「残念、今回は俺ちゃんの勝ちだ」
「っ!?これは……!」
ゴーストライダーの驚愕も無理はない。なぜなら、昇りゆく朝日によって照らされたゴーストライダーの左半身の変身が解けているからであった。
「時間稼ぎはこのためか」
「そういうこと、俺ちゃんの粘り勝ち!──ぶげっ!?」
勝利宣言をするデッドプールだったが、自分の体を陰にした一騎は右手だけゴーストライダーに変身してデッドプールを殴り飛ばす。
「いや、まだだ」
「よくもやりやがったな!──ってアレ?」
勢い良く立ち上がったデッドプールは残った右手でクイックドロウをしようとしたが、その手は空を切る。よく見ればホルスターは両方とも空になっており、刀も片方しか持っていない。
「(デップー、電車の時持ってたっけ?)」
「あ」
あんな乗り方したら落とすわな、と諦めムードになる人魂だが、そこは歴戦の傭兵であるデッドプールはやる気だった。その間に一騎が3m程の距離まで迫る。
「うるせぇ!左手なんていらねぇ!ハジキだって捨ててやった!野郎、ぶっ殺してやる!」
「(デップー、それ死亡フラグ!)」
「来い、俺の時間はまだ終わっていない」
残った右手に刀を持って意気込むデッドプールとチェーンを巻いた左腕を軽く前に出す三体式に近い構えの一騎。狩る者と狩られる者を決める戦いの火蓋が切って落とされた。
「そりゃっ!」
「っ……」
先攻はデッドプールだった。二歩踏み込んだ右薙ぎの一撃は片手にも関わらず、人一人を殺すには十分な威力と速度を持って放たれていたが、一騎は左足を半歩下げて仰け反ることで剣戟を回避すると、右足で踏み込みつつチェーンを巻き付けた左腕を刀の峰に添えて外へ思い切り受け流す。
「あ、っと、あぶねぇだ──ぶふぉっ!?」
受け流されたことで態勢を崩すデッドプールの左脇腹に一騎の右フックが刺さるが、直前に手首から先のない左腕でブロックされる。しかし、その間にガラ空きになった顔面に対して一騎が頭突きをかまし、デッドプールがたたらを踏む。
「てめ──ぬおっ、おりゃぁっ!」
「っ!?」
チャンスとばかりに払って引いていた左腕でアッパーを狙う一騎だったが、それを察したデッドプールが大きく仰け反ることで回避する。そして、起き上がる勢いで右の刀を突き出すが、一騎が左足を引いて半身になったことで薄く脇腹を切るだけに留まった。
「もらった!──第三部、完!」
一騎が避けた瞬間に刃を内側に向けたデッドプールはそのまま一騎の腹目掛けて左薙ぎの一撃を振るう。腕の力だけで振るわれた一撃だが、生身の一騎が当たれば致命的である。
「やらせん!」
「なっ──ウゲェ!?」
デッドプールが驚くのも無理はない。なぜなら、半身になった状態から即座にバックステップしていた一騎は、そのままの勢いの右フックをデッドプールの顔面に叩き込んでそこを起点に加速し、倒れこむように剣戟を回避したからだ。そして、殴られたデッドプールもバランスを崩して自身の右側に倒れこむ。
「あ~、痛ってぇ~。おまっ、顔ばっか狙うんじゃねーよ!」
「急所を狙うのは当然だ」
既に起き上がって構える一騎と顔を抑えて立ち上がるデッドプール。ダメージではデッドプールの方が大きく見えるが、日が昇り切るまでに倒さなければならない一騎の方が決め手に欠ける分、不利ではあった。
「ようやく、俺ちゃんを褒める気になった?」
「(やはり道化だな)」
「へっ、何とでも言いな」
どうせ勝つのは俺ちゃんよ、と強気なデッドプールだが、実際に太陽が昇りつつある現状を見ればその自信も納得である。
「こっからは本気で行くぜ!」
大きく踏み込んだデッドプールは右手の刀で上から打ち下ろすように叩き切る。力任せの一撃だが、予想よりも大きく踏み込まれたため、一撃目を躱しきれずにチェーンを巻いた左腕で防ぐ。
「そりゃ!そりゃ!どりゃ!こいつで!どうだ!コンチクショウ!」
二発、三発と打ち下ろされる剣戟に少しずつ一騎の態勢が崩れていく。都合、八発目の剣戟で流石の一騎も膝をつく。
「んじゃ、とっとと俺ちゃんに主役の座を明け渡しな!」
止めとばかりに振り下ろされる一撃。そのまま当たれば生身の一騎はひとたまりもない容赦のない攻撃は、たとえ盾や剣を持っていたとしても防ぎきることは難しいだろう。そして、その一撃が近づいたその瞬間。
「ゴバァッ!?──何だ、こりゃ、あ」
吹き飛ぶデッドプール。数m吹き飛ばされて木に激突して止まったその体は、胴体に大きな穴が開き、傷口の周囲は炭化していた。切られたはずの一騎の方を見ると連撃を受けたチェーンはボロボロだが、その体には傷はなく、右手には煙を上げながら元の形に戻る、切り詰めたショットガンが握られていた。
「策を使うのはお前だけではない」
一騎のしたことは簡単だ。デッドプールが振りかぶることで出来た陰で一部変身した右手に持ったヘルファイアで強化したショットガンを接射した。それだけであった。
「ま、まさか……昼間の準備、ってのは──グアッ」
「(デ、デップー──ぐえあっ!?)」
咳き込みながら状況を理解したデッドプールに対し一騎は足を狙ってショットガンを撃ち、立ち上がれなくなったデッドプールに対して悠然と近づく。
「ああ。この世界では簡単に手に入ったぞ」
「クソッ、対策も、ゼェッ、万全かよ……」
何と言うことはない。一騎の取った対策とは大げさに動かないことで描写せずに強化を行う、メタフィクション的な観点で行動する、と言うものであった。
「さて、どうやらお前たちも一つに戻ったようだな」
一騎の言葉で周囲を見渡したデッドプールは人魂がどこにも見当たらないことに気づく。
「あ、相棒、は?」
「痛みで消えたようだな」
これで問題なく消せる、と冷たく言い放つ一騎。歩きながらリロードを済ませる一騎は呆然としているデッドプールの前に立つ。そして、状況を理解したデッドプールはすでに勝敗は決したことを感じていた。
「ハァ……まいった、全年齢じゃ下ネタも出ないな」
「(其の心配はいらん)」
「お前の出番は終わりだ」
木陰に入った一騎は刀を蹴り飛ばしてから服を掴んでデッドプールを引き上げると、ゴーストライダーに変身する。
「う、ぐ。そうだ、最後に一つ、忠告だ」
「何だ?」
「
急がないと先を越されるぜ、と真面目な声色で告げるデッドプールに訝し気な様子のゴーストライダー。
「何故、俺に忠告する?」
「なに、ただの気まぐれさ」
俺ちゃんはトリックスターだからな、とどうやってかマスクを着けたままウィンクするデッドプールに呆れた様子を見せるゴーストライダーは、そうか、とだけ返すと
「ぐ、あ……」
「……流石に、骨が折れた、な」
「(ああ、だが、
変身が解除されると疲れた表情の一騎が近くの木に寄り掛かる。一晩中、正確には20時間近く活動を続けた人間であればこの疲労も当然である。だが、一度、深呼吸をした一騎は、関係ない、と短く答えて直ぐに木から離れるとゲートを作り出す。
(何があろうと、転生者なら殺すだけだ)
「(もう行くのか?)」
(当たり前だ──俺たちに休む暇はない)
自身の覚悟を改めて宣言した一騎はゲートを開くと、目の前に来たバイクに乗り込み、次の転生者のいる世界へと刻印の反応を追って走り出すのだった。
●#04について
・時間稼ぎ
今作を読んだ方なら思いつきそうな対処法ですが、あらかじめゴーストライダーだとわかっていないと使えない作戦ではあります。実際、有効な作戦ですがそれなりに運は絡んでいるので、この場合はデッドプールという要素があって初めて成立する作戦と言えます。
・生身での戦い
今回は珍しく生身での戦いのため、あまり派手な演出はせずにアクションを説明するイメージで書きました。動かし方には苦労しましたが、一騎自身の戦闘能力がプロ相手に通用する、という実績を作れたので、悪くはなかったと思います。
・答え合わせ
対処法の答え合わせですが、作者がこの手法を取らせることはあっても、キャラクターが自発的に行動する形は他ではなかなかできないんじゃないかと思います。この方法が可能な理由は今作の第四の壁の説明にある通り、あくまで干渉する力なので知っていればそのように動ける、というだけの話です。
●タイトルについて
Merc with a Mouth:饒舌な傭兵
・#01の解説にもある通り個人誌のタイトルにもなっているデッドプールの別名ですが、新装版になってタイトルをつけるにあたって他に思いつきませんでした。
・Mercは傭兵を意味するMercenaryの略ですが、言うほど傭兵でもなかった気がします。
●転生者について
ウェイド・ウィルソン(16歳/男)
・デッドプールの能力(ヒーリングファクター、戦闘技術、第四の壁の認識)を特典に選んだ男子高校生で生前は男子大学生だった
・武偵高校でヒロインたち相手に好き勝手に振る舞うつもりだったが、強すぎるデッドプールと魂が半ば融合してしまっている
・ウェイド・ウィルソンの名前で強襲科に所属する2年生でAランクだが、原作メンバーと同じクラスでバカ騒ぎをしている
・デッドプールのコスチュームを着て二挺拳銃と二刀流で戦うが、普段からその姿であるため、周囲から変な人だと思われている
・ウェイドとしての実力やアメコミ等の知識を持ってはいるが、映画版基準で転生者と混じっているため、能力は落ちている
・ページを遡ったり、先を読んだりは出来ないが、転生者の持つサブカル等の知識を持っている
・肉体年齢はウェイドに近くなっており、見た目もほとんどウェイドだが、マスクで隠しているため、クラスメイトは判別できない