【新装版】GR:DED   作:雁野 命

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Vol.6:Dropping the Sun Part.1
#01


転校初日の朝、不安と緊張と一握りの期待に押しつぶされそうになりながら、赤紫色のロングヘアーをハーフアップでまとめた少女──桜内梨子(さくらうちりこ)は自らの通う浦の星学園への道を歩いていた。

 

(……新しい学校、かぁ)

 

別に前の学校が特別好きだった訳ではないが、急に住み慣れた街を離れて見知らぬ沼津の街まで連れて来られたとなれば、彼女の複雑な心境も理解できるというものである。

 

(でも、空気は悪くないし、ご飯も美味しい。それに、やっと()()()()にも会える……!)

 

案外、沼津も悪くないかも、などと浮かれる梨子。先ほどまでの不安も何処へやら、心なしか足取りも軽く、見える景色も輝いて見えるようだった。だが、それも十年前に別れた幼馴染のヒロくんに再会出来るとなれば仕方のないことであった。

 

(そういえば、あれ以来会ってないけど、分からなかったらどうしよう……?)

 

途端に不安になる梨子。一度浮かんだ疑念は消えず、ぐるぐると良くない想像が頭の中を占める。そう思うと、また複雑な気分が彼女の表情を曇らせていた。ああでもないこうでもない、と内心で頭を抱える梨子。だが、そんな彼女の懊悩(おうのう)もバス停の前に立つ後ろ姿を見るまでであった。

 

「……ヒロ、くん?」

 

「え?……ってことは、もしかして、梨子?」

 

梨子の言葉に振り返る少年、まじまじと彼女を見るその顔に梨子の表情は途端に明るくなる。その少年こそ彼女の幼馴染、ヒロくん──松平広樹(まつひらひろき)その人であった。

 

「うん!久しぶり、だね!……えっと、その、お、大きくなったね!」

 

「大きく、って……まぁ、十年も経てばな。つーか、そっちも、うん、見違えたな」

 

「見違えた、ってどう言う意味よ!……フフッ」

 

色々と言いたいことはあったはずだが、緊張のあまり口をついて出てきた言葉でどこか気恥ずかしい雰囲気になってしまい噴き出す二人。ひとしきり笑いあうと二人にあった妙な緊張感は無くなっていた。

 

「そういえば、ヒロく──あ、ヒロくんのままで、いい、よね?」

 

「お、おう。まぁ、今さら苗字とかで呼ばれてもな」

 

「ヒロくんも浦の星なんだ」

 

「あー、そうだな、まぁ、静真も統合されたしな」

 

どこか照れくささが残っているのか少しだけ硬さの残る二人だが、制服から同じ学校であることが分かって、また、同じ学校に通えるね、と嬉しそうな顔の梨子にまんざらでもない様子の広樹。新しい平和な日常の始まりとしては申し分ない朝だった。──梨子の背後に忍び寄る影がなければ。

 

「広樹君、おはよう!」

 

唐突にかけられた声の方を向くと二人の元に走って来る橙色の髪で左側頭部に黄色いリボンの付いた三つ編みの少女──高海千歌(たかみちか)の姿があった。

 

「おーっす」

 

「お、おはよう、ございます……え、えぇと、ヒロくん、この人は?」

 

突如現れた千歌に妙な危機感のようなものを抱きながら恐る恐る広樹へ問いかける梨子。

 

「あー、こっちは千歌、こっちに来てからだから、十年くらいの友達だな。で、こっちは梨子、東京に居た時の幼馴染」

 

「初めまして、わたしは高海千歌、よろしくね!」

 

「ど、どうも、桜内梨子です、よ、よろしく……」

 

やけに積極的な千歌に対して若干及び腰な梨子。対照的な二人だったが、バスがやって来た事でそのやりとりも中断される。

 

「じゃ、行こっか!」

 

「おう、ほら、梨子も早く」

 

「う、うん、今行く!」

 

さっさとバスに乗り込んだ千歌と広樹、それに続いて慌てて乗り込む梨子。先に乗った二人はグレーでウェーブの入った髪のボブカットの少女──渡辺曜(わたなべよう)の座っている席へとまっすぐと進む。

 

「あ、広樹くんと千歌ちゃん、おはヨーソロー!……ってそっちの子は?」

 

「曜ちゃんおはよう!」

 

「おーっす。えーっと、俺の幼馴染で今日転校して来た梨子だ」

 

「お、おはよう、ございます……えっと桜内梨子です、よろしくお願いします」

 

また現れた親し気な女子の姿に内心穏やかでない梨子だったが、それを押し殺して挨拶をする。

 

「梨子ちゃんかー。わたしは渡辺曜!よろしくね!」

 

少し様子のおかしく見える梨子の姿を緊張していると感じたのか笑顔で挨拶を返す曜。ひとまず挨拶を終えた四人は曜の座る席とその前に分かれて座ったところでバスが出発する。四人がしばらく取り留めのない雑談をしていると、ふと何かを思い出したのか、あ、と曜が声を上げる。

 

「そういえば、知ってる?理事長が戻ってくるらしいよ?」

 

「あー、あの人戻ってくるんだ?」

 

「理事長?」

 

曜の口から、理事長と言う学生があまり気にすることのない人物が話題に上がることに、違和感を覚えた梨子はオウム返しで質問する。

 

「理事長、ってどんな人だっけ?」

 

「……えーっと、千歌ちゃん、ほら、去年の入学式の時の凄かった人だよ」

 

鞠莉(まり)さんだよ。ほら、俺たちの一つ上の三年生で、学校ために外国に行ったりしてる、あの人」

 

「あー!あの人!」

 

「……何だか、凄い人みたいね……」

 

凄かった、だけでは何を指すのか分からない梨子の頭に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだったが、広樹の説明を聞いても具体的なイメージがつかないようであった。

 

「まぁ、どうせその内どこかの行事で出るだろうし、実際に見た方が早いだろ」

 

そういえば、昨日の番組だけど、とどこか楽しそうな表情で続ける広樹。そうしてまたもや取り留めのない雑談を再開する四人だが、その中で抱いていた不安と緊張が消えていたことに気づいた梨子は胸に抱いた期待に小さく笑顔を浮かべるのだった。

 




●#01について
・浦の星学園
本来は浦の星女学園ですが、転生者に都合がよくなるように男子も入学できるように改変されています。なお、共学になった浦の星の代わりに静真が吸収される形になりました。

・ある種のハーレム状態
お気づきかもしれませんが、広樹が今回の転生者です。ちなみに、彼の周囲に女子が多いのは学校のせいでもありますが、そうなるように世界が改変されていると答えるほうが適切です。また、時系列も改変されているため、当然ながら原典とは出来事の順序や内容が違います。

・理事長
統合の方向性が違う原因の一つが鞠莉です。スクールアイドルが存在しないため、浦の星を守るために理事長として動くことを思いつき、そのためにいろいろな所を飛び回っていることになっています。

●世界について
・アニメ版を基準にしているが、スクールアイドル関係の歴史や設定は抹消されている
→どうしても必要な場合は芸能人としてのアイドルや別の何かに置き換えられている
・基本的な魔術のルールはFateシリーズに準ずる
・作中の十年前に聖杯戦争があった
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