4話 ライスはヒールじゃないよ ①
少し…ほんの少しずつこの学園に馴染み出した…と信じたい。
今日はライスことライスシャワーのトレーニングだ。
うん、悪くない走りではあるな…。
少し脱力しすぎな気もするが……。
「お、お兄さん…」
「お?ライス…いいフォームだぞ!でも、なんか遠慮気味に走ってない?」
「え……あ、う…」
「もっと力出してもいいんだぞー?」
「来週の大会に向けて仕上げとかないとな」
「…ごめんなさい」
「どした?」
「あう…あのね…ライスね…」
もじもじと小さくなるライス。
見た目はね完全に強者なのにね。
ライスの横に座る。
「よーし!俺は君のことを知る事から始めるよ!」
「ふえっ!?」
「お互いに知り合ったばかりだからね」
「うん!」
データを見ても悪いところはない
寧ろ良い方だ。
だが…彼女は所謂無冠である。
十分上位に食い込める能力はあるんだ。
これには理由がある筈だ。
その理由を探る必要がある。
「趣味は?」
「あと…ライスは絵本を読むのが好きだよ」
「絵本…」
「絵本はね!素敵な世界に連れて行ってくれるんだよ」
「どんなお話が好きなんだ?」
「えとね…コレ」
スッと差し出してくれた絵本。
悪い子と言われた子が大好きなお兄さんに励まされて一生懸命に頑張って最後には笑顔になる話。
「懐かしいな…見たことがあるよ」
「本当?今度一緒に読もう?」
「いいね!」
「お兄さんの好きなものは?」
「俺はねえ……俺はねえ………」
やべえ…無いよ…ほぼ趣味ねえよ………
「……旅行?」
間違っては無い。うん、間違っては無いはずだ。
「わあ〜凄い。どこに行った事があるの?」
よもよもとお昼ご飯を挟みながら会話を広げる。
そして午後の模擬レースでそれは起こった。
出だしも好調なライス。
だが…
俺は見た。
直前で減速したのを…
わざとに減速したのを…
「ライス…」
「えへへ…ダメだったよ…」
力なく笑うライスに俺は言った。
「ライス…なんで
「……え…」
「何でだッ!」
つい語気が強くなる。
「ひうっ」
「アイツ…」
「待て…スカーレット…」
飛び出そうとするスカーレットを抑えるルドルフ。
「…ッ!会長ッ!!でも…あの子は!……!?」
スカーレットの目の先のルドルフは…期待に満ちた表情で誠を見つめていた。
「知ってる…ライスの理由も……でも、彼なら…全てをひっくり返してくれる気がするんだ」
ゾクゾクっとした。今迄の誰も気付かなかった事にやはり奴は気付いたんだ。
「……あ…」
「ご、ごめんなさい!ライスは…ライスは!ヒールだから!!」
駆け出すライス。
「ま、待てッ!!」
急いで追うが…追いつけるはずは無い。
「…くそう……ヒール…?」
ヒールって何だ?と考えていた時だった。
「アンタ!あの子を泣かせて…許さないわ!!」
殴らんばかりの勢いで飛び出してきたウマ娘。
側から見ても彼女が怒っているのがわかるだろう。
「君は…ダイワスカーレット…」
「あの子はね…あの子は「言うな」
突然言葉を遮られる。
「…ッ!!」
「それは俺の仕事なんだ」
「……え?」
「話したんだ…お互いをよく知ろうって」
「だから…そこからは俺の仕事なんだ」
真っ直ぐな目…私達が待って無いような目。
私はまだこいつが信用ならないケド…それでもチャンスはあげても…いいなかな?
「……ならあの子の居場所は分かるの?」
「…………フッ」
「分かんないのね……」
「…屋上に行って見たら?」
「スカーレット…」
「独り言よ…」
「ありがとう!」
「カイチョー!俺は少し抜けるぞ!自主練を続けていてくれー!」
「…あぁ……行ってくると良い」
個人のメニューを書いたプリントを渡して走って行くトレーナー。
「スカーレット…」
「なに?」
「前から思ってたんだが…トレーナーは私の名前をカイチョーと勘違いしてないか?」
「そんな事は無いと思うけど…」
「コレ…」
「……ぶふっ」
思わず吹き出したスカーレット。
沈み気味のルドルフ。
ルドルフのプリントの名前欄には…
『カイチョー』と書かれてあった。
「…ライスはダメな子…」
「ライスはダメな…うっ…ぐすっ」
「ライ…
と言いかけたところで頬に冷たい感触が伝わる。
「ひゃぁあ!?」
「ふえ!?お、お兄さん!?」
そこには…冷たいジュースを差し出したトレーナーさんが居ました。
「何でここが?」
「秘密♡」
「何できたの?悪いライスの事なんか…」
「言ったろう?お互いをよく知ろうって」
「ヒールって何だい?」
「……」
ライスはポツポツと喋り始めた。
暫く前に行われたとあるレース。
優勝を確信されたとあるウマ娘…をぶち抜いて見事優勝を果たした。
『やったよ!会長!』
『あぁ!よくやった!』
だが…会場はそうはいかなかった。
『このやろー!何でお前なんだー!』
『ヒールじゃないかー!』
『……え?』
飛び交うヤジ。
舞う馬券やゴミ。
予想されたものを覆した…
優勝した筈の…讃えられるはずの彼女に投げかけられた言葉は余りにも酷く、彼女の心を折ってしまうのには十分だった。
『なっ…彼女は精一杯頑張ったんだぞ!何でそんな言葉をッ』
『うるせー!金を返せええ!!』
『…さい…』
『ごめんなさい…ごめんなさい』
それ以来彼女は本気で走らなくなった。
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