月読ノ舞   作:面白い小説探すマン

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漆話

 

 目の前に立つ上弦の壱・黒死牟…否、継国厳勝より己の子孫だと告げられた月一郎。しかし、その動揺は一瞬で消え去る。

 

「ほう…一瞬で動揺を…収めたか。その精神力…申し分なし。痣こそ発現していない…ものの…お前のその目…私と同じ世界を…見ているな」

 

 一目で月一郎が透き通る世界に至っていることを看破した黒死牟は少し嬉しそうに言う。

 

「継国の名こそ…途絶えたが…絶えなかった…物もある」

 

 月一郎に指を向ける黒死牟。

 

「お前の…その剣…名は…何という?」

 

「…月読ノ舞」

 

「…やはり。その耳飾りと…その舞は…私が唯一…子供たちに残したものだ」

 

 黒死牟はしみじみと言うが、その言葉に月一郎は疑問が浮かんだ。

 

「鬼のあんたが…何のために残したんだ?」

 

 その問いに答えようとする黒死牟を遮って、上弦の弐が無粋にも口を挟む。

 

「わー。凄い!!だから、この子と黒死牟殿の剣はそっくりだったんだね」

 

「…童磨」

 

 嫌そうにする黒死牟。

 

「ところで、どうして黒死牟殿はこちらへ来たんだい?」

 

「私は…あの方から…私と同じ呼吸を使う剣士を…抹殺せよとの命を…受けていた。その剣士と…戦うお前の様子をみたあの方が…私をここへ…送り込んだというわけだ」

 

 月一郎はやはりこの黒死牟が鬼舞辻無惨により送り込まれた刺客であることを確信する。

 

「それなら、さっさと仕留めてしまおうよ黒死牟殿」

 

「待て」

 

 月一郎に攻撃を仕掛けようとした童磨と呼ばれた上弦の弐を黒死牟が静止した。

 

「この耳飾りの…剣士の相手は…私がする。故に…手出しは無用」

 

「それならあっちの女の子は好きにしていいよね?」

 

「…好きにしろ」

 

 地面に倒れたまま様子を見ていた花柱・胡蝶カナエに向かって上弦の弐・童磨が笑いながら接近した。

 

 それを横目で見ていた月一郎は動く。刀と体は黒死牟へと向けたまま、横身で童磨に立ちふさがった。

 

 童磨にしてみてば月一郎が隙をさらした絶好の好機。嬉々として扇を振るう。

 

 

 童磨の両手が吹き飛んだ。

 

「手出しは無用…と言ったはず」

 

 それをしたのは同じ上弦の鬼である黒死牟。

 

「ちょっと待っておくれよ黒死牟殿。この子が邪魔をするんだ…」

「童磨」

 

 黒死牟の類を見ないほどの鋭い眼光が童磨を貫く。

 

「私の言いたいことは…分かったな」

 

「わかったよ。そんなに睨まないでおくれ黒死牟殿」

 

 腕を再生した童磨はそう言うと黒死牟に吹き飛ばされた扇を拾いに行った。

 

 その様子に活路を見出したのは月一郎。

 

 

 俺の先祖だとかいう上弦の壱・継国厳勝は俺との一対一を望んでいる。一方で、あの上弦の弐はカナエさんを喰うことに固執している。そして、今この場を支配しているのは、あの上弦の壱。奴は俺との一対一に何が何でも水を差されたくない。ならば、俺とカナエさんが生き残る道は…俺が上弦の弐とカナエさんの壁になりながら上弦の壱と戦うこと。いや…夜明けまで時間を稼ぐだけでいい。

 

 

「さて…何のために…その耳飾りと舞を残したか…だったな?」

 

 思考を終えた月一郎に黒死牟が話しかける。

 

「私には…弟がいた」

 

 それは自分も弟を持つ身である月一郎の興味を引いた。

 

「その弟は…神に愛されたとしか思えない…身体能力そして…剣技を持っていた」

 

 黒死牟は激情を浮かべ、歯を食いしばるように言う。

 

「私は…その弟に…なんとしてでも勝ちたかった。私は…その弟の双子の…兄であるのだから」

 

 だが…と絞り出す黒死牟。

 

「私は…その弟に何一つ勝ることができなかった。この身を鬼とし…400年の歳月を剣技に打ち込んだというのに…未だ弟の足元にさえ及ばない。それが私の弟…継国縁壱という男だ」

 

 溢れんばかりに伝わる嫉妬の感情。

 

「ある日…私は後継をどうするのか…弟に尋ねた。だが弟は後継は…残さないなどと言う。そこで…私だけは己の呼吸である…月の呼吸を継国家に残すことにしたのだ。幼い頃賜わりし…その月模様の耳飾りと共に…な」

 

 そこで初めて黒死牟が浮かべる感情が変わった。

 

「弟の死後…私はあの方と共に…奴が残したという日の呼吸の使い手を…片っ端から葬った。もうこの世に縁壱が残したものなど…何一つ残ってはいない。だがしかし…私が残したものは…今もなお残っている。私はあの縁壱に…勝ったということだ」

 

 その様子に月一郎は一つの言葉しか出てこなかった。

 

「あんた…その縁壱って人の兄なんだろ?弟が残したものを消したのか?それなのに…なんでそんな顔できるんだよ…」

 

 黒死牟は歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「ふむ…月一郎。お前にも…弟がいるのだな」

 

「ああ…兄なら普通、弟を思うものだろう?」

 

 黒死牟は幼子をあやすように言う。

 

「お前は…神の寵愛を一身に受けていると思える者に…出会ったことはあるか?」

 

「いや…ないな」

 

「お前も…会えばわかっただろう。私の弟は…そんな普通などという…生易しいものではない。神の寵愛を…一身に受けている者に出会ってしまえば…焦がれるように手を伸ばすしかないのだ。唯一無二である太陽に…人が手を伸ばすように…な。届かないと分かっていながら…手を伸ばし身を焦がすしかない…それが私の弟なのだ」

 

 そこには出来の良すぎる弟の存在に苦悩する兄の姿があった。一言に兄といってもその形は人それぞれだ、なんとなくだが月一郎には先祖である黒死牟の気持ちがわかってしまう。

 

「すごい人だったんだな…あんたの弟は」

 

「そうだ…」

 

「あんたの弟でも鬼舞辻無惨を倒せなかったのか?」

 

 なんとなくそんな疑問が口に出た。

 

「そうだ。あと一歩まで追い詰めたらしいが…倒すには至らなかったと聞く」

 

「なら…あんたが弟に協力してたら鬼舞辻無惨を倒せたかもな…」

 

 その言葉に黒死牟があっけに取られたような表情をするが、すぐさま切り捨てた。

 

「夜明けが…近づいている。月一郎…我が末裔よ。お前もあの方に…鬼として使っていただこう」

 

「それは無理だ。俺は鬼になった弟たちを元に戻すためにここにいるんでな。俺が鬼になるわけにはいかない」

 

「お前の弟は…二人もいるのか?」

 

「ああ。双子の弟だ」

 

「双子か…二人とも鬼である…と?」

 

「そうだ。ところであんたは鬼を人に戻す方法を知っているか?」

 

「聞いたことも…ないな…鬼になったというのに…なぜお前と一緒にいる?」

 

「弟たちは人を喰ったことがない」

 

「そうか…ならばお前も鬼となり…三人揃ってこちらへ来い。鬼を人に戻すのなら…こちら側の方が…いいのではないか?」

 

「弟たちを傷つけた鬼の親玉の元に下れと?」

 

 それが月一郎の返答だった。

 

「あんたこそ、子孫である俺に力を貸して鬼舞辻無惨を一緒に追い詰めるってのは?」

 

 黒死牟はフッと笑って言う。

 

「私は…あの方の配下。そのようなことは…ありえない」

 

「そうかい…」

 

「そうだ…」

 

 空気が再び張り詰める。

 

「私は上弦の壱・黒死牟…参る」

 

「俺は鬼殺隊 月柱・時透月一郎。いくぜ目玉のおっさん!!」

 

「否…我が名は黒死牟。行くぞ…月一郎」

 

 夜明けが近いこともあり、黒死牟は月一郎への距離を詰めた。

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」

「月読ノ舞 闇月・宵の宮」

 

 同じ型であってもその差は歴然だった。黒死牟の月の刃が月一郎の舞を破って、襲い掛かる。この瞬間、月一郎の舞が完成した。

 

「月読ノ舞 月魄災禍」

 

 月読ノ舞の中で唯一動かないこの型に月一郎は今、意味を生み出す。月一郎の間合いに入った黒死牟の月の刃が搔き消えた。

 

「ほう…お前はその型を…そのようにして使うのか」

 

 即座に鍔迫り合いに持ち込んで黒死牟の動きを封じる月一郎。

 

「ならば次は私が見せよう」

 

 黒死牟から重い空気が発せられる。

 

「月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍」

 

 その空気から逃れるように撤退する月一郎。その直後に黒死牟から無数の月の刃が飛んできた。

 

「月読ノ舞 月魄災禍」 

 

 黒死牟の月の刃を掻き消しながら、透き通る世界の端に映った上弦の弐がカナエに攻撃を仕掛ける。

 

「血鬼術 枯園垂り」

 

 氷を纏った扇がカナエへと襲い掛かるが、即座に月一郎が割り込んだ。

 

「月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り」

 

 黒死牟の技が向かうのは月一郎ではなく、上弦の弐・童磨。

 

「手を出すなと言っただろう!!」

 

「えー。そりゃないぜ黒死牟殿」

 

 壁に激突した童磨が頭を繋げながら言う。

 

「ゆくぞ…月一郎」

 

 月一郎との間合いを速攻詰める黒死牟。花柱である胡蝶カナエをもってしても目が霞んでしまうような速度で月一郎は黒死牟と切り結んでいた。月魄災禍で致命傷となる月の刃を消しながら全力で戦う月一郎に対して、黒死牟はまだまだ余裕がある。

 

「童磨のことなら…気にするな。あれが何かしそうになったら…私が切る」

 

 透き通る世界で黒死牟を見ながら、童磨にも注意を払わなければならない月一郎にとってそれは朗報だった。敵でありながらその言葉はどこか信頼できる。

 

「だからこそ…この私に集中しろ!!月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月」

 

「ッ!!月読ノ舞 常世孤月・無間」

 

 黒死牟から距離を取って、呼吸を整える月一郎。

 

 ホォォォォォォ

 

 そして向こうからも聞こえる同じ呼吸音。

 

 ホォォォォォォ

 

 月一郎は戦いの中で気になることを聞いた。

 

「なんであんたは陸ノ型以降を使わないんだ?」

 

「ほう…使ってほしいのか?」

 

 黒死牟は少し嬉しそうに言う。

 

「ならば見せてやろう。この私の陸ノ型を…」

 

 黒死牟の持つ刀が長く枝分かれしたものに変わる。

 

「気を抜くなよ…月一郎」

 

 それは子孫に対するせめてもの警告だった。

 

「月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間」

 

 月一郎の前に月の刃の壁ができたと思ったら、周囲の建物は全て崩壊した。

 

 

「ごほッ!ごほッ!」

 

 土煙の中から月一郎が顔を出す。その後ろには右手と左足を失ったカナエがいた。あの一瞬、月一郎は月魄災禍に続いて月龍輪尾を放ち何とか難を逃れたが…

 

「カナエさん…」

 

 花柱・胡蝶カナエを守り切ることができなかった。

 

「私なら大丈夫…だから…自分の…ことに集中…して…」

 

 苦しそうに言うカナエを横目に、目の前の土煙から刀を元に戻した黒死牟が現れる。

 

「まさか…自分以外の者まで…守り切るとはな…」

 

「あれが…あんたの陸ノ型か…」

 

「そうだ…そして…あの方に伺ったところ…お前を鬼にする…許可を頂いた」

 

 黒死牟の左手が毒々しい紫に変わった。

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」

 

「月読ノ舞 闇月・宵の宮」

 

 黒死牟の斬撃を辛うじて防ぐ月一郎だが、態勢を崩してしまう。その無防備な胸へと放たれる黒死牟の紫の抜き手。

 

 ブシュ!!

 

 貫かれることを覚悟した月一郎の目の前で、貫かれる誰か…その見覚えのある背中は…

 

「カナエさん!!」

 

 黒死牟に胸を貫かれる花柱・胡蝶カナエだった。

 

「なぬ?」

 

 もはや動けぬと思い、気に留めなかった柱の女が月一郎を庇う。黒死牟の失態だった。

 

「姉…さん…?」

 

 それをやっとこの場に到着した、妹の胡蝶しのぶが目撃する。

 

「時間切れ…だな」

 

 そのつぶやきと共に消える黒死牟と胡蝶カナエ。

 

 そこで朝日を迎えた月一郎。

 

 虚しく取り残された二人。その様子を到着した多くの隊士が見ていた。

 

 

 




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