司令室と銘打たれた部屋で、先ほど終わった一騎のメディカルチェックの資料を読む赤のカッターシャツの男──
「医学、現代科学、
ひとまず検討を保留として、資料から顔を上げた弦十郎は事態を聞いて真っ先に飛び出した
「まったく、響の奴、何のために翼を休業させていると思っているんだ」
一体、誰に似たのやら、と誰に言うでもなく呟いた弦十郎はもう一度、資料を眺める。写真と聞いた情報ではただの記憶喪失の好青年にしか見えないが、去年、
「やはり、会ってみなければわからないか」
理屈で考えればHOLYに預けるべきである。しかし、弦十郎は己の判断基準である直感で見極めるために一騎との面談を行うことを決める。そうと決まれば行動あるのみ、弦十郎は資料を置くと一騎を呼び出すべく内線をかけるのだった。
エレベーターを降りてから医務室でメディカルチェックを受けさせられた一騎は、結果が出るまで時間がかかる、と言う名目で近くのソファーで座って待機していた。
(まぁ、司令の判断待ち、と言ったところか)
実際に結果が出るまで時間がかかるものもあるだろうが、少なくとも、まともな組織であればどこかの機関に引き渡すか判断している可能性も大いに考えられる。だが、彼個人の意見で言えばこの時点でどこかへ引き渡される可能性はないと考えていた。
「(随分と呑気なものだな)」
(ここに来る前も言ったが、この状況では下手に動けん)
それに、果報は寝て待て、と言うからな、と心の中で呟きつつ何とはなしに周囲に目を向ける姿は、事情を知らないものからすれば秘密基地と呼ぶにふさわしいどこかSFチックな設備を珍しがっているようにも見えた。
「外狩さんですね?」
ふと横合いからかけられた声に目を向けるとスーツ姿の男──
「はい、そうですけど」
「司令が話したいことがあるそうで……着いて来ていただけますか?」
一騎は静かに頷いて立ち上がる。特に会話もないまま先導する緒川に着いて行くと司令室と銘打たれたプレートのある扉の前で立ち止まる。そのまま緒川が扉の脇のボタンを押すと、二回ほど呼び出し音が鳴った後にその上部のパネルに通話中の文字が表示される。
「緒川です。外狩さんをお連れしました」
『わかった、入ってくれ』
通話中の表示が消えるとドアが開き、どうぞ、と緒川に促されるまま室内へと入ると、弦十郎のデスクの前まで進む。案内を終えた緒川が、失礼します、と一礼をしてから退出すると、座っていた弦十郎が立ち上がる。
「外狩一騎くんだったな。俺は風鳴弦十郎、ここの責任者をしている」
「どうも、外狩一騎です。それで、お話と言うのは……?」
まぁ、座ってくれ、と促された一騎が向かい合わせに置かれたソファーへと腰掛けると弦十郎も向かいのソファーに座る。
「話と言うのは他でもない、君の体のことだ」
「!?何か、分かったんですか!?」
演技には思えない程の立ち上がり兼ねない勢いで身を乗り出す一騎を手で制する弦十郎。その表情は申し訳なさそうに曇っていた。
「いや、君の期待に沿えなくて悪いが、検査では異常は見つからなかった」
「……そう、ですか……いえ、検査していただいただけでもありがたいです」
「そう言ってもらえるとこちらとしても助かる」
「(此の世界の技術で我らを捉えることは出来ぬ)」
(その心配はしていない……が、ゴースト、この先は少し大人しくしていろ)
「(此の男は
(ああ、相手は
目に見えて気落ちした様子を見せるもすぐに気を取り直す姿を見せた一騎に多少、安堵する弦十郎。だが、その表情の中に一握りの緊張が垣間見えたことで内心で警戒を強める。
「そこで、だ。君に一つ聞いておきたいことがある」
「?何でしょうか?」
「カズマ──シェルブリットのカズマと言う名前に聞き覚えはないか?」
「……カズマ……シェルブリット……うっ、頭、が……」
「ッ!?大丈夫か!?」
シェルブリットのカズマ、予想していたその名前にあえて大げさに反応を示す一騎。頭を押さえて苦しむ姿に流石の弦十郎も動揺する。
「は、はい、何とか」
「そうか……それで、何か思い出せそうか?」
呼吸を整えながら答える一騎の姿にひとまず安堵する弦十郎。水差しから注いだ水の入ったコップを渡しつつ尋ねるが、それを受け取った一騎は、いいえ、とかぶりを振って答える。
「……でも、はっきりとは思い出せないんですが、どこか聞き覚えのあるような気がします……教えていただけませんか、そのカズマと言う人のことを」
●#05について
・HOLY
アルター使いが存在するため、それに合わせて存在しています。原典ではHOLDの特殊部隊ですが、警察機構としての役割が主体ではないため、今作では国連の組織として扱っています。
・去年
要するに転生者がS.O.N.G.に合流したタイミングです。なお、今回、新装版を作るにあたって見直したところ、時系列的に少し怪しかったため、去年の表記に修正しました。
・あの風鳴弦十郎
一騎から謎の畏敬の念を抱かれていますが、シリーズを重ねるごとに最強キャラとしての立場を確固たるものにしていることから、作者としても正当な評価だと思います。