昼休み、ほとんどの学生にとって昼食と長めの休息を取れるこの時間は正に至福の時間であったが、そんな時間でも同盟を組むダイヤと広樹にとっては数少ない作戦会議の時間でもあった。
「それで、ダイヤさん、体の方は大丈夫なんですか?」
「またその話ですの?
昼食を終えて生徒会室に集まった二人は今朝も行ったであろうやり取りをしながら、黒澤家からもらった資料──現場写真を確認していた。
「それで、結局、昨日は魂喰いの活動はなかったんですよね?」
「ええ、ただ、謎のサーヴァント同士の戦いがあったようで……」
「ハァ?謎のサーヴァントってどう言うことよ?」
「おまっ、また勝手に……まぁ、いいや」
自分のサーヴァントの行動に頭を抱える広樹だったが、昨日の意見のこともあり、ひとまず黙認する。
「これは……何と言うか、バーサーカー並みの火力ですね。でも、バーサーカーとは戦ったから……」
お手上げですね、と開き直るアヴェンジャー。どうやら、彼女の知識でも今回はどうにもならないようだ。
「おいおい……にしても、なんだこの跡は?ハンマー、とかかなぁ?」
「そうですわね……この凹み具合からして拳、いえ、もしかしたらキャスターの使い魔や魔術の可能性もありますわ」
「それこそ、アーチャーの武器の一つ、と言う可能性も考えると……キリがないですね」
三者三様に意見を出しつつ悩んでいたが、突如、窓を割って室内に入って来た何かを実体化したランサーが掴み取った。
「っ!?──襲撃!?」
「いや、どうやらこれだけのようだ」
襲撃を警戒する広樹とダイヤだったが、手に持った矢に手紙が付けられていることを確認したランサーは手紙を差し出す。
「これは──一時休戦の申し入れ、ですわね」
放課後、チャイムが鳴り生徒たちが下校する中、ダイヤとの待ち合わせ場所である屋上への扉の前に向かう広樹は昨日の指摘を思い出してわざわざ少し手前から早歩きになる。
「ダイヤさん、お待たせしました」
「いえ、
合流した二人はアーチャーのマスターを名乗る人物からの手紙で行われることになった会談の場所として指定された校舎の屋上への扉をくぐる。
「うわ、っと、風強いですね」
「ええ、ここは海からの風が来ますからね……ですが、アーチャーのマスターはまだ来ていないようですわね」
「いーや、ここにいますぜ」
「「!?」」
「チッ、やっぱり罠なの?」
何も無いはずの空間に軽そうな男の声が響く。辺りを見渡す二人と実体化した二騎のサーヴァントだが、何処にも姿は見当たらない。
「こ、ここです!」
少女の声とともに何かが正面に着地するような音がすると、空間ににじみ出るように緑の衣装とマントを纏った男──アーチャーと、それに守られるように立つ茶色でふわっとしたロングヘアーの少女──
「!?あなたがアーチャーのマスターですわね?」
「は、はい!その、オラ、じゃなくて、私は、国木田花丸、と言う者で……」
つっかえながら話始めようとする花丸だったが、これを遮るようにアーチャーが前に出る。
「いやー、すんませんね。うちのマスターは標準語で話すのが苦手なモンで」
後はオレに任せといてください、と話を引き継ぐアーチャーに、お、お願いするずら、と花丸は申し訳なさそうな顔になる。
「つーわけで、うちのマスターは戦いも嫌いな性分でして、手紙に書いた通り、出来ればこの戦いを平和的に終わらせたいんですよ」
「つまり、そのために一時休戦、いえ、無条件降伏をしろ、と言うことですの?」
「いや、オタク話聞いてました?むしろ、こっちが協力するんで、マスターを狙わない健全な戦いってやつをですね……」
「そうですか。では、花丸さん、あなたの願いはどうなりますの?」
アーチャーの物言いに納得していない様子のダイヤは花丸の方に目を向けながら問いかける。
「その、オラは……ただ、みんなと平和に生きていきたい。だから、願いも、聖杯もオラには必要ないずら」
「なら、あなたが戦う必要はないではありませんか」
精一杯の言葉で自分の心を語る花丸に対してダイヤは切り捨てるような言葉を投げかける。
「……確かに、オラが戦う必要はないずら。でも、この力で誰かを守れるなら、オラは戦う。そのためにここにいるずら!」
ダイヤの目を見つつ本心からの言葉を返す花丸。その視線と答えを受けてダイヤは小さくほほ笑んだ。
「わかりました。
「お前が命ずるなら、オレはそうするだけだ」
「……俺も花丸は信用してもいいと思います。アヴェンジャーもいいか?」
「どうせ拒否したら、
「だ、そうですよ……やりましたね、マスター?」
「やったずら!これで、善子ちゃんも守れるずら!……ありがとう、アーチャー」
四人の同意を得られた事で三組の同盟が成立する。この事実に喜色満面になる花丸とアーチャー。沈み行く夕日に照らされるその姿はどこか兄妹のようにも見えた。
「さて、それでは、一度、
「ダイヤさん、何か、変じゃないですか?」
話をまとめるため黒澤家に戻ろうとするダイヤだったが、広樹の言葉で周囲に霧が立ち込め始めていることに気づく。そして、その時にはサーヴァントたちは周囲を見回していた。
「これは……何かしらの魔術、のように見えますわね」
「でも、何だか息苦しい感じが……」
「ゲホッ、ゴホッ、これ、喉が……」
「──毒だ!オタクら、耐性はあるか!?」
「──オレが霧を払う。伏せていろ」
毒、と言うアーチャーの言葉に、一瞬、全員に緊張が走るが、伏せたことを確認したランサーの魔力放出により一時的に霧が晴れる。しかし、その一瞬が命取りであった。
「こっちだよ!」
「──え?」
何処からともなく響く幼い少女の声と続いて聞こえる花丸の気の抜けた声。その声に反応してダイヤと広樹が花丸を見ると、そこには胸を切り裂かれた花丸の姿と抉り出した心臓を持つぼろきれを纏った幼い少女の姿だった。
●#07について
・現場写真
この世界の黒澤家は沼津の霊脈を管理しているだけでなく、地元の名家でもあるため、雑事に使える人脈を持っていると思われます。というのも、神秘に関する事実を隠ぺいするためにはある程度の人脈や資産が必要になるからです。ちなみに、これらの事件の詳細については後編であるVol.7で描かれます。
・アーチャー&花丸登場
個人的に申し訳ないと思うチーム第1位の二人です。正直、出番があまりないにもかかわらず、テーマ的には花丸をこのまま退場させるしかなかったので、その点は本当に申し訳ないと思っています。また、アーチャーに関してはこの後の展開まで含めて貧乏くじを引かせてしまっているので、こちらも申し訳ないですが、キャラ的には合ってると思うんですよね。
・同盟と襲撃者
花丸の気質を考えると同盟を組む、と言う発想に至るとは思いましたが、死者が出ないことには聖杯戦争を行っているとは言えないため、他のキャラの事情も併せて今回の襲撃を起こさせました。シチュエーションと言動からこの襲撃者が何者かはおそらく見当がつくとは思いますが、その正体は次回に持ち越しです。