「以上、回想終了!いやー、危なかったー」
電車に飛び乗ったデッドプールは窓ガラスを割って何とか車内に潜り込んでいた。周囲に人は居ないが、前後の車両には僅かながら人気が感じられる。座席で一息つくデッドプールの周囲を薄っすら赤色になっている人魂が抗議するように飛び回る。
「(危なかったー、じゃねーよ!何か無いはずの左手が痛いんですけど?!)」
「あー、もしかして、元々、もう一人の俺ちゃんの体だから、痛みも共有してるのかもなー」
あ、初めてだった?、と何故か照れながら茶化すデッドプールに表情のないはずの人魂がげんなりしているようにも見えた。
「まーまー、どうせ直に治るだろうし、このまま電車に乗ってりゃアイツも追ってこれないから安心しろって」
「(はあ!?ゴーストライダーだったらヘルバイクがあるだろ?電車ぐらいじゃ追いつかれるって!)」
どうしよう、と今度は薄っすら青くなりながらバタバタと慌てたように飛び回る人魂に噴き出すデッドプール。
「おいおい、アイツは一般人には手が出せない。つまり、人が多い場所とか事故が起きたらヤバい場所なら安全、ってことよ」
俺ちゃんあったまいいー!、と上機嫌なデッドプールに、なるほど、と納得して大人しくなる人魂。完全に安心しきった二人は笑いあう。
「(いやー、よかったよかった。ところで、もう一人の俺ちゃん、って何?)」
「いやいや、多重人格って言ったらやっぱ、相棒!かもう一人の~だろ」
手首を止血しつつ、ああだこうだと言い合う二人だが、少しすると妙な違和感に気づく。
「(なぁ、相棒。何か変な音がしないか?)」
「もう一人の俺ちゃんもそう思うか?……何かすっごく嫌な予感がするんだけど」
その時、突如、頭の遥か上から轟音が響く。咄嗟に頭を出したデッドプールと人魂は自らの選択を後悔した。そこには、遥か上空にヘルバイクに
「(なぁ、何であんな高さにゴーストライダーがいんの?)」
「あー、あの高さなら、どんな速度でも人は巻き込まないなー」
すごいなー、と感心した様子の二人だったが、その姿を見たゴーストライダーがチェーンを伸ばしたことで正気に戻る。
「ヤッベ、引っ込め!」
「(うおっ!?)」
何とか引っ込んだ二人だったが、全身が隠れるよりも早く右手にチェーンが絡みつく。その瞬間、勢いよく引っ張られるデッドプールは窓の外へと姿を消す。
「ウゲッ!?」
「(デップー!……って、俺もかあぁぁぁ!?)」
チェーンに引っ張られるデッドプールに引きずられて外に出る人魂。勢いよくヘルバイクに引きずられるその姿はさながら
「(デップー、早く腕切って逃げようぜ!)」
「いや、武器持てないから無理だっての!つーか、落ち着け!」
焦る人魂に対して比較的落ち着いているデッドプールの姿に何とか平静を取り戻す人魂。だが、状況は依然としてデッドプールたちに不利であった。
「地の文、うるさい!よく聞け相棒、俺たちがまだ焼かれてないってことは、チャンスがあるってことだ」
「(地の文……もういいや。とりあえず、何か策があるんだよな、デップー?)」
「あぁ、あるぜ!とっておきの策がなぁ!」
「グエッ!?」
「(ぬおっ!?俺まで痛ぇ)!」
人に見つからないように小一時間ほど空を飛んでいたが、閑散としたビル街で地面に叩きつけられたデッドプールとそのダメージを共有して痛がる人魂。ヘルバイクから悠然と降り立ったゴーストライダーは冷たい視線で二人を見つめていた。
「道化、お前の自由はここで終わりだ」
「ちょ、ちょっとタンマ!」
冷たく言い放ったゴーストライダーに対してデッドプールは焦ったように止まるように訴える。
「何だ?」
「最後に、俺ちゃんの話を聞いてくれないか?」
必死な物言いのデッドプールにゴーストライダーの足が止まる。
「何故だ、俺に話を聞く必要はない」
「いいのかなー?俺ちゃんがこのまま死んじゃうと、朝には罪もない人々も犠牲になっちゃうんだけどなー」
聞いてくれなきゃ仕方ないなー、とわざとらしい口調と芝居がかった仕草のデッドプールにゴーストライダーは怒気をはらんだ冷めた視線を向ける。
「何をした……!?」
「おーこわ。まぁ、ちょーっと黙って俺ちゃんの話を聞いてくれれば、爆弾の場所を知ってる人を教えるからさー」
聞いてくんないかなー、と脅迫するデッドプール。心なしか、隣に浮かぶ人魂ですら冷たい視線を投げかけているようだった。
「いいだろう。お前の罪から探していては時間がかかる」
「ヨシ!んじゃ、まず、アンタ等についての話だ」
こっからは長台詞だから、よく聞けよ、と前置きしてから深呼吸するデッドプールは芝居がかった調子で話し始める。
「アンタ等、本当にゴーストライダーか?」
「どう言う意味だ?」
「言葉のまんまさ。アンタ等、ゴーストライダーって割にはバイクに乗ってるクセにMCUみたいにスリングリングみたいの使ってるしさー。ぶっちゃけ、何版よ?って感じ」
「それに何の意味がある」
べっつにぃー、と少し不機嫌そうな態度を作るデッドプールだが、飽きたのか、じゃ、次の話だ、と急に態度が切り替わる。
「では、事の起こりは──まぁ、いつでもいいや。ともかく、大事なことはアンタ等がゴーストライダーになった原因だ」
「(デップー知ってんの!?)」
「まーな。細かいことはさておき、光の柱に飲み込まれる世界、アレがアンタ等と相棒の世界、そうだろ?」
「……それがどうした」
愛想ねぇなぁ、と不機嫌になるデッドプールだったが、その返答から、それが図星であることは見て取れた。
「んで、その時に使った刻印、ってのを、どろろみたいに集めてる。ってことでいいか?」
「(それ、ドラゴンボールでもよくない?)」
「……」
沈黙は肯定として受け取るぜ、とどこかで聞いたような言い回しをしつつ、真実を引き出すデッドプール。その姿はさながら推理を披露する名探偵のようだった。
「ピッカッチュウ!……アレ、ウケない?ま、いいや。ともかく、アンタ等はその刻印さえ回収できればいいってことだろ?」
「何が言いたい?」
「つまり、刻印だけ回収して俺ちゃんを見逃してくんない?」
そして、名探偵が推理の果てに行きついた結論は命乞いであった。やらかした後のような居た堪れない空気がその場を支配していた。
「(……デップー)」
「えっ、何?俺ちゃん、地の文に言われるくらいやらかしたの?」
「……刻印は世界を蝕む力だ。それは世界の命を吸って万物を創造する」
人魂にすら呆れられて狼狽えるデッドプールのあまりの居た堪れなさにゴーストライダーがポツリと口を開く。
「?つまり、どういうことよ?」
「刻印の力は特典と歪んだ世界を生み出してそれらを維持する。|転生者
故に裁く、と宣言したゴーストライダーは怒りに燃える眼でデッドプールを睨みつける。この瞬間、その場の空気は完全に変わった。
「あー、コレ完全に失敗だわ」
「(どーすんのさ、デップー!)」
「まーまー、今、次の手を──」
「次はない」
「へ?」
慌てる人魂と悩むデッドプール。そして、その姿から何かを読み取ったのか、冷たく言い放つゴーストライダー。その眼はまっすぐにデッドプールを睨みつけていた。
「お前の話は推理で構成されていた。つまり、お前は過去や未来の壁はせいぜい数日しか越えられない」
「!?……ナンノコトカナー」
「そして、今日一日、お前は罠を仕掛ける余裕も頼む素振りもなかった。つまり、爆弾は嘘だ」
「……」
「(デップー……?)」
「沈黙は肯定と受け取る」
完全に意趣返しされた形となったデッドプールは言葉を失い俯いて立ち尽くす。慌てる人魂を無視して悠然と近づくゴーストライダー。勝敗は決したかに見えた。
「残念、今回は俺ちゃんの勝ちだ」
●#03について
・完全に安心
今回の誤字修正です。初期版だと完全が安全になっており、普通にうっかり見逃していました。ちなみに、後に出てくる私刑は誤字ではなくリンチのことなので読みやすいようにルビを振っておきました。
・名探偵
デッドプールの俳優であるライアン・レイノルズさんが名探偵ピカチュウでピカチュウの声をしている、という中の人ネタです。正直、文章だと伝わりにくいですが、デッドプールならやりそうだな、と思ったのでやらせました。
・推理対決
デッドプールの推理はいい線いっていましたが、詳細は違います。詳しい説明はのちのエピソードでしますので、初期版の#08をお読みいただくか、新装版のVol8までお待ちいただけると幸いです。