魔法少女リリカルなのは Conviction   作:のんべんだらり

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第9話

「これはまた…。締め出されちゃったねぇ」

〈坊はいつものんびりしすぎなのだ〉

 

張り巡らされた結界を外からユンフは見上げていた。

しかも味方からというのが、なんとも情けない。

クロノに呼ばれて転移してきたのだが、どうやら転移指定に誤差があったようだ。

 

「仕掛けたのは管理局だから、入るのは問題ないけどさ」

 

その後の行動を考えると積極的に行きたくはないものである。

 

「フェイトたちが戦っているんだから僕は戦力外通告だと思うんだけど、どうだろう」

〈坊の悪いクセだな。あとで執務官に怒られても知らんぞ〉

「クロノの説教は長いんだよねぇ。でも、なんか…気分がのらない」

 

気分屋のようで聞こえは悪いが、ユンフはどうしても気が進まない。

踏み入れたが最後、後戻りはできないような…。嫌な予感が走る。

 

「って、そんなわけないか」

〈デバイスモデル〉

「行こう、アグーバ。弱気になってる場合じゃなかったね」

 

とはいってもフェイトはシグナム、なのははヴィータ、アルフはザフィーラとそれぞれ既に戦闘開始していた。

前回からの因縁の相手同士、白熱した気迫が遠くにいても伝わってくる。

 

「…完全にあぶれ者じゃん、僕ら」

〈いや、そうでもないようだぞ〉

「………」

 

仮面をつけた男が、ユンフの前に現れる。

この気配には覚えがある。

 

「前に監視してた人、かな?」

「……」

「できれば戦いたくない相手なんだけど…疲れるし」

 

腕を突き出す仮面の男の反応にユンフは肩を竦める。

逃がしてはくれなさそうだ。

 

「僕って意外と要注意人物?」

〈お邪魔虫の間違いだろう〉

「違いない」

 

短剣から大剣へとなったアグーバを構え、腰を落とす。

仮面の男を見据え――

 

「っ!」

 

慌てて刃を横っ面に引き寄せる。

仮面の男の右腕を払い、勢いを殺さず体を逸らすと、その軌道上を鋭い蹴りが通り過ぎた。

時間にしてほんの数秒に満たない攻防。

 

「なにあれ、速すぎ。ムリムリムリムリ」

 

射程距離から離れ、首を振るユンフ。

言うほどに余裕がないことは、柄を伝わってくる痺れでアグーバはわかっていた。

スピードについていくのが精一杯。いつまで防げるかわからない。相手が本気で来るならば。

 

「こうなりゃ、玉砕覚悟で…」

 

魔力が少ないユンフでは圧倒的な力の差は見えている。

しかし、対抗策も練りあがらない間に仮面の男が飛び掛ってきた。

 

「ちっ!」

 

今度は魔力を纏った攻撃に、掠った右腕が焼けるような痛みを訴える。

構ってられないとばかりにユンフは剣を握りなおし、刀身を上下に大きく振り下ろした。

瞬時に距離をとる男の動きは既に読んでいた。

追いすがるように下ろした剣を回し、今度は地平に平行に振りかざす。

 

「ロストレスワールド!」

 

翠を帯びた刃がユンフを中心として、なぎ払われる。

間違いなく線上に捉えた感触があった。致命傷とまではいかなくとも、離脱する時間としては十分。

 

「よし、これでなのはたちの助太刀に――」

〈まだだ!〉

「ぐっ!」

 

後方から背中を叩きつけられ、地面に急降下する。

それを突き上げんと、掌がユンフの胸に入る。

 

「ふん、詰めが甘いな」

「げほっげほっ」

 

アグーバが張った防御陣のお陰で、辛うじて意識を保っているユンフは仮面の男を見上げた。

霞む視界で、腕が振り上げられる。

 

「…異端児の片割れもこの程度、か」

 

全身に強い重力を受け、ユンフは直下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、無機質な天井が迎えていた。

 

「…全身が千切れそう」

 

骨は折れていないようだが、打ち身だらけの体は起き上がろうとするだけで悲鳴を上げた。

 

「気がついたか?」

「…クロノ?」

 

ほっとしたような表情でクロノは備え付けのパイプ椅子を引き寄せる。

滅多に見ない幼馴染みの顔色に、彼が思う以上に重傷ではないことに僅かに居心地の悪さを感じた。

 

「アグーバは?」

「マリーが見てる。……修復には時間がかかるそうだ」

「……そっか」

 

ユンフが大きな怪我がなく、クロノと会話していられるのは、ひとえにアグーバのお陰だった。

ほんの秒コンマで、高速移動を二重に構築し、直撃コースから逸らす時間を作ってくれた。

その分、彼には負荷をかけてしまったようだ。

 

「相手は仮面の男か?」

「…うん。手も足も出なかったよ」

「となるとオーバーSクラス。厄介だな」

 

少なくともAAA+なら引き分けにもっていける実力を、クロノは身を持って知っている。

そのユンフが一方的にやられたのだ。

 

「考えを改めないといけないな」

 

立ち上がり、ユンフに服を渡す。

 

「これから司令部で会議なんだが、キミにも出席してほしい。動けないわけじゃないだろう?」

「そりゃそうだけど…僕が行く必要あるの?」

「顔くらい見せてやってくれ。……随分、気にしていたようだからな」

「?」

 

クロノの口調は、どこか苦々しかった。

 

 

◆◆◆

 

 

今回案件の相手は、ロストロギア第一級指定、「闇の書」。

因縁とでも言うのだろうか、はたまたクロノの執念が呼び込んだのか。

痛む身体を引きずり、席に着いたユンフは説明を続ける友人を見やった。

 

「闇の書には主を護る守護者がいる。それが今戦っているヴォルケンリッターたちだ」

「でもクロノ、シグナムたちは自発的に行動しているようだったけど…」

 

自分達の意思で、魔力を蒐集しているようだった。

 

「だが彼らは人でも使い魔でもない。魔法技術で作られた疑似人格プログラムにすぎない、はずなんだが…」

「疑似生命…。それって私みたいな…?」

「それは違うわ。あなたは命を受けて生まれた人間でしょう」

「でも、私はアリシアのクローンで…」

 

俯き加減のフェイトの言葉を遮るように、テーブルが大きく音を立てた。

拳を叩きつけた人物をなのはは恐る恐る振り向く。

 

「ユンフくん…?」

「ん?ああ、ごめん。なんか久しぶりに、カチンときちゃって」

 

冷静な蒼い瞳に見据えられ、フェイトはたじろいだ。

 

「フェイトがそう思うのは勝手だけどね…」

 

普段の呑気そうな表情から一変した彼の雰囲気に、なのはたちは口を挟めずにいた。

 

「キミの命を大切に想う人たちがいるんだ。その人たちにとって今の言葉は侮辱さ」

 

そう言ってユンフは立ち上がる。

無言で出て行く背中は、全てを拒絶しているように見えなくなった。

 

「フェイト」

 

泣きそうになっていたフェイトは、顔を上げる。

 

「フェイトはフェイトだろう?それを君が一番よく理解しなくて、ユンフでなくても怒る」

 

彼は命の重さを一番に考えている。

飄々としているが、なのはが襲われて一番責任を感じているのをハラオウン親子とエイミィは知っている。

 

「…ごめんなさい」

「その言葉はユンフに言ってやってくれ」

 

フェイトは、ぎゅっと膝の上の手を握りしめる。

ユンフの目を思い返すと、胸がたまらなく苦しかった。

 

 

◆◆◆

 

 

「いだいー、身体がー…」

〈怪我人が感情に任せて動くからだ。…坊らしくない〉

「…だよね。でも、フェイトは一つの命だ。彼女自身がそれを否定するなんて、あんまりじゃないか」

 

憤慨するユンフは人通りが少ない道をずるずる身体を引きずるようにして歩く。

気持ちが高ぶり呼吸は荒いが、歩調が遅い。

 

(坊も、変わったな…)

 

些細な変化だが、彼が5歳の頃から付き従ってきたアグーバにはわかる。

昔から感情豊かではあったが、ここまで怒りを表に出すことは数えるくらいしかなかった。

これも彼女らの影響なのだろう。

 

「あれ?はやて」

「お、ユンフくんやないか~、昨日ぶりやね」

 

買い物袋を膝に乗せたはやては、器用に車椅子を動かす。

 

「今日も家族の人はいないんだね」

「最近、忙しそうでな。みんな外出しとる」

「はやてはそれで納得?」

「当たり前やん。わかりきったこと聞かんといてや」

 

にこにこと笑うはやての顔をユンフは見つめる。

数秒後、瞬きをしたと思ったら一転、子どもっぽい笑顔を向けた。

 

「ねぇ、はやて。探しに行こうよ」

「なにを?」

「八神家の愉快な家族たち」

「わざわざ行かんでも、待っとったら帰ってくるで」

「ダメ!今すぐ会いたくなった!!」

 

胸を張るユンフをはやてはぽかんと見上げる。

彼は唐突に何を言い出しているのだろう。

 

「せっ、せやけど、私、車椅子やし…」

「関係ないね!僕が押していく」

「みんながどこにおるかわからんやろ?」

「ん~、適当に歩ってたらそのうち見つかるかも!」

 

なんて楽観的な…。

唖然とするはやては、彼を止められない不自由な足がこのとき以上に恨めしく思ったことはない。

そんなはやての胸中を知らぬユンフは車椅子の後ろに回りこむ。

 

「ちょ、待った!ほんまに行く気か!?」

「勿論。僕、待つのは嫌いな性質でして」

「んな…っ」

 

更に言い募ろうとしたはやての前に、逆さまの顔がドアップになる。

 

「待ってるだけじゃ何も変わらないよ」

「……っ」

 

息を呑み、俯いたはやての頭を二、三回ほど軽く叩くユンフ。

 

「探しに行こう?会ったら、探しに来ちゃいましたって言えばいい。むしろ、いつまで待たせるのかと文句を言うべき」

「…しゃーないなぁ」

「それじゃ改めて。……八神探検隊、しゅっぱーつ!!」

 

合いの手はないが、ユンフは車椅子を進めていく。

反論はなかった。

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