魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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時間軸はA's。


第5話

草木も水も何もない荒野に、少年がポツンと座り込んでいる。

膝を抱え、顔を埋める小さな身体に、容赦ない強風が吹きつける。

 

何もない。誰もいない。あるのは広大な土地と空。

 

そんな彼一人の世界に、青く長い髪を一つに束ねた女が駆け込んできた。

 

「随分遠くまで、歩けるようになったわね」

「……」

「さぁ、かくれんぼの時間は終わりよ。家に帰りましょう」

 

女が手を差し伸べるが、少年は俯いたまま。

なかなか握られる気配のない腕が痛くなった頃、痺れを切らして少年に一歩近づいた。

 

「…お母さん、迎えに来るって言ったから…」

 

そんな弱々しい声が聞こえ、少年の襟首を掴もうとしていた女は、動きを止めた。

 

「だから、僕、待ってなくちゃ……」

 

寒さに震える身体を精一杯縮めて暖を取り、少年はそこに居続ける。

その小さい後姿は寂しさを必死に誤魔化しているように見えた。

憂いを含んだ瞳で見ていた女は一つ頷き、少年の前に回りこむ。

 

「キミは、待っているだけでいいの?」

「……?」

「お母さんは必死にキミを探している。キミは待っているだけでいいのかな?」

「……お母さん、待っててって…必ず来るって言ってたもん」

 

不安でいっぱいの蒼い瞳が、微かな怒りを女に向ける。

初めて向けられた少年の感情に、女はにっこりと笑顔を返した。

 

「キミはお母さんに会いたいんだよね?」

 

こくり、と小さな頭が動く。

 

「だったら、こんなところにいちゃダメ。自分から会いに行かなきゃ」

「…だけど……」

「お母さんとキミがお互いに努力したら、もっと早く会える。何もしないで待ってるだけなんて無駄に歳とるだけよ?」

「……?大きくなるのはダメなことなの?」

 

年齢の話は早かったかと、女は自虐的な話題を誤魔化し、少年と目線を合わせる。

 

「だからね、早く迎えにきて、僕はここにいるよって教えてあげるの」

「そうしたら、お母さんに会える?」

「ええ、もちろん。キミが頑張れば頑張った分、お母さんにもきっと届くわ」

 

無表情だった少年の頬が微かに緩む。

 

「頑張りなさいね」

「わっ」

 

素直な反応に、くしゃくしゃとかき混ぜるようにして女は彼の頭を撫で回した。

この少年にできる全てをしてあげようと決意しながら、それが己の責任と戒める。

 

凪が、親子のようにじゃれ合う二人を吹き抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラ訓練施設。

壊れかけた建物、殺風景の中、少年と少女が刃を交えていた。

 

「ぎゃぁーー!」

 

否、一方的に攻撃されていた。

 

「くっ、素早い!」

「ちょ、ちょっとフェイト!目が本気だってば!!」

 

次々と繰り出されるフェイトの攻撃から、必死で逃げ続けるユンフ。

最初の内はモデルチェンジしたアグーバで弾き返していたのだが、一撃を防ぐたびに魔力消費が半端ないのだ。

よって、今のユンフは強化魔法に全てを注ぎ、己の身一つで猛攻をかわしていた。

 

「アグーバ、なんとかして!」

〈できるならとうにやっているッ!〉

 

一度距離を取ろうとユンフだったが、運悪くその足下には瓦礫。

 

「のわっ!」

 

着地のバランスを崩し、決定的な隙ができる。

そこへすかさず、フェイトのサイズスラッシュが迫りくる。

避けないと致命傷になる攻撃に、ユンフはせめてものあがきで身体を捻り――。

 

『タイムアップ!』

 

スピーカー越しのクロノの声にピタリと、止まる両者。

光の刃の切っ先が、ユンフの脇腹を威圧している。首の皮――いや胴の皮一枚繋がった状態だ。

とはいえ、無事なのは身体だけで服はバッサリ。とても風通しがよかった。

…所詮は服。命にはかえられない。

 

『終了だ。二人とも引き上げてきてくれ』

「た、助かったぁ……」

『このあとは裁判の打ち合わせが控えている。着替えて、食堂に集合だ』

「えー?休ませてよー…」

 

催促するクロノに愚痴りつつ、ユンフはバリアジャケットを解除する。

同じく、バルディッシュをスタンバイフォームに戻したフェイトが苦笑を浮かべた。

彼女にとってはクロノの行動は全て自分のためにしてくれていることなので、ユンフの味方にもなれないのだ。

 

「…ごめん」

「なんでフェイトが謝るの?悪いのは僕の身体を労わってくれないクロノだよ。それより、違う言葉がほしいな」

「…お疲れ様、ユンフ」

「うん。フェイトもおつかれさまー」

 

もともとこの模擬戦を提案したのはユンフだった。フェイトが嘱託魔導師になれば裁判の刑も軽くなるだろうと勧めたのだ。

フェイトもアルフと一緒にいられるならと承諾したのだが、試験までの模擬戦の相手が問題となった。

クロノは裁判の弁護や執務官の仕事で忙しく、ユーノは補助魔法がメインで戦闘はちょっと…と、すっかり板についたフェレットモードで辞退。

だったらアルフを、と推薦したユンフの意見は有無を言わさぬクロノが否定した。

『使い魔と組んでの戦闘能力を試されるんだから、ダメに決まってるだろ』と。

 

「まったく、フェイトの優しさをクロノも見習って欲しいね…」

「そうか。だが、ここは心を鬼にして明日からはアルフを入れての模擬戦にしよう」

「…これまた立ち聞きとは人が悪い」

「何を言う。なかなか来ないキミたちを迎えに来たんだ」

 

室内に取り付けられたデジタル板には、戦闘が終了してから既に30分が経過していることが表示されていた。

もう少しゆっくりしたかったのに、という心の声は呑み込んでおく。

 

「さぁ、行くよ。ユーノとアルフが待っている」

 

目を光らせたクロノに、ユンフは肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

昼時を過ぎたせいか、食堂にいる人はまばらだった。

アースラの食堂は普段どこにそんなに人がいるのか疑問に思うほど混雑し、「昼は戦場、夜の宴会」と呼ばれている。つい先日、それに巻き込まれ、半泣きと放心状態となった主従コンビはトラウマになったらしい。

 

全員揃ったのを確認し、クロノが裁判の内容を纏めた文書を人数分配る。

 

「明日の裁判にはユーノやユンフ、僕も証人として召喚される。念のため、この書類に目を通しておいてくれ」

 

無罪確定とエイミィに言われている裁判だが、真剣な表情で一同は頷いた。一人を除いて。

 

「う~ん、やっぱりオムライスは最初が肝心だよね」

「…おい」

 

向かいの席に呆れ返った視線をクロノは向ける。

スプーンをくわえたユンフは、湯気の昇る卵にケチャップで装飾中だ。

 

「少しは真面目に聞け!」

「だって、クロノの命令でごはん抜きで運動してたからお腹ぺっこぺこ」

「説明を終えてからにすればいいだろう?ああ、もう!ケチャップを飛ばすな」

 

ユンフの手元にある書類を、クロノが素早く取り上げる。

だが、ユンフは気にも留めずに、卵に絵を描いていく。

もはや二人のやり取りは見慣れたもので、フェイトは隣から彼のお皿を覗いた。

 

「…これってユーノ?」

「ぴんぽーん!フェレットバージョンのね」

「そっくりだね、こりゃ」

「ユンフは昔からこういうことには長けているんだ」

 

エイミィの前だと、食事に待ったをかけられたりするほどだ。

ふにゃっとふやけた笑みを浮かべ、ユンフはケチャップの絵がない部分を掬い取る。

 

「ユンフって実はすごかったんだねぇ…」

「感心するほどじゃない。つけあがらせては面倒だ」

 

見ている者まで嬉しくなるほどの笑顔でオムライスを頬張るユンフを一瞥し、クロノが即答する。

 

「いや、でもさ。あたしとフェイトは少しだけど一緒にいたのに、全然知らなかったからさ」

「戦闘スタイルについては僕も同意見」

 

フェイトとの模擬戦を観戦していたユーノがアルフに相槌を打つ。

C、B、A±、AA±、AAA±、S…といったように魔導師にはランク付けがされている。だが、ランク間は+、-といった記号で表されていても実力は天と地ほどの差がある。

それにも関わらず、AAAであるフェイトと互角で戦っているのだ。

A+だというユンフのランクを誰しも、一度は耳を疑いたくなる。

 

「確かにユンフは体術、反射能力などはエースクラスだが…」

「極端に魔力が少ないから、フェイトやクロノ級には防御魔法が紙切れに等しいんだよねー」

 

先の模擬戦でもシールドが、フェイトの砲撃に触れた瞬間に霧散したのがその証拠だ。

だからこそ、受け止めるのではなくて回避する体術でカバーしなければならない。

身体能力が優れているのは当然ともいえる。そうしなければ死あるのみ。

 

「それでもA+のランクは驚きだよ。魔力値を差し引いても、総合的に見ればAAくらいは…」

「フェレットもどきの予想は正しい。正確に計ったわけではないが、少なくともAA+は見越せる」

「どうしてA+のままなの?」

「それは…」

 

理由を知っているクロノは、米神を押さえる。

フェイトの疑問に食べ終えて満足なユンフに視線が集まった。

 

「魔法構成の能力判定が研修生以下なんだって。失礼しちゃうよね」

「それじゃあ、魔法の構築をユンフはしていないってこと?」

「というより、感覚で使っているんだ。細かい調整はアグーバがしている。ったく、使えているのが不思議だよ」

「どうだ、まいったか」

 

クロノの説明に胸を張るユンフを見て、やっぱりすごいのでは?と思う一同だった。

 

 

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