【新装版】GR:DED   作:雁野 命

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#03

(もう少しだけ待ってて、未来)

 

ボブカットの少女──立花響(たちばなひびき)は半年振りに強い焦りを感じていた。何時ものように定期健診を終えて親友とも呼べる幼馴染からの連絡に出てみれば、緊急事態を告げる内容、となればこの半年ほど大きな戦いのなかった響には寝耳に水と言うべき状況であった。

 

(でも、今のわたしじゃ……)

 

親友を救いたい、と言う響の心情はもっともであったが、彼女の体は度重なるシンフォギアでの戦闘によって(むしば)まれており、なるべくなら戦闘を控えるように厳命されていたのだった。だが、それでも。

 

(わたしは、未来を守る!)

 

決意とともに駆け出す響。その歩みに迷いはなく、その心のままに導かれるような最速で最短で真っ直ぐに一直線な足取りであった。

 

「──響ッ!こっち!」

 

「ッ!?未来ッ!」

 

不意にかけられた声に目を向ければ見慣れた──しかし、どこか何時もと違う焦りを含んだ未来の無事な姿に安堵したのも束の間、続く言葉に緊張を深める。

 

「まだ、あっちに私を助けてくれた人が!……でも──」

 

「わかった!……でも?」

 

未来の言葉に強く頷いた響は胸に手を当て聖詠(せいえい)を唱えようとするが、言葉を選ぶように悩むその姿に動きが止まる。

 

「多分、もう大丈夫かもしれない」

 

「?それって──ッ!?」

 

どう言うこと、と問いかけようとした響だが、廃墟の方から気配を感じて動きが止まり、自然と体ごとそちらに向き直る。そして、それにつられて未来も目を向けると、そこには先ほど別れた一騎の姿があった。

 

「あ!あの人、さっきの!?」

 

「へ?あの人が?」

 

「えっ、と、どうも、さっきの人です?……でいいのかな?」

 

困惑しながらも頭を下げる一騎の姿に、状況が分からず困惑する響と、何を問うべきか迷う未来と言う混沌とした状況が生み出されていた。そして、意を決したのか、未来は一度、深呼吸をすると一騎の方に向き直った。

 

「あの、さっきのアルター使いの人はどうしたんですか?」

 

「アルター……あ、先ほどの人たちですか?……それなら、あちらで倒れてますよ」

 

「へ?」

 

「……」

 

予想外の返答に思わず間抜けな声を上げる響と対照的に難しい顔になる未来。その姿に気づいたのか、一騎が口を開く。

 

「あの、それで、つかぬ事をお聞きしたいんですが……」

 

「え、っと、はい、何ですか?」

 

未だ唖然としていた響だったが、何事かを考えている未来が応えないことに気づいてかろうじて答えると一騎は安心したような表情を浮かべる。

 

「その、ここは、どこなんでしょうか?」

 

「えっと、ここは東京の旧リディアン音楽院で、今は、ええと、特別指定封鎖区域、そう呼ばれている所です」

 

困惑しかけながらも出した未来の返答に対して、うーん、と唸る一騎。数十秒ほど悩んだ挙句、肩を落とす。

 

「──ダメだ、何も思い出せない……」

 

「これは──」

 

「もしかして──」

 

二人にとっては当然ながら自然な反応にしか見えず、その姿に違和感は感じられない。そして、そこから導き出される結論は一つである。

 

「「──記憶喪失?」」

 

「どうも、そうみたいですね」

 

なんてことないかのように言う青年の言葉に、完全に予想外の事態に直面した二人は顔を見合わせて困惑するしかなかった。

 


 

「(一騎、()れは如何言う事だ?)」

 

(どう、と言われてもな)

 

わたしじゃどうにもならないのでちょっと待っててください、と響に言われたのが数分前。とりあえず、三人は迎えの車と後処理専門のチームが来るの近くのベンチで待っていた。

 

「「「……」」」

 

「(随分と肩入れしているようだが?)」

 

ベンチに座る響と未来──誰が座るかはじゃんけんで決まった──そして所在なさげに立つ一騎の三人の間に妙な沈黙が流れる中、そんな空気を意に介さず一騎に対する追求を深めるゴースト。言外に、使命を忘れていないか、と聞かれているような質問に心の中で頭を抱える。

 

(他意はない。旧リディアン(ここ)の変化もそうだが、先程のアルター使いの件といい、状況が不透明すぎる……不本意だが、流石に今回は深入りするしかない)

 

「(成程。ならば、次は如何する?少なくとも此の辺りに転生者の気配は無いぞ?)」

 

(だが、()の目星は付いている。なら、奴らの行きそうな場所を当たるだけだ……もっとも、そこにいる確証はないがな)

 

やっと先に進める、と安堵したのもつかの間、結局、転生者の居場所については何も分からずじまいである、と言う結論に辿り着き辟易(へきえき)する一騎。

 

(まったく……儘ならんものだな)

 

「あの、ちょっと、いいですか?」

 

内心でため息を吐きつつ押し黙る一騎の姿を緊張していると勘違いしたのか、ベンチに座る響が声をかけた。

 

「はい、何ですか?」

 

「あの、何か覚えてることとかないのかなー、って思って」

 

あ、まずは自己紹介ですかね、と軽く笑う響だったが、待ってください、と一騎がそれを手で制する。

 

「?どうしたんですか?」

 

(やはり、小日向未来に警戒されているか……やむを得ん、か)

 

神妙な面持ちの一騎に対して不思議そうな顔の響と何かを警戒する未来。その姿に危険信号を感じた一騎は内心でまた、ため息をついた。

 

「その、お二人に言わなければならないことがあります」

 

「……それって、さっきのアルター使いの人と何か関係があるんですか?」

 

「はい、もしかしたら──いや、確実に僕は普通の人間ではないかもしれません」

 




●#03について
・半年ぶりの出動
作中の時間軸としてはXV(5期)の後ぐらいの春先をイメージしていますが、転生者の介入で状況は大きく変わっているため、現在のS.O.N.G.は実質活動停止中です。詳しくはのちのエピソードで説明されます。

・響の状態
作中で明言されている通り、いくつかのイベントがカットされているため、体内のガングニールを使っています。ただし、ほとんどの事件を転生者が解決することから戦闘回数も減っているため、何とか生きています。

・記憶喪失
調査をするにあたって一騎の使うカバーの一つです。今後も原典から極端に外れた世界だと情報収集のために使うこともあると思いますが、ゴーストの様子を見ると一般人以外には使ったことがなさそうです。
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