このライス編は全投下予定です!
「何だよそれッ…おかしいだろ」
俺は震えた。汚い方法を使ったわけでもない。
なのに…彼女は心に大きな傷を負ってしまった。
無意識に力を抑えるようになった。
何故…懸命に頑張る子を平然と貶せる?
何故…よくやったと言えない?
「…だからね?ライスが頑張ったら…
「皆も怒られるし…何より怖いの」
「不幸になってほしくないの」
「全力でぶつかって…勝った時の事思い出せるか?」
「ううん…」
「ライス…辛かったな」
ポス…と頭に手を置かれる。
よしよし…と温かい手で撫でてくれた。
怒ってる…お兄さんは怒ってる。
私の為に…。
「ライス」
「ひゃい!?」
その撫で撫での気持ちよさに一瞬我を忘れていたライス。
呼び声でこの世にカムバックして来た。
「来週の大会…勝とう」
「ええ!?」
「む、無理だよ!私がやったら…皆…不幸になるよ」
「…確かに不幸になるな」
「…ッ!!…ごめんなさ「やらなきゃお前が不幸になる」
「え?」
「…周りなんかどうだっていい…俺はお前が勝つと信じてる。全力で挑まなきゃ…失礼だしな」
「周りがうるさいなら…黙らせてやれ!ヒール?違う!お前はヒーローになるんだ」
「ひーろー?絵本みたいな?」
「そうだ!」
「俺の為に勝ちたいと言ってくれただろう?」
「え、あ、うん」
顔を真っ赤にするライス。
「その言葉に俺は…勇気をもらったんだ」
「お前に救われる奴はここに少なくとも1人は居るんだ」
「私が…?」
「俺がお前のファン1号だッ!」
「お前は1人じゃない!俺の気持ちも連れて行け!2人で走ろう」
下馬評がなんだ!
クソ喰らえだ!
やっちまおう!そんな奴らをねじ伏せてやろうッ!!
「…ッ!!」
荒唐無稽な話だ。
そんな言葉で立ち上がれる奴なんかそうそう居ない。
心が折れた奴に精神論を説いても意味はない。
ましてや、彼女は知っている。その恐怖を身をもって知っている。
だから、周りも気を遣って何も言わない。
気づかないふりをする。
今迄のトレーナーですら気付かない機微に気付いた彼は違った。
言ったのだ。
全力を出して勝たないと失礼だと。
下馬評も罵倒も覆すくらいに…黙らせるくらいに勝ってやろうと。
俺の心も連れて行け…2人で走ろう…と。
どんな人もそんな声を掛けてはくれなかった。
ドンマイ…だとか…
次があるよとか…
仕方ないよ…とか……
なのに…この人は…
ファン1号だとか言って…
こんなに目を輝かせて言うんだ。
信じてるんだ…
私なら勝てる…と。
何だろう?この気持ち…。
まるであの絵本みたい。
やさぐれた悪い子は良いお兄様と出会って改心する。
あの子はこんな気持ちなのかな?
こんなに…嬉しいのかな…。
「……一緒に怒られてくれる?」
「怒らせるもんか!俺が黙らせる」
「ふふ…暴力はいけないよお?」
「なら俺がお前の耳を塞いでやる」
「不幸に付き合ってくれる?」
「ばか、幸せを掴みに行くんだよ」
「お兄様って呼んでもいい?」
「おーおー好きに…………はい?!」
「お兄様…ライス頑張るッ!!」
「ん!?お?おおう!?」
何のスイッチかわからんが…まあ良いよ?
「何アイツ…めちゃくちゃじゃない…」
「でも…ライスの心を動かした…!」
その日からライスの猛追が始まった。
練習タイムも模擬レースも抜群の成績を叩き出した。
「凄いねえ…ライス…」
「タキオンさん…」
「薬でもやったのかい?」
「ううん…やらないよう…コレが……私?」
自分でも驚くくらいに体が軽い!
凄いよ!お兄様!!
「凄いねトレーナー君…」
「カイチョー…」
「か……まあいい…。でも浮かない顔だな?」
「後は…残り1枚の壁さえつき破れれば…」
「壁…?」
本番当日。
大歓声の中に怯える彼女は立っていた。
「残り1枚の壁…それは本番という舞台」
「ライス…大丈夫…怖くない」
「お兄様…ライス…ライス」
飲まれそうなライスを抱き寄せた。
「ひゃぁぁう!?!?お、お兄様ッ!?」
「おお…トレーナー君…」
「大胆ッ!まさかハグとは…」
お兄様の心臓の音…
何だか落ち着くな……少し早い?お兄様も緊張してる?
「うふふ…ライス…頑張るね」
ライスは笑顔でハッキリと言った。
「行って来ます!!」
スタート位置に着くライス。
「お?ヒール様が出るの?」
「また荒らされなかったら良いけど…」
「賭け金少し下げて来たよ…」
「あら?ライスシャワーさん?一度きりの覇者さんが一体何の風の吹き回し?」
「…ライスは勝ちに来たの」
「は?」
「その山の向こうを見に来たの」
「絵本の…マー君と同じように…私は生まれ変わるんだ!!」
目を閉じる…。
知らない…。
私は頑張るんだ!!
やるんだ!!
『さあ!レースが始まります…!』
ライスはヒーローになるんだ!
『スタート!!』