【新装版】GR:DED   作:雁野 命

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Vol.10:Phantom Bullet
#01


真夏の昼間、普通なら夏休み中の学生が街中にあふれそうな時間帯だが、木組みの街を訪れた一騎は現代的な空気とは程遠いとは言え、そんな活気をまったく感じないことに違和感を覚えていた。

 

(……妙だ。元々、静かな街だが、流石に人気が無さ過ぎる)

 

「(然り、だが、()の気配が満ちる此の世界であれば仕方があるまい)」

 

(奴の気配が溢れている、とはどう言う意味だ?)

 

「(待て、少し探る……如何やら、奴は己の刻印を断割(たちわ)り此の世界に撒いたと見える)」

 

気配に紛れて何をしたかは分からぬがな、と見解を述べたゴーストに対して一騎は納得しつつ頭を抱える。

 

(なるほど……いつもの事とは言え厄介な奴だ)

 

「(然り──っ!?一騎、罪人の気配だ、近いぞ)」

 

(まったく、儘ならんな……!)

 

辟易した様子の一騎だったが、罪人の気配を感じたゴーストの声と耳に届いた爆発音で即座に走り出す。案内に従って走る一騎は耳に届く連続した爆発音に戦闘の気配を感じていた。

 

(確認だが、()()()()()は一つか?)

 

「(然り、罪人は一人の筈だ……尤も何らかの力で隠せぬ訳では無いがな)」

 

(なるほど……だが、どうやら先客がいるようだぞ)

 

『ジェットクリティカルストライク!』

 

「ぐおぁぁ!?」

 

目的地の路地に辿り着いた一騎の目の前には爆発とともに吹き飛ばされる怪人──スプラッシングホエールレイダーの姿とガトリングガンの掃射とミサイルを叩き込む必殺技──ジェットクリティカルストライクを放った仮面ライダースナイプ、コンバットシューティングゲーマーレベル3の姿があった。

 

「(ふむ……あの者からは罪人の気配は無い……が、件の猟犬の可能性も在るぞ)」

 

(何にせよ、まずは様子を見る……幸い、気付かれてはいないようだからな)

 

物陰に隠れて様子を見ている一騎には気づかない様子のスナイプは倒れて気絶している怪人だった男の無事を確認すると、軽く周囲を見渡してからそのまま逃げるようにどこかへと飛び去って行った。

 

(分割された刻印、謎の怪人に仮面ライダー……まったく、面倒な事をしてくれる)

 

「(然り、だが、此処で奴を狩る。そうであろう?)」

 

(当たり前だ。まずは情報を集める)

 

内心で頭を抱えた一騎だが、思考を切り替えると野次馬の集まり始めたその場を離れて情報収集に向かうのであった。

 


 

「……いらっしゃいませ」

 

情報収集のために()()()()()()喫茶店、ラビットハウスに訪れた一騎は薄水色のストレートロングヘアーの小柄な少女──香風智乃(かふうちの)、友人や家族からはチノと呼ばれる彼女の案内で席へと着いた。

 

「ご注文は?」

 

「ええと、それじゃ、オリジナルブレンドを一つお願いします」

 

「オリジナルブレンドですね。少々お待ちください」

 

注文を受けたチノが軽く頭を下げてから戻る姿を横目にあらかじめ幾つかの小道具を詰めた肩掛けのカバンを真横に置いた一騎は中から取り出した手帳へと目を向けるフリをする。

 

「(其れで、此処から如何する心算だ?)」

 

(まずはタイミングを待つ……流石に彼女一人では話は聞けそうにないしな)

 

「(……成程。ならば、我は気配を探る)」

 

(ああ、任せた……さて、後はどう出るか……)

 

内心で小さくため息を吐いた一騎だったが、従業員が使うであろう扉が開いた音で目だけをそちらに向けると、店の制服を着た濃い紫のツインテールの長身の少女──天々座理世(てでざりぜ)、リゼと呼ばれる少女は奥で着替えていたのか、申し訳なさそうにチノの方へと近づいていた。

 

「悪い、チノ。あとは私がやるよ」

 

「そうですか?それじゃ、このオリジナルブレンドをあちらのお客さんに持って行ってもらえますか?」

 

ああ、任せておけ、と二つ返事で了解したリゼは出来上がったコーヒーを一騎の元まで持ってきた。

 

「お待たせしました。オリジナルブレンドです」

 

「ありがとうございます。あ、少し待ってもらえますか?」

 

「はい?えっと、何かありましたか?」

 

「いえ、実は僕はこう言うものでして……」

 

「……フリーライター、ですか?」

 

「はい、フリーライターの外狩一騎と言います。それで……」

 

軽く立ち上がって呼び止めた一騎に対して訝し気な視線を向けるリゼだったが、差し出された名刺とカバンから取り出したカメラを見せる一騎の顔を見比べていると、いきなり店の入り口が開け放たれる。

 

「ただいまー!って、あれ?お客さん?」

 

「敵襲かっ!?って、なんだココアじゃないか」

 

「まったく……ココアさん、営業時間なんですからもう少し気を付けてください」

 

ごめんごめん、と軽く謝るココアと呼ばれた少女──保登心愛(ほとここあ)が店の奥の扉へと向かう姿を見送ったリゼは一騎を放置していたことを思い出して慌てて振り返ると手振りで座るように促す。

 

「えっと、それで、何の話でしたっけ?」

 

「はい、今この街に()()()()()()が出る、と言う噂を聞きまして……対したお礼は出来ませんが、何かお話を伺えると助かるんですけれど……」

 

「……まぁ、話ぐらいなら……けど、仮面ライダーか……私は街を守るヒーロー、ぐらいの話しか……チノ、何か知ってるか?」

 

「仮面ライダー、ですか?私も詳しくは知りませんけど、ウワサで聞いた仮面ライダーに変身できる道具を探してる、ってマヤさんが言ってましたね」

 

危ないから止めるように言ってるんですが、と作業する手を止めつつ心配そうにこぼすチノ。特に思い当たる様子が無いのかリゼも小さく考え込んでいると、従業員用の扉が開いて店の制服に着替えたココアが勢いよく入って来た。

 

「何の話?困りごとならお姉ちゃんに任せなさい!」

 

「ココアさん……いえ、困りごと、と言うか、ココアさんは仮面ライダーについて何か知ってますか?」

 

「うーん、仮面ライダーかぁ……市民を守る正義の味方で、正体は自衛隊の鬼軍曹、とか、元軍人で今はコックをしている、とか色んなウワサを聞くけど会ったことは無いかなぁ」

 

「何だそのよくわからん具体的な人物像は……?」

 

(鎌を掛けたつもりだったが……仮面ライダーが一般に認識されている、と言う事か……)

 

「……だ、そうです。お役に立てないようですみません」

 

「いえいえ、実在する、と分かっただけでも助かります」

 

申し訳なさそうに頭を下げるチノに対して、おいしいコーヒーもいただけましたからね、とメモをしながら飲み終えたカップを見せた一騎は外向けのさわやかな笑顔を浮かべると、それなら良かったです、とチノの表情が少し明るくなる。

 

「……外狩さん、仮面ライダーのことはあまり追わない方がいいと思います」

 

「リゼちゃん?どうしたの?」

 

「さっきチノも言ってましたけど、本当に危ないですから……何か理由がなければウワサを聞くだけで十分だと思います」

 

「……分かりました。ま、命あっての物種ですからね。それじゃ、そろそろ取材に行ってきますか」

 

ごちそうさまでした、また来ますね、と代金をテーブルに置いた一騎はカバンを片手に軽やかに店を出るとそのまま適当な路地へと入った。

 

「(此方(こちら)は空振りだ……さて、次は如何する?)」

 

(まずは宿を探す……流石に、この街で野宿は目立つからな)

 

「(成程。人の世は儘ならぬな)」

 

(……まったくだな)

 

内心で頭を抱える一騎だったが、小さくため息を吐くと宿を探しつつ街を調べるために歩き始めるのであった。

 




●#01について
・ばらまかれた分割刻印
前回の世界で一人の転生者が意識とともに刻印を分割していましたが、今回はその原理だけ応用して他者から奪った刻印を分割しました。具体的に何をしているかはのちのエピソードで説明します。

・謎の怪人と仮面ライダー
今回の世界の謎、と言うか話のメインとなるギミックです。今回の一騎の標的は件の猟犬ですが、罪人がいて刻印がばらまかれている以上、それを放置できない一騎はこの件を調査せざるを得ません。

・ラビットハウス
一騎がこの場を選んだ理由はこの世界に転生者がいるとすれば確実にメインキャラのいるこの場所を拠点にしていると睨んだからです。今回は事情が違ったのか転生者はいませんでしたが、最低限の情報収集は出来ました。
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