「コイツを喰らいなっ!」
まずはライダーが船首にある四門の砲をランサーへ向けて一門ずつ放つ。只の人間であればひとたまりもない攻撃だが、英霊同士の戦いであれば牽制程度の一撃。しかし、ランサーはその攻撃を3軒ほど隣のビルまで飛んで避ける。
「ああ?何だい、拍子抜けだねぇ?ま、
やれやれ、と言った風に肩を竦めるライダーだが、ランサーは気にした様子もなくおもむろにダイヤを降ろす。
「──そうだな。だが、これで戦える」
即座に跳躍、向かう先はガレオン船の甲板に立つライダーである。当然、直線的な動きから想定していたライダーは船首の砲をランサーへと向ける。
「見え見えなんだよ!」
「はっ!」
連射される四門の大砲。その斉射を受けるランサーだったが、右手に持った細身の槍を振るうと、そこから迸る炎によって撃ち落とされる。
「ちっ!大将、中に──」
「頭上注意だ」
「──っと、危ないねぇ!」
砲弾が撃ち落とされたところを見たライダーは鞠莉へと声をかけると右手にカトラス、左手にクラシックな拳銃を持つと横っ飛びして頭上に迫ったランサーの槍を避ける。鞠莉を庇うように立つライダーをランサーは船首側から静かに見据える。
「悪くはない、が、オレを落とすには足りんようだな」
「はん、舐めてくれたねぇ……こいつは高くつくよ?」
一触即発の空気の中、睨み合う両者。永遠のように感じられる一瞬の中で鞠莉が身動ぎした音を合図にランサーが動く。
「せえっ!」
「おっ、とぉ、アタシを焼くには──」
踏み込んだランサーの左薙ぎの一撃を軽やかなステップで躱すライダー。その後に続く炎も紙一重で避けると左手の銃をランサーへと向ける。
「火力が足りないみたいだねぇ!」
「ぐっ……」
「そらそら!これで──っ!?」
その見た目からは想像もつかない速度で連射される銃弾に一瞬怯むランサー。その隙を狙って踏み込もうとするライダーだったが、その足が一瞬止まり、バックステップへと切り替わる。すると、一瞬遅れて先程までライダーの居た場所をランサーの槍が掬い上げていた。
「──なるほど。いい反応、いや、いい勘をしているな」
「ちっ、まさかの無傷とは……こいつはヤバいね!どうする、大将!」
何とか態勢を立て直したライダーはチラリと後ろに視線を向けて鞠莉へと問いかけるが、鞠莉は戦闘の空気に飲まれているのか、立っているのもやっと、と言う感じであった。
「鞠莉!」
「──っ!?ライダー、プランBで!」
「まかせな!」
ライダーの呼びかけで気を取り直した鞠莉が指示を出すと、ランサーと対峙したままじりじりとにじり寄るライダー。不信に思ったランサーだったが、突如、ライダーが鞠莉の方へと跳ぶと、その背後にあった大砲がランサーに向けて撃ち込まれる。
「その程度で──!?ダイヤ!」
身をよじって避けるランサーだったが、躱した砲弾の行先に気づくとその先にいるダイヤへと叫びながら跳ぶ。その間にビルから飛び降りていた鞠莉をキャッチしながら降りるライダーは声に気づいて視線を砲弾に向けると、自らの失策に気づく。
「あっ、ヤベッ」
「ちょっ、ライダー!?」
「──え?」
遅れて意図を察するダイヤだが、砲弾は既に目の前、避けられるはずもなくランサーも間に合いそうにはない。着弾、普通の人間であればひとたまりもない爆発が起こり、ビルの屋上が煙に包まれる。
「ダイヤ!!」
隣のビルに降り立ち動転するランサーと押し黙る鞠莉とライダー。しかし、突如、屋上の煙が切り払われ黒い竜の紋章が描かれた旗が立つ。そして、そこには旗を持ち漆黒の鎧を身に纏った銀髪の少女と隣に立つ活発そうな少年──松平広樹と無傷のまま女の子座りになっているダイヤの姿があった。
「立てますか?」
「は、はい──って、広樹君?どうして、ここに?」
「会長?えっと、これは、その……」
ダイヤの手を引いて立たせた広樹だが、ダイヤの質問にしどろもどろになる。が、そんな広樹の姿を見て面白くなさそうな表情の女は広樹を自分の方に引き寄せる。
「サーヴァントを連れてるなら、考えられることは一つじゃないですか?そんなこともわからないから、そんな無様な姿を晒すんですよ」
「なっ!?──な、何ですのあなたは!」
煽るような態度の女に助けてもらったことも忘れて詰め寄るダイヤ。その姿に女は冷笑を深めて高らかに宣言する。
「私はコイツのサーヴァント、アヴェンジャー!この旗を、この炎を恐れぬのならかかって来なさい!」
「ちょっ、ジ……アヴェンジャー、ケンカ腰はマズいって!」
「アヴェンジャー……?そんなクラス、聞いたことありませんわ……!?」
アヴェンジャーの宣言に慌てる広樹に対してどこか満足そうな表情のアヴェンジャーと彼らを観察する二組のマスターたち。
「アヴェンジャー……ヒロがマスター?」
「へぇ、随分な物言いじゃないか?どうする、大将?……大将?」
「──ええ、撤退よ、ライダー。それじゃ、ダイヤ、ヒロ、チャオ」
下から見上げる形の鞠莉とライダーだったが、何事かを考えていてライダーの二度目の呼びかけで反応した鞠莉は状況の不利を悟り、ライダーに抱きかかえられて撤退する。
「……鞠莉さん」
「ええっと、ところで会長、その、とりあえず、事情を伺ってもいいですか?」
広樹の言葉に一瞬、戦闘態勢を取りかけるダイヤだったが、既にやる気のなさそうな表情でファーの付いた黒いコートと黒いワンピースに着替えたアヴェンジャーの姿に気勢を削がれる。
「……わかりました。では、まずは監督役に挨拶に行きましょう」
話は道すがらいたします、と締めたダイヤは跳んで来たランサーを霊体化させてドアを開けるとワタワタと進む広樹とため息を吐きながら着いて行くアヴェンジャーを連れて監督役の所へと向かうのだった。
ビル街から離れた広樹たちは監督役のいる場所への道のりを歩いていた。本来ならば、態々歩かずともサーヴァントに運んで貰えばいいのだが、今回は監督役の所もあまり遠くないことから、徒歩での移動となっていた。
「……つまり、このサーヴァントの力を借りて願いを叶える聖杯を手に入れるために戦う、それが聖杯戦争、ってことですか」
「ええ、概ねそれで合っていますわ」
「まぁ、それぐらいなら私にも説明できますけど」
聖杯戦争についてのおおよその説明を受けた広樹の言葉に正しく理解していたことで笑顔になるダイヤだったが、その後ろでつまらなそうな表情のアヴェンジャーの一言に振り返って睨みつける。
「なら、あなたが説明すればよろしいんじゃないですの?!」
「私は実物を見せてからちゃんと説明しようとしたんですが、どこかの魔術師様が勝手に話を進めるもので」
困ったものです、と当てつけのように二人を見ながら言うアヴェンジャーにダイヤの表情も険しくなる。その様子を苦笑いで眺める広樹は内心でため息を吐いていたが、不意にダイヤが立ち止まる。
「コホン……着きましたわ、ここが、監督役のいる場所──浦の星学院の礼拝堂ですわ」
「学校にそんな役割があったなんて……」
そのまま進もうとした広樹とアヴェンジャーだったが、前にいたダイヤに手で制止される。
「どうしたんですか?」
「ここからはサーヴァントは入れませんの。ランサー、ここで待っていていただけますか?」
「承知した」
急に実体化したランサーは返事をするとその場で佇む。その姿に驚く広樹だったが、悪いけど、待っててもらえるか?、と告げられたアヴェンジャーは不承不承と言った感じで頷く。
「では、行きますわよ」
ダイヤの言葉に頷いた広樹が先導されて礼拝堂に入ると、灯りの点いた燭台と会衆席の並ぶ通路が祭壇まで伸びている。そして、その先には修道服を着た青い髪の長いポニーテールの少女──
「いらっしゃい、ダイヤ、広樹。こんな夜更けに何の用、ってなんとなくわかるけどね」
「果南さん……久しぶりですわね」
「果南さんが、監督役?」
穏やかな笑顔を浮かべる果南に対して、ダイヤはどこか辛そうな表情を浮かべ、広樹は見知った人物が監督役と言うことに驚いていた。
「うん、そう。そして、あなたたち二人で七騎のサーヴァントが全て揃った。よって──」
なんてことないかのように答えた果南は一度、言葉を切って息を吸うと、二人を交互に見る。
「──ここに、第五次聖杯戦争の開幕を宣言する。堅苦しくてゴメンね、一応、言う決まりになってるんだ」
厳粛に、だが、どこか優しさを感じさせる声で宣言する果南。その宣言を聞いてしみじみと実感する広樹は押し黙ったまま表情を曇らせているダイヤに気づいていなかった。
●#03について
・ランサーVSライダー
真名をご存じの方は面白い組み合わせだと思っていただけると思います。ここでは決着がつきませんでしたが、サーヴァント同士の相性以上にマスター側の実力と精神状態が原因だと思います。
・転生者とアヴェンジャー
アヴェンジャーは彼の特典ですが、サーヴァントという意思のある存在のため、常に彼の思い通りには動きません。しかし、彼に都合のいい存在として作られたため、本来よりも信頼や好意を得やすく、要するにチョロくなっています。
・監督役
アニメ版では礼拝堂は存在しませんが、G's版の設定を流用しました。おそらく、場所は学校の裏手とかその辺だと思います。果南を監督役にした理由はほかに出来そうな人が居なかったことと、鞠莉以外にダイヤと確執がある人間が適切だと思ったからです。ちなみに、果南の出番は次の回で終わりです。