誰しも人生で一度は聞いたことがあるであろうチャイム音が鳴り響き本日の授業が終わったことを告げる。
(うぅ、生徒会、入んなきゃよかったかもなぁ)
昨晩の非日常的な体験のせいか一人で行動することに抵抗のある有咲だったが、一人が怖いから着いて来てほしい、などと気軽に友人に言えるほど単純な思考回路はしていないことも事実であった。
(それに、あんな話を聞かされたらなぁ……)
心なしか青い顔をしながらふと手元を見ると昨晩はなかった銀製らしき指輪が小指に嵌まっていたことから、それを渡された際に聞いた突拍子もない話を思い出すのだった。
「ホラー?」
「そう、魔獣ホラー、それが奴らの名前だ。
公園を出た直後に始められた説明に、ふーん、とおっかなびっくりと言った様子で周囲をうかがいながら気のない相槌を打つ有咲を見て勇牙とザルバは苦笑する。
「何だ、嬢ちゃん、まだビビってるのか?」
「ぬおっ!?ビ、ビビってねーし!あと、急にしゃべんなよ!びっくりするだろ!」
ザルバがしゃべったことで予期せぬところから聞こえた声に驚き、小さく飛び上がった有咲に勇牙は少し申し訳なさそうな表情になる。
「あ、そういえば、先輩のことは何て呼べば?」
「あー、まぁ、名前でも苗字でもいいけど、名前の方が好きだな」
「そうですか?じ、じゃあ、勇牙先輩、でいいですか?」
「オッケー、それでいいよ。あと、なんとなく名前で呼んでたけど、大丈夫だった?」
「え、っと、まぁ、大丈夫、です、はい」
うぅ、なれねぇー、と文句をこぼしつつも有咲は一度、深呼吸をして気持ちを落ち着けると目線で続きを促す。
「それじゃ、次は
言葉を切った勇牙は白いコートの裾を翻すと魔戒剣を取り出し、鯉口を切って少しだけ刃を見せる。
「これが、魔戒剣?何か、見た感じ包丁とかとあんま変わんないような……」
「いや、包丁って……あ、言っとくけど、
勇牙は不用意に近づいた有咲から魔戒剣を遠ざけつつ念を押すように、絶対、の部分を強調する。
「え?何でですか?あ、もしかして、めちゃくちゃ高い、とか?」
有咲のあんまりな物言いにズッコケそうになる所を必死にこらえる勇牙の姿にザルバは呆れつつも笑いをこらえていた。
「えぇー……いや、まぁ、それなりに貴重なのは確かなんだけど、基本的に訓練しないと重くて持ち上げることも出来ないんだよね」
「重い、ってどれぐらいなんですか?」
「えーっと、人や状況によって違うけど、最大でクレーン車のアームが折れるくらいかな?まぁ、そういう訳で、うっかり落とすと人間の骨ぐらいは簡単に折れるから、気を付けてくれると助かるかなぁ」
「うえっ!?何て武器使ってんだよ!あぶねーじゃねーか!!」
俺に言われてもなぁ、と魔戒剣をしまいながら頭を掻く勇牙だが、何の気なしに目の前で振り回されていた物がそんな危険物だったことを後から聞かされた有咲の気持ちを考えればその反応も仕方がないと言える。
「んじゃ、次は俺様の番だな」
「お、おう。えーっと、確か、ザルバだっけか?」
三度目ともなれば流石に慣れたのか、急にしゃべり始めるザルバにも戸惑いながらも何とか対応する有咲。
「そう、俺様は
「未熟は余計だっつーの」
カチャカチャと音を立てながら得意気にしゃべるザルバの姿を有咲は好奇心を抑えつつまじまじと見ていた。
「な、なぁ、コレって生きてんの?」
「あー、まぁ、生きてる、と言えば生きてるか」
へぇー、と返事をしつつザルバを指で突くぐらいには緊張の解れた様子の有咲に勇牙はこれを頃合いと見てザルバに目配せをする。
「そうだ──なぁ、有咲、ちょっとザルバの前に手を出して」
「へ?こんな感じ?」
何の疑いもなく出した有咲の掌にザルバの口から細く短い銀のような流体の金属が吐き出された。
「ぬあっ!?気持ち悪っ!」
反射的に金属を振り払おうとする有咲だったが、それより早く動き出した金属は有咲の左手の小指に巻きつくと、シンプルな指輪の形に落ち着いた。
「どうなってんだコレ!?」
「それはザルバの一部で作られた指輪だ」
「いや、一部、っつーか、目の前で吐き出されれば誰でもわかるわ!!」
しかも外れねー!と騒ぐ有咲は大して窮屈でもない指輪がびくともしないことに困惑する。
「いいから、聞いてくれ。それがあれば有咲の近くにホラーが来ると俺に伝わるようになってる。まぁ、警報装置の類だな」
「へー……って、そんなの貰っていいんですか!?」
「いいに決まってるだろ。俺は守りし者だからな。ホラーに狙われている人を守るためにはこう言うやり方も必要なのさ」
「……あ、ありがとう、ございます……」
屈託のない笑みを浮かべる勇牙にどことなく照れ臭さを感じながら、小さな声で礼を言う有咲。二人の間に気恥ずかしい空気が流れるが、ふと前を見た有咲の視界に見慣れた自宅の門が目に入った。
「あ……ここが私の家なんで、もう大丈夫、だと思います」
安心するはずの家の前でどこか寂しさを感じる有咲は自然と声のトーンが落ちる。それを見た勇牙は何を思ったのか有咲の肩に手を置いてもう一度笑顔を見せる。
「うえっ!?あ、あの?これは、どう言う……?」
「大丈夫!」
「はい?」
思っていたより近い距離にしどろもどろになる有咲だったが、突然の勇牙の一言にきょとんとした表情になる。
「俺が──黄金騎士・ガロが絶対に有咲を守るから」
「──っ!?ま、真顔で恥ずかしいセリフ言うな!……でも、あ、ありがと……そんだけだ、じゃあな!」
まっすぐな勇牙の言葉に真っ赤になりながらもとりあえずの感謝を告げた有咲は脇目も振らずに家へと駆け込んだ。
●#02解説
・説明回
ホラーやガロに関する基礎知識がない方向けの説明が中心の回です。原典のエピソードを軸に設定を説明するのは楽しくてつい文章量が増えそうになります。
・魔戒剣の説明
現在では修正されていますが、初期版では資料の混同で説明を間違えていました。初期版を掲載する予定はありませんが、自戒のためにデータは残しています。
・時々挟まれるラブコメ
二次創作に多々ある謎のラブコメシーンの再現です。個人的に書いてて気持ち悪くなりましたが、この転生者を表現するには必要なので無理やり書き上げました。