【新装版】GR:DED   作:雁野 命

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Vol.9:Nobody Eight
#01


『ジャンプ!オーソライズ!』

 

夜の路地裏に響く電子音声。その音の発生源は死んだ魚のような目をした黒髪の少年──比企谷八幡(ひきがやはちまん)の腰に巻かれたベルト──飛電ゼロワンドライバーであった。そして、ライジングホッパープログライズキーを構える八幡の視線は目の前に立つゴーストライダーへと向けられていた。

 

「……()()、お前か」

 

「何言ってんだ?……まぁ、いいか──変身!」

 

『プログライズ!』

 

呆れ果てたような口調のゴーストライダーに対して八幡は訝しみつつも展開したプログライズキーをドライバーに差し込むと、上空から落ちて来たバッタ型のライダモデルがアーマーとなって展開され、八幡は仮面ライダーゼロワン、ライジングホッパーへと変身するが、ゴーストライダーはその姿をただ眺めているだけであった。

 

「来ないのか?なら、こっちから行くぞっ!」

 

「(一騎、()()()とは言え敵は討たねばならん)」

 

(ああ、分かっている、が……まったく、儘ならん、な)

 

跳びかかるゼロワンを前に辟易しつつ内心で頭を抱える一騎とゴースト。一見、油断にしか見えない姿であったが、圧倒的な実力差を持つゴーストライダーは片手間に相手をしつつ、この戦いの始まりを思い出すのだった。

 


 

猟犬の反応を追ってゲートをくぐった一騎は昼前の廃墟近くに出ていた。白い息を吐きながらライダースジャケットを着て周囲を見渡す一騎はフェンスの向こうに特徴的な台形の建物──ボーダー本部が見えたことで警戒区域近くに出たことに気づくが、その表情はどこか険しかった。

 

(ワールドトリガー、か……()の反応はあったか?)

 

「(否、既に此の世界から出たようだ)」

 

(そうか……痕跡は追えても奴にかかり切り、と言う訳にはいかんか)

 

猟犬がいないことを告げられた一騎は少し落胆するものの、一度、ため息を吐くとバイク用のグローブを嵌めつつ呼び出していおいたバイクに軽く寄りかかる。

 

「(……悪い知らせだ。今回も刻印の反応が弱い。此の周囲には居ないが、用心しろ)」

 

(了解した……まったく、儘ならんな)

 

またもや特殊な状況であることを警告するゴーストに頷く一騎は辟易しつつ、いつものフルフェイスを被ってバイクに乗ると転生者を探して街の中へ向けて走り出した。

 

「(一騎、近付かねば刻印は探せぬが、先ずは如何する?)」

 

(本部にいない、ということはどこかの学校だろう。今の時期、この時間ならまだ授業中のはずだ)

 

「(成程。ならば、我は一つ試す事がある)」

 

(何をするつもりだ?)

 

「(罪の気配から奴を追う。刻印よりも数は多いが、罪の重さを思えば不可能ではあるまい)」

 

(なるほど。確かに、悪人の少ないこの世界なら出来るかもしれんな)

 

「(然り、些か時間は掛かるだろうが、何人(なにびと)も犯した罪からは逃れることは出来ぬ)」

 

何かあれば呼べ、と言い残して集中したゴーストが静かになると、バイクを走らせる一騎の目にはもうしばらくでクリスマスの飾り付けが始まるであろう、平和な冬の街並みが映っていた。

 

(平和、か……仮初めであっても、いや、仮初めだからこそ俺たちが守らなければ……)

 

「(──見つけたぞ、学校、此の先だ)」

 

(っ!?分かった、誘導を頼む──なるほど、確かに、ここが転生者の居場所だろうな)

 

しばらく走り回っていた一騎が人々の営みに決意を新たにしていると、突如、かけられたゴーストの声に誘導されて交差点を曲がる。そして、声に導かれた一騎が辿り着いたのは三門市にあるはずのない一つの高校──総武高校であった。

 


 

(まったく……度し難いな)

 

学校を見張っていた一騎が見つけた転生者──比企谷八幡の姿をした少年を追跡する中で、彼がボーダー関係者であること、そして、特殊な(ブラック)トリガー使いであることを突き止めたが、帰宅した八幡の姿を夜の闇の中で監視する一騎は侮蔑の表情を浮かべていた。

 

「(然り、だが、此の様な転生者は今までにも居た)」

 

(だからこそ俺には許せない。それに、奴は人の姿を──存在を奪っている)

 

反吐が出る、と吐き捨てる一騎だが、軽蔑するのも無理はない。本来この世界にないはずの少年の姿や家族だけでなく、総武高校の奉仕部やクラスメイトまでまとめて再現しているとなれば、この世界に与える影響は計り知れないからであった。

 

「(なればこそ、だ。我等は罪人を等しく憎まねばならぬ──そうであろう?)」

 

(……そうだな──ああ、その通りだ)

 

ゴーストの言葉で冷静になった一騎は意図せず固く握っていた拳を解きながら一度深呼吸をすると、八幡の家を見張りながら思案を始める。

 

(……しかし、刻印の反応が弱いのが気になるな)

 

「(然り、弱った様子は無い。が、此の世界には他の反応は無い。仕掛けぬ道理は無い筈だが?)」

 

(ああ、だが、一応、様子を見る──いつも通り、確実に仕留める)

 


 

「──ん?何だ、コレ?」

 

放課後、三々五々に帰って行く生徒の中で下駄箱を覗いた八幡は丁寧な筆跡の手紙が入っていることに気が付いた。差出人は不明だが、よく見れば、比企谷八幡さんへ、と宛名まで書かれていれば入れ間違えた、と言うことは無さそうであった。

 

「……マジかよ……?」

 

慌てて手紙をしまいつつ周囲を見回す八幡だったが、気づいた生徒はいないようで忘れ物をした風を装ってトイレの個室へと駆け込んだ。

 

「……これは……!」

 

市販されている便せんだったが、丁寧な筆跡で書かれた内容は要約すると、話があるから今日の放課後に屋上に来てほしい、と言うものであり、ともすれば告白──あるいは決闘ともとれるような呼び出し状であった。

 

「誰だ?由比ヶ浜、って線はなさそうだし、雪ノ下──はこんな事しなさそうだからなぁ……」

 

ああでもないこうでもない、と唸る八幡だったが、考えても仕方がない、と気合を入れると確認のために急いで屋上へと向かいその扉の前で立ち止まる。

 

(ん?屋上の扉って封鎖されてなかったっけか?)

 

ドアを開けようとした瞬間に何か違和感を感じた八幡だったが、ま、いいや、と思考を放棄するとゆっくりと扉を開け放った。

 

「あれ?誰もいない……騙されたとか、無いよな?──誰だっ!?」

 

扉を開けっ放しのまま夕日に照らされる屋上の真ん中へと進む八幡は自分の前に影が伸びていることに気づくと勢いよく振り返るが、その時には目の前、ちょうど先ほど入って来た入り口の前に一人の男──一騎が降り立ったところだった。

 

「お前たちを狩る者だ」

 

「なるほど、猟犬、って奴か。犬なら犬らしく骨でもくわえてろっての」

 

「犬、か。確かに、虎の威を借る狐、いや、他人から奪うことしか出来ん愚物を狩るにはちょうどいいかもな」

 

「チッ、言わせておけば!──トリガー起動(オン)!」

 

軽く挑発する八幡だったが、それを上回る一騎の罵倒に怒りを露わにすると、懐から取り出した握りの付いた柄のようなもの──トリガーを起動する。そして、その体はトリオンで出来た青い隊服を着た戦闘体──トリオン体に換装されると、右手にはトリオンで形成された光刃を持つ日本刀──弧月(こげつ)が握られていた。

 

「さぁ、アンタの能力を見せてもらおうか!」

 




●#01について
・ワールドトリガーの世界
本編開始直後ぐらいの12月をイメージしています。世界に対して大きな改変はありませんが、憑依転生をイメージして<比企谷八幡>という存在の形成に必要な存在が追加されています。

・罪の気配
刻印そのものの気配がなくとも世界を歪ませた罪人ではあるため、その罪を追う。ということです。本編では説明しにくいため、こちらで解説しました。

・もう一人の比企谷八幡
今回も特殊な状況ですが、転生者の発言からもわかるように猟犬ではありません。なんとなく想像の付く方もいらっしゃるかもしれませんが、詳細はのちのエピソードで説明されます。

・使用トリガー
黒トリガー使いと説明していますが、ワートリ転生の定番として普段使い用の通常トリガーを持っている設定です。チームにも所属している設定ですが、チームメンバーについては特に設定していません。
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