月読ノ舞   作:面白い小説探すマン

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しやぶ さん
誤字報告ありがとうございます


陸話

 

 

 

 鬼の始祖・鬼舞辻無惨以外に鬼を人に戻す方法を知っている可能性がある鬼の女性たち。鬼にされてしまった弟たち、有一郎と無一郎を人に戻すためにも、月一郎はお館様・産屋敷耀哉に鬼殺隊の柱となる旨を伝えた。柱となることで、件の鬼の女性たちに関わるような重要な任務を受けることができるようになるからだ。

 

 お館様との対談を終えた月一郎は岩柱・悲鳴嶼行冥との手合わせで使われた蝶屋敷の様子を散策しながら見ていた。

 

「月一郎くん。お館様とのお話は終わったの?」

 

 月一郎に声をかけたのは蝶屋敷の主である花柱・胡蝶カナエ。

 

「はい。お館様には柱となる旨を伝えました。」

 

「そう…月一郎くんが決めたことなら何も言わないわ…」

 

 カナエは少し悲しそうな顔をした。

 

「私には…君よりも少し年上の妹がいるから。月一郎くんが危ない任務を受けることに少し思うところがあってね…」

 

 出会って間もないのに、心配してくれるカナエの顔から目を逸らすように月一郎は言う。

 

「その…すいません。どうしてもやらなければならないことがあって…」

 

 申し訳なさそうにする月一郎に、慌てて明るい雰囲気をつくるカナエ。

 

「大丈夫よ。私がとやかく言うことでもないと思うし…。そういえば柱合会議でも言ったけど、私には妹のしのぶがいてね。今、蝶屋敷にいるから紹介するわね」

 

 そう言うと、カナエは妹である胡蝶しのぶを呼んできた。どことなく気が強そうな雰囲気を持った少女・しのぶは開口一番、少し視線をきつくすると月一郎に言う。

 

「その年で柱になったからって、姉さんに変なことしたら許さないからね!!」

 

 その様子に姉であるカナエが苦言を呈す。

 

「しのぶ、月一郎くんはしのぶよりも年下なのよ。もっと優しくしてあげて」

 

「姉さん…」

 

 しのぶはカナエにばつが悪そうにした。

 

「姉さんは美人なんだから、どこで悪い虫が付くかわからないのよ」

 

「しのぶ」

 

 語気を強めて妹の名前を呼ぶカナエ。それには流石のしのぶもしおらしくなる。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「大丈夫ですよ。大好きなお姉さんのことなんだから当然だと思います」

 

 兄弟を持つ月一郎はしのぶの気持ちがなんとなくわかるため、しのぶの謝罪をあっさり受け入れた。

 

「月一郎くん…」

 

 しのぶは自分の苛立ちが見当違いであったことを恥じる。それからというもの、しのぶは気になることを月一郎に逐一聞いていった。

 

「悲鳴嶼さんとの闘いすごかったわ。一体なんの呼吸を使ってるの?」

 

「呼吸?特には何も使ってませんよ」

 

「うそよ。あんな動きが呼吸無しで出来てたまるもんですか」

 

「あれは呼吸?とかじゃなくて、家にこの耳飾りと共に伝わる舞なんです」

 

「舞?それってどんな?」

 

「月読ノ舞といって、毎夜月が消えるまで舞うんです」

 

「え?それってきつくないの?」

 

「始めは辛かったですけど、今は何ともありません」

 

「鬼殺隊に入ってからどれくらいなの?」

 

「今日で大体三日となります」

 

「たった三日で柱になったの?!始まりの呼吸の剣士の末裔って聞いてるけど、剣を持ってどれくらい?」

 

「それも大体三日くらいですね」

 

「なんですって?!三日で悲鳴嶼さんとあそこまで戦えたの?」

 

「刀を始めて持った時から妙に手に馴染むんですよね。きっと月読ノ舞のおかげです」

 

「始まりの呼吸の剣士の末裔ってみんなそうなの?」

 

「俺にできたんですからきっと弟たちもできると思いますよ」

 

「月一郎くん、弟がいるの?何人?」

 

「二人です。有一郎と無一郎って言います」

 

「その二人も鬼殺隊に?」

 

「入れさせませんよ…危ないことは俺一人で十分です」

 

「そう…今どこにいるの?」

 

「お館様が用意してくださった屋敷にいます。俺もそこに住んでます」

 

「今は何してるの?」

 

「…寝てると思います」

 

「寝てる!?こんな時間に?」

 

 月一郎としのぶの会話がひと段落ついたのを見計らうと、今度はカナエが月一郎に話しかけた。

 

 

「…月一郎くん。君は人と鬼が仲良くできると思う?」

 

 

 月一郎の思考は一瞬停止した。つい先ほどまで鬼である弟たちの話題であったため、弟たちのことが感づかれたのかと思ったからだ。蝶屋敷を散策した中で、他の隊士の様子をちらほら見たが鬼憎しで戦う者がほとんどである。そんな鬼殺隊で鬼と一緒に暮らしていることなどばれたら討伐待ったなしだろう。

 

 月一郎はどうにか返事を絞り出す。

 

「……で、できるかも…しれませんね」

 

 月一郎がそう返すとカナエは嬉しそうにほほ笑んだ。

 

「月一郎くんもそう思うのね。私もよ」

 

 頭が真っ白になっている月一郎をよそにカナエは言う。

 

「私もいつか人と鬼が仲良くなれるんじゃないかと思ってるの」

 

 手を顔の横で合わせてニコニコするカナエ。

 

「でも一体どうやったら仲良くできるのかしら?」

 

「姉さん。人と鬼が仲良くできるわけないでしょ!!」

 

 首を傾げているカナエに、しのぶが突っ込んだ。

 

「あら?でも月一郎くんだってできるかもしれないって言ったわ」

 

「いきなり姉さんにそんなこと言われたから、適当に返しただけよ!!」

 

「そうかしら~?」

 

「そうよー!!」

 

 言い合う胡蝶姉妹をよそに、月一郎は思った。

 

 

 よかった。弟たちのことじゃなかった。

 

 

「「月一郎くんはどう思う?」」

 

 いきなり聞かれる月一郎。

 

「あ!?…すいません。聞いてませんでした」

 

「「えー!!」」

 

 

 

 その後、月一郎は日が暮れる前に蝶屋敷を出て、弟たちが眠る屋敷へ帰ることにした。そこへ月一郎の鎹鴉である夜影が彼の肩に止まる。

 

「月一郎殿。初めての柱合会議に柱との手合わせ、お疲れ様です。お館様から今夜の任務はないとのこと。今夜はゆっくりと休んで下され」

 

「わかったよ夜影。ありがとう」

 

「では…」

 

 そういうと夜影は飛び去った。

 

 

 今夜はしっかりと月読ノ舞を舞えそうだ。

 

 

 空には薄っすら、三日月が昇っていた。

 

 

 

 夜。三日月が庭を照らすこの屋敷に夜影の緊急伝令が飛び込んできた。

 

「月一郎殿!!緊急の出陣要請です!!」

 

「どうしたんだ?」

 

 舞を中断した月一郎が夜影に聞く。

 

「十二鬼月、上弦の弐が現れました!!現在、花柱・胡蝶カナエが交戦中。直ちに増援へ向かって下され!!」

 

「わかった」

 

 一瞬で支度を終えた月一郎はすぐさま屋敷を飛び出した。

 

 

 上弦の鬼。お館様の話では100年前より顕在し、鬼殺隊の柱を数多く葬っている鬼たちだ。今回の上弦の弐はそのうちの一体にして上位二番目の鬼。鬼舞辻無惨に限りなく近いその鬼なら、鬼になった弟たちを元に戻す方法すら知っているかもしれない。

 

 

 月一郎は手足に力を入れて、先を飛ぶ夜影を追いかけるために地面を蹴った。

 

 

 月一郎が最初に感じたのは気温の低下であった。夜影が案内した先に見える二つの人影。そこには地面に力なく座り込む花柱・胡蝶カナエとニヤニヤ笑う、頭から血を被ったような鬼がいた。その瞳に刻まれる『弐』『上弦』の文字。その鬼こそが…

 

「上弦の弐!!」

 

 声を出した月一郎に気付いた上弦の弐がニタニタと笑いながら話しかける。

 

「やあ、君も鬼狩りだね。この子を助けに来たんだよね?でも、残念だけどその子はもう助からないよ」

 

 それを聞いた、月一郎の顔が曇るが上弦の弐は変わらずの軽快な声で言った。

 

「悲しむ必要なんてないんだ。今、カナエちゃんは苦しそうだよね。でも死ぬことによってその苦しみから解放されるんだよ。そして、俺と一つになることで俺と永遠に生き続けるんだ」

 

 月一郎はほんの少し話を聞いただけだが、この鬼の言葉をもう聞きたくなかった。

 

「戦う前に聞いておく」

 

「なんだい?」

 

「鬼を人間に戻す方法を知っているか?」

 

「えー。鬼を人に?知らないなぁ。というか、どうしてせっかく鬼になったのに戻る必要があるんだい?」

 

 上弦の弐が淡々と言う。

 

「そうか…もういい」

 

「人が折角答えたのにつれないなぁ」

 

 顔だけで悲しそうな表情をつくる上弦の弐に向かって月一郎は切り込んだ。

 

「お前は首を置いていけ」

 

 すぐさま、それに対応する上弦の弐。

 

「血鬼術・凍て曇」

 

 上弦の弐が手に持つ扇から氷の粒子がばら撒かれる。

 

「月読ノ舞 厭忌月・銷り」

 

 月一郎の横薙ぎの斬撃が上弦の弐の血鬼術を吹き飛ばした。その様子をみた上弦の弐がさらなる技を振るう。

 

「あはは。このままじゃ少し厳しそうだ。血鬼術・結晶ノ御子」

 

 突如、氷でつくられた上弦の弐が3体出現した。

 

「「「「血鬼術・凍て曇」」」」

 

 先ほどの数倍の範囲に広がる氷の霧に、月一郎はカナエを抱えて離脱する。

 

「ゴホッ…気を付けて、あれを吸うと肺がやられるわ」

 

 血を吐きながら苦しそうに言うカナエに月一郎は静かに頷いた。カナエをそっと地面に降ろすと再び上弦の弐へ向かう月一郎。

 

「月読ノ舞 穿面斬・蘿月」

 

 氷の霧を斬撃で穿った穴を通って潜り抜ける。そこを待ち構えていた氷でつくられた3体の上弦の弐。

 

「「「血鬼術・蔓蓮華」」」

 

 氷でつくられた蔓が何本も月一郎へと向かうが、それは一刀の下に全て断ち切られる。

 

「月読ノ舞 常世孤月・無間」

 

 月一郎はさらに技を出して3体の上弦の弐を切った。

 

「月読ノ舞 珠華ノ弄月」

 

 それを見た上弦の弐は楽しそうに笑う。

 

「君の技って黒死牟殿の技にそっくりだね」

 

「黒死牟?」

 

「そうさ、前に血戦をしたことがあってね。といっても黒死牟殿のそれはこんなもんじゃなかったけどね。だって君の剣にはこれを吹き飛ばす威力はないだろう?」

 

 上弦の弐が扇を振るうと二体の女の氷像が現れる。

 

「血鬼術 寒烈の白姫」

 

 その二体の氷像から強力な冷気が吹き荒れた。月一郎を飲み込んでいく冷気。

 

 

「月読ノ舞 兇変・天満繊月」

 

 次の瞬間には冷気と氷像を切り裂いた月一郎が上弦の弐のすぐ手前まで迫る。

 

「だとしても、俺はお前の首を切る」

 

 月一郎の技は確かに上弦の弐の血鬼術を吹き飛ばすほどの威力はない。しかし、一部だけでも吹き飛ばすことができれば、そこから鬼の首を切る活路を生み出せる。

 

「血鬼術・結晶ノ御子」

 

「月読ノ舞 厄鏡・月映え」

 

 上弦の弐が急ぎ、応戦するが5体の氷の分身は出現と同時に切り伏せられた。透き通る世界で一度動きを見てしまえば、月一郎にはもう対応できる。

 

「月読ノ舞…」

 

 上弦の弐の首を切るため、舞を構える月一郎。

 

 

 背後より感じる寒気。

 

 

 

 空気が重い!!それも、今まで感じた中で一番!!

 

 

 

「月読ノ舞 月龍輪尾」

 

 絶好の機会で上弦の弐への攻撃を中断する月一郎。その重い空気を払うよう、咄嗟に出したその舞は見えない何かと激突した。上弦の弐から急いで離脱し、何かの方に目を向ける。

 

 

 そこには、夜に浮かぶ三日月を背後に佇む黒衣の侍がいた。

 

 

 刀が震えそうになる…

 

 

 すぐさま透き通る世界の応用で、恐怖の感覚を閉じる月一郎に黒衣の侍がゆっくりと近づいてきた。

 

「やあやあ、これは黒死牟殿」

 

 黒死牟と呼ばれた黒衣の侍は気安く挨拶する上弦の弐を無視して、その6つの瞳で月一郎を見る。その瞳に刻まれた『壱』『上弦』の文字。

 

 

 こいつが…上弦の壱。なぜ今現れた…?

 

 

 月一郎の頭にはふとお館様からの警告が浮かんだ。

 

 

『月一郎は何か鬼舞辻無惨にとって気に障るような存在なのかもしれない。もしかするとこれから鬼舞辻無惨によってさらに強い鬼が君に差し向けられる可能性がある』

 

 

 まさかこいつが…その刺客!!

 

 

 目を見開く月一郎に上弦の壱・黒死牟がゆっくりと話しかける。

 

「ほうほう…ほうほう…お前が…私の呼吸を使う…剣士か。お前…名は…なんという…?」

 

「…時透月一郎」

 

 刀を構えながら目の前の鬼に答えた。

 

「そうか…継国の名は…絶えたのだな」

 

 人差し指を顔の前で構えながら言う上弦の壱。

 

「私が…人間であった…時分の名は継国厳勝」

 

 そして、若干の笑みを浮かべて言う。

 

「お前は…私が継国家に残してきた…子供の末裔。つまりは…私の子孫だ」

 

 月一郎とカナエの間で衝撃が走った。

 

 

 




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