8話 この世界を変えないか?
「今日も精が出るな」
「おーカイチョー…メニューは?」
「終わったところだ…」
「昨日はよく寝れたかい?」
「…あんまり」
と返すトレーナー。興奮が収まらなかったのか?
「見てみろ!ライスのあの顔…君が彼女を変えたんだ」
「俺が?」
「ああ…ダイヤの輝きにはまだまだ遠いかもだけどね」
「私も…凄く嬉しいよ」
「しかし…この歌と踊りのメニューの意味は?」
「体幹のトレーニングと肺活量トレーニング…そして」
「そして?」
「可愛いから」
「は?」
「可愛いから」
「いや、聞き直してる訳ではなくて」
「楽しいだろう?」
「まあ…否定はしないが……」
少し間があき…
トレーナーはルドルフに語りかける。
「カイチョー…」
「いや、ルドルフ…」
「…?」ゾワっ
背中から何かが逆立つ感じがする。
あの時の感覚だ…!
「ウマ娘のレースはおかしいと思う」
「…何を馬鹿な事を…」ゾクゾクッ…
なんだこの男は…?
に…何を言うんだ?
「そう…その当たり前……そんな在り方…おかしいと思わないか?」
「ずっとそうだったんだ…今更だろう?」
「いや…違うな」
「お前達の努力は…他人の金の為か?」
ーゾクリ
「違うだろう?」
「自分の誇りと名誉の為の筈なんだ」
「それは誰も踏み躙っちゃいけないんだ」
「もっと…楽しく走らなくっちゃ!!」
「賭けるのはお金じゃない!誇りだ」
「皆がハッピーになれるレースじゃないと!!」
「覚えてるか?ライスが…勝った時のあの顔」
ゾクゾク…
「金の為じゃない!…そう!あの笑顔の為に!」
ブワッ…
全身の…全てが逆立った。
だが…聞きたい!
「競バ会への謀反そのものだぞ?」
「この収益は巨額なんだ…小さなアリンコではすぐに踏み潰されるぞ」
お前の心を聞きたいッ!!
「…俺はこの業界からしたら…外道らしいから丁度良いだろ?」
「……ッ!!!」ゾクゾクッ
ゾワっ…
彼がこちらを真剣な目で見る。
「ルドルフ…俺と一緒に……この世界を変えないか?」
「…クッ…アハハハハハハ!」
「君は…本当に最高だ…ここまで私を震えさせてくれる人は居ない」
「…ルドルフ?」
「ルナ…と呼んでくれないか」
「ルナ…」
「ああ…ダメだ…私は君に惚れているらしい…」
「は?」
「嫌か?」
「え…」
「嫌なのか?」
「いや…嫌じゃないさ!嬉しいけど」
突然ルナが飛びついて来た。
「世界を変えよう…か!何と面白い事か!!約束しよう…私は君に着いて行く。その先が地獄だとしても…この身も心も君に捧げよう」
「…は!?」
「言ったろう?君に惚れたんだ」
なんてやり取りをしていると…
「疑問ッ…君の言うことは…本心か?」
ぽろぽろと涙を流しながら問いかける秋川理事長とたづなさん。
「はい」
「そうか…」
「私の願いでもある…。その為に作ったんだ…このトレセン学園は」
「全てのウマ娘が誇りを持って楽しく走られるように…」
「我が校はまだまだ小さい…だが!いつかきっと!その夢を叶えたいッ!!」
「提案ッ!!その君の夢に…私達も乗せてくれないか!?」
「俺が乗せるんですか!?」
「肯定ッ!!そうだ」
「はい…私達はあなたから感じるんです」
「この人なら何かやってのけそうだと」
「ルドルフも君にゾッコンじゃないか…」
「園内恋愛は自由だぞ?」
「ウマ娘に愛されてこそのトレーナーですよ」
ニコリと笑うたづなさん。
「素晴らしいっ!!」
「聞きました…トレーナーさんの例え逆風の中でもきっと負けずにウマ娘の為に命をかけて世界を変えてやる…と言う言葉…」
「感激ですううう」
「「「ゲッ」」」
「早速記事に…」
「待て待て待て待て!!」
慌てて乙名史さん…もとい爆弾を止める。
「順序ッ!順序があるからあ!!」
「俺達アリさんなの!ちっぽけなの!だから待って」
「アリも群がれば像を殺しますよ?」
「そんな数居ねえから!!」
「…でも、具体的にどう変えるんですか?」
「そうだな…皆がハッピーになれるレースなんてあるのか?」
「業界的にも収入は必要だぞ?」
「皆がはいどうぞとお金を払うコンテンツなんて…」
「何か考えはあるのか?」
「……ある」
「レース後の10分間」
レース後の10分間とは…
表彰後に行われる優勝者へ与えられた時間。
基本的にはスポンサーがつくので広告だったり…
個人的な活動をしていればその活動でのスポンサーを募集したりする。
ライスには…というよりこの学園にはスポンサーは地元の飯屋くらいしかついてないので優勝者インタビューとして終わってしまったが…
「そこで何をするんだ?」
「ライブ」
「らいぶ?」
「うん、ライブ」
「名付けてウィニング ライブ」
「はぁぁぁ!?!?」
スカーレットが叫んだ。
「ライブって何よ!?え?踊って歌えって!?」
「そう!」
「一着は…もちろんセンターだ!!」
「何で!?」
「皆可愛いし!一着ってめっちゃ頑張ったんだからセンターでいいだろう!?」
「いや、そう言う意味じゃなくて…」
「走った後で…体力持つかなあって事?」
「違うわよ!」
「んなアホな…」
「レースに出た皆で歌って踊る」
「ウマ娘はセンター…を争って走るんだ」
「賭けられる金の為でも配当のためでもなく…自分を示す為に!!」
「…馬鹿みたい……」
ふぅ…とため息を吐くスカーレット。
「でも…面白そうじゃないか?」
タキオンがククッと笑った。
「ライスも…やってみたいかも…」
「なら…まずは勝ってスポンサーをつけて発言力を高める為に…練習かな!!」
ルナがニコリと笑う。
「さあやるぞー!!」
「私も協力します!その歴史の変わる瞬間…きっと誰よりも近くで見たいんです!!」
「なので!まずは皆さんの練習風景をーーー…
乙名史さんは走って皆を追いかけて行ってしまった。
荒唐無稽な話。
ただの夢物語…。
まだまだ無銘の奴らの戯言…。
人はそう笑うだろう、馬鹿にするだろう…アホかと。
だがどうだ?
目の前のアホはそれを堂々と語っている。
何故だろう…一瞬見えた気がしたんだ。
私がセンターで君の方を見て踊る…その瞬間を…。
やはり…運命の出逢いだったのか。
まさか…
あんな男が私の抱えていた理想を語るとは思わなかった。
全てのウマ娘が楽しく誇りを持って走れるように
簡単に言えるものではない。
実現なんぞもっと難しい。
だが…それは諦める理由にはならない。
一度転んだなら立ち上がれば良い…。
その為には…私は君にどんな助力を惜しまないよ、トレーナー君。
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです!