剣士(?)と魔女っ子(?)   作:小宅 夕焼

1 / 8
1. 穴と森

 就活失敗ニート生活。自堕落に過ごしていた俺は、今日も性癖であるTSモノWeb小説を読み漁っていた。

 

「ああ、美少女にでもなって人生やり直したい」

 

 そう呟いた瞬間、世界が光り輝いた。眩しい。呆然とする俺の耳元で、女性の声が聞こえる。

 

「あなた、女の子になりたいんですね? ならばその夢、叶えて差し上げましょう。ただし異世界でね」

「あなたの大好きな異世界転生ですよ、少女化というオマケ付きです。良かったですね。ではご機嫌よう」

 

 光が止んだら、今度は暗闇だった。

 

「うわあっ!! ……え?」

 

 明暗差に驚いて飛び出た俺の叫び声は、俺の知らない高音だった。その困惑が俺に冷静さを取り戻させてくれた。

 さっきの女性の言葉は。ここは、一体。

 

 まさかと思い頬を撫でる。スベスベだ。身体に手を伸ばす。有ったモノは無くなっており、無かった膨らみは無いままだ。

 その後も俺は身体の各部を確かめたり、跳ねたり踊ったりしてみて、どうやら本当に少女の身体になってしまったのだと確信した。俺は突然異世界に飛ばされた挙句、TSまでしてしまったのか。

 

 やったぜ。……違う、そうじゃない。

 非現実的すぎる、これは明晰夢というやつだ。いやいや、やはり本当の異世界転生かもしれない。

 二つの思いが交錯しつつ、ようやく暗闇に慣れてきた目で辺りを見渡す。ここは洞窟だろうか。あの遠くに光る白丸は出口だろうか。

 俺は期待と不安を胸に、出口と思しき光の方へと歩みだした。

 

 

 

 うおっ眩しっ。やっと脱出できた。そして、ここは森だろうか。木々が生茂っている。

 陽の下で改めて自分の姿を確認する。手の小ささが既に少女だ。顔を確認したいがあいにく鏡は持っていない、美少女だといいなあ。服はゴスロリだな、いいね。

 靴は……あ、木の棒が落ちてる! 身体が少女になっても心は男。いい感じの木の棒にロマンを感じ、つい拾ってしまう。

 

 で、俺は後ろのあの穴から出てきて……ん? 隣にもう一つ穴があるな。

 そう思ってその穴を眺めていると、何者かが出てきた。

 

 大剣を背負った男だ。男はキョロキョロと辺りを見回している。俺に気付いたらしく、男がこちらに顔を向けた。目が合う。

 デカッ! 目付き怖っ! 首筋のそのタトゥーは何!

 こんなのに襲われたら少女の身体ではひとたまりもないだろう。俺は蛇に睨まれた蛙のように、目を見開き硬直してしまう。

 にしてもこの男、デカい。かなり見上げる形になって首が痛い。俺が小さいのもあるだろうが。

 

 無表情だが何かを見定めているような目線を俺に向け、暫く黙りこんでいた男が声をかけてきた。

 

「……おう」

 

 厳つい見た目相応の無愛想な声色だ。

 

「あんた誰?」

 

 思わず俺はそう返す。率直な感想だ。「あなたはどちら様でしょうか?」と言うつもりが俺も無愛想な言葉になってしまったが。

 

「っ……俺達は仲間じゃなかったのか……!」

 

 すごい悲しそうにそう言われた。

 もしや俺は、現地人であるこの少女に憑依しちゃったパターンか。そっち系ね、確かにそういう作品もあるよね、新たに身体ごと神様に創って貰える系じゃなくて。

 そして俺が憑依してしまったこの少女と、目の前の剣士は仲間だったということか。こんな強面の筋肉剣士と仲間とは、一体この少女は何者なのだろう。

 

 俺は内心冷や汗をかく。正直に転生憑依したことを打ち明けたら「俺の仲間をどこへやった……!」と激昂の末、何をされるかわかったもんじゃない。

 なんとしてもこの少女のフリをせねば。とりあえず先の発言を取り消そう。

 

「冗談よ」

「心臓に悪い冗談はよせ……」

 

 はあ、と男は安堵の溜息をつく。冗談でも仲間から赤の他人扱いされたら悲しいわな。

 それとも、過去に仲間に裏切られたりした経験でもあるのだろうか。見るからに歴戦の戦士って感じだもんな。悲しい過去の一つや二つあるんだろう。

 男は言葉を続ける。

 

「……それで、そっちの穴はどうだった」

 

 どうだった、って何がよ。俺はまだこの世界のことがサッパリなのだ。そんなフワッとした質問は止めてくれ!

 ここで的外れな回答をした場合「偽物め!」と斬り捨てられ、俺のTSライフは即終了だ。どうする、俺。

 

 

 ――そのとき俺に電流走る。閃いた、そっちがその気なら俺もフワッとした返答だ!

 

「見ればわかるでしょう?」

 

 『必殺・相手の解釈に委ねる』。さあどう出る、剣士の男よ。

 そう言って俺は胸を張り両手を広げる。堂々としていた方が怪しまれるリスクは低いだろう。

 

「フッ……流石だな」

 

 そう男は鼻で笑いながら言う。

 何が流石だというのか。俺の機転の利いた切り返しがか? もしかして中身が変わっていることを疑われている……?

 少女になって初めての闘いが心理戦とは一体どういうことだ。闘うにしても俺はメス堕ちとの葛藤とか、そういう闘いがしたいんだ。

 

 ともかく、疲れた。早く宿にでも泊まって、鏡でじっくり俺を鑑賞したい。

 

「街へ戻りましょうか」

 

 俺がそう提案してみると男はコクリと頷く。やった、街へ連れてってくれる!

 そういえば俺の口調に対するツッコミとか無かったし、俺TS少女の才能あるのかな。さあ早く街まで案内なさい、騎士様♪……なんてな。

 俺がまだ見ぬ美少女の俺を想像してワクワクしていると、男がポツリと呟いた。

 

「街は……どっちだ」

 

 俺も知らねえよ。まさかこの剣士くん、方向音痴か?

 ああ、言い出しっぺの法則とは残酷だ。

 

「仕方ないわね、着いてきなさい。あっちよ」

 

 俺はヤケクソ気味に木の棒で方向を指し示した。

 

 

 

 

 洞窟の水溜りに映る俺は強面のあんちゃんだった。首筋には何かの紋章らしき刺青がある。目を擦り再度水溜りを見やるも、そこに元の俺の顔はない。

 身体は筋骨隆々、立ち上がってみると目線も俺の馴染んだものより20cmは高くなっていた。

 背には大剣、全身に鎧、そして、マント。剣士三種の神器を身に纏いし俺は、先ほど夢のような場所で出会った『自称・神』の言葉を思い返す。

 

 

「チンピラに撃たれて死んでしまうとは、キミも哀れよのう」

「気がついたかの、ワシゃ神じゃ。突然じゃが異世界で第二の人生を歩んでくれんかの。剣と魔法のファンタジー世界じゃ」

「ほら、ワシからの依頼だと思って、頼むの。キミには強い身体をやるからの」

「そいでは、強く生きるんじゃぞ~」

 

 おおよそこんな感じだった。

 

 まずは現状を整理しよう。

 俺は駆け出しの探偵。とある依頼を受けて、反社会的組織の調査をしていた。俺は自慢の推理力を活かし、奴らの尻尾を捕まえて事務所への潜入を決行したが……俺が覚えているのはここまでだ。神の言う通り俺は殺されたのだろう。

 そして異世界とやらに住む、剣士の男に憑依したと。信じがたいことだが、受け入れるしか無いのだろう。

 

 幸いこの身体は屈強そうだ。この世界では構成員に殺されるなんて同じ轍は踏むまい。この身体の本来の持ち主の兄ちゃんには悪いが、第二の人生とやらを楽しんでやろう。

 そんな感じで俺は受け入れがたい現実にも、案外楽観的に臨めていた。あの光刺す穴がこの洞窟の出口だろう。俺は颯爽と光へと歩を進めた。

 

 

 

 外に出ると、そこは森だった。振り返ると、俺が出てきた洞窟だ。丘の斜面に掘られた横穴だったのか。

 ん、振り返るときに一瞬視界に人影が映った気がする。俺が90度首を捻ると、少女がこちらを見つめていた。

 

 状況整理だ。

 白髪で、フリルのついた黒いドレスを着た女の子だ。手には長ネギくらいの長さの木の棒を持っている。首筋には、水溜りで見た俺と同じ紋章がある。

 そして俺が出てきた横穴の隣には、もう一つ横穴がある。彼女のすぐそばだ。

 

 これらから導かれる俺の推理はこうだ。

 

 まず、この少女は魔法使いだ。ここは剣と魔法のなんちゃらだとか神も言っていたし、あれは単なる木の棒ではなく魔法の杖なのだろう。

 以降、この少女を魔女っ子と呼ぶ。

 

 次に、俺にも付いている首筋の紋章。何だろうかこれ。

 そういえば俺が追っていた組織にも、仲間内で特徴的な刺青を掘る習わしがあったな。それから類推するに、剣士の兄ちゃんと魔女っ子は仲間、所属を同じくする者、といったところか。

 

 最後にもう一つの横穴。剣士の兄ちゃんのように、魔女っ子はあっちの穴に入っていたのだろうか。状況的にもそう考えるのが自然か。

 

 以上の断片からストーリーを仕立てるならば、こうだな。

 

 同僚である剣士と魔女っ子は、何らかの理由でこの森に来た。二つの横穴を見つけた彼らは、手分けして調査を始めた。

 そして神の気まぐれにより、剣士には俺が憑依してしまい、魔女っ子は何事もなく先に調査を終えて、剣士を待っていた。

 そして今に至る。

 

 状況整理完了。

 しかし思いもよらぬハプニングだ。さっそく剣士の兄ちゃんの同僚と出くわすとは……。

 つまり、俺は人柄を知らない剣士の兄ちゃんを演じつつ、この魔女っ子とも旧知の体で自然に接する必要がある。

 

 それとも正直に告白してしまうか、剣士の兄ちゃんの中身が俺だと。いや、無いな。

 この幼い少女が、同僚が姿だけ同じの別人だと知ったら、きっと悲しむ。子供を悲しませるなんて探偵の風上にも置けん。

 記憶喪失のフリも同様の理由で却下だ。そもそもこの筋骨隆々な剣士が、こんな穏やかな森で記憶喪失なんてするわけがない。

 

 

 少女も未だ口を開かず、目を見開いて俺を見つめたままだ。別人が憑依していることを勘付かれているのかもな。これ以上不信が募る前にこちらから話しかけるとするか。

 探偵という職業柄、色んな生業の人間を相手にしてきた。剣士のフリもお茶の子さいさいよ。

 

「……おう」

 

 まずは強面らしい無愛想な挨拶だ。

 

「あんた誰?」

「っ……俺達は仲間じゃないのか……!」

 

 俺の推理が外れた!?……泣きそうだ。まさか赤の他人なのか。

 

「冗談よ」

「心臓に悪い冗談はよせ……」

 

 はあ冗談か。まあそりゃそうか、俺の推理は完璧だ。

 そして俺の口調に指摘が無いということは、剣士の兄ちゃんはやはり無愛想キャラで合っていたようだ。

 おっと、心の探偵ノートに『魔女っ子はジョークがお好き』とメモメモ。

 

「……それで、そっちの穴はどうだった」

 

 次に業務連絡を交わし合いつつ、情報を集めよう。この森に来た目的、我々の所属や立場、この世界の常識など、知るべき情報は山程ある。

 

「見ればわかるでしょ?」

 

 そう言って彼女は両腕を広げる。

 「見ればわかる」か。特におかしな点は無い。傷や服の汚れもない、綺麗な少女だが……なるほど。

 彼女は「私は無傷で戻ってきたわ」と言いたいんだ。つまり何者かと交戦はあったが魔法一振りで倒してやったと。かなりの実力者のようだな。

 にしてもあまりヒントが得られなかった。彼女も無愛想で、口数の少ないタイプのようだ。だからこそこの剣士の兄ちゃんと馬が合い、行動を共にしていたということか。

 

「フッ……流石だな」

 

 わからないことだらけだが、とりあえず褒めておこう。褒められて悪い気はしないというのは全世界共通だろう。

 しかし、困ったな。多くを語らない彼女から、どうやって情報を引き出すか……

 

「街へ戻りましょうか」

 

 うん、いいねそれ。街での聞き込みは情報収集における定石だ、行こう行こう。……ん? 街?

 

「街は……どっちだ」

 

 情報を得るための情報が無い。そんなダメ探偵を「仕方ないわね」と言いつつ先導してくれる魔女っ子の背中が逞しい。君のことは助手くんと呼ばせて貰おう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。