剣士(?)と魔女っ子(?)   作:小宅 夕焼

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7. 裏通りと転生特典……?と裏話

 念のためチップをベッドに置いて、俺達は宿を後にした。……この世界の文化面の知識も付けねばならんな。

 

 俺達が悪の黒魔術組織に創られた人造人間だと発覚しようが、問題解決に向かいすぐにどうこうできるわけではない。組織の打倒・組織からの逃亡、いずれを選択しても生活基盤の構築は必要不可欠だ。

 魔女っ子とも意見が合致したため、俺達は日用品を揃えに市場街を巡った。

 今までほぼ身一つであったことを思えば、俺達は組織から脱出して間もないのだろう。街中でも組織の追手を警戒する必要はあるが、幸いケンの身体は屈強だ。最悪俺が盾となり魔女っ子を守る。

 大きめの肩掛け鞄から始まり、替えの衣服類、保存食等々。薬品は……値段が張りそうだが買っておくべきだろうか……。重い鞄はもちろん俺が持ち、邪神像の入った麻袋は魔女っ子に持ってもらった。

 

 

 さて、無事平穏に買い物を済ませられた。そして魔女っ子は、今日の今後の予定は特に考えていないらしい。つまり今、行動の決定権が俺に渡っている。よし。

 陽も高く昇ってきた頃、俺はネックレスを片手で持ち上げ、魔女っ子に切り出した。率直に『黒魔術専門店』とは往来で口にできない。ぼかして伝える。

 

「これを買った店に連れて行ってくれ」

 

 

 

 

 朝からケンちゃんと仲良くショッピングだ。愛の逃避行、手持ちが大剣と木の棒と土偶だけじゃ心もとないよね。彼も同じ考えだったみたいだ。

 俺達はあれやこれやと、これまでよりお喋りしながら市場街を回った。昨晩のやり取りから、ケンちゃんと話しやすくなった。やや彼の態度が軟化した気がする。昨日までは探るような視線ばかり俺に向けていた彼だが、今は何か腑に落ちたかのように目の色が優しく変化している。

 少女の中身が俺に変わっていることへの疑いが晴れたのだろうか? まあ仲良くなれたのなら何でもいいか。

 

 

 買い物を終え、次はどこへ足を運ぼうかと考えていると、珍しくケンちゃんから行き先の提案をしてきた。

 おお、打ち解けられてきた証拠だ! と俺は喜んだが、彼から告げられた行き先とは、昨日のお土産屋さんだった。ああ、あそこか……。

 

「道を忘れたわ」

「……嘘はよくない」

 

 嘘じゃないよ! 駆け落ち中の旅路で一度立ち寄っただけの土産物店、覚えているわけがなかろう。事実ケンちゃんも覚えてないんでしょ? そもそもが入り組んだ裏通りで覚えづらいのに。

 

 そして俺には、もうあの店には行きたくない理由がある。これ以上お揃いのアクセサリーは増やしたくないのだ。すでに同じタトゥーを彫り、小中学生が喜びそうなドラゴンのネックレスをする二人組。厨二病ペアルックはイタすぎる。次はブレスレット? 眼帯? 恥の上塗りは勘弁だぞ。

 

「ケン。もう厨二病は卒業なさい」

 

 そう俺が呆れ顔で毒づくと、ケンちゃんは何故か考え込んでしまった。そんなに行きたいの……?

 あるいは、厨二病が伝わらなかった? 厨二病はかなり市民権を得ている言葉だと思っていたが、ネットやサブカルに触れてないと知らないものなのかな。いやそもそも、インターネットなんて存在しないだろうこの世界には厨二病という言葉が無いのかな。

 でも転生特典の翻訳機能ならば、この世界の住人であるケンちゃんの耳には『格好つけたがり』みたいに変換されてるはずだ。つまり何かしら伝わってはいるだろう。

 結論、ケンちゃんは真性の厨二病だ。手に負えないな……。

 

 

 ……えっちょっと、わっ!

 ふふ、ケンちゃんもわかってきたのね……♪

 

 

 

 

 魔女っ子からもたらされた黒魔術組織の情報、それだけではまだまだ不充分だ。

 そこで俺は、あの黒魔術専門店の店主からなら、新たな、詳細な情報を引き出せるのではと考えた。

 この邪神像を販売しているということは、あの店は組織に関係していると考えて間違いない。それに昨日は、組織の施設から脱走中であろう俺達を見逃したことから、店主は俺達の協力者という線もある。

 昨日はそんなこと露知らず、店主からの謎の視線にも押され早々に退散してしまったが、今日は実りある対話ができそうだ。

 

 そう目論んで魔女っ子に打診したが、突っぱねられた。

 「道を忘れたわ」という有り得ない言い訳。昨日の軽快な足取りが通い慣れた店であることを証明しているし、本当に忘れていても経路探索魔法を使用すれば済む話だ。

 ……やはり昨夜の踏み入った会話で、ケンが別人に成り代わっている、あるいはケンのスタンスが変化したことを悟られたのかもしれない。『仮題・黒魔術組織事件』の解決を図る俺の意図にも気付いているのだろう。嘘をついてみて、俺を揺さぶっているのか。

 そういえば買い物中も彼女は比較的口数が多かった。探りを入れられていたわけだ。ここにきて彼女との関係悪化は困るな……。

 

 次に魔女っ子は「チューニビョーは卒業しろ」と俺に言った。

 『チューニビョー』……。まさか『厨二病』なのか。創作物・フィクションに疎い俺でも聞いたことがあるネットスラングだが……。

 

 ……文脈が読めない。今回の俺の目的である『反社会的組織に関する情報収集』と、『思春期児童が陥りがちな自己陶酔』がどう関係するのか。

 『強大な闇組織に立ち向かうような蛮勇は捨てろ』と言いたいのか? これなら意味は通じる。通じるが、こちらの世界に来てから働いている異世界語翻訳能力ならば、俺がすんなり理解できる表現に換言される筈だ。ネットスラングに変換されるという点でも違和感がある。

 

 ……もしや、『チューニビョー』というこの世界の固有名詞なのだろうか。ならば変換が行われないことにも納得がいく。

 『卒業なさい』……脱退? 『チューニビョー』という名の、黒魔術組織の対抗組織から足を洗え、という意味だろうか。

 俺が過去『チューニビョー』に所属していて、その頃のような真似はやめろ、と。……流石に無理があるか。こじつけが過ぎる。

 

 まあ、呪術専門店を訪れる理由がより増したとも言える。組織に関係するワードならば、あの店の店主に尋ねれば何か判明するだろう。彼女の道案内は望めないが、構わん。

 

「道を忘れたのなら、通行人に訊けばいい。行くぞ」

 

 俺は半ば強引に彼女を持ち上げ、裏通りへと歩を進めた。

 ご機嫌取りがてら丁重にお姫様抱っこだ。うん? 急に大人しくなったぞ。

 ……なんだ、遠い街外れまで歩きたくなかっただけか?

 

 

 

 しばらく歩き続け、呪術専門店に到着した。

 魔女っ子は店外で待っているらしい。好都合だ、『チューニビョー』はこの世界の常識的な固有名詞かもしれないし、彼女不在の場なら無知を晒しても安心だ。これ以上彼女からの疑念を募らせるわけにはいかない。

 また、魔女っ子に「アクセサリーは買わないで」と言われたが、俺は魔術具の知識を持たないため、もとよりそのつもりは無い。余計な出費もしていられないしな。

 

 一人入店した俺は、カウンターに座る店主の男を見やる。他に客はおらず、暇そうにウトウトしている。じっくり話し合える好機だ。

 まずは直近の疑問から潰そうか。さっそく俺は店主に「『チューニビョー』を知っているか」と尋ねた。

 

 しかし、何故か見る見るうちに店主の顔が怒りに染まり、大量の邪神像を投げつけられ追い返されてしまった。

 

 何が彼の気に障ったのか……。買い物の意志が無いことを見抜かれ、冷やかしだと思われたのか? それにしても邪神像を手荒に投げるという罰当たりな行動、やはり彼は反・黒魔術組織派の一員なのだろうか。奇跡的に一つも落とさずキャッチできた俺のほうが敬虔な信徒なのかもしれない。

 

 ともかく、魔女っ子の行きつけの店かつ、彼が協力者の可能性もあるのに、立ち寄りづらくなってしまった。大失敗だ……。

 

 

 

 

 プリンセスごっこは終わりを告げた。お土産屋さんの前で俺は地面に足を降ろす。ケンちゃんの腕の中は快適だった。やっぱ男は筋肉だね!

 裏通りのゴロツキ達に土偶くんを見せて「これを売っている店は」と尋ねれば、案外親切に道を教えてくれた。無法地帯の裏通りで美少女を運ぶケンちゃんが犯罪者仲間だと思われたのかな。これから俺は売られるのか。……売られないよね? 他の男に捧げるくらいなら、やっぱり昨晩……。いや何でもない。

 

 俺は店内に用事は無い。外から窓の反射で俺を鑑賞していたほうが有意義だ。

 

「私は外で待ってるから。アクセサリーは買わないでね」

「……了解した。どの道俺にはわからん」

 

 俺は入店するケンちゃんを見送る。よし、釘は刺しておいた。無骨な体育会系男子の彼は、アクセの見立てはできないようだ。

 ……ケンちゃん、審美眼は磨いたほうがいいよ? 昨日みたいに女の子への贈り物を本人に選ばせているようじゃモテないぞ。まあ俺は、不器用なキミも可愛いと思うけどね!

 

 

 そんなことを考えつつ外で待っていたときのこと、突然店内からけたたましい音と怒声が鳴り響いた。直後ケンちゃんが店から飛び出てきて、俺の手を引き店から遠ざかった。

 

「……土産だ」

 

 一呼吸置いてケンちゃんが手渡してきたのは、土偶くん大家族。これを買いに来たの……? もしかして、俺へのプレゼントとして……?

 そしてさっきの騒ぎ。ケンちゃんが強盗に及んだ……わけは無いとして、「彼女に贈るプレゼントのセンスが悪い!」と店主さんに叱られたのだろうか。うん、俺も同感だよ店主さん。やっぱこの男ないわ。

 

 大所帯となった土偶ファミリーを入れた麻袋は地味に重い。肩に紐が喰い込んで痛い……。まあケンちゃんには更に大荷物を持って貰ってるから文句は言えない。か弱い少女と言えど、これくらいは俺が持たねば。

 パートナーならば、ずっと単なる庇護対象に甘んじているわけにはいかない。他に俺が役立てることはあるだろうか……。

 

 

 

 

 昼下がり、私がカウンター奥に腰掛け、船を漕いでいたとき、今日もあの紋章持ちの男が来店した。

 おお、再びチャンスが舞い降りた! 昨夜遅くまで聖典を読み耽り、祈りを捧げていた甲斐があった! 昨日は私情を挟んでしまったが、今日こそは冷静に、神との邂逅を堪能するのだ。

 そう決心し、寝ぼけた思考に活を入れていると、男は開口一番にこう尋ねてきた。

 

「店主、『思春期に患いがちな病』を知っているか」

 

 

 は? 思春期?

 

 ……恋の病?

 

 ああ、どうやらこの男、今日は恋愛話に来たらしい。

 ネックレス付け合いっこなどという乳繰り合いを見せつけるだけでは飽き足らず、恋バナとは、やるじゃないか。私が甘酸っぱい青春の一つも知らぬカタブツ宗教家だとでも言いたいのか。ああその通りだよ。

 

「二度と来るな!」

 

 私は手当たり次第に『特製土人形』を投げつけた。

 全て上手い具合にキャッチされたが、計画通りだ。それには仕掛けがある。昨日の教訓を活かし急遽こしらえておいたのだ。

 せいぜい彼女と二人仲良く爆発しやがれ!

 

 

 その後、私は再び後悔に暮れた。寝不足は駄目だ、思考を狂わせる。

 

 

 

 

 俺達が街中心部に戻るため、裏通りを引き返していた道すがら、ある施設が俺の目に止まった。ちなみに帰りは自分で歩いている。

 

 カジノだ……。

 ふとひらめく。

 

 これは、ケンちゃんの助けになれるんじゃないか。

 ケンちゃんはしばしば懐事情を心配している。現在のように高級ホテルへの宿泊や、現代日本でも通用しそうなレストランを利用していては、近いうちに破産してしまう。とはいえ少女の身体では、まともな肉体労働には就けないだろう。中身の俺がバカだから、頭脳労働も無理だ。

 

 しかし賭け事ならば、俺にも勝算がある。

 博打で稼ごうとは馬鹿らしいと思われるだろうが、そう、今こそ転生特典『超・強運』を活かすときだ。

 前世でパチンコすらやったことのない俺でも、このチート能力があればギャンブルにおいて最強なのだ。

 

「財布を貸して?」

 

 俺はケンちゃんから財布を借りて、意気揚々とカジノに乗り込んだ。

 ゲームは……何でもいいか、必勝だもん。よし、ルールが単純そうな、サイコロを使ったあれにしようかな。

 

 

 

 

 黒魔術専門店からの帰り道、今度は魔女っ子の提案で賭場に寄った。……賭博が趣味なのか? 幼子の見てくれからは想像できない。

 それとも魔法によるイカサマで、路銀を増やそうとしているのか。そうならばありがたいが、魔法がこの世界で一般的なものならば、対策も施されていそうだが……。いや、違法組織仕込みの黒魔術なら通用するのかもな。

 

 俺は期待と不安を抱えながら彼女の様子を見守る。ダイスらしき立方体の駒を使ったゲームだ。単純ゆえに、実力の介入余地がない、ほぼ運次第のゲームだが大丈夫だろうか。

 

 初戦、魔女っ子は安そうな銅貨を胴元に差し出した。

 そして結果は……勝利だ。これくらいは確率のゆらぎ・単なる幸運でも説明が付くが。

 魔女っ子は「しめた!」といった表情をしている。一戦目で黒魔術の手応えを試したのか? なるほどな。

 

 そして次のゲームが始まり。

 うわ、大きく張ったな……。よほど自信があるようだ。これは期待できるか?

 

 賽が投げられて。

 

 

 

 次の予定が埋まった。……大至急、ギルドに入会して収入の確保だ。

 

 

 

 

「さあて、今日は何を放り込んでみるかのう」

 

 

「おはようございます、お義父(とう)様。朝から『仮想世界キット』のお世話ですか? うちの娘がすみませんね」

 

「おお、女神君! 可愛い孫娘のためじゃし、女神君にも手伝って貰っとるし、何のことはないわい。して、新たな生者の魂の入植は済んだかの?」

 

「ええ、滞りなく。転生させて以来確認はしていませんが、……ほら、この少女です。どうやら他の入植者と行動を共にしているようですね」

 

「ようすぐに見つけられるのう……。む? 探偵君と歩いとるこの女の子、入植者じゃったの? てっきり現地人だと思っておったのじゃが」

 

「……首に入植者追跡マーカーが付いているではありませんか。このマーカーでデータとの連携などもできるのですから、使いこなしてくださいな」

 

「はあ、ついていけんわい。ワシの若い頃は不便で――」

 

「いいです、いいです昔話は。……なるほど、どうやらお義父様が送り込んだ彼と同じ入植ポイントに降ろされたようですね」

 

「やむを得んわい。入植現場を現地人に見られるのはまずいのに、近頃は奇特な輩が入植ポイントにうろついておるでの。じゃから、同じ時間・場所に転生完了するのも致し方ない。一応、入植ポイントは現地の生物が近寄りがたく感じるように設定しておるのに……」

 

「それにしてもこの探偵さん? 強そうですね。特に取り柄のない二十代青年を少女の姿で入植させたときはどうなることかと思いましたが、この方が同伴なら安心です」

 

「身体能力上不利な女体化・少女化を望む生者の魂は一定数おるが、運の無い子じゃの。ちょいと過去なら安全かつ未開の入植スポットも残っておったのに。探偵くんと出会ったことは幸運じゃがの」

 

「ちょっと探偵さんの行動履歴を読ませてもらってもよいですか?」

 

「ほい、これ」

 

 

「えっと、ふむ……。この方、強すぎはしませんか? 初日に、明らかに人外の所業で盗賊を追い払っているのですが」

 

「探偵君は筋骨隆々といっても、人間の範疇は脱しておらんぞ。プロスポーツマン程度の身体能力はあるがの。だから万能ではない。生き残っとるのも相手が良かっただけじゃ」

 

「相手が良かった? 筋力だけで説明がつかないなら、一体どんな強力な転生特典を与えたのですか」

 

「ああ、女神君も知っとるじゃろ? 亡者の魂の転生特典は機械的に決定される。ほら、これが彼の前世の死因じゃよ」

 

「『20xx-xx-xx: 指定暴力団○○組構成員により殺害』……ああ、そういうことですか」

 

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