【新装版】GR:DED   作:雁野 命

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#08

「花丸……!?お前、何者──いや、アサシンか!?」

 

「正解!でも、()()()は貰ったから、もう帰るね」

 

「待て!」

 

屋上から身を投げるアサシンとそれを追おうとする広樹とアヴェンジャーだったが、その下に見えた人影に広樹の動きが止まる。

 

「ちょっ、マスター、アイツって……」

 

「そんな……梨子?」

 

下にいた人影──梨子は落ちて来たアサシンを抱きとめるとチラリ、と広樹を見てほほ笑んでからどこかへ走り去っていった。

 

「嘘だろ……?梨子が、魂喰いのマスター?」

 

「ヒロキ……」

 

「ランサー、追ってください!」

 

「命令とあれば」

 

ダイヤの命令で追跡に向かうランサーと愕然とする広樹にどうすることもできないアヴェンジャーだったが、その後ろで勢いよく扉が開く。そこから現れたのはダークブルーの姫カットの少女──津島善子(つしまよしこ)と和服にブーツの少女だった。

 

「一体何が……花丸!?──まさか、アンタたち騙し打ちを!?」

 

「ちが、俺たちは──」

 

「セイバー!!」

 

「承知!」

 

「っ!?──ぐあっ!」

 

和服の少女──セイバーは激昂する善子の言葉に一瞬で広樹との間合いを詰める。物理法則を無視したような移動により、懐に入られた広樹は動揺しつつも何処からか取り出した直剣──聖カトリーヌの剣で初撃を逸らすが、左腕を負傷する。

 

「ウソ!?この人ホントに人間ですか!?」

 

「うる、せぇっ!」

 

何の技術もない剣を振り回すだけの広樹の攻撃だが、その人間離れした膂力(りょりょく)にセイバーは距離を取る。そして、両者の間にアヴェンジャーが入り込み、広樹をかばうように立ちはだかった。

 

「くそっ、まさかここで()を抜かされるとは……」

 

「マスター!?──コイツ、絶対に(もや)す……!」

 

「マスター、これ、ヤバいかもしれないですよ!?」

 

「くっ!?──どうすれば……」

 

奇襲から一転して優位に立つ広樹とアヴェンジャーだったが、その近くでは倒れて血を吐く花丸をアーチャーが抱き留めていた。

 

「おい、マスター、しっかりしろよ!?クソッ、おい、オタク治癒魔術とかないのかよ!?」

 

「一応、ありますわ。でも、この傷では……」

 

沈痛な面持ちのダイヤは無力さに歯噛みしていた。そして、同じように無力感に苛まれるアーチャーは必死で花丸に呼びかけていた。

 

「クソッ、マスター、アンタはこんな所で死んじゃいけないんだ!──マスター!?」

 

「アー、チャー……」

 

薄っすらと目を開ける花丸だが、その目はすでにほとんど見えていないようだった。

 

「!?ああ、オレはここにいますぜ!だから!──」

 

「れい、じゅを、もって……ゴホッ、命ず」

 

「おい、しゃべんなよ!」

 

「みんな、を、たす、けて……!」

 

瀕死の花丸の切なる願い。その言葉を受けて輝いた令呪が三画とも消えると花丸を抱えたアーチャーは静かに顔を上げる。

 

「……了解した。すまねぇな、マスター。オレじゃあアンタを守り切れなかった。……けど──」

 

「アーチャー?何を……」

 

「──まだ足掻くぜ……。オレは国木田花丸のサーヴァントだからな!」

 

花丸の遺体を抱えたままのアーチャーは右手の弓で広樹に威嚇射撃をしながら善子の元へと一気に走る。

 

「お、っとぉ!?」

 

「セイバー、こっちだ!!」

 

「!?マスター!」

 

一瞬の交錯。縮地で善子を抱えたセイバーが走り抜けるアーチャーの左手を握ると、アーチャーは宝具『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を発動させるとその姿は誰にも捉えられなくなる。

 

「喰らえ!」

 

アヴェンジャーが旗を振るって正面の空間を業炎で焼き払う。が、姿が見えず、音や気配も捉えられない相手がどうなったのかは確認できなかった。

 

「逃げられたか。ぐうっ……!?」

 

「マスター!?とりあえず、止血を!」

 

一瞬、痛みでよろけた広樹を心配するアヴェンジャーだったが、ハンカチで応急処置をする。そうこうしている間にランサーも戻ってきたようだった。

 

「マスター、今戻った。だが、奴……敵サーヴァントには逃げられた」

 

「逃げられた?あなたが?」

 

困惑するダイヤだったが、どうやらランサーも困惑しているようだった。

 

「どうやら、奴に関する記憶が何もない。おそらく、宝具かスキルによるものだろう」

 

「……確かに、(わたくし)も花丸さんが切られたこと以外は何も覚えていませんわ」

 

「……俺は、覚えてます」

 

どう対策するか悩むダイヤだったが、応急処置を終えた広樹の言葉にランサーとダイヤの視線が向けられる。

 

「どう言うことですの!?」

 

「俺が覚えているのは、マスターが幼馴染の、梨子──桜内梨子だった、ってことです」

 

「なるほど。マスターの情報があるならばサーヴァントの居場所も自ずとわかる、と言うことか」

 

広樹の情報に納得するランサーとダイヤ。だが、広樹の表情は痛み以外で曇っていた。

 

「でも、俺には戦えません……!」

 

「……まさか、幼馴染だから戦えない、と?」

 

「はい、俺は、幼馴染と──梨子と戦うことは出来ません……!」

 

広樹の言葉に怒りを滲ませるダイヤだったが、静かに息を吐くとそのまま校舎内への扉へ向かう。

 

「今日は大人しくしていてください。決着は(わたくし)がつけますわ」

 

静かに、突き放すように宣言したダイヤの去って行く後ろ姿を広樹はただ見ていることしかできなかった。

 




●#08について
・アサシンと梨子
魂喰いのサーヴァントであるアサシンのマスターとなっていた梨子ですが、文章量と展開の関係で本編ではそのバックボーンは特に説明されません。一応、詳細はVol.7で解説しますが、その根底には転生者の望むヤンデレ化した梨子、と言う概念があることだけは明記しておきます。

・セイバーと善子
ダイヤたちへの矢文の前に既に花丸と組んでいたと思われますが、これまでの行動の一部はVol.7で描かれます。また、セイバーの正体は服装や縮地を使っていることから、大体わかると思いますが、本編中に真名が出てくるまでは解説でも隠しています。

・聖カトリーヌの剣
#06で言っていた()()の正体である魔術礼装です。基本的な機能としては短時間だけ身体能力をランクC程度まで強化できます。これも彼の特典ですが、よくあるサーヴァントと戦えるマスターになることも彼の願いに含まれていたため与えられました。

・花丸の願い
ここで言う<みんな>とは全員のことを差しているため、誰か一人でも欠けたら失敗、と言う困難な局面を打破するアーチャーの見せ場です。本来なら花丸の遺体を置いて行くべきでしたが、マスター思いな彼ならば可能なら持ち帰ろうとすると思って行動させました。

・情報抹消
このアサシンと言えばコレ、と言うスキルです。ただし、このスキルはマスターに関する情報には適応されないはずなので、今作ではそのせいで梨子が殺人現場で目撃された情報が消えず、スキルの事実を知る転生者には正体が看破されました。

・戦えない転生者
この時点で転生者の頭は完全に混乱しているため、正常な判断が出来ていません。というかそもそも、どっちもなんとなく知ってるし何とかなるだろう、の精神で戦っているため、事ここに至っても、最悪聖杯で何とかなるだろう、ぐらいの認識です。

●花丸について
・名家ではないが、十代ぐらい続く修験道を持つ魔術師の家系の生まれだが、あくまで宗教家の気質の強い家系で魔術使い程度の家
→魔術はあれば便利ぐらいのスタンスのため、伝統として魔術を伝えるだけの魔術師らしくない家系
・魔術を使えるなら何かをしたいが、魔術は秘匿するものという基本に忠実なため、魔術師としての実力は低い
・聖杯にかける願いはないが、聖杯戦争の被害を最小限にするために参加した
・民を守る英雄の本をかき集めて触媒とした結果、アーチャーが召喚された
→知っている人間を守りたいという思いと自然に親しむものとしてのスタンス、アーチャー自身の気質がかみ合った結果
→本来はちゃんとした触媒を調達する予定だったが、善子の聖痕を見て焦ったことで手近な触媒を選んだ

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