月読ノ舞   作:面白い小説探すマン

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弐話

 

 

「兄さんだけずるいよな~。一足先に鬼狩りになってるんだよ~」

 

「何言ってんだ?兄さんは鬼殺隊とやらの様子を見に行ったんだ。お前は絶対に鬼狩りなんてやらせないからな」

 

 足をぶらぶらさせながら呑気なことを言っている無一郎に、有一郎が布団の支度をしながら釘を刺す。

 

「そんなの兄さんが帰ってきてからじゃないとわからないだろ」

 

 無一郎が駄々をこねていると、家の扉がトントンと叩かれた。しかし、その音は昼間のあまねと違ってどこか不粋なものを二人は感じる。

 

 

「ごめんください」

 

 やはり、兄である月一郎の声ではないことに、無一郎と有一郎は顔を見合わせた。

 

「どうしよう。こんな時間に知らない人が来ちゃったよ」

 

「無一郎はそこにいろ」

 

 有一郎が恐る恐る扉を開ける。

 

「どちら様です…か?」

 

 

 その瞬間、無一郎の目には腕を切断されて、扉もろとも吹き飛ばされる有一郎の姿が映った。有一郎が力なく布団の上に倒れると、切断された腕から血が止めどなく流れて布団を赤く染める。

 

「つい先日も薄汚い山小屋に住む女を鬼に変えたが、そいつはなぜか行方が分からなくなった。適応できなかったか?似たような山小屋に住んでいるこいつらを鬼にすれば何かわかるかもしれないな」

 

 寒気を催すような冷酷な声。家の玄関には一人の男が立っている。

 

 そいつを見た瞬間に無一郎は理解した。有一郎を傷つけたのはあの男であると。目の前が真っ赤に染まった。

 

 声にならない怒声を上げながら男に突貫する無一郎。

 

 その気迫は雑多な鬼であれば殺して見せるような迫力があった。

 

 

 しかし、そこにいるのは雑多な鬼ではない。

 

「喜べ。お前も鬼にしてやろう。あそこに転がってる死にぞこないと共に、この私に仕えるのだ」

 

 怒り狂う無一郎を見ても、余裕を崩さないその男。男が腕を振り上げる映像を最後に無一郎は意識を失った。

 

 

 

***

 

 

 

 「ああああああああああ!!」

 

 月一郎の目の前には血だらけで倒れる弟たちの姿があった。月一郎のただならぬ声を聞きつけた鬼殺隊当主、産屋敷耀哉とその妻であるあまねが少し遅れて駆けつけると、二人はその惨状に目を見開いた。

 

 月一郎は急いで、倒れている有一郎と無一郎の下へ駆け寄ると少しだけ安堵した。二人とも致命傷を受けてはいるが、まだ息があったからだ。

 

 月一郎はすぐさま二人を抱えて走りだす。

 

「耀哉さん!!俺は一足先に無一郎と有一郎を藤の花の家紋の家に連れていきます!!」

 

 弟たちを治療できる施設など、月一郎にはそこしか思いつかない。その判断は一瞬だった。

 

「待つんだ月一郎!」

 

 後ろから産屋敷耀哉の静止を促す声が聞こえるが、今足を止めるわけにはいかない。その一瞬で二人の命が失われるかもしれない。

 

「その二人はもしかすると…」

 

 

 鬼になっているかもしれない。その言葉を月一郎が聞いた瞬間、抱えた無一郎と有一郎が暴れだす。いきなりのことで無一郎と有一郎を落としてしまうと、二人はユラリと立ち上がった。

 

 二人の瞳孔は縦に裂け、爪や牙が伸びている。

 

「こ、これは!?」

 

「気を付けるんだ月一郎。君の弟たちは鬼にされてしまった」

 

 産屋敷耀哉の注意を促す声。鬼になった無一郎と有一郎が月一郎に襲い掛かった。

 

 

 それから月一郎は必死になって無一郎と有一郎に呼びかけると、その結果二人が俺を襲うことはなくなった。うずくまってポロポロと涙を流す弟たちを横目に産屋敷耀哉とあまねが近づいてくると、思いがけないといった様子で月一郎に声をかけた。

 

「こんなことが二度もあるものなんだね」

 

「耀哉さん?」

 

「鬼になった者は基本的に人間を喰らう。ましてや鬼になったばかりの者ならば家族であろうと喰らう。鬼とはそういう生き物なんだよ」

 

「そんな…」

 

「でもね、鬼になっても人を喰わずにいる鬼を私は一人知っているよ。月一郎、君の弟たちも恐らくは彼女と似たような体質になったということなんだろうね」

 

「鬼になった弟たちは殺されなければならないんですか?」

 

 月一郎が恐る恐る尋ねると、産屋敷耀哉はゆっくりと首を横に振った。

 

「ううん。今は殺さないでいいと思うよ」

 

「今は?」

 

「そう。君は自分の弟たちが人を喰ったらどうするつもりだい?」

 

「それは…」

 

 

 鬼になっても弟は弟だ。そんなことは…

 

 

 言い淀む月一郎の頭に産屋敷耀哉がやさしく手を置く。

 

「酷なことを言うようだけどね、そんなことはあってはならないんだよ。0と1には大きな違いがある。一人喰ってしまえばまた一人と歯止めが効かなくなるだろう。弟たちがそれ以上人を喰ってしまう前に首を切ってあげるのが君の、兄としての務めなんじゃないかな?」

 

「そうなったら、俺は…」

 

「もちろんこれから弟たちを鬼として連れていくなら、当然君にも責任があるよね。月一郎、君は自分にどんな責任を取らせるべきかな?」

 

「俺は…」

 

 

 耀哉さんの目をまっすぐ見つめて、

 

 

「腹を切って死にます」

 

 

 そう言い切った。

 

 

「そこまで覚悟が決まっているなら私からは何も言わないよ」

 

「あなたは鬼殺隊の当主ですよね?俺が言うのもなんですが、こんなこと許していいんですか?」

 

「言っただろう、君たちは二度目だって。同じ境遇の子がいるんだ。あの子たちはいいのに君たちがダメだなんて言うはずないじゃないか」

 

「お館様…」

 

「さあ、まだ日が雲に隠れて出ていないうちに弟たちを日陰に隠すんだ。」

 

 

 それから月一郎は二人を日の光から守るための籠を産屋敷耀哉、あまねと共に作った。そして、無一郎と有一郎を小さくして籠に詰めると竹を咥えさせた。

 

「ごめんな二人とも。狭いだろうけどしばらくの間我慢してくれ」

 

「ムーーー」(無一郎)

「ユーーー」(有一郎)

 

 兄である月一郎の言葉に竹を噛んだ無一郎と有一郎は上目遣いで返事をする。

 

 

「さあ行こうか月一郎」

 

 産屋敷耀哉がやさしい笑みを浮かべて呼んだ。

 

 

 よし行こう。俺はその声に従って歩みだした。

 

 

 

 

「あの方に言われて来てみれば…その籠に詰めたそいつらがあの方の呪いを解いた鬼共か」

 

 そこには鬼が立っていた。瞳に『下壱』という文字が刻まれている鬼だ。

 

「十二鬼月…それも壱か」

 

 いきなりの鬼の出現に対して、耀産屋敷哉は取り乱す様子もなくつぶやいた。それには月一郎が初めて耀産屋敷哉に出会ってから今までずっと変わらない印象である荘厳さがある。

 

 

 なぜこの人は鬼の出現等という予想外のことが起こっても、ここまで気高いままなのか。

 

 

 月一郎は心酔するような胸の中で、耀産屋敷哉に聞いた。

 

「十二鬼月?」

 

「鬼舞辻無惨直属の12体の鬼の総称だよ。」

 

「あの方の名前を気安く口にするな!!」

 

『下壱』の鬼が大声で怒鳴ってくるが、月一郎の目には産屋敷耀哉しか入らない。

 

「鬼舞辻無惨とは…確か」

 

「そう。すべての鬼の始祖であり、人間を鬼に変えられる唯一の鬼。そして私が倒したい鬼さ。月一郎の弟たちもその鬼舞辻無惨によって鬼にされたんだ。」

 

「弟たちを元に戻せるんですか?」

 

「その鬼舞辻無惨なら知っているかもしれないね」

 

「そうですか…」

 

 月一郎はそこで初めて『下壱』の鬼に目を向けると、声を張り上げて聞いた。

 

「鬼舞辻無惨はどこにいる?」

 

 すると『下壱』の鬼は不愉快極まった表情で言い放つ。

 

「言うわけなかろう。それに、わしの用があるのは、そこな餓鬼の鬼二匹よ。それ以外の人間どもは喰ろうてくれるわ!!」

 

 月一郎はその様子をみてひどく悲しくなった。

 

「あれが鬼なんですね」

 

「そうだね。鬼とはああいうものなんだよ」

 

「俺が戦います。耀哉さんとあまねさんは下がっていてください」

 

「そうさせてもらうよ。月一郎、この刀を使っておくれ」

 

 月一郎はお館様から一振りの刀を受け取ると柄を握った。今まで刀など握ったことのない月一郎だが、とてもしっくりくるように感じる。まるでこの身に馴染む月読ノ舞があたかもそういうものであるかのように…

 

「ありがとうございます。これで戦える」

 

 

 一瞬の静寂が訪れた。呼吸を整えて鬼を見据える。

 

 ホォォォォォ

 

 静寂の中響く、月一郎の呼吸。

 

 

 月一郎は刀を頭上に構え、ゆっくりと刀身を引き抜く。鞘から引き出される白銀の刃。それが全て引き出されたとき、月一郎が持つその刃は柄から深い紫色に変わっていった。月模様の耳飾りを風で揺らし、『下壱』の鬼に向き合う月一郎。

 

 

「時透月一郎参る」

 

「下弦の壱、疾琉刃参る」

 

 先に動いたのは下弦の壱。

 

「血鬼術・風の現身」

 

 下弦の壱が風のような速さで月一郎の周囲を動き回った。月一郎は突如として、竜巻の中へ閉じ込められてしまう。そこへ更に…

 

「血鬼術・不可視の風刃」

 

 全方位から見えない風の刃が月一郎を襲った。

 

 

 

***

 

 

 

「何故だ?」

 

 その鬼、下弦の壱、疾琉刃は困惑していた。全方位から浴びせた不可視の風の刃。これがすべて尽く回避されていく。それも最小限の動きで。ともすれば、これは攻撃を仕掛ける前から回避されているようにも感じる。

 

 このままでは埒が明かないと思った疾琉刃は更なる血鬼術を使うことを決意した。自身の血鬼術により生み出していた竜巻を消すと、疾琉刃は耳飾りを付けた紫刀の剣士の目の前に立つ。

 

「血鬼術・神風迅速」

 

 その血鬼術は文字通り、鬼の身を神風と化す技。これを使ってしまえば鬼としての力を使い果たしてしまうが、この血鬼術を切ることに躊躇いはなかった。耳飾りを付けた紫刀の剣士が守る二体の鬼。これはあの方、鬼舞辻無惨により連れてくるよう命じられた鬼だ。失敗はできない。鬼としての力を一気に使い切る血鬼術。その速さは先ほどの並みではない。この速さで以て不可視の刃で切れば事足りる。

 

 

「月読ノ舞 闇月・宵の宮」

 

 

 疾琉刃の耳に届くその声。気が付けば首を切られていた。

 

 

 

***

 

 

 

 透き通る世界。相手の身体を透かして見ることで次の一手がわかるというもの。

 

 月一郎は疾琉刃を超える速度を出すことができない。しかし、先に切ったのは月一郎だ。何故勝てたのか?相手より早く動いていたからだ。即ち先読みである。圧倒的鍛錬の極致である、透き通る世界の先読みに──下弦の壱、疾琉刃が勝る道理はなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 わしは速くなりたかった。速くなければ盗人を捕えることができないからだ。人間だった時分、わしは江戸の奉公だった。盗まれたものを取り返して、とられた人に返す。人からの礼の言葉が何よりの生きがいだった。それが鬼となり、わしが人の物を盗った。取り返しのつかない命というものを。それなのに、なぜお主はそんなに悲しそうな顔でわしを見てくれるのだ…?

 

 

 

***

 

 

 

 俺が首を切った鬼は悲しい空気を纏っていた。

 

 今までの罪がなくなるわけではないけれど、それでも俺は死後の冥福を祈らざるを得なかった。

 

 

 そして、十二鬼月を倒したその日、俺は鬼殺隊の一員となった。

 

 

 

***

 

 

 

 べべん

 

「疾琉刃が殺された。下弦の壱だ」

 

「それは…誠に…残念で…ございますな」

 

「お前に言いたいのはそんなことではない。疾琉刃を殺した剣士についてだ。その者はお前と同じ呼吸を使っていたぞ」

 

「それは…なんという…」

 

「なぜその剣士はお前の呼吸を使っていたのだ?」

 

「………」

 

「お前の蒔いた種だ。お前で片を付けろ」

 

「御意に…」

 

 

 

 




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