「……では、果南さん、
「……うん、わかった。それじゃ、またね」
逃げるように外へ出るダイヤに驚く広樹だが、静かに見送った果南は小さくため息を吐く。
「……ちょっとはゆっくりしてけばいいのに……さて、広樹は聖杯戦争についてはどこまで聞いたの?」
「ええと、大体は」
「そっか。それで、広樹は参加するの?今なら、その令呪を捨てて元の生活に戻ることもできるよ」
どうする?、とまっすぐ広樹の目を見て問いかける果南。だが、広樹はまっすぐその目を見返す。
「俺は、戦います。俺の選択が正しいのかわからないけど、会ったばかりの俺に願いを託してくれるアヴェンジャーのためにも、今日助けることが出来たダイヤさんのためにも、誰も死なせずにこの戦いを終わらせたいと思います!」
力強いがどこか致命的な危うさを抱えた広樹の宣言に果南は感心と呆れの混ざったため息を吐く。
「わかった。そこまで言うなら止めないよ。けど、気を付けて。あなたが二人のことを考えているように広樹の心配をしている人もいるんだから、ね?」
果南の心からの忠告に、はい、ありがとうございます、としっかりと頷く広樹。その様子に満足したのか、それじゃ、令呪の説明をしようか、と始まった果南の説明に広樹も気合を入れなおす。
「令呪、って言うのはその、手の甲にある紋章のことでね──」
一度言葉を切った果南が広樹の左手を指さすとそこには横向きに口を開けた竜のように見える赤い紋章が鈍く輝いていた。
「これ、ですか?」
「うん、基本的に令呪は聖杯戦争の参加者に与えられるサーヴァントに対する絶対の命令権のことで、それ自体が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶なんだ」
「絶対の命令権、ってそんなのほいほい渡していいんですか?」
「そう、だから、その令呪には三回の使用制限がある。一度の使用で一画ずつ消えていって、三画目が消えるとサーヴァントとの信頼がない限り敗北となる」
「あの、信頼がない限り、と言うのは?」
広樹の令呪を指さしながら令呪の説明をする果南だが、画数の説明で疑問を口にした広樹に、うーん、と少し考えてから向き直る。
「そうだなぁ……例えば、広樹は自分に強制的に命令する相手がいたらどう思う?」
「ええと、そりゃ、何だコイツ、とか、ムカつくと思いますね」
「まぁ、そうだろうね。それじゃあ、その相手が急に命令できなくなったらどう?」
「それは、仕返しをすると……ああ、サーヴァントによっては
正解、と笑顔を浮かべる果南に納得したように頷く広樹。それじゃ、次は応用編だね、と果南が説明を続ける。
「実は、令呪にはもう一つの使い方があるんだけど、それが何だかわかる?」
「うーん、確か、令呪はすごい魔力の塊なんですよね?もしかして、それが関係していたりするんですか?」
「あれ?まぁ、その通りなんだけど……勘がいいのかな?……ともかく、令呪にはその魔力を使ってサーヴァントの行動を補助することも出来るんだ」
ほぼ正解と言える広樹の回答に小さな違和感を覚える果南だったが、それを流して説明を続ける。
「例えば、物理的な距離を無視して移動したり、能力を底上げしたり、まぁ、色々な使い道があるんだけど」
要はマスター次第、ってことだね、と解説を締める果南に、ありがとうございました、と礼をする広樹。
「気にしないでいいよ。これも監督役の仕事だから……さて、あんまりダイヤを待たせるのも悪いから、今日はここまで。他に聞きたいことがあったらまた来てね」
「わかりました。それじゃ、また明日」
また明日、と返す果南を背にして外へ出た広樹は少し離れた所で互いに背を向けてそっぽを向いているダイヤとアヴェンジャーとそれを見守っているランサーの姿があった。
「説明終わったんですけど……これ、何事ですか?」
「別に、アヴェンジャーと気が合わないだけですわ」
「ええ、そこだけは私も同感です」
「この通りだ。マスターとアヴェンジャーでは話にならんのでな。ヒロキ、あとは任せた」
ざっくりと明らかに足りない説明を残して姿を隠したランサーとその言葉に剣呑な空気に包まれる二人に広樹は頭を抱える。
「それで、広樹君は聖杯戦争に参加するんですの?」
まっすぐと広樹の目を見て問いかけるダイヤ、その姿は先ほどの果南に重なって見えた。
「俺は、聖杯戦争に参加します」
ダイヤの目をまっすぐに見返しながら答える広樹にダイヤは一瞬、悲しそうに目を伏せる。
「そう、ですか……では、明日からは──」
「ちょっと待ってください!」
「は、はい?何でしょうか?」
決別しようと言葉を紡いでいたダイヤは突然の広樹の大声に割り込まれて反射的に返事を返す。
「あの、俺、誰も死なないで聖杯戦争を終わらせたいんです。そのために協力して貰えませんか?」
「ハァ!?アンタ、何言ってんの!?」
「そ、そうですわ!聖杯戦争で死人を出さない、なんてそんなこと……」
突然の広樹の提案に驚愕するアヴェンジャーとダイヤ。だが、ダイヤは否定しつつもどこか断り切れていない雰囲気を漂わせていた。
「一人では無理かもしれません、でも、二人なら、出来るかもしれない……だから、お願いします!」
深く頭を下げる広樹の心からの言葉に困惑するダイヤだが、直ぐに否定の言葉が出て来ない時点で答えは決まっているようなものであった。
「ダイヤ、オレは戦力は多い方がいいと思う」
「!?ランサー……そう、ですわね。ええ、確かに、一度に相手にする敵は少ない方がいいに決まっていますからね」
突如、実体化したランサーの言葉に背中を押されたダイヤは静かに頷く。
「わかりました、広樹君の提案、お受けいたしますわ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!アンタもそれでいいの!?何のための聖杯戦争なのよ!」
これじゃ、アイツとの時間が……と何事かをごにょごよと文句を言うアヴェンジャーに対して広樹は頭を掻く。
「まいったなぁ……なぁ、アヴェンジャー、
広樹の言葉に反応して左手の令呪が輝くと紋章の一画が消え、アヴェンジャーが片手で頭を押さえる。
「っ!?──この、なんでこんなことに令呪つかってんのよ!?あー、もう、わかったわよ、認めればいいんでしょ、みーとーめーまーすぅ!これで満足ですか、マスター様?!」
よほど堪えたのか投げやりになってへりくだるアヴェンジャーに、いや、本当にスマン、と平謝りするしかない広樹。そんな二人の姿にダイヤは呆れつつも笑顔を浮かべる。
「これでは先が思いやられますわね……そういえば、広樹君はこんな時間に出歩いていて親御さんは心配なさらないのですか?」
「あー、実は、昨日から両親が7泊8日のハワイ旅行に行ってて誰も居ないんですよね」
だから、大丈夫です、と返す広樹は、うぅ、二人きりの素敵イベントが、と呻くアヴェンジャーを置いて、それがどうかしたんですか?、と話を進める。
「いえ、共闘するなら安全性を考えてよろしければ
いかがですか?、と問いかけるダイヤに顔を見合わせる広樹とアヴェンジャーだったが、同時に、是非!、と賛成する二人の勢いにダイヤは若干引き気味になる。
「そ、そうですか……では、車を手配いたしますわ」
「それじゃ、よろしくお願いします!」
「……サーヴァントに部屋はいらないから実質同棲──よしっ……さぁ、行きましょう。あまり遅くなると他のサーヴァントに遭遇する可能性もありますからね。ええ、他意はありませんよ?」
「……オレはこのことを告げるべきか──いや、これは彼らの問題か……ダイヤ、オレに掴まれ。その方が早い」
車を呼ぼうとするダイヤだったが、三者三様の心境からの話し合いの結果、アヴェンジャーがダイヤをランサーが広樹を抱えて黒澤家へと向かうのだった。
●#04について
・監督役というより解説役
今作唯一の果南の出番です。プロットの段階ではもう少し出番や役回りを増やそうとしていましたが、実際に書いてみると文章量が多く、展開が冗長になってしまうため、泣く泣く現在の形にしました。
・転生者の令呪
ここで初めて描写される令呪の形ですが、作者的には竜告令呪をイメージしつつ、本人よりもアヴェンジャーを意識して描写しました。などと言っていますが、これはあくまで小説なので基本的には皆さんのイメージされた形が正解です。
・令呪による共闘
原典のFateでもあったアレです。令呪の仕様上よくあることだと思うので、一度はやる必要があると思ってここでやりました。個人的にはFateというか聖杯戦争を知らない方のための説明としてはいいと思いますが、実際に役立ったかどうかは分かりません。
●果南について
・自身の身体能力に気付いており、やれることをやっていたら代行者になっていた稀有な存在
→経緯は不明だが、かつての聖杯戦争かそれに類する何かの影響で聖堂教会に認識されて訓練を積んだ結果、代行者となった
・浦の星にシスターが存在しない礼拝堂があったため、そこを利用して聖杯戦争の監督役をすることになった
・聖杯戦争の監督役に選ばれたことで聖杯戦争を止めたかったダイヤと喧嘩したため、関係がぎくしゃくしている
→果南自身はダイヤと喧嘩したあとで真実を知ったため、謝る機会をうかがっているが、避けられている
・転生者とは千歌たちを通じて仲良くなった