「それじゃ、有咲、また明日な」
「え!?あ、はい。それじゃ、また、明日……」
有咲が照れくさそうにしながら家に入るまでを見届けた勇牙はあふれんばかりの笑顔を浮かべていた。調査のために昨晩の公園に向かうその足取りは軽く、少し車道を歩いていたせいで背後からくるバイクにクラクションを鳴らされても笑顔で道を譲る姿は傍目にも浮かれていることが一目でわかるようだった。
「おい、勇牙、お前さんちょいと浮かれすぎだぞ。それに、あのお嬢ちゃんに肩入れしすぎじゃないか?」
「え?そうかな?」
別に普通だと思うけどなぁ、と悪びれる様子もなく忠告などどこ吹く風な勇牙に対してザルバはため息を吐く。
「まぁ、別に誰かを好きになるな、とは言わんが、黄金騎士としての自覚を忘れてもらっちゃ困るぜ?」
「……わかってるよ。俺だって、守りし者、だからな」
やることはやるさ、と軽く伸びをする勇牙は公園についたことでその意識を切り替える。多少日は傾いているが、いまだ夕日のさしている公園は人気がないだけで妙な不気味さを感じさせるようだった。
「で、ザルバ、反応はあるか?」
「……いや、ここにいたことは確かだが、あとは何も感じないな」
うまく隠れたもんだ、と感心したような態度のザルバに今度は勇牙が呆れてしまうが、予想していたのか、一度、ため息を吐くと即座に思考を切り替える。
「んじゃ、次はゲートを探すか。たしか、有咲はコンビニのあたりから視線を感じた、って言ってたよな?」
有咲の証言を思い出しながらコンビニがある方角にザルバを向ける。
「ふむ。確かに気配はそっちからだな」
「よし、日が落ちる前に見つけたいから、少し急ぐぞ」
「お前さんの趣味に付き合ってなければもっと時間があったんだがな」
「……うっさい」
ザルバの小言に言い返せない勇牙が走りながら周囲を見てみるが、特に手掛かりになりそうなものも見つからないまま目当てのコンビニが近づいていく。
「……まいったな。おい、勇牙、こうなったら法師の力を借りるしかないかもしれないぞ」
「──いや、そうでもなさそうだ」
焦った様子のザルバに対して何かを見つけたのか勇牙の足が止まった。その目線を追うとコンビニの近くでチラシを配っている青年の姿が目に入る。
「あの人間がどうかしたのか?」
「あのチラシ、多分、尋ね人だ」
白のワイシャツにジーンズのいかにも大学生といった格好の青年だが、その様子からは焦りのようなものが見えており、風に流されて足元に来たチラシを見ると高橋という青年を探しているようだった。
「なるほど。確かにこの事件がホラーのものなら、ここもヤツの狩場かもしれないな」
「そう言うこと」
感心したようなザルバの言葉に得意顔で返す勇牙。しかし、急にザルバがトーンダウンする。
「だが、これがホラー絡みかどうかわからないぞ?」
「それなら、もうすぐ確認できるかもな」
「何?それはどう言う──」
「あの、すいません」
ザルバと小声でしゃべっていた勇牙が声をかけられて見ていたチラシから顔を上げると、チラシを配っていた青年が目の前に立っていた。
「今、そのチラシを見ていたと思うんですけど、はっしー……ええと、高橋について何か知ってるんですか?」
「いや、特に何か知ってる訳じゃないんですけど、何があったんですか?」
一瞬、青年の表情が曇るが、気を取り直したのか持っていたチラシを一旦脇に抱えて勇牙の方へと向き直る。
「まずは、自己紹介から。僕は
説明を終えた外狩は、一度、言葉を切ると脇に抱えていたチラシを一枚取り出して勇牙に見せるが、当然ながら見覚えはない勇牙は首を横に振る。
「と言うか、2~3日連絡がつかない、なんて人によってはそんなに珍しいことじゃないと思うんですけど?」
当然の勇牙の疑問にザルバも内心でうなずいていたが、外狩は静かに首を横に振る。
「いや、はっしー……高橋はまじめな奴でこれまで講義に一度も遅刻したことすらないんですよ?それに、バイト先のこのコンビニにも来ていないみたいで……店長も不思議がっているんですよ」
静かに力説する外狩の姿に真剣さを感じた勇牙は一度、腕を組んで悩む姿勢になる。
「う~ん……わかりました。ちょっと俺も調べて見ますから、何かわかったら外狩さんに連絡します」
「本当かい?!ありがとう、えっと──」
「あー、名乗ってませんでしたっけ。俺は花咲川高校3年の冴島勇牙です、よろしくお願いします」
初めて安堵の表情を浮かべた外狩に対して自己紹介とともに右手を差し出す勇牙。慌てて握手を返しつつ、外狩は取り出したスマホに勇牙のことをメモする。
「冴島、勇牙君……か。それじゃ、僕はこれから一度大学の方に戻るけど、何かわかったらチラシに書いてある僕の番号に連絡してくれるかな?」
「はい、それじゃ、外狩さん、くれぐれも気をつけて」
「うん?なんだかわからないけど、注意しておくよ。それじゃ、勇牙君も気を付けて」
外狩は最初にチラシを配っていたあたりに置いていたリュックにしまうと、駐車スペースにあるバイク──勇牙には知る由もないが、VMAXと呼ばれる大型バイクのカスタムモデルである──に乗って去っていった。あっという間に姿が見えなくなると呆れた様子のザルバのため息が聞こえた。
「どうした、ザルバ?」
「……どうしたもあるか。最後のアレはなんだ?あの男がお人好しだったからよかったものを、普通なら警戒されて面倒なことになっていたぞ?」
「大丈夫だったから、別にいいだろ。それに、危なそうな人間に警告するのも魔戒騎士の仕事、だろ?」
「……まったく、ここまで口の減らない黄金騎士は前代未聞だぞ」
相変わらずのザルバの小言にあからさまに嫌な顔で屁理屈をこねる勇牙。やいのやいのと店の陰で小声で言い合いをする二人だったが、店の裏手に来たところでピタリと止まる。
「なあ、ザルバ、この邪気は……」
「あぁ、どうやらそこにゲートがあったみたいだな」
流石と言うべき切り替えの早さで二人が見た先にはフェンスで囲われた中にある室外機の陰、外からすれば死角になる場所に古びたキーホルダーが放置されていた。
「こっちは間に合いそうだな」
ザルバが言うが早いか魔戒剣を取り出した勇牙がキーホルダーから出てきた邪念のようなもの──陰我を断ち切ると、その場に漂っていた不快感が霧散したような感覚があった。
「だな。さて、次はどうするかなぁ……」
先ほどの鋭さはどこへやら気の抜けた様子の勇牙は頭を掻きながら周囲を見渡すと手掛かりを探すべく、ザルバを地面に向けながら歩き始めるのだった。
●#04解説
・浮かれる転生者
真面目に仕事をしているように見えますが、本来なら夜のうちに有咲の記憶を消すのが正しい魔戒騎士の行動です。それ以外の仕事についてはのちのエピソードで語られます。
・通り過ぎるバイク
わざわざ書いてあることには意味があります。今回の場合は監視しているゴーストライダーがバイクで先回りしていることを示すための描写でした。
・外狩登場
あらすじからわかると思いますが、この時点では描写していないため、あくまで一般人として書いています。バイクについては元々車種は設定していたため、ここで描写することにしました。
・ゲートと陰我
彼が見つけたゲートは邪気が残っているため、今回の素体ホラーとは関係ない物である可能性が高いです。陰我と邪気は厳密には別物で邪気はホラーの気配と考えるとわかりやすいかもしれません。