剣士(?)と魔女っ子(?)   作:小宅 夕焼

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6. はじめてのお泊まり

 ついにゆっくり休めるんだ……!

 

 異世界生活二日目にして初めてのホテル、俺達の今夜のねぐらとなる部屋に入り、内装を見渡す。

 二つ並んだ綺麗なふかふかベッド、オシャレな照明やいい感じの花瓶、そしてバスルーム等々。さすが高級ホテルだ。

 

 トランプは……、うーん、遊び道具はなさそうだ。当然ながら枕はあるが……。枕投げ以外で寝具の遊び方ってあったっけ。

 女の子の体重ならベッドでトランポリンできるかな? でも一人で遊んでもつまらないよな。

 外泊の謎テンションで大はしゃぎするケンちゃんを見たかったが、残念。せっかく消灯に口うるさい先生も風紀委員もいないお泊まりなのに。

 いやでも、俺達が旅人なら外泊には慣れてるか。

 

 建物の外装通り、室内も快適そうで良かった。ドヤ街の安宿を選ばなくて正解だ。

 道中しきりに財布を気にしていたケンちゃんは今も物憂げな顔をしているけど……。

 か弱き美少女の俺が、安宿の雑魚寝部屋になんて泊まってみろ。それはもう大変なことになるぞ。

 男はすべからく狼なのよ? ケンちゃんはワンコなのでセーフかな。

 

 

 さてさて、次はお待ちかね、美少女とご対面の時間だ!

 俺は化粧台の前に行き、鏡を覗き込む。

 

「人形ね」

 

 思わず率直な感想がこぼれる。まるでお人形さんのような造形の美少女が鏡の中にいた。

 白いボブヘアーの髪、際立つ赤い瞳、パッチリお目々と長いまつ毛、小さいながら筋の通った鼻、小ぶりな口と顎、絹のようにスベスベのお肌、そして首筋に、幾何学的な紋章。

 

 

 何か混ざった。紋章……? 俺もタトゥーしてたの……?

 顎を上げて紋章を触ったり、首の皮を引っ張ったりしてみる。やはりタトゥーだ。こんな皮膚の薄い所に掘るなんて痛くないのかな。

 もしやタトゥーじゃなくてスタンプだったり? 俺達は旅人だし、観光地のスタンプラリーで用紙を持っておらず、仕方なく首に押した。……無いか。

 にしても可愛くないなあこれ。賛否両論あると思うが、俺的にタトゥーは不良っぽくて嫌だ。思わず顔を顰める。

 

 そういえばケンちゃんの首のタトゥーとそっくり、というかまるっきり同じな気がする。

 それを確認しようとケンちゃんの方を向くと目が合い、彼が口を開いた。

 

「俺は……いくつだ?」

 

 全く予想だにしない質問が飛んできた。

 『私、何歳に見える?』というクイズは女性の特権だろう。今この質問が飛び出た経緯や文脈は知らんが、当てずっぽうでもいい、何か答えねば。

 

「……三十五?」

「……そうだったな」

 

 見たまんまを答えたら、またも奇跡的に正解した。『転生特典・強運』は健在だ。

 ケンちゃんは悲しそうに俯いた。ゴメンね、パッシブスキルのせいで鯖を読めないんだ。

 

 

 まあいいや、ひとっ風呂浴びようかな。

 洞窟→森→草原→馬車→人混み、と通って、結構ホコリっぽいし汗ばんでいる。

 着替えは……。贅沢は言えない、同じのを着よう。

 

 そう思いバスルームに向かう。洗面台の鏡で再び首のタトゥーが目に入った。

 やっぱり俺とケンちゃんは同じ場所に同じタトゥーをしてるな。強い絆のような何かを感じる。

 

 強い絆。

 ん? 男女の強い絆って……。

 

 そもそも、男女で相部屋ってアレじゃない? もしやケンちゃんが受付で悩んでいたのはそういう……。

 そしてオーケーサインを出した俺。

 

 

 察した。今晩シャワーを浴びたら負けだ。

 バスルームまであと一歩の所で引き返した俺は、ベッドに不時着した。

 おやすみ。君に撃墜されるにはまだ早いのだ。

 

 うん、犬も狼も同じイヌ科だったね。

 

 

 

 

 魔女っ子は部屋を見渡してまもなく、化粧台の前に移動した。

 宿泊施設でまず姿見を確認とは、女性ならではの行動なのかな、などと感じつつ、俺は彼女の名前について考察していた。まだ推理を進展させるにはピースが足りない。あと少し埋まれば、全体像が掴めそうなのだが……。

 そう考えていたとき、彼女のつぶやきが聞こえた。

 

「人形ね」

 

 目をやると、彼女は顔をしかめながら首筋の刺青を観察していた。見慣れたものだろうに、何故今更そんなに気にしているのか。

 そして、人形、とは。

 

 俺は宿に着いてからの出来事を思い出す。

 明かされる彼女の名前。彼女の名前を見て困惑するフロントスタッフ。そんな彼に自嘲気味に言葉を返す彼女。

 そして今の、人形発言と、刺青を気にする行動。

 

 

 最後のピースが埋まり、俺の脳内でパズルがカチャリカチャリと揃っていく。

 

 彼女が名乗った数字について俺は、囚人や奴隷のように、番号管理されるような立場だったのかと想像した。

 しかし、囚人や奴隷なら本来の名前があるはずだ。つまり彼女は、名付けられたときから398番だったということだ。

 そして先の人形発言。人のカタチに創られたもの。

 一つの結論が頭をよぎる。

 

 

 ――人造人間。

 

 

 彼女の名は、製造番号か。

 フロントでのやり取りで自身の名前の不自然さを再確認し、忌々しげに見つめるは、首筋の刺青。

 あれは単なる刺青じゃない。刻印だ。

 

 この世界の常識は知らないが、生命の創造という冒涜的行為が合法だとは思えない。おそらく違法な黒魔術組織の研究所で彼女は創られたのだ。

 刻印の意味は……組織のマークか何かだろうか。刺青が宗教的意味を持つかもと考えてはいたが、想像の斜め上だ。

 

 

 そして。俺にも同じ刻印が印されているということは、つまり。

 目が合った魔女っ子に、思わず問いかける。

 

「俺は……いくつだ?」

「35」

「……そうだったな」

 

 ケン、お前も、人造人間なのか。

 俺は俯き、頭を抱えた。異世界の人間にしてもこの馬鹿力はおかしいと思っていた。納得だ、創られた強さだったのだ。

 

 昼間会った女性は、邪神像を見るなり逃げるように去っていった。彼女にとって恐怖の対象だったということか。この邪神は俺達を創った黒魔術組織の信仰対象なのだろう。

 あの女性は邪神像を見て、組織から受けた辛い記憶を思い出して恐慌に陥った、あるいは俺を組織の手先だと勘違いしたのか。

 

 

 ああ、なんたる皮肉か。

 

 黒魔術によって生み出された少女・398番が、同じく黒魔術を志す。

 己を産んだ邪教の神を、涙を流しながら崇める。

 

 35番は名前を授かった。おそらく398番による命名だろう。

 

「あなたは剣士だから、今日からケンよ」

 

 組織による度重なる非人道的な扱いによって、『創』られた心を『壊』された少女。

 そんな愛想を失った少女が精一杯の道化を演じて、仲間に付けた優しい名前。

 

 

 でも肝心の君は、創られた運命を、番号呼びを受け入れているのか?

 ケンよ、お前は少女のことを何と呼んでいたんだ?

 

 

 

 

 ケンちゃんが俺のベッドの横に立って、頭を撫でてきたときは悟った。転生メス堕ちRTAは一日半足らずでタイマーストップだと。

 ケンちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 

「こんなに小さい子が……作られた、命……」

 

 作られた命って何だ。子作りのことか! ガチでヤる気なんだ……。

 ケンちゃんは《黒丸単眼妖怪(バッ●ベアード様)》と格闘しているようだ。ロリコンのレッテルはこの世界でも不名誉なものらしい。

 正直怖い。でも、俺から誘った形だ。俺は覚悟を決め、頬に涙を伝わせながら言う。

 

「いいのよ」

「起きていたのか。よくないだろう……」

 

 よくないのはわかる。三十五のオッサンが少女に手を出すのは。

 

「……受け入れているのか」

「どうせ敵わないもの」

「……そんなに強いのか」

 

 俺がどう足掻こうと無理やりされたら受け入れるしかないのよ。性別以前に体格が違いすぎる。

 で、何を驚いてるんだ。強いだろ、君は。もしかして無自覚系なのか? 野盗を追い払って手をニギニギしてたのはそういうこと? 何かやっちゃいましたか感を演出してたの?

 

「ケンは強いから」

「っ……相棒は、俺達を生んだ奴らが憎くはないのか」

 

 俺達を生んだ奴ら? 俺達の親のこと、だろうか。この会話になぜ親が関係するんだろう……?

 もしや、少女とケンちゃんは家庭の事情とかで嫌々交際しているカップルなのかな。そして、好きでもない大男と否応無しにまぐわうことになる少女。それを気遣っての発言だろうか。

 話が噛み合ってない気もするが、そうと仮定して返事をしよう。

 

「怖くはあるけど、信じてるわ。いつか()ちるときが来るのよ」

 

 怖い。でも、ケンちゃんならきっと優しくしてくれると信じてる。短い付き合いだけど彼の所作の節々から、俺もとい少女への気遣いを感じている。

 そして少女の身体に乗り移った以上、いつかメス堕ちするんだ。早かれ遅かれ。

 

「……」

 

 ケンちゃんは無言でバスルームへと向かった。彼も据え膳を食う覚悟ができたみたいだ。

 ケンちゃん、剣士なのに手が柔らかかったな。とか考えつつ、俺は女にされるのを待っていた。

 

 

 結論を述べると、俺とケンちゃんは夜遊びしなかった。

 枕を交わして俺はベッドでトランポリン、ケンちゃん大はしゃぎ。そんな結末は訪れなかった。

 九時消灯で自分のベッドに入りいびきをかく彼は、風紀委員の鑑だった。

 

 

 

 

 おはよう。

 ぐっすり眠れて超早起きした俺。折角の高級ホテルだ、俺は朝シャワーを浴びた。

 

 朗報か悲報かわからないが、初めて見た己の裸体に性的興奮は覚えなかった。

 おお〜可愛え〜と、鏡の前でまじまじ眺めたり、ペタペタ触ってみたりはしたが、それだけだ。

 TS未経験の男子諸君にわかりやすく伝えるならば、

 

『筋トレ初心者が運動を始めて二週間後くらいに、うっすら割れた腹筋やちょっと逞しくなった二の腕を見たときの感動』

 

だ。「お! 締まってきたねえ!」とテンションが上がり、鏡の前でポージングする。

 決してハアハアしたりはしない。その程度だ。「これが今の俺の身体なんだな」以上の感想が浮かばなかった。

 

 

 洗濯機なんてないので仕方ないが、ちょっと汚れた一張羅のドレスに袖を通す。

 せめて下着くらいは替えが欲しい。俺が憑依する前はどうしてたんだろう……? 早急に買いに行こう。

 ドライヤーもないのでタオルで丁寧に髪を拭く。

 魔法が存在してそうな世界観だから、この手のことは便利な魔法でどうにかできるんだろうが、生憎俺は使えない。ケンちゃんも使えなさそうだし、本当に今までどうやって生活してたんだろう。

 そしてこのいい感じの木の棒を持って、俺の完成。こいつから魔法弾でも発射できないかなー、なんてね。当たり前だが、素振りをしても何も出ない。

 

 俺達の生活感の無さの原因について、ふと気付いたが、俺達は家から勘当を受け、逃避行に走るカップルなのではないか。

 ケンちゃんの『親を憎んでいないのか』という発言もあるし、これなら俺達が着の身着のままの装備で人里離れた森にいたことにも説明がつくんじゃないか?

 かなり妥当な線だと思う。早起きは三文の徳、俺ってば冴えてるね!

 

 

 そうだ、ケンちゃんが起きる前に、やりたかったことを済ませておこう。この世界の数字を覚えることだ。

 このホテルのフロア当たりの部屋数は十を超える。そして俺は既に3、9、8を知っている。つまり部屋の位置とドアの番号表示から、残りの穴埋めも可能ということだ。

 

 俺はこの階の部屋のドアを見て回った。

 期待通り8、9が隣り合っており、そこから辿って既知の3。そしてこれが2、1か。この丸っこいのが0かな。俺の世界の0と似てるね。

 たった十個の記号、おバカな俺でもこれくらいは気合で覚えないと。

 

 と思い、俺がとある部屋の前で必死に数字を覚えていると、突然ドアが開いて宿泊客に驚かれた。

 気まずい、そろそろ切り上げようか……。

 

 

 俺が部屋に戻った頃、ケンちゃんは起きて身支度を済ませていた。

 下の階の食堂で朝食が用意されてるらしい。俺達は食堂へと向かった。

 

 

 

 

 朝食を摂りながら考える。魔女っ子とケンの境遇について。

 

 人造人間、即ち不幸だと判断するのは早計だ。

 早計だが、『フランケンシュタインの怪物』のように、悪い末路を辿ることが多いように思う。

 そのことから昨夜、気が昂ぶった俺は、つい魔女っ子の頭を撫でつつ、哀れみ・同情の呟きを漏らしてしまった。

 それがきっかけでいくつか言葉を交わし、貴重な情報を得られたが、彼女に俺の憑依を怪しまれたかもしれない。

 

 

 まず彼女は涙を流し、「いいのよ」と運命を受け入れていた。いや、享受ではなく、諦観と言ったほうが正しいだろう。

 事実、彼女は件の組織を『敵わない』と評した。ケンと魔女っ子の力では、巨悪の組織を相手取るには力不足らしい。

 

 『ケンは強い』というのは文脈的に、精神的強さを指すのだろう。

 つまり魔女っ子は組織に屈していたが、ケンは対抗しようとした。

 あの森にいたのも、組織が座すこの街から逃げようとしていたのではないか。しかし魔女っ子は街に戻る選択をした。組織の追手からは逃れられないとでも判断したのか。

 

 他に魔女っ子は、組織は『怖い』、しかし『信じている』。そして『()ちるときが来る』と述べた。

 やはり組織自体には良い印象は無いらしい。そして『落ちる』とは地獄に、だろうか。

 幼少の頃から、組織に洗脳まがいの宗教教育を受け、『邪教を信仰しないと地獄に落ちる』といった刷り込みが彼女の中にあるのだろう。

 だから邪神像に涙してまで、信心せざるを得ない、と。

 

 余談だが次に、黒魔術組織が崇拝する邪神および、それを偶像化したこの邪神像について。

 この邪神像は日本の遮光器土偶に酷似している。土偶とは、女性を象ったものが多いと聞いたことがある。

 そして、『魔女』というワードにざわついたレストラン客。魔女が忌避の対象だということ。

 これらから、邪神すなわち魔女、彼奴らは魔女信仰を行う組織ではないだろうか?

 土偶女性説がこの世界でも同様かは定かでないので、心に留めておく程度だが。

 

 

 はあ、前世で反社会的組織に殺された俺は、転生先の異世界でも反社会的組織を追うのか。運命とは不思議なものだ。

 それとも、自称・神の爺さんの言う『依頼』とは、この世界で黒魔術組織の悪行をどうにかしろ、ということなのか。あるいは、398番および35番を救ってくれ、という意味か。

 

 組織の糾弾・壊滅なのか、俺達が逃げおおせることなのか、何を以って依頼完了とするのか不明だが、何か目標があったほうが第二の人生にも張り合いが出るかな。

 

 そう考えながら、俺は紅茶の最後の一口をすすり、朝食を締めた。

 さて、この難件、今日は何処から手を付けようか。

 




此度の投稿に伴い、過去投稿話の加筆・修正を行いました(段落字下げ等)。物語には影響ございません。
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