月読ノ舞   作:面白い小説探すマン

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しやぶ さん
Amehuri さん
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参話

 

 

 先日、月一郎は下弦の壱を倒し、鬼殺隊への入隊を認められた。そして、刀と隊服を受け取った今、月一郎は大きな屋敷に案内されている。これは鬼殺隊97代目当主・産屋敷耀哉、通称お館様が鬼舞辻無惨の襲撃を受けて住む場所がなくなってしまった月一郎とその弟たちのために用意したものだ。

 

「どうしたんだい?月一郎。君にはこれからここに住んでもらうんだから、そんなに気を張らなくてもいいんだよ」

 

 月一郎の前で優しい笑みを浮かべているのはお館様。

 

「今まで住んでいた家と違いすぎるもので…」

 

 月一郎たち、時透家が今まで住んでいたのは山間部にある小屋だった。そのため、目の前に案内された屋敷がとても大きく見えてしまっても仕方がない。

 

「中に入ろう、月一郎。話したいこともあるからね」

 

「ムーー」

「ユーー」

 

 お館様の言葉に答えるように、竹を噛んだ鬼である無一郎と有一郎が籠から飛び出して屋敷に我先と入っていった。その様子に笑みを溢すお館様。

 

「さあ入ろうか」

 

 月一郎も弟たちとお館様に続いて、屋敷の門をくぐる。

 

 座布団に座る俺の両隣には無一郎と有一郎が座り、3兄弟に対面する形で目の前にお館様が座った。

 

「月一郎、君は十二鬼月である下弦の壱を私の目の前で倒した。本当なら君は鬼殺隊で最も位の高い剣士である柱になる資格がある」

 

 朗らかに話を切り出すお館様。

 

「でもね。月一郎はそのとき、まだ鬼殺隊に入ってすらいなかったから一足飛びにというわけにはいかなくてね」

 

 お館様が申し訳なさそうな顔をするが、それには月一郎も慌てた。

 

「鬼殺隊に入った直後、最高位の剣士にしろだなんておこがましいですよ」

 

「けれどね。十二鬼月を倒すというのは、月一郎、君が思っている以上に鬼殺隊にとって大きな意味を持つんだ。だからそれを為しえた柱は力も発言も皆から認められるんだよ」

 

 だからね…と続けるお館様。

 

「君にはしばらく一般の隊士として、鬼を切る任務が言い渡されるのだけど、その任務は比較的柱に近いものとなるだろう。月一郎には、その任務を遂行してほしい」

 

「わかりました」

 

「柱になれる条件は鬼を50体以上倒すか、十二鬼月を倒すこと。これには既に月一郎は達成している。これからは他の隊士の手前、任務でその力を示すんだ」

 

 月一郎にこれからを示したお館様は用意されたお茶を飲んだ。その所作もどことなく上品だった。月一郎もお館様に倣ってお茶に口をつける。

 

 一息ついたお館様が言う。

 

「今から君にも鎹鴉をつけるよ。」

 

「鎹鴉?」

 

「鬼殺隊において伝令の役割を担う鴉だよ。」

 

 お館様が手をパンと鳴らすと、隣の襖がスーっと開かれて一羽の鴉が現れた。

 

 

 今、羽で襖を開けてなかったか?

 

 

 現れた鴉は羽ばたいて月一郎の肩にとまった。

 

「月一郎殿。夜影と申す。よろしく頼む。」

 

「…ああ。よろしく頼む」

 

 月一郎の肩で悠長に喋る一羽の鴉。

 

 

 鬼殺隊の鴉はいろいろと規格外のようだ。

 

 

 

***

 

 

 

 次の日の夜、月一郎はお付の鎹鴉である夜影から指令を受けていた。

 

「月一郎殿、任務だ。これより北東の村へ向かってくだされ。」

 

「わかった。」

 

 屋敷をでる月一郎。その心は弟の無一郎と有一郎を案じていた。屋敷に住むように言われたあの日の夜から、無一郎と有一郎は眠り続けている。

 

 月一郎が心配になってお館様に夜影を通じて文を送ったところ、弟たちと同じ境遇である鬼の少女、竈門禰豆子も同じように眠っているとのこと。おそらく、弟たちの体質も変化している最中であろうこと。そして、必要以上に気を張り詰めないようにとも記されていた。

 

「月一郎殿」

 

 先を飛ぶ夜影が案じるように言う。

 

「弟君たちが眠る屋敷には数多の鎹鴉が見守っている。ゆえに今は任務に集中して下され」

 

 

 そんなに俺はわかりやすいのか?俺は夜影の言葉で気を引き締める。

 

 

「ああ!!わかった」

 

 

 目的の村には既に何人かの隊士が集まっていた。

 

 

 

***

 

 

 

 俺は甲の隊士だ。名前?そんなんどうだっていいだろう。俺には今からやるべきことがある。

 

「お前の名前は?階級と使う呼吸は?」

「田中一郎。階級は丁です。使う呼吸は水の呼吸」

 

 この中で一番上の階級であろう俺は他の隊士全員の名前と階級,呼吸を聞く。任務に対してある程度全員の実力を把握するのは必要だし、共に戦う者の名前は知っておくべきだと思うからだ。しかし、全員が乙や丙,丁といった階級の中、そいつはいた。

 

 黒い長髪を後ろで纏めて、耳飾りを付けて浮ついているような場違いなガキだ。

 

「お前の名前は?」

 

「時透月一郎です」

 

 見た目に反して敬語は使えるらしい。

 

「お前の階級は?」

 

「階級?よくわからないけど入ったばかりです」

 

「入ったばかりって癸かよ!!」

 

 なんでこんなやつがいるんだ。この高い階級の剣士が集まる任務の中。絶対に死ぬぞ。

 

「ちなみに呼吸は?」

 

 俺はやけくそになりながらも尋ねるが、そのガキの答えはさらに悲惨だった。

 

「呼吸?戦う前は深呼吸します」

 

「………」

 

 なんだこいつは?なぜここにいる?

 

「お前の育手は何を教えたんだ?」

 

「そだて?俺は家で野菜を育ててます。うちのさつま芋は美味しいですよ」

 

 俺は真顔になった。そして、最後の質問を絞り出す。

 

「お前…どうやって、最終選別を突破したんだ?」

 

 俺の一縷の望みは…

 

 

「最終選別?ってなんですか?」

 

 

 無情にも打ち砕かれた。

 

 

「お前は帰れ」

 

 俺は感情の乗らない声で淡々と告げる。

 

「え?でも俺、鎹鴉にここに迎えって言われましたけど?」

 

 上からの指令があったのか?信じられん、上は何を考えているんだ。しかし、指令があるのなら帰すわけにはいかないのか?帰したらこいつが隊律違反になるかもしれん。

 

 俺は頭をガシガシ書きながら、こいつに最後の忠告をした。

 

「いいか?帰るなら今のうちだぞ」

 

「大丈夫です。帰りません」

 

「いいか時透。絶対に前に出るな。お前は隊列で一番安全な中央にいろ」

 

 もう俺にできるのはこれだけだ。

 

「わかりました」

 

 本当にわかってんのか?

 

 

 俺が先頭に立って、指令のあった町に入る。あの問題児、時透月一郎は今のところちゃんと隊列の中央にいるようだ。これなら前後左右どこから鬼が出てきても他の隊士が対応できる。

 

 

 だがそいつは空から現れた。

 

 

「ぐあッ!!」

「がッ!!」

「グエッ!!」

 

 俺は咄嗟に刀を振るった。鋭い何かが俺の体を切る。痛む体で周りを見れば俺以外の隊士は皆、壁に磔になっていた。羽が固定してやがる!!俺を切ったのもそれか!!

 

 空を見上げると鳥のような鬼がいた。その瞳に刻まれるのは『下壱』の文字。

 

「十二鬼月…それも下弦の壱か…」

 

 鬼殺隊における最高位の剣士である柱ですら屠る上弦の鬼。その上弦に最も近い鬼が目の前にいた。

 

「俺はなぁ、人間を動けなくした後に内蔵からズルズルと食べていくのが好きなんだぁ。」

 

 その鬼は気持ちの悪い笑みを浮かべて喋りだす。

 

 先ほどの奇襲で振るった刀の手ごたえからわかる。俺はこいつに敵わない。

 

「内蔵が引き出される最中の表情がまた食欲をそそって仕方ねぇんだぁ」

 

 それでも戦うしかない…

 

 俺は刀を強く握りしめて踏み出そうとする。

 

 

「あの?怪我大丈夫ですか?」

 

 隣を見ると件の問題児、時透月一郎がいた。

 

 

 ん?

 

 なんでこいつは磔になってないんだ?そうか…こいつは隊列の真ん中にいた。だから攻撃を食らわなかったのか。

 

「あれ?あの鬼、目に『下壱』って書いてありますね。そいつならこの前倒しましたよ」

 

 …まずい。時透はこの絶望的な状況で精神に異常をきたしている。だが、俺の腹は決まった。

 

「よく聞け、時透。俺が今から時間を稼ぐ。その隙にお前は全力で逃げろ!!」

 

 俺は結局柱になれなかったが、それでも未来ある下の者は全力で守る!!

 

「お前の内蔵は何色だぁぁぁ」

 

 鳥のような『下壱』の鬼が無数の羽を飛ばしながら俺に突っ込んできた。最期の意地だ!!目は絶対につぶらない。

 

 

「月読ノ舞 珠華ノ弄月」

 

 

 目の前で鬼の首が切れた。飛んできた無数の羽もなくなってる。

 

 前を見ると、チンという音と共に刀を納める時透の姿があった。まさか、あの一瞬で鬼の首と羽全てを切ったのか?信じられない。だがそれ以外に答えが見つからない。

 

「お前が…やったのか?」

 

 時透は月を背後に耳飾りを揺らしながら振り向いた。

 

「お怪我はありませんか?」

 

 

 事後処理班である隠たちがせわしなく動く中、時透は鬼が消えて場所をただ見つめている。

 

 こいつは一体何者なんだ?俺の胸中はこれだけだった。

 

 

 翌日、それが分かった。

 

「カアァァァァァ!!ハジマリ ノ ケンシ ノ マツエイ、トキトウ ツキイチロウ。カゲン ノ イチ ヲ ゲキハァァ!!ツキバシラ 二 ニンメイィィ!!」

 

 鎹鴉からの報告で俺はどこか納得した。そうかあいつ始まりの呼吸の剣士の末裔なのか。

 

 羨望、嫉妬は確かにある。だがそれ以上に思う。

 

 

 いつか借りを返さねぇとな。

 

 

 

***

 

 

 

 最初の任務で再び『下壱』の鬼の首を切った月一郎は悲しく、鬼が消えた場所を見つめていた。

 

 

 あの鬼も元は無一郎たちみたいに人間だったはずなのに、どうしてあんな風に変わってしまうのだろうか。鬼の血は人を変える。姿だけでなくその心まで。

 

 俺には首を切ることしかできなかった。あの鬼も来世では安らかに過ごしてほしい。

 

 弟たちもいつか変わってしまうのだろうか?その前に一刻も早く二人を元に戻さなくてはならない。

 

 俺は改めて、夜空に浮かぶ月に誓った。

 

 

 




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