月読ノ舞   作:面白い小説探すマン

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伍話

 蝶屋敷。

 

 そこは、花柱・胡蝶カナエの私邸にして鬼殺隊唯一の本格的な医療施設である。常日頃から多くの隊士が出入りしている蝶屋敷だったが、その日はさらに多くの隊士が集まっていた。

 

 太陽が燦然と輝く中、訓練場で向かい合うのは二人の剣士。一人は屈強な体を持つ大男、もう一人は小柄な少年。その様子は文字通り大人と子供だった。

 

 その二人を取り囲むようにして見ている大勢の隊士。そして、そのひと段高い場所には他の柱全員と、お館様である産屋敷耀哉が妻のあまねと共に座っていた。

 

 お館様、柱、大勢の隊士。彼らが待つのは偏にこれから始まる、岩柱・悲鳴嶼行冥と新しい柱と目されている時透月一郎による真剣での手合わせだ。

 

 本来、鬼殺隊において隊員同士の真剣勝負など言語道断。しかし、岩柱は月一郎と真剣での勝負をお館様に頼み込んだ。なんでも岩柱は子供である月一郎が柱を務めることに強い不安がある様子。それを見たお館様は岩柱の抱える事情を察したのか、特別に真剣勝負を許可なされた。

 

 そして、どちらかが怪我をした場合でもすぐに対処できるよう、この蝶屋敷が選ばれたのだ。

 

「南無阿弥陀仏」

 

 数珠を鳴らしながら唱える岩柱の念仏がこの場にいる者全員の耳に響く。

 

「君は…下弦の壱を二度、無傷で倒したと聞く」

 

 瞳のない目で月一郎を覗き込む岩柱。

 

「真剣での手合わせ…引き受けてくれたこと感謝する。君には関係のないことだろうが、どうしても私は確かめたい…」

 

 

 大きな身体がさらに大きくなった気がした。

 

 

「岩柱・悲鳴嶼行冥。参る」

 

 岩柱は己の武器である手斧・鎖・鉄球を構える。月一郎も紫に染まった刃を鞘から抜いた。

 

「時透月一郎。参ります」

 

 月一郎にとってもこの手合わせは、柱としてどれほどの実力が要求されるかを知れるいい機会だ。

 

 この場にいる誰しもが、あの岩柱に月一郎がどう戦うのか待ち望んでいた。

 

 

 ゴウンゴウンゴウンゴウン

 

 鉄球の回転と共に引き寄せられる空気。

 

 ホォォォォォ

 

 月一郎もそれに呼応するように呼吸を整える。

 

 

「始め」

 

 決して大きくはないが、よく響く声でお館様が言った。

 

 それと同時に両者動き出す。

 

 岩柱の鉄球が真横から月一郎に襲い掛かった。

 

 

 

「すごい…」

 

 誰かがふとそんな声を漏らす。

 

 目の前で行われる超高速の戦闘。最初、岩柱の鉄球が横なぎで月一郎に振るわれたと思ったら、月一郎は既に岩柱の前にいる。

 

 常人には目が霞む速度で二人は動いていた。その中で、鋭い音と共に刀と鎖・手斧の衝突が鮮やかな光となって映る。

 

 高速で回転する鉄球を上手く躱しながら、舞のような剣術で岩柱と切り結ぶ月一郎。

 

 月一郎の行動を制限するかのように目に見えぬ速度で鎖を操る岩柱。

 

 代わる代わる交代する月一郎と岩柱。時が圧縮された攻防が目の前で繰り広げられている中で、一般隊士が気づく。

 

 

 あれ?どんどん速くなってね?

 

 

 

 戦闘が佳境となる中、ついに月一郎が動いた。

 

 目の前から迫ってくる鉄球を鮮やかに躱した月一郎は鉄球につながれている鎖に沿って岩柱との距離を詰める。それと同時に躱された鉄球が蝶屋敷の訓練場を抉った。

 

 ジャリジャリジャリジャリ

 

 すぐさま、岩柱の鎖が月一郎の周囲を覆うように展開されて、その行動を制限する。まるで見えない壁が迫ってくる様。

 

「月読ノ舞 珠華ノ弄月」

 

 三つの斬撃で鎖の軌道を変えて生み出した活路を通り、透き通る世界で岩柱に切り込む月一郎。

 

 

 次の岩柱の動きが見えた。ならば次の動きは…

 

 

 ドゴン!!

 

 月一郎の頭上に躱したはずの鉄球が降り注いだ。

 

「月読ノ舞 月龍輪尾」

 

 

 …その鉄球をいなすこと。月龍輪尾は月読ノ舞の中で一振りの刃が最も広い型。これならあの鉄球すらもいなせる。

 

 予想通り、悲鳴嶼さんの鉄球は俺の頭に直撃することなく月龍輪尾の軌跡に沿って流れ始めた。さらにこの鉄球を流れを利用する。

 

 

「月読ノ舞 降り月・連面」

 

 刀れる鉄球に力を加えるように刀を振り下ろす月一郎。その結果、鉄球は凄まじい速度で岩柱へ向かっていった。

 

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥は屈指の肉体を持つ男である。その肉体と培った技を用いれば、手斧・鎖・鉄球という扱いの難しい武器であっても、己の手足のように自在に扱うことができる。剛速球で自分へ向かってくる鉄球でも鎖を介して力を加えれば、いなすことも容易い。

 

 

 豪速で向かう鉄球は半円を描くように岩柱の頭上を飛び越えると、その男の背面にある地面を砕いた。

 

 

 自分が動けば、相手も動くのが道理。

 

 岩柱は鉄球をいなすことに一手用いた。つまりその瞬間、その一瞬、岩柱は鉄球による行動ができなくなる。

 

 鎖で行動を制限されているとはいえ、身体を自由に使える月一郎と左手は鉄球をいなすために使ってしまった岩柱。

 

 これで岩柱に残ったのは右手にある手斧のみ。

 

 

 この状況で岩柱の取った行動は手斧の投擲であった。

 

 

 透き通る世界に至っているため、これは当然のように躱す月一郎。手斧は彼の横を通過して背後に流れた。しかし、手斧と繋がる鎖が再び月一郎の進行を妨げる。

 

 

 再び珠華ノ弄月で鎖をいなすか?いや、相手には一手も与えない。

 

 

 月一郎は飛んで鎖を回避した。岩柱との距離をさらに詰めていく月一郎。

 

「岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き」

 

 月一郎の背後から手斧が、前面からは鉄球が迫ってくる。蝶屋敷の訓練場ごと鎖を踏み抜く岩柱。その反動によって、空中の月一郎を手斧と鉄球で挟み撃ちにした。

 

 だが、透き通る世界によりこの状況を一手先に見ていたのは月一郎。空中で身体を海老反りのように捻り、背面すれすれで手斧と鉄球を回避する。

 

 ガギィィィィィン

 

 背後で手斧と鉄球が衝突する音を聞きながら、月一郎は次の構えを取っていた。その姿はまるで夜空に浮かぶ三日月のよう。この場にいる者たちは今が昼間であるにもかかわらず、夜に輝く月を見た。

 

「月読ノ舞 月虹・片割れ月」

 

 空から岩柱へ無数に襲い掛かる月の如き斬撃。それを見た岩柱は鎖から手斧を急いで引き戻そうとする。

 

 

 決まるッッッ!!

 

 

 この戦いを見ていた柱たちが思った。

 

 岩柱が鎖を操り、月一郎の斬撃を防ごうとする。しかし、それすらも視えていた月一郎は鎖の合間を縫って刀を通すと岩柱の首に添える形で止めた。気づけばいつの間にか月一郎の首にも岩柱の手斧が添えられている。

 

 

「そこまでだね」

 

 お館様の穏やかな声で月一郎は岩柱・悲鳴嶼行冥との手合わせを終えた。

 

 

 その後、蝶屋敷にある一室で月一郎はお館様・産屋敷耀哉と対面していた。柱たちは既に解散して各々夜に向けた支度に取り掛かっている。部屋には月一郎とお館様の二人きりだった。

 

「行冥と手を合わせてくれてありがとう」

 

 正座したお館様が話を切り出す。

 

「きっとこれで、行冥も君が柱になることに納得してくれるはずだよ。それだけじゃない、この蝶屋敷で月一郎と行冥の手合わせを見ていた者全員が認めてくれるだろう。あとは君の気持ちだけだ…」

 

「俺の気持ち…ですか」

 

「君はこれからどうしたいんだい?」

 

 月一郎に問いかけたお館様。

 

「俺は…鬼になった二人を元に戻したいです」

 

 月一郎は今も眠り続けている弟たち、有一郎と無一郎のことを頭に思い浮かべる。

 

「以前、あの二人を元に戻す方法は鬼の始祖である鬼舞辻無惨が知っているかもしれないと言ったよね」

 

「はい」

 

「実はね…私は鬼舞辻無惨以外にもその方法を知っているかもしれない人たちを知っているんだ」

 

「そうなのですか?」

 

 身を乗り出してお館様に聞く月一郎。

 

「うん。でもこれはとても大切なことだから、一般の隊士にはあまり触れさせたくないんだ」

 

 ずっと落ち着きを見せているお館様を見て、月一郎も佇まいを直す。

 

「君が柱となってくれるのなら、月一郎に彼女たちと連絡を取り合う任務を受けてほしい」

 

「その人たちは女性なのですか?」

 

「そうだよ。400年前に鬼舞辻から逃れた鬼の女性たちだ」

 

「その人たちも鬼なんですか…」

 

「きっと君たち兄弟の力になってくれるはずさ」

 

 お館様が改めて、口を開いた。

 

「月一郎。これから新たな柱、月柱として鬼殺隊に力を貸してもらえないだろうか?」

 

「お館様」

 

 月一郎は最後に聞く。

 

「俺が柱になってもいい結果になるとは限りませんよ」

 

「ふふふ、それはどうだろうね。私は君が鬼殺隊に来てくれて、いい風が吹いていると感じるんだ」

 

 その言葉に軽く笑った月一郎が答える。

 

「柱の任、受けさせていただきます」

 

 

 

***

 

 

 

「彼はどうだい。行冥」

 

「…まだ信じることはできません」

 

「それでもいいよ。新しい柱としてはどうかな?」

 

「腕前に関しては申し分ありません」

 

「君と引き分けたんだからね」

 

「いえ…」

 

「?」

 

「彼のほうが一瞬速く…」

 

「そうかい…ままならないものだね」

 

 

 




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