魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第4話

「ダメ」

「ですが、アルフィード二等空士――」

「ダメったらダメ」

 

くり返される押し問答。

事の始まりは時を20分ほど遡ることとなる。

意識の戻ったフェイトとアルフを連れて、アースラへとやって来たユンフたちを待ち構えていたのは、厳重な警備だった。

なんでも、フェイトを拘束するとクロノから命令を受けた者たちで、それはそれはバインドで固定だとか、牢に直行だとか話が出ていた。

それを「ダメ」の一点張りで突っぱねているのが、ユンフなのだ。

根負けして二桁いた隊員たちも今では、目の前にいる彼のみ。

 

「……わかり、ました」

 

そしてついに、陥落。

項垂れてトボトボ立ち去る隊員をなのはたちは哀れみの目で見送った。

二またに分かれた通路までくると、ユンフがふと立ち止まる。

 

「ここからは別行動。キミたちはこのまま艦長のところに行ってね」

「ユンフさんは?」

「僕はクロノがウルサイから管制室に顔を出してくる。案内は任せたよ、なのは」

 

と言って、ユンフは角を曲がる。

後方で案内役に指名されたなのはの戸惑う声が聞こえた気がしないでもない。

ユンフとしては彼女たちを送り届けてからでもいいのだが、拗ねたクロノの相手はめんどくさい。

そんな心情を億尾にも出さず、ユンフは管制室の扉を開けた。

 

「ああ、来たか」

「そりゃ呼ばれたからね。発信源は特定できた?」

「バッチリだよ」

 

親指を立てたエイミィのモニターには、黒髪の女性が映し出されている。

彼女が次元跳躍魔法でフェイトを攻撃してきた人物だろうか。

 

「プレシア・テスタロッサ女史。優秀な魔導師だ」

「テスタ、ロッサ…?」

「ああ。フェイト・テスタロッサの母親さ」

「…そう」

「……それだけか?」

 

目を伏せるだけのユンフにクロノは面食らったようだ。

予想していたわけではない。

ただ、フェイトの必死さを考えれば納得がいく答えだった。

 

「ユンフくん……」

 

気遣うエイミィにユンフは苦笑を返した。

 

「イヤだな、二人とも。僕が飛び出していくとでも思った?」

「少なくとも、その可能性は否定しきれないだろう?」

 

返事の変わりに溜息を吐き出す。

幼馴染みに嘘をついても仕方がない。

 

「だったら何?任務から外すために僕を引き離したの?」

「まさか。無駄な命令をするほど暇じゃない」

「またまたぁ。心配だったって言っちゃえばいいのに」

「エ、エイミィ!」

 

きょとんとするユンフに、クロノは「とにかく!」と続ける。

 

「逃走経路の確保に長けているのはユンフだ。キミには一足先に、『時の庭園』に向かってもらう」

「武装隊が既に向かっているから、まずは合流してね」

「…はーい…」

 

色々言いたいことはあったが、余計なことを口走って撤回されては困る。

ユンフの性格をクロノがわかっているように、ユンフもまたクロノの性格は理解しているのだ。

チラリと視線をやると真っ直ぐな瞳とかち合う。

 

「頼んだぞ、ユンフ。僕も後から向かう」

「…執務官殿は人使いが荒いなぁ」

 

足元に、魔法陣が浮かび上がる。

ぼやくユンフの口元は緩んでいた。

 

 

◆◆◆

 

 

群がる無人の鎧の隙間を縫って、先へ進んでいく一つの影。

 

「だぁあああっ!変なのばっかり!」

 

いかにくぐつと言えども、少なくともAクラスはあるだろう一撃は、喰らったその時点で命取りだ。

一体一ならともかく、ボウフラのように湧き出てくる鎧兵は避けていくだけで骨が折れる。

 

「きりがない。こういうのはクロノに任せるに限る!」

〈同感だ〉

 

意見が一致するや否や、ユンフは早々に離脱を試みた。

 

「…ずいぶんな熱烈歓迎だね」

 

岩壁に囲まれた通路に転移したユンフは、深く息を吐き出した。

足を踏み入れた途端、四方八方から襲われるし、落ち合うはずだった武装隊はアースラに戻されたというし。

完全にアウェイだ。

 

〈坊〉

「はいはいっと」

 

アグーバに急かされ、ユンフは壁と向き合う。

変なところで責任感の強い相棒なのだ。

 

「未知なる時空、彼の道を照らせ」

 

碧の光が溢れ、一転に収束した。

小さく魔方陣が岩壁の表面を一定に回転している。

 

〈Completion〉

 

呪文を唱えたユンフはそれぞれひし形に結ばれたラインに手をかざす。

魔力の流れは正常のようだ。

これで空間そのものがなくならない限り、アースラの転移ポートに飛べる。

 

「これで僕のお仕事は終了っと」

〈なんだかんだで、順調だったな〉

「でもせっかく溜まってた魔力がまたもやゼロ」

 

またくぐつ兵に行き会ってしまったらと思うだけでぞっとする。

今のユンフとアグーバはもはや身包みを剥がされた状態だ。

 

「増援は?」

〈地下のどでかい魔力に集まっている三つ、他に二つ。あとは入り口に一つ〉

 

地下にいるのは、おそらくプレシアだろう。

だとしたら、最終的に全員がそこに集まるはずだ。

 

「なら、僕らもフェイトのお母さんに挨拶しに行こう」

〈……それまでに敵に遭遇しないことを祈る〉

「やめてよ、アグーバ。口に出すと現実になりやすいってエイミィが言って――」

〈――もう遅い〉

 

下半身を地面に埋め、斧を肩に下げた機械から起動音が鳴る。

行く先を護る守衛兵の巨体が、ユンフの前に立ちはだかった。

 

「うわ…エイミィに当たったって報告しなくちゃ」

〈生きて帰ったらぜひそうしてくれ〉

 

ぎこちなく斧に手を伸ばす守衛兵に、一歩足を引く。

 

「逃げるよ!全速力!」

 

あとは運に頼るしかなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

フェイトがアルフと最深部に到着すると、クロノがプレシアと対峙していた。

プレシアの視線が自分へと向き、フェイトは後ずさりしたくなった。

冷たい目。

 

「母さん」

 

見つめ返すように、一歩、フェイトが足を踏み出した。

自分の出生を知った。

優しかった母に利用されていただけだと突き放された。

それでも、ここに立っているのは言いたいことがあったから。

 

「私は…あなたの作ったただの人形なのかもしれません」

 

言葉にすると胸が苦しくなる。

未だに「大嫌い」と言われた声が頭をリフレインしては、心が悲鳴を上げる。

崩れ落ちそうになるその度に「信じる」って言ってくれた少年が勇気をくれる。

まだ頑張れる。

 

「だけどフェイト・テスタロッサは、あなたに生み出してもらって育ててもらったあなたの娘です」

「だから何?今更あなたを娘と思えというの」

 

冷ややかな視線にフェイトの心は折れない。

真っ直ぐな瞳をプレシアに向ける。

 

「あなたが望むなら。それを望むなら私は世界中の誰からもどんな出来事からもあなたを守る」

 

私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから。

 

たとえ母が娘と思わなくても、フェイトにとっての母親はプレシアなのだ。

だが真正面からぶつけた彼女の気持ちは一蹴された。

 

「くだらないわ」

 

ただ、プレシアは不敵に笑う。

もう、何も聞こえない。

フェイトの意志が砕けようとしたそのとき――

 

「くだらなくなんかない!」

 

傷だらけの少年が声を張り上げた。

 

「ユンフ!」

 

クロノの呼びかけに聞こえていないのか、ユンフはプレシアを見据えている。

バリアジャケットは役目を成さないほどのあり様で、引き摺るようにしている右足と右肩からは少しだが血がこびり付いていた。

 

「茶番に付き合ってる時間はないわ。――全てを取り戻すため、私はアリシアと向かうのよ。アルハザードへ!!」

 

そう高らかに両腕を広げたプレシアの足元が、崩れ落ちる。

 

「母さん!」

 

駆け寄るのをアルフに止められたフェイトの横を、風が通り過ぎた。

 

 

ギリギリのところでユンフは虚空間に吸い込まれていく腕を掴んでいた。

咄嗟に伸ばした利き腕を血が、伝う。

 

「巻き込まれるぞ!ユンフ、手を放せ!」

「嫌だ!!」

 

ユンフは怒鳴り返す。

力が入らない腕を叱咤して、ユンフはプレシアの手首を握る。

 

「今はムリでもいつかは…ッ!生きている限り、可能性はなくならない!だから…っ」

 

(フェイトをフェイトとして見る機会を奪わないで…!)

 

縮めようのない体格差に、徐々にユンフが引き摺られていく。

揺れ始めた大地に、身体ごともっていかれたその刹那。

 

「泥臭いのは人形にお似合いよ」

「……え?――ぐぅッ!!」

 

紫が視界を占め、気がついたら壁に打ち付けられていた。

朦朧とする意識の片隅で、吹き飛ばされたと理解する。

 

「…つぁ」

 

激痛に苦悶するユンフの目に力なく座り込んだフェイトの後姿が小さく映る。

 

「歩けるか?」

「…ちょっと、ムリ」

 

駆け寄ってきたクロノに肩をかり、揺れる地面に膝を立てる。

本格的に崩壊が始まったようだ。

地面はひび割れ、等身大の岩盤が雨のように降ってくる。

 

「脱出ルートは?」

「一つ潰れたからあと三つ、近いのは左の洞穴。――アグーバ」

 

三日月から、碧色の光が一筋伸びていく。

これを辿っていけば、転移ポイントに着く。

 

「急ぐぞ。潰されるのはゴメンだ」

「同感」

 

地震の間隔が狭くなってきている。

次に大きいのが来たら、もうもたないだろう。

 

「フェイト!」

 

アルフの悲鳴に近い叫びに振り返るが、名前の主の姿が見当たらない。否、彼女だけでなく地面がなかった。

高さにして数十メートル。

陥没したそこは、魔法が使えない空間に入りこんでしまったようで、フェイトのみで脱出するのは不可能だ。

 

「……こっちから飛んでいけばなんとかなるさ」

「待て!その身体じゃ無謀だ!」

「だからって、フェイトを放ってなんかおけないだろ!?」

 

クロノの腕を振り解くも、ユンフはふらふらとその場にへたり込んでしまう。

支えなしでは立っている体力さえ残っていない彼がこれ以上酷使しないよう、クロノは素早く担ぎ上げる。

 

「離せ、クロノ!フェイトがまだ残ってる」

「キミも僕も満身創痍だ!僕たちが行っても心中するだけだぞ!」

 

ユンフが暴れるほど、クロノのジャケットが血で汚れていく。それに構うことなく手足をバタつかせるユンフが、軽くなっていく感覚に、クロノは本能的に危険を感じた。だが、クロノが力を込めて抑えれば、ユンフもまた激しく抵抗する。

 

「っ!…こんのッ、…フェイト!手を伸ばせ!僕が今、この分らず屋をぶん殴って駆けつけるから、諦めるな!生きろ!」

「バカ、やめろ!いててっ、噛みつくな!」

「っ!」

 

瞬間、眩暈を起こし意識が遠のく。歯切りし、繋ぎ止めようとするユンフの視界の片隅に、白い魔法使いが舞い降りた。

 

「フェイトちゃん!」

 

空から瓦礫と共に落ちてきたなのはが手を伸ばす。

 

「…フェイトちゃん、飛んで!」

「っ」

 

二人の少女がしっかりと手を掴み取る。

決して放さないように固く。

それを見届けたユンフの意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな海面が、心地よい潮風を運んでくる。

カモメの群れを眺めているユンフのくせっ毛がふわふわと波打った。

 

「……いい天気だなぁ」

 

ほのぼの呟くユンフ。

先の事件から二週間が過ぎた。

クロノの母であり艦長であるリンディのお叱りや、治療に時間を費やしていたため、外に出るのは久しぶりだった。

とはいっても、仕事のうちなのだが。

 

「……ユンフ」

「あ、フェイト。なのはと友達になれたようだね」

 

髪を下ろしたフェイトの手に握られたピンクのリボンを見とめ、ユンフは笑った。

少し離れた休憩所の方では、嬉しそうに黒のリボンをユーノに見せているなのはをクロノとアルフが見守っている。

あれからフェイトとアルフは裁判にかけられることになり、牢屋に閉じ込められていた。

しかし、なのはに会いたいというフェイトの要望を叶えるため、本局の護送に託けて海鳴市に寄り道をしている最中なのだ。

どうやらフェイトが望んだ以上のものを二人は掴み取れたようだ。

 

「…うん。クロノが引っ張ってこいって」

「クロノめ。こしゃくな」

 

フェイト相手なら、素直に従うしかないではないか。

脳内のクロノが勝ち誇った笑みを浮かべる。

ぴょんと高台から飛び降り、ユンフはフェイトに並んだ。

歩き出そうとした足が、止まる。

 

「……フェイト?」

 

シャツの裾を、フェイトが申し訳ない程度に掴んでいた。

 

「あの……私が呼びに来たのは、言いたいことがあって」

「うん?」

「…友達に、なってほしい」

「ほぁ?」

 

鏡があったら、間違いなく今マヌケな顔が映ることだろう。

俯いているフェイトには幸い、気付かれていないようだが、その細い肩は震えていた。

 

「何か勘違いしているみたいだけど……僕とフェイトはもう友達だよ?」

「……え?」

「てぃっ」

 

意外そうな顔をしたフェイトの頭にチョップをくらわせる。

彼女にとって自分は友達未満だったのだろうか。

それはショックだ。

アルフにハンバーグを横取りされたとき並にショックだ。

だが、それはこれから友好度を上げていけばいい話。

叩かれた頭を抑え、目を白黒させる少女にユンフは手を差し出す。

 

「さ、行こう。フェイト」

 

彼女が触れる直前、風が小さくお礼を運んでいった気がした。




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