【新装版】GR:DED   作:雁野 命

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Vol.1:Knight of Gilt
#01


住宅街から少し離れた公園。当然、夜になれば人気のなくなるこの場所に一人の少女──市ヶ谷有咲(いちがやありさ)が特徴的なツインテールを揺らして駆け込んできた。公園の真ん中まで進み、息を整えながらもしきりに背後を気にする様子は何かから逃げているようにしか見えなかった。

 

「ゼェ、ハァ……こ、ここまで、ハァ、来れば──」

 

大丈夫、と言いかけたところで背後にドスン、と重い物──例えば人間ぐらいの──何かが落ちたような音がした。音だけならまだしも何者かの気配を感じた有咲は祈るような面持ちで恐る恐る振り返る。

 

「──ひっ!?」

 

いた。悪魔のような見た目をした怪物が、甲高く(おぞ)ましい咆哮(ほうこう)のような奇声を上げる。その距離、およそ5m。人間相手ならば逃げられなくもないが、相手がこの世の道理の外にあるであろう怪物であればそれも怪しい。

 

「……は、はは」

 

そればかりかここまでの逃走で体力を消耗し、怪物に怯え完全に足の(すく)んだ彼女には尚更、難しい話である。

 

(……何だ、コレ。生徒会で遅くなっただけなのに、急に怪物に追いかけられるとか……もしかして夢だったり──)

 

悲鳴を上げることすら頭にないのか、恐怖と混乱で青ざめた顔のまま立ち竦んでいる有咲に対して怪物がにじり寄る。

 

「ひいっ!?──っ痛、やっぱ夢じゃねー!?」

 

突然のことに驚き有咲は反射的に数歩後ずさりしたところで足がもつれて転んでしまう。痛みで正気に戻ったが、腰が抜けてしまった状態ではどうすることもできず、徐々に近づいてくる怪物に怯えることしかできない。

 

(ヤバい、絶対ヤバい!でも、どうしろってんだよ~!)

 

咄嗟(とっさ)に周囲を見渡すが、どこにも人気はなく、状況を打開してくれるものは見当たらない。戻した視線が怪物と合うとその瞬間、表情のわかりにくい怪物がニヤリ、と笑ったように見えた。

 

(あぁ、みんな悲しんでくれるかなぁ。うん、香澄(かすみ)は泣くな、絶対。りみなんかも号泣しそうだし、紗綾(さあや)もなんだかんだで泣きそうだなぁ。おたえも……ま、まぁ、流石に泣く、よな?つか、ばーちゃん、これから一人で大丈夫かな?……いや、ダメだ、まだ死ねない!)

 

一瞬、諦めかけるが、最後の抵抗のつもりか有咲は涙目になりながらも睨みつける。

 

「ち、ちくしょー!!こんな所で死んでたまるかー!!」

 

精一杯の虚勢で叫ぶ有咲に対して怪物は甲高い叫び声を上げて飛びかかる。

 

「~~っ!?」

 

反射的に目をつぶった有咲は衝撃を覚悟した。しかし、予想していた衝撃はなく、代わりに正面からドン、と何かを突き飛ばしたような衝突音と遠ざかる苦しそうな叫び声に違和感を覚えた。

 

「大丈夫か?」

 

「──えっ?」

 

正面からかけられた労わるような声に恐る恐る目を開ける有咲。そこには白いコートを着た少年が手を差し伸べて立っていた。よく見ればその背後、5mほど先に怪物らしき姿が転がっているのが目に入った。

 

「怪我はなさそうだけど、立てるか?」

 

「えっ、と……す、すいません。こ、腰が抜けちゃって」

 

すぐには状況が呑み込めない有咲だったが、自分を助けてくれたと思しき少年の手を借りてなんとか立ち上がる。

 

「あ、あの!ありが──」

 

「気を抜くな、勇牙(ゆうが)!」

 

「ぬあっ!?指輪がしゃべった!?」

 

「わかってるよ、ザルバ。キミ、危ないから下がってて」

 

驚く有咲を庇うように勇牙と呼ばれた少年は怪物の転がっていった方へ向き直る。それにつられて有咲も目を向けると先ほどの怪物が立ち上がっている姿が見えた。勇牙に対して睨みつけるような視線を向ける怪物は獲物をとられた怒りか、はたまた敵対者に対する防衛本能からか大きく咆哮を上げて飛びかかった。

 

「危ないっ!!」

 

「させるかよ!」

 

勇牙は白いコートの裾を(ひるがえ)すとどこからか取り出した鍔のない赤鞘の長剣──魔戒剣(まかいけん)を突き出して飛びかかってきた怪物を突き飛ばす。鞘のままとはいえその鋭い突きを受けた怪物は先ほどの位置まで吹き飛ばされていた。

 

「……すげぇ」

 

「まだまだ、こんなモンじゃないぜ」

 

感嘆する有咲に気をよくした勇牙は得意気に鞘に入ったままの魔戒剣をクルクルと回して見せる。戦いの場においては油断にしか見えない無駄な動きではあったが、その動きが洗練されたものであることは素人である有咲の目にも明らかであった。

 

「おい、素体相手とはいえ油断しすぎだぞ!」

 

「大丈夫だって、あれぐらいなら片手でだって──」

 

「あ、前、前!!」

 

「へ?」

 

勇牙の左手に()められたスカルリング──ザルバの忠告もどこ吹く風と聞き流す勇牙だったが、有咲の声に前を向くと素体と呼ばれた怪物が公園の外へ飛び去って行く所だった。

 

「あぁーー!!」

 

「ハァ、だから言わんこっちゃない」

 

「……何なんだよ、この状況?」

 

どうすっかなー、頭を抱える勇牙とそれを見て呆れるザルバ。命を狙われた恐怖と目の前のコミカルなやりとりとのギャップについていけず混乱するばかりの有咲だったが、あ、と声を出して急に顔を上げた勇牙と目が合う。

 

「ところで、キミ、大丈夫──って、もしかして生徒会の市ヶ谷有咲?」

 

「え?はい、そうですけど──って、この間、職員室であった、えぇーっと……」

 

「あー、そういえばちゃんと名乗ってなかったな」

 

落ち着いてみれば面識のある人物だったことに驚く二人だったが、名前を思い出そうと努力する有咲に対して申し訳なさそうな表情になった勇牙は改めて向き直る。

 

「俺は3年A組の冴島(さえじま)勇牙。そして──」

 

「そして、またの名を黄金騎士(おうごんきし)・ガロ!で、俺様がお目付け役のザルバだ」

 

「黄金騎士……ガロ……」

 

「おい、俺のセリフをとるなよ、ザルバ」

 

「いや、これは俺様のセリフだろ」

 

ああだこうだとザルバに文句を言う勇牙だったが、ガロの名を噛みしめるようにつぶやく有咲を見てうーん、と唸ると一度ため息をつく。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「あー、いや、流石にこのまま返すのは危ないかなー、と思ってさ」

 

「あ、危ないって……?」

 

「違う違う、流石に放り出したりしないって!そうじゃなくて、有咲さえよければ家まで送ろうか、って話だよ!」

 

危ない、と言う単語を聞いて大きく反応した有咲の表情が青ざめていることに気づいた勇牙は身振り手振りを交えて慌てて訂正する。

 

「……へ?な、何だ、脅かすなよ~~!って、すいません、先輩にタメ口とか失礼でしたよね?」

 

「いや、そっちの方がしゃべりやすいなら、俺は構わないけど…ははっ」

 

「あの~、私、何か変なこと言いましたか?」

 

安心したのか砕けた口調になったことで逆に慌てる有咲だったが、急に笑いだす勇牙に不安げな視線を向ける。

 

「いや、思ったよりフランクと言うか荒っぽい感じだなー、と思ってさ」

 

「ぬあっ!?こ、これは、その~クセ、と言うか何というか……」

 

「ところでお二人さん、いつまで立ち話をしているつもりだ?」

 

あはは、と照れくさそうに笑ってごまかす有咲に内心でほっとしている勇牙。そんな二人を見かねたザルバの言葉に勇牙は、あー、と小さく唸った。

 

「……それもそうだな。んじゃ、家まで送るよ」

 

「あー、そう、ですね。その、お願い、します……ん?つーか、何で指輪がしゃべってんだよ!?」

 

異性に送ってもらう、と言うなれないシチュエーションに一瞬、意識してしまう有咲だったが、それよりもしゃべる指輪という非常識にツッコミを入れる所が彼女らしいとも言える。

 

「おいおい、今更かよ?」

 

「まぁ、それは道すがら話すよ。それじゃ、遅くなると親御さんも心配するだろうし、早く行こうか。」

 

勇牙に促されて公園を出て帰途へと就く二人。だが、遠ざかっていくその後ろ姿を物陰から風に舞う灰とともに見つめる怪しげな人影に気付くことはなかった。

 




●#01解説
・時系列
アニメの2期ぐらいのタイミングをイメージしていますが、具体的な時期は決めておらず、春から初夏にかけてのどこかと考えています。

・ガロ転生者
冴島姓が多いため、今作でもそちらを採用しました。典型的なガロ転生者のイメージで本質的に魔戒騎士としてズレているところがポイントです。

・風に舞う灰
この素体ホラーの出番はここで終わることを示す一文です。やった人間についてはのちのエピソードにて語られます。
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