夜、二日振りに一人と一騎で外を歩くダイヤはトパーズのブローチを使って目的地へと向かっていた。その途中、人通りの少ない寂れた通りを歩くその足取りは力強く確かなものであったが、その表情にはどこか陰りがあった。
「ランサー、
「──オレは無口な方だと自覚している。そして、一言足りないと言われたこともある。だからこそ言おう。オレはお前のような賢明なマスターの元で戦えて幸せだ、そう思う」
「ランサー……!ええ、そうですわね!あなたのような英霊がそう思ってくださるなら、
お互いの信頼を確認したランサーと調子を取り戻したダイヤだったが、突如、上空から聞こえるヘリの音に空を見る。
「ハァーイ!ダイヤ、この挨拶も最後になるかもしれないわね」
「鞠莉……!」
「オーウ、そう怖い顔しないでよ。ちゃんと遊び相手も連れて来てるんだから……聖良!」
「行きなさい、バーサーカー!」
聖良の合図とともにバーサーカーがダイヤたちの目の前に降り立つとダイヤが数歩下がってランサーが一歩前に出る。睨み合う両者だったが、先に動いたのはバーサーカーだった。
「バーサーカー、宝具を!!」
「!?そんな、いきなりですって!?」
「よぉく見せてやる……。あぁ、よく見るがいい……!誠の旗は――」
「誠の旗……まさか新選組ですの!?」
「――不滅だ!斬れ!進め!斬れ!進め!俺が!新!選!!組だあああああ!!!」
宝具『
「これは……固有結界?いえ、彼の狂気の顕現、でしょうか?」
「気を抜くな、マスター」
一瞬、気圧されかけるダイヤだったが、目の前の光景がリアルな幻覚のようなものであると看破して安堵する。が、突如、ランサーが槍を振るうとダイヤの数m手前で矢が叩き落される。
「!?これは、まさか!?」
「あら?防がれるなんて、案外、大したことないのね」
「冗談きついっすよ。あのタイミングで防ぐとか、マジでねぇっすわ」
驚愕するダイヤが矢の飛んできた方向を見るとそこには花丸のサーヴァントであったはずのアーチャーが弓を構えていた。
「では、令呪を以て命ずる、アーチャー、ランサーを倒しなさい」
「は?ちょっ、何言ってんすか!?」
「あら、あなたの宝具とバーサーカーがいれば大丈夫でしょう?」
宣言とともにヘリの中の鞠莉の右手の新しい令呪が輝くと、おいおい、マジかよ、とぼやくアーチャーだが、直ぐに思考を切り替えて弓を構える。
「ハァ、ったく、悪いな嬢ちゃん。オレは
「抜刀――突撃!」
「……いいでしょう!令呪を以て命ずる!ランサー、
やる気に満ち溢れた二騎のサーヴァントを前に令呪のブーストを受けるランサー。そして、三度目のダイヤと鞠莉の戦いの火蓋が切って落とされるのだった。
黒澤家に割り当てられた自室で待機していろと言われた広樹は何をするでもなくごろごろしていたが、突如、鳴り響いた轟音と違和感で外に出る。そして、遠くに戦場のようなものが見えていることに気づいた一人と一騎は駆け出していた。
「アヴェンジャー、アレって、まさか
「恐らくそうでしょうね。ったく、ホント、あの女、疫病神でも憑いてんじゃないの?」
言ってる場合か、と突っ込んだ広樹は自身の
「えぇ~?あの女のためにそれ使うの?」
「仕方ないだろ?……もし、梨子が出てからじゃ確実に間に合わない」
「……不本意ですが、そうですね。あの子がやられた瞬間が分かりませんでした。多分、アレは私と相性が良くないと思います。不本意ですが」
二回も言わんでも、と呆れる広樹だったが、一度立ち止まって深呼吸をすると聖カトリーヌの剣に魔力を通す。すると、剣から出たオーラが広樹を包み込んだ。
「よしっ!行くぞ!どっちも俺が守る!」
意気込んだ広樹はサーヴァントにも劣らぬ速さで走り出す。それは、彼の持つ聖カトリーヌの剣の名を持つ概念礼装の効果の一つである、人間に霊基を被せて英霊と同等の力──ランクC程度のステータスを付与する、と言う効果によるものであった。
「あと少しだ……って、あれ?」
その場に着いた広樹が見た物は融けて抉れた地面と、焼け焦げたビル、そして、ほとんど無傷で立つランサーの姿であった。よく見れば、上空にヘリも見えるが、その中には呆然とする鞠莉と聖良の姿があった。
「何よ、終わってるじゃないの」
「ダイヤさん!大丈夫……みたいですね」
「ああ、広樹君。ええ、何も問題はありませんわ」
「そう──なら、次は私と戦ってもらおうかしら!」
「「「!?」」」
二組が声の方に視線を向けると、そこには善子と浅葱色の羽織を着たセイバーが立っており、その姿に近くにいたランサーが一歩前に出る。
「なるほどですわね。連戦で疲弊したところを狙う、実に理にかなっています。ですが、そんな小細工は──」
一度、言葉を切ったダイヤは改めて一人と一騎を見据える。
「──
力強い宣言とともに槍を構えるランサー、一触即発の空気の中、ふわり、とセイバーが進むのにあわせて善子は握った右手を構える。
「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀!──」
「セイバー!!」
「──『
「!?」
善子の叫びに令呪が反応して輝くと一瞬その姿が消える。そして、全員がセイバー─―
「なっ!?──」
そして、驚愕はそこでは終わらない。突如、ランサーの真正面、遠く離れた所から放たれた赤い光のようなものがランサーの鎧の壊れた部分、その下の生身の体に突き刺さり眩いばかりの光が迸った。
「カルナ!?」
「ぐっ──」
そして、光が収まるとそこあったのは打ち砕かれた黄金の鎧と倒れ伏すランサー──カルナの姿だった。駆け寄ったダイヤはカルナを抱き起す。
「ここが、限界か……」
「カルナ、しっかりしてください!」
「ダイヤ、不甲斐ない男で、すまない……」
「カル、ナ……いいえ、あなたは……最高の、サーヴァントでした」
霊核を砕かれて消えていくカルナの姿に涙を流すダイヤ。如何に最強格の英霊であるカルナとはいえ砕かれた霊核を修復する力はなかった。こうして施しの英霊カルナは今回の戦いを終えたのだった。
「そんな!?カルナと言えば、あの最強クラスの英霊だぞ?」
「マスター、どうやら、次は私たちの番みたいですよ?」
「!?」
アヴェンジャーの声で気を取り直した広樹が前を向くと驚愕した。それは、咳き込む沖田とそれに驚く善子、ではなく、その後ろから現れた燃え盛る髑髏──ゴーストライダーの姿を見たからだ。
「な、何なんだお前は!?」
悠然と前に進み出るゴーストライダー、その異形に圧倒される広樹の問いかけに立ち止まったゴーストライダーは地獄の底から響くような声で答える。
「俺か?俺は
●#09について
・三度目の正直
三度に渡るダイヤと鞠莉の戦いもこれで最後です。旧版では削られた土方についての描写やアーチャーの再登場シーンを復活させて加筆修正をしましたが、アーチャーが鞠莉の下にいる理由はVol.7で説明されます。
・転生者の宝具
とある宝具の性質を内包した魔術礼装であるため、真名解放に類する能力の発動が可能なことから、転生者は便宜上これを宝具と呼称しています。その正体がどんなものかはVol.7で描写されます。
・最強の鎧と必殺の魔剣
何が起こったのかはVol.7で説明しますが、カルナの『
・
ここまで出番のなかったゴーストライダーですが、その間に何をしていたのかはVol.7にて明かされます。そのため、今回の加筆シーンにはゴーストライダーの出番はありませんでした。
●ダイヤについて:魔術や立ち位置のイメージは遠坂凛
・黒澤家は宝石魔術を使う魔術の名家となっており、沼津の管理を行っている
→黒澤家は聖杯戦争のシステムを作った家系の一つのため、聖杯戦争には優先して選出される
→イメージとしてはFateの御三家をひとまとめにした感じ
・両親は健在だが、前回の聖杯戦争の影響でダイヤが現在の当主となっている
・自身が聖杯の器の失敗作でルビィが成功例だと知っているが、姉妹の仲は良く、アイドル好きという共通の趣味を持つ
・鞠莉との仲違いはなくなっているが、果南とは聖杯戦争を止めようとするスタンスで仲違いしている
→実際には果南が知らなかった可能性に思い至っているが、監督役である以上、複雑な感情を抱いているため、顔を合わせにくい
・聖杯にかける願いはルビィの生存
・魔術回路の本数も多く、五大元素使いで多彩な魔術を扱えるが、武術を修めているわけではないため、肉弾戦は得意ではない
→実力的にはケイネスと凛の間ぐらい
・召喚に使用した触媒は古代インドの矢じりで確実な勝利のために強力なインドの英霊を狙っていた
→ダイヤ自身の持つ「施し」という要素がかみ合ってカルナが召喚された
●鞠莉について:魔術や立ち位置のイメージはルヴィア+慎二
・小原家は海外に土地を持つ魔術の名家の一つで黒澤家とは違う宝石魔術を使う家系
・魔術回路の量、質ともにダイヤと同等か少し下程度だが、一歩及ばない実力を資金力と肉弾戦、努力と作戦で補っている
・聖杯にかける願いは根源に至ること:旧版から変更
→参加する理由には自分の実力を証明することもあるが、メインとなる獲物はダイヤ
・ルビィの死は悲しむべき事だが、魔術師の悲願のためには仕方がないと考えている魔術師らしい魔術師
・本来は他の英霊を召喚する予定だったが、召喚に応じなかったため、代わりにライダーが召喚された
・鹿角姉妹には触媒と工房として使える拠点を提供する代わりに共闘する契約をしていた
●聖良について
・戦前から始まった歴史の浅い魔術師の家系だが、自身の実力を証明するために聖杯戦争に参加しようとしていたところを鞠莉にスカウトされた
・あらゆる分野に高い才能を持つが、魔術回路は少なく魔術師としての実力はよくて二流程度しかなく、欠点を補うために妹である理亜と組んでいる
→能力的にはカウレスと同程度だが、歴史が浅いことを考えれば当然の実力である
・魔術師として妹の理亜に劣っていることを自覚しているため、目的のためなら大事な妹ですら踏み台にしようとする魔術師らしい側面を持ち合わせている
・実力を証明するために戦うため、聖杯にかける願いは特にない
・触媒は鞠莉が選んだもので、知名度のみを優先して新選組の誰かをバーサーカーにするつもりで行った結果、土方が召喚された
●理亜について
・歴史の浅い鹿角家には珍しく比較的高い魔力量と魔術の才能を持って生まれたが、姉に依存する性格から実力を出し切れていない
・魔術以外は姉に勝てないが、肝心の魔術も姉に見捨てられたくない一心で磨いたため、姉に対しては全力を出せない
・姉とともに何かに取り組みたかっただけのため、聖杯にかける願いはない
・本来のマスターは理亜だが、基本戦術として理亜は後方で魔力タンクに徹して、幻覚で令呪を持っているように見える聖良がマスターのふりをして戦っていた