#01
ゴーストライダーとの戦いが終わった数時間後、日曜日の朝を迎えたマンションのリビングではつまらなさそうにライドウォッチを弄る総司と顔をしかめつつタブレットを操作する尊の前で不機嫌そうな表情で立つ斗真の姿があった。
「おい、報酬が貰えない、ってのはどう言う事だ?」
「……上位者からの指示だ。死亡した証拠を持って来い──だそうだ」
「ま、泣く子と上司には、ってことだ……面倒な事この上ないがな」
「正しくは、泣く子と
「そうか?ま、細かいことは気にするな……で、何の話だったか?」
「……要するに、俺に死体を探して来い、って話だろ?つーか、それぐらいならその辺の連中にでもやらせとけばいいだろ?」
げんなりした様子で斗真に説明しつつ、どこかズレた会話をする二人だったが、対する斗真が当然の疑問を投げかけると尊の表情がさらに渋くなった。
「嘆かわしいが、報酬の支払いがなければほとんどの連中が動かん。それに、俺は街の管理と報酬の配分を考える仕事がある」
「それに、動き回って
ま、多少は働いてもらわんとな、と意地の悪そうな笑みを浮かべながらの総司の言葉に斗真は大きくため息を吐く。
「……わかったよ、んで、具体的にはどうすりゃいいんだ?」
「外狩一騎の死体、またはその一部を探せ。おそらく、倉庫街近くの海中か流されて海岸にでも打ち上げられているだろう」
斗真の方も見ずに指示を出した尊に対して、りょーかい、と適当に返事をした斗真はさっさと外へ出ると抜けるような青さの空を見上げて小さくため息を吐いた。
「ったく、もっと強い奴と戦える楽しい仕事は無いもんかねぇ……」
物騒な願いを一人ごちる斗真は協力してくれそうな何人かの転生者に連絡を入れると、
(……ここは、どこだ?)
目が覚めた一騎は最初に覚えたのは違和感であった。倉庫街で吹き飛ばされて海中に落ちたはずの一騎がまず目にしたのは木目のある天井であり、次いで背中に感じる感触からベッドに寝かされていることに気づき、最後に外から差し込む光で今が昼を少し過ぎた辺りだと予想したところで傍らに浮かぶゴーストの姿が目に入った。
「(目覚めたか、一騎)」
(ああ、なんとかな……それより、これはどう言う事だ?)
「(其れは──)」
「──あっ!目が覚めたんですね?よかった……」
周囲を見渡した一騎は生活感を感じないことから、そこを来客用として使われているアパートの一室か何かだと当たりを付ける。すぐ脇にボロボロのワイシャツが丁寧に畳まれていることや怪我をしていた体が手当てをされていることを含めて内心でゴーストに問いかけるが、その前に開けられた部屋の扉から入って来た三つ編みをしたピンク色の髪の少女──
「……ええっと、あなたは一体?それに、ここはどこなんですか?」
「えっと、まず、私は環いろはと言います。それで、ここは私が下宿しているみかづき荘と言う所です」
「そうですか……僕は──」
「ゴーストライダーの外狩一騎さん、ですよね?そちらのゴーストさんとやちよさんたちからお話は聞いてます」
「……そうか。それで、どこまで知っている?」
最初は警戒を解くために穏やかな仮面で接するつもりの一騎であったが、いろはの言葉に一度ゴーストの方を見てから、内心で困惑しつつも狩人としての鋭い視線をいろはへと向ける。
「その、あなたがこの世界に来た理由と来てからの行動については知っています」
「なるほど。つまり、あの視線や地図はお前たちの仕業、と言う事か」
「はい……それで、倒れていたあなたを
「そうか、助かった。礼を言う──が、それより今、芳乃、と言ったな?お前たちは魔法少女だけではないのか?」
礼を言って起き上がろうとした一騎だったが、少なくともみかづき荘にまつわる人間の中では聞きなれない名前に問いを投げかけるといろはは一度、不思議そうにしたあと得心が行ったのか小さくほほ笑んだ。
「はい、芳乃ちゃんは
「(環いろは、先ずは他の者に報告すると良い。可能であれば一騎の食事も頼む)」
「はい!それじゃ、外狩さんが起きたことを皆さんに伝えてきますね」
あと、外狩さんの食事の用意もしておきます、といろはがゴーストに促されて部屋を出て行くと、一騎は小さくため息を吐いて頭を抱えた。
「(一騎、後は本人たちから聞くと良い)」
(……わかった。しかし、今回は
「(成程、奴を遠ざけていた理由は其処か。だが、此度の
(まずは事情を聞く。どうするかはそれからだ……それにしても、お前が共闘を良しとするとはな)
「(此度の件は其れだけの大事、と言う事だ)」
(守るべき者に頼らねばならんとは……まったく、儘ならんな)
ゴーストと相談を終えた一騎は状況に辟易しつつも怪我を感じさせない動きでベッドから起き上がると、ゲートから取り出した替えのシャツに着替えてから話を聞くために部屋を出るのであった。
(……マジかよ?)
昼下がりの気怠さを感じつつ、そろそろ昼飯かなー、などと海岸近くのコンビニの前で呑気に座っていた斗真は手元にあるタブレットを見て愕然としていた。それもそのはずである。タブレットの画面には今いるコンビニの数時間前の監視カメラの映像が流れており、その映像には死んだはずの一騎が少女に背負われて運ばれている姿が映りこんでいたからであった。
(あの攻撃で生きてるなんて、一体どんな手品を使った?──いや、それより今は手がかりを見つけないと)
一騎が生きていた衝撃で困惑する斗真だったが、役目を思い出して瞬時に頭を切り替えると痕跡を見つけるために映像を見る。だが、その映像から読み取れたのは一騎が生きていることと、運んでいるのが黒い長髪の少女であることだけであった。
(流石に、コレを報告して、はい終わり、って訳にはいかないよなぁ……しゃーない、少し癪だが、尊に頼むか)
『……何だ?俺は忙しいと言ったはずだが?』
成果の無さに落胆する斗真だが、一度、大きなため息を吐くと街の管理を引き受けている尊のスマホに連絡を入れると、数度のコール音の後に不承不承と言った様子で尊が応答した。
「……報告、いや、要請だよ」
『要請?おい、まさか──』
「ああ、お前の予想通り、
『仲間?以前の報告には協力者の話は無かったはずだが?』
斗真の報告に対してスマホ越しにも呆れ果てたような表情が目に浮かぶような尊の非難の声に、ただでさえ不機嫌だった斗真の表情が更に渋くなっていた。
「俺が知るかよ……ともかく、探すにももう少し情報が欲しい。映像の解析を頼めるか?」
『……いいだろう。ついでに監視システムで外狩一騎を探しておく。お前はそのまま痕跡を辿れ。おそらく、奴らのアジトに行ったはずだ』
「了か──あの野郎、切りやがった……ま、いいや。とにかく一度、集合をかけるか」
一方的に指示を出して通話を切った尊に対して不満を抱く斗真だったが、一度、深呼吸をして頭を切り替えると捜索を協力している転生者たちへと連絡を入れる。
(だが、これであのゴーストライダーと戦えるんだ──まったく、楽しみで仕方がないな!)
タブレットをバッグにしまった斗真は獰猛な笑みを浮かべると停めてあったバイクに乗って集合場所へと向かうのであった。
●#01について
・生きていた一騎
アレで終わりという訳には行かないので生きていましたが、ボロボロになる程度には手痛い攻撃でした。作中でもトップクラスにダメージを受けているので痛みはありますが、精神力で立ち上がっています。
・協力者を選ぶゴースト
斗真を協力者にしたかったようですが、当てが外れてしまいました。今度の協力者は複数のようですが、その実態がどのようなものなのかは次回をご覧ください。
・黒い長髪の少女
旧版を未読の方でもなんとなく予想できるかもしれませんが、その正体は次回をご覧ください。ちなみに、成人男性としても筋肉量の多い一騎の体重はそれなりの重さなので、体格の問題もあっておそらく背負っているというよりも引き摺っている感の方が強いかもしれません。