界で捉えた。
もともと悪かった体調に加え、軽い脳震盪を起こした状態で意識を保っているのは奇跡に近い。
(…こんなにも弱かったんだ……)
闇の書事件でも、今までの戦闘もアグーバとユーティがいたからユンフはやってこれた。強くなったと思っていた。
だが、それはユーティの魔力に依存していたに過ぎなかったのかもしれない。強大な魔力はユーティのものであって、ユンフの力ではない。
その結果が現在。力のないユンフに戻っただけだ。
誰かがやってくれる。今ユンフが無理に立ち上がらなくても、クロノが、フェイトが、なのはが、彼を倒してくれるに違いない。
だって、彼らはユンフよりも強いのだから。
このまま、眠ってしまおうかなと弱音が頭を過ぎったとき、それを感じ取ったのかスタンバイモデルに戻っていたアグーバは瞬いた。
【坊の願いは叶ったか?】
「……」
ユンフは応えない。
【いつまで耳を閉ざせば気がすむ】
虚ろな双方の蒼が、ライゼックを見る。
〈助けて……誰か、助けて!〉
彼の征服下で力を吸い取られるユーティ。
声も姿も見えないけれど、少しでも一緒にいたユンフには彼女の悲しみが痛いほどに伝わってくる。
アグーバやクロノをからかって、笑って、本当は優しく皆を気にかけている仲間。
ライゼックが魔法を使う度に響く甲高い金属音が、彼女の泣き声のように聞こえた。
【初めて会ったときの坊は何も知らない子どもだったが、澄んだ目をしていた】
なぜ、今。
飛びそうな意識の中、鮮明にアグーバの声が聞こえる。
【そのときから坊は締りの無い顔をしていたな】
「…なんだそれ」
【だが、そんな坊に我は全てをかけて願いを叶えると誓った】
「……アグーバ?」
想いがすれ違っているような気がして、ユンフは懐かしむように語るアグーバを見る。
【今一度訊ねる。願いは叶ったか?ユンフ・アルフィード】
アグーバの信頼が、ユンフに流れ込んでくる。知らず、ユンフはこぶしを握りしめた。
答えを返せたら、楽になれたのだろうか。選択したユンフに確かめる術はない。
「え?…」
「ユンフ、くん…?」
倒れたクロノ、アルフ、腕を抱えるなのは、立ち上がろうとしていたフェイトの横をゆっくりと歩いていくその姿は騎士を思い起こさせる。
「ありがとう、フェイト。あとは僕の仕事だ」
通り過ぎるユンフの笑顔は、とても優しくて。
微かな焦燥感が渦巻く。
「…っ…」
伸ばした腕は届かなかった。
ユンフは足を止めない。フェイトは彼の考えがわかった。わかって、しまった。
「縁を護りし盾、絆を紡ぎし剣…アグーバ、フルドライブ!!」
裏付けるように、蒼がうねる。
「またやられに来たのか?」
双剣を胸の前で交差させ、騎士甲冑を纏うユンフにライゼックはほくそ笑んだ。
だが、嘲笑は掻き消える。
「ぐっ、こいつ…!」
「……」
一直線にライゼックの心臓を狙った一撃を押し返され、ユンフは距離を取る。
今までの守られるだけの人物とは桁違いの動き。
開いたライゼック手のひらには、汗がにじんでいた。
「母の次は父か。容赦のないものだな」
そうあざ笑うものの、ユンフの表情に変化はない。
「ちっ」
右、左と両方から突き出される刃を紙一重でかわしていくライゼックだが、徐々に身のこなしのスピードが落ちていく。
そんなライゼックに対し、ユンフはその動きを増す。
「貫け、ブラウショット!!」
「このぉおおおおおっ!!!」
一本の剣が、ライゼックの身体を切り伏せた。
瞳を伏せ、転がった四面体を拾う。
「…ユーティ?」
【……ぅ】
大きな破損もなく、気を失っているだけのようだ。
ほっと息をつきユンフが身を翻したそのとき。
「まだだ!」
「っ!?」
同時に、背中に衝撃を受ける。
「ふふふふっ。この程度で帰してたまるか!」
爆発装置を操作しようとするライゼックになのはが叫ぶ。
「止めて!!」
「くっ、間に合えっ!!」
剣を支えに立ち上がり、ユンフが風になる。
ユンフが追いつくよりも先に歪んだ笑みを浮かべ、ライゼックが指を折る。
だが――その体は、凍りついたように動かなくなった。
「な、なにっ!?」
【……もう、十分でしょう?】
「貴様っ!?」
ユーティシアと目が合い、ユンフの腕に戸惑いが伝染し震えた。
魔力の残骸でしかない彼女の身体は透けていた。
「……っ」
【いいのよ。この人は、私が向こうに連れていくわ】
「うぁあああーーー…っ!」
蒼い剣がライゼックの心臓を貫いた。
「……」
光の粒子となって消えてしまったライゼックのいた場所に四角い機械が落ちた。それが引き金となり、装置が真っ二つに割れる。
世界が静止したかのような静けさだった。
「……」
【……機械兵の制止を確認しました。そちらもすぐに帰艦してください】
「了解しました」
ユンフに声をかけようとクロノが口を開く前に、彼は振り返り笑った。
「さ、帰ろ」
その明るさが不自然だった。
◆◆◆
「…そっか」
二つに割れた、三日月を見下ろし、ユンフは噛み締めるように言った。
ライゼック、ユーティシアに続き、相棒も還らないと聞いてもゆるく微笑んでいる姿がクロノは淡白に見えた。
「話はそれだけ?なら、このあとユーティを迎えに行かなくちゃいけないから。おっ先ー」
「待て、まだ話は――」
ユンフはクロノの口が開く前に颯爽と身を翻した。
今度会ったときに何か言われるかも知れないが、そのときはユーティを押し付けることにユンフは決めた。
以前、3時間ほど遅れたときはレディの何たるかをその倍の時間を使って説教されたので、それ以降は彼女のお迎えは最重要事項となった。
苦い思い出に身を震わせ、ユンフは足を速めた。その先に見えた金色に声をかける。
「あれ、フェイトもバルディッシュのお迎え?」
「うん。ユンフも?」
「分析調査が延期されて、一時間早くなってね」
保管庫直行じゃなかっただけマシだよね、と笑うユンフ。
それをユンフが聞かされた日、クロノを妙にからかっていたからきっと彼が手を回してくれたことを知っているのだとフェイトは思う。
「ユーティが散々文句言うから捜査員も冷や汗だよね」
「ふふっ、ユーティらしいね」
「まったく、口達者は変わらないよ。だからアグーバともケンカになるっていうのに」
「ユンフ…」
「ん?」
アグーバは…と言いかけて、フェイトは口を閉じる。その間を汲み取ったのか、フェイトの言葉を代弁する。
「ずっと一緒だったのに、いなくなるのはほんの一瞬」
そっと開いた手の中に真っ二つになった三日月の宝石。
握り締めていた手のひらに痕がついていた。
「あっという間すぎて、よくわからないや」
ユンフとフェイトは似ていた。それは境遇だけじゃない。
「アグーバは僕のこと、いっつも坊、坊、ってばかりで。名前を呼んでくれたことなかったんだ」
首謀者が身内だと、素直に弱音を吐き出すことを遠慮してしまう。
行き場のない感情を表していいのか、我慢を重ねた先には二度と会えない現実が信じられなくなる。
フェイトが経験したものと同じようで異なるそれをどうにかしてあげたくて、苦しんでいる彼の助けになりたかった。
「泣いても、いいと思う。悲しんでもいいと思う。そうじゃないと、きっと明日を見失ってしまうから」
笑った顔を見ると胸が高鳴り、悲しそうな顔を見ると締め付けられる。フェイトはユンフが気になっていた。
(ああ…そうか。私、ユンフが好きなんだ)
その理由を、フェイトはようやく悟った。
腑に落ちた気持ちを抱えるフェイトの肩に、ユンフの頭が凭れかかる。
理解すると同時に、かっと頬が熱を帯びて、思わず身を引こうとした動きを止める。
「ごめん。少しだけ、フェイトを貸して…」
くぐもった声に応えるようにフェイトはユンフの服をそっと掴んだ。
このとき、その手を離さなければ、きっと変わっていたのかもしれない。未来の彼女はそう、後悔した。