「これは、どう言うことだ?」
白衣を着たメガネの男──ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス、ウェル博士とも呼ばれるこの人物は数時間前に本部のあるフロンティアへと連行されて来た外狩一騎と言う異能を持つ男の検査結果に困惑していた。だが、HOLY技術部のトップであり、天才的な頭脳の持ち主でもある彼の胸中には自らの理解を超えた現象に少々の苛立ちと強い知的好奇心の疼きが渦巻いていることを感じていた。
「ふむ、生物学的には完全に人間ですが……融合症例でもなければアルター使いでもない。この男、外狩一騎とは、一体……?」
F.I.S.時代からのデータや過去に壊滅させた結社の持っていた錬金術に関する資料と照らし合わせるが、当然ながら関連性は見られなかった。
「少なくとも異端技術の類ではなさそうですし、むしろ、私の専門分野なのですが……もし、これが人間を超人へと進化させるものならば、あるいは……ククク」
嬉々としてデータをまとめるウェル博士。ともすればマッドサイエンティストにも見えかねないその姿は、他に人のいない彼の研究室においては誰にはばかる必要もないのだった。だが、そんな彼の城にも訪れる者はあるのか軽いノックの音とともにドアが開く。
「失礼します。ドクター、本部長が報告をお待ちですが……」
「……少し、待っていてもらえますかねぇ」
「っ、申し訳ありません!……ですが、何分、今回は上層部にとっても異例の事態でして、一刻も早く判断材料が必要なのです」
部屋に入った職員は、自身の研究を邪魔されたウェル博士の怒気を含んだ言葉に萎縮するが、自身の仕事を果たすために一応の弁解を試みる。
「……すみません、少々、気になる点があったもので。では、こちらをどうぞ。ああ、詳細なデータはメインサーバーに移してますから、何かあればそちらで確認してください」
「あ、ありがとうございます。では、失礼しました」
一転して穏やかな表情になったウェル博士から印刷してあった資料を受け取った職員が退出すると、ため息をついたウェル博士はモニターに目を向ける。
「外狩一騎、私が英雄になるためにアナタの命を有効活用させて頂きますよ」
強い狂気を宿した笑みを浮かべながら画面に映る一騎の写真とHOLYの衛星監視システム──通称、ホーリーアイが一瞬だけ捉えた燃え盛る髑髏──ゴーストライダーのぼやけた写真を強く見続けていた。
「いい加減、何か言ったらどうだ!」
肉を打つ鈍い音が尋問室に響く。陰が出来ないように照明で照らされた中心で殴られて倒れこむのは手錠で後ろ手に縛られた一騎であり、傍らに立つHOLYの制服を着た尋問官の男は殴った拳をさすっていた。
「ったく、あれからもう何時間になると思ってんだよ……?もうすぐバルベルデだぞ?」
「おいおい、あんまりやりすぎんなよ」
あまりにも動じない一騎の姿に気味の悪さを覚える尋問官に対して後ろから
「わかってるっての。あのウェル博士からのお達しとあっちゃ俺らは従うしかないからなぁ」
下っ端は辛いぜ、と笑いあう二人の耳に
「おい!勝手に動くな!」
「どうせ何も出来ないんだから大人しくしてろよ」
口々に文句を言いながら一騎に近づく二人。倒れている一騎を両脇から引き起こしているところで一騎が小さく口を開く。
「……何時だ?」
「あぁ?」
「今は何時だ、と聞いている」
コイツ……!、と怒りを滲ませる右側に立つ尋問官だったが、まぁまぁ、と宥める左側の尋問官は腕時計を確認する。
「え~っと、お、もう19時か。日本で捕まえた訳だから……ええっと、バルベルデと日本の時差って何時間だ?」
「12時間だ。つーか、本部支給の腕時計なら自動で現地時刻になってるっつの」
それもそうか、と納得する相方に呆れる右の尋問官。気が抜けたのは一瞬だったが、一騎の前でその一瞬は致命的だった。
「そうか、なら──」
一騎の体の表面が炎に包まれる。一騎を支えていた尋問官たちは突如現れた熱を感じない炎に呆気に取られる。その間に一騎の体はゴーストライダーへと変身を遂げた。
「──俺の時間だ」
地獄の底から響くような声で告げたゴーストライダーは手錠を引きちぎると、両脇の尋問官を殴りつけて昏倒させる。手錠の破片を投げて監視カメラを壊したゴーストライダーはコンクリートに倒れ伏す尋問官を置いてドアを蹴破り外へと出た。
(まずは、動力炉だ。
「(職員は如何する気だ?)」
(猶予を作る。俺たちなら出来るだろ?)
「(然り、だ)」
手早く相談を終えたゴーストライダーは迷いのない足取りで通路を進んでいくとその先から複数の呻き声が響く扉があった。その上部には丁寧に動力室と表記されており、周囲の扉には動力棟と書かれており、AとBに分けられていたその先からも呻き声が聞こえていた。
(この声は……?)
「(罪人も居る。如何やらアルターを無理に引き出されているようだ)」
(……なるほど。こちらで正解だったようだな)
ゴーストライダーが静かな怒りを湛えてドアを蹴破ると部屋の中央にはコンクリートで舗装された台座とエネルギーを発する大きな球体が目に入った。周囲にはガラス張りの一人部屋が幾つも作られており、その中では老若男女問わず苦しんでいるアルター使いと思われる姿が見受けられた。
「あれが動力炉。いや──」
中央の球体へ進むゴーストライダーだったが、ただならぬ気配を感じて立ち止まると球体からにじみ出るように黒い怪物が現れる。
「──ネフィリムか」
轟音。そう呼ぶのが適切としか思えない咆哮を上げるその姿は怪獣と言われても違和感の無い威圧感を
「来るか。落とし子よ」
警戒しているネフィリムは棒立ちのまま問いかけるゴーストライダーの言葉に反応して咆哮とともに跳びかかる。
「怪獣とは──」
巨体から繰り出される体重が乗った右手の爪による攻撃。成人男性を優に超える大きさの腕から振るわれた
「──
ゴーストライダーはそのまま心臓を握りつぶすとネフィリムの全身を炎で包む。断末魔の悲鳴を上げる間もなくネフィリムを焼失させた炎は中央にある球体を包みそのまま浸食するように周囲の地面や壁にも溶け込まれていく。その炎──ヘルファイアはあらゆる物を燃やし尽くす地獄の業火そのものであり、あらゆる無機物をゴーストライダーの武器として変貌させる超常の炎であった。そして、その炎を受けたフロンティアは今やゴーストライダーの手中にあるといっても過言ではなかった。
「……さて、これでいいだろう」
数秒ほど集中していたゴーストライダーが顔を上げると周囲で響いていた呻き声が止み、全ての部屋の電子ロックが解除される。周囲から戸惑う声が聞こえる中、ゴーストライダーが球体を殴り壊すと、その轟音に人々の視線がその原因であるゴーストライダーへと集まる。
「ここは沈む。お前たちは自由だ」
聞こえないはずの距離でさえ、いやにはっきりと聞こえた声に歓喜するアルター使いたち。暴威から解放され、立ち上がるその歓声を背にゴーストライダーは次なる標的の元へ向かうのだった。
●#04について
・ウェル博士登場
HOLYを立ち上げるにあたって技術部門のトップとしてカズマが選んだため、HOLYの所属になっています。一応、監視の名目もありますが、ネフィリムに浸食されていないため、本部に軟禁される程度で済んでいます。
・ホーリーアイ
初期版ではこの場面のみHOLYアイ表記だったため、上記の形に統一しました。どう使っているか明言していませんが、設立からの期間の短さを考えるとアルター使いの集中する地域に限定して使用している可能性はあります。
・日本と南米の時差
決戦の舞台を南米と決めていたため、日本で買い物をさせて時間をつぶさせました。
・ネフィリム
今作では起動すらせずに事件が解決している可能性があるため、アルター使いの力で強制的に起動させているイメージです。