「俺の思い描く魔術師っつーのはよ、絵本みてぇに命を賭けてたった一人の女の子を守る、そんな漢を貫き通すのが魔術師って奴だ」
真夏の昼間なのにも関わらず、不気味な空気が周囲を支配していた。そして、その空気を生み出している張本人は怒りの笑みを満面に浮かべながら対峙するステイルへ言葉を紡ぐ。
「だが、どうやら……てめぇは違ったみてーだ。20歳じゃねーのに煙草は吸うわ、年上に敬語も使えねぇ。なにより、回収うんぬん……人をモノ扱いしやがる。そんな腐った野郎にインデックスを渡す気ねーぞ、ステルス!!」
静雄は道路標識を力いっぱい握り締め、もう片方の手でビシィッ! とステイルに向かって指を差す。
腹の中に溜まっている怒りのエネルギーがぐつぐつと煮えたぎる。いつ爆発してもおかしくはない。
「僕の名はステイルだ。しっかりと頭の中に刻め。これから殺す相手の名を、ね。炎よ――」
「勝手にほざいてろ。これから死ぬのはてめぇ……だ!!」
静雄の足元のアスファルトが爆ぜる。道路標識を構えた人間が撃ち込まれた弾丸のように敵に向かう。
ただ一直線に、相手を壊す。その目的だけのために爆発的な加速を見せる。仮に相手が避けようとしても静雄はそんな時間を与える間もなく、完膚無きまでに相手を木っ端微塵にするだろう。
勢いに任せられ、静雄の片手に握られた道路標識がブンッ! と凄まじい音を立てながらステイルに振り下ろされ――なかった。
「――巨人に苦痛の贈り物を」
「おいおい。まじかよ……」
道路標識がステイルの手に握られている灼熱の炎剣によって受け止められていた。いや、受け止められていたという言葉は正しくはない。炎剣に触れた道路標識がひしゃげたのだ。
ステイルは下卑たように微笑むと同時に炎剣を静雄に横殴りに叩き付けた。それは触れた瞬間にカタチを失い、凄まじい爆発を引き起こした。
*
「魔術師を相手に怪力と道路標識だけで立ち向かうその勇気は褒め称えよう。でもそれだけでは僕には勝てない。と言っても、もうこの世にはいないだろうけどね」
街中で堂々と魔法を使ってしまったステイルは頭をぼりぼりと掻いた。全身から汗が噴き出す。ついカッとなって魔法を使ったが、インデックスまで巻き込んではいないだろうか、という嫌な予感が頭の中を渦巻く。
「やり過ぎたかな……?」
背後を振り向いて、神裂に視線を向けると目を大きく見開き、何かに驚いた様子だった。
ステイルは首を傾げながら前を振り向くと灼熱の炎と黒煙の中、傷一つない人間が立っていた。こめかみに血管を浮かべたまま、ただ静かに笑みを浮かべている。
背筋が一瞬で凍りついた。目の前に人の皮を被った悪魔がいる。
「おい」
今までに感じたことのないような恐怖がステイルの身体中を包み込む。しかし、それは瞬間的なものだった。
「が、はっ!?」
意識が飛びかけた。
背中に凄まじい衝撃が走り、一瞬、息が止まった。ステイルは何が起こったのか理解出来なかった。
ダンプカーとぶつかったかのような衝撃に襲われたかと思えば、次に目を開くと地面に身体が叩き付けられていたのだから。だが、そんなことよりも――。
(な、なぜ……生きているんだ!? 摂氏三〇〇〇度の炎だぞ、常人が生きていられるわけがない! ん……あれは)
「まさか、インデックスを庇ったのか……!?」
数メートル先で瞳から涙を溢れさせているインデックスの姿をステイルの視線は捉えた。
インデックスの目の前にはおびただしいほどの大量の血の水たまりが出来ている。もちろん、インデックスのものではない。となれば残る一人の人間のものでしかなかった。
「おい、俺に魔術やらを仕掛けるのは構わねぇ。だけどよぉ、インデックスにまで仕掛けることはねーだろ?」
灼熱の炎の中、静かに笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ姿は大魔人そのもの。
ステイルからは静雄を真正面にしか捉えていないから見えないが、静雄の背中は焼けただれて血まみれだった。
*
静雄は背中の激痛で意識を失いかけていた。
(危なかったな……後一秒でも遅かったら、インデックスが丸焦げになってたじゃねぇか。あれ? やべぇな、血を流し過ぎたか。クラクラするな、さっさとアイツをぶっ殺さなきゃやべぇ)
道路標識が無くなった今、静雄の武器は素手のみ。素手でも充分に首を飛ばすことは出来るが、これ以上素手を使えば背中の痛みで意識を失ってしまうだろう。
もしここで意識を失えば、インデックスは奪われる。奪われてしまえば上条当麻に申し訳ない。
「てめぇのおかげで頭に上った血が抜けたぜ。冷静に考えてみりゃあ、魔術師だって人間だったな」
「ふん。そんな当たり前のことが分かったからって何が変わる?」
「あぁ? 車が直撃して生きてる奴なんざいねーよな? ってことだゴラァ!!」
近くにあった車に向かって爆発的な加速で近づき、足をふり抜く。轟音とともに車は一直線にステイル目がけて飛んだ。
直撃したであろう車は嫌な音を立てながら爆発し、周囲に凄まじい熱波と黒煙が再び立ち込めた。静雄はインデックスへと振り向く。涙をぼろぼろと地面にこぼす様子を見て、ポケットからハンカチを取り出して手渡す。
「ありがと……」
「悪いな。少し焦げてるけどよ、涙拭くくらいは出来んだろ。さて、あのクソ野郎も死んだし、今度こそ昼飯を――。あれ? おかしいな、身体が……」
静雄の意識は暗転した。